ヒールオメガは敵騎士の腕の中~平民上がりの癒し手は、王の器に密かに溺愛される

七角@書籍化進行中!

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2 融け、積もりゆく心

6 積もる疑問

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 これ以上湿っぽくならないようにも兼ねて、話題の転換を促す。
 そうしないと彼はいつまでも本題に入らない。
 エリセイはこちらの思惑を知ってか知らずか、厨子の精霊王像を両手で包み、しげしげと眺めたまま、

「ご主人様たちの恋が確実に進展してるのは、スフェンも感じてるだろ?」

 と切り出した。
 落差に面食らいながらも、頷く。異論はない。

「うちの坊っちゃん、想いが募って、レクスにもう一度会いたくて仕方ないみたいだ。まあ、よぼよぼになるまで手紙の交換だけで我慢できるなら、最初から手紙自体書いてないよな」

 エリセイは憮然とした顔で続けた。他の話をしているときは決してしない顏だ。
 彼にとってニキータが、ニキータだけが、特別心配で特別愛する存在なのだと改めて思わされる。

 途端、胸の中心をぎゅっと握り潰されたように錯覚した。
 この痛みは何だ……?

「坊っちゃんのためとはいえ、スフェンと定期的に会ってる俺が羨ましいのもあるんだろう。ちょっとやましいのは事実だから、ふたりを引き合わせる相談ができないかと思ってな」
「……ふむ」

 眉間に皺を寄せ、腕を組んだ。
 ただでさえ謎の胸の痛みに驚いているのに、エリセイの話は引っ掛かるところが多過ぎる。

 ニキータがエリセイを羨む? ソコロフとアナトリエの垣根を越えて会っているからか。
 やましいとは? エリセイはニキータにこちらのことをどう説明しているのだろう。

(さておき、レクス殿下も会えるものならばニキータ殿下と会って話したいに違いない)

 彼らの恋を次の段階に進ませるには――。

「案があるのか」

 さっきは有無を言わせず雪中に隠したので、今回はエリセイの意見を聞こう。

「聖堂で合議が開かれるような事件でも起こすか」
「……。ないのだな」
「だから相談したんじゃないか。言っとくが、雪に埋めて隠す案もなかなかだぞ」

 エリセイは口を尖らせた。根に持っている。
 それは置いておくとして、公子本人同士を直接会わせるとなれば、雪に紛れられる冬季であっても難易度は跳ね上がる。
 自分はレクスの、エリセイはニキータの願いにはできる限り応えたいのだが。

「場所は緩衝地帯で……夜中に行き来するとか?」
「やっぱりそうなるよな。よし、王城を密会の場として整えよう。俺たちなら多少暴風雪に巻かれようが、廊下で巡回隊員に見られようが何とかなるが、坊っちゃんたちは安全かつ秘密裡に守り抜かねばならん」

 捻りのない提案に、エリセイも頬の傷痕を掻きつつ乗った。奇をてらわない正攻法は、正攻法ゆえの手堅さがあるとも言える。

 それにたとえ危険に直面しても、自分たちが代わりに引き受ければいい。
 凛と背筋を伸ばした。

「わたしはオメガでも主人を守り抜けると証明すべく、鍛錬してきた。いざというときは命懸けでレクス殿下を守る。エリセイも同じようにニキータ殿下を守れるなら支障はない」
「はは、勇ましいな。そのとおりだよ。俺は坊っちゃんを……守る」

 エリセイも緑眼を冴え渡らせる。
 共に過ごし語らい合いを経た今なら、互いに互いの忠誠心を絶対的に信じられる。
 ただ――と思う。

「一度会ったら、今度は『よぼよぼになるまで密会だけ』とはいかなくなるのではないか?」

 レクスはいつか、表立ってニキータと会う機会を設けてのけそうな気がした。
 そのとき、自分とエリセイの伝書鳩役も終わる。少し残念に感じる。

(残念、だと?)

 またも自分で自分に驚いた。
 レクスの恋が叶うなら喜ぶべきなのに……いや、私室でニキータからの手紙を宝物のように受け取るレクスを見て、我がことのように喜んだ。

 では、何が残念だというのか。混乱していたら、眼前いっぱいに緑が広がる。

「それなんだが。坊っちゃんたちがこそこそしなくて済む、重要な史料を王城で見つけたかもしれん! 次回、一緒に見てくれ」
「わかった、わかったから押すな、~~っ!」

 エリセイはもうひとつ話したいことがあったらしい。あまりの勢いに、ついに寝台の縁から押し出された。

 木床に身体を打ちつけそうになるが、すかさずエリセイの腕が追ってきて抱き寄せられる。
 厚い胸板に頬を押しつける恰好になった。

(何だ――これは)

 火より酒よりずっと暖かく、全体重を預けられるほど頼もしく、隙間はないのに楽に呼吸できる。
 すう、と深呼吸すれば、自分が自分らしくいられるような気さえする。

「すまん。怪我しなくてよかった」
「……そんなにやわではない」

 エリセイはばつが悪そうに座らせ直してくれた。
 離れていく体温が名残惜しく、掴まっていたエリセイの背からゆっくり手を離す。
 エリセイはその間じっとこちらの顏を見つめ、何か言い掛けてやめた。

(――まさか)

 自分は、この怠け者で奇怪な男に会う理由がなくなるのが、残念なのか?
 一拍遅れて降ってきた考えに、絶句する。

 本来、手紙を受け渡したら怪しまれないために即別れるべきなのに、情報を引き出す口実であれこれ話し続けたのは、無意識の名残惜しさがあったから?
 密令を果たしてレクスの信頼を得たいのではなかったか?
 そのレクスの私室を訪ねたときはいつも、敬愛で胸が詰まるから早く退がりたいと思っていたが、今は帰路に就くのを少しだけ延ばしたい。これは、レクスとニキータが互いに対して思うのと同じ……?

「そろそろ出ないと、帰り道が真っ暗になるな。また王城で会おう」

 芽生えた疑問だらけで小屋を出て、ヴィトの背に揺られた。

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