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第44話 追加
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時は下り数週間。
大本営立川戦略研究所は、この期間に再び机上演習を行った。
今回は、先の御前会議で決定した方針「南方進出」を念頭に置いて、日米を中心とした周辺国家の動きを確認した。今回も日本を白国としている。
最初は、白国が南方に進出するための土台作りから始まった。硫黄島やパラオを中心に軍事拠点を建造し、これを足掛かりとするためだ。
その後、イギリス領マレー、フィリピン、オランダ領東インド、真珠湾を攻撃するために海軍を増強し、やがて真珠湾攻撃を発端とした連合国との戦争が勃発した。
一年目で真珠湾の無力化、フィリピンとイギリス領マレーの制圧、ビルマ進軍まで果たした。
二年目は、戦線の維持と連合国との交渉を中心に行う。しかし、ここでもアメリカの物量が物を言わせてきた。イギリスと協力し、大規模な艦隊を編成。これで真珠湾とマレー沖へ同時侵攻させた。白国はこれに対抗するも、ハワイ島は奪還され、マレー沖では戦艦三隻、空母二隻を失うという大敗を喫した。
三年目に突入すれば、アメリカの物量作戦はさらに加速する。ハワイ島を足掛けに、次々と重要な島を奪還していく。やがてオーストラリア周辺からオランダ領東インドであるインドネシア周辺を攻撃し、周辺海域を制圧していった。その勢いは止まらず、やがて硫黄島を確保する。
この段階で、中華民国とソ連が朝鮮半島に大攻勢をかけ、朝鮮半島にいる白国陸軍は全滅するという最悪のシナリオを辿る。海軍も、戦時量産型の駆逐艦が十隻ほどしか残らず、これ以上の戦争は困難と判断され、全面降伏することになった。
結局、前回の机上演習と結果は変わらず、アメリカの物量が課題であることに変わりはなかった。
「今回も大変な演習でしたね」
一九三六年七月二十八日。所長室の席にて、今回の演習の結果をまとめた報告書を読む宍戸。
「今回も米国の影響が大きかったですね」
「そうなんですよね。アメリカが参戦してしまったら、日本に勝ち目はありません。その前に何とかしないと……」
林も日本国民の一人だ。日本の未来を憂いている。
「しかし、もう夏ですねぇ」
宍戸の手には扇子が握られている。今は窓を開けて、自然の風で部屋を冷却している。その窓からはセミの鳴き声が聞こえてきており、なんとも風情ある光景だろう。
「そんな呑気なことを言っている場合ではありませんよ」
そう言いながら、所長室に入ってくる男性。彼は外交課の課長である。
「先ほどナチス・ドイツが、オーストリアの併合を発表しました」
「あー、そうだったなぁ……」
宍戸は手で視界を塞ぐ。完全に失念していた。ナチス・ドイツの行動を逐一思い出すのは一種の苦行だろう。
「ナチス・ドイツがオーストリアを併合したということは、チェコスロバキアの解体とスデーテン地方の併合が近いということですね……」
「確かに、そのような動きも出ていますが……」
「やはり、ドイツとは防衛協定を結ばずに、敵対したほうがいいのではないですかね……」
「しかし、それでは帝国が国際連盟から脱退したのが無駄になってしまいます」
「うーん……。でもナチス・ドイツって自分たちの時代の評価では、極悪の独裁者って評価なんですよね」
「極悪と呼ばれるなんて、何をしでかしたんですか?」
「まずはほぼ強引に併合を進める。ユダヤ人を迫害して大量虐殺する。全権を握って独裁状態にする。こんな所ですかね」
「それが悪と決めつけられるのですか……?」
「まぁ、常識なんてすぐに変わるものですからね。百年も違えば相当異なりますよ」
そういって宍戸は席を立ち、壁に掛かっている世界地図を見る。
「ソ連の脅威、アメリカの制裁、それに追随する連合国……。それらと敵対するドイツと日本……。世界は二分され、大戦争へと発展していくことになります」
世界地図から目を離し、席に戻る。
「事なかれ主義の自分は、味方の多い方に鞍替えしたいもんですけどね」
「そんなことをすれば、帝国は滅びますぞ」
「そう、滅びます。だから、根回しをして味方を増やすしかありません。昨日の敵は今日の友。戦争をしたとしても、友好関係は回復させることができます。その時を目指して、我々は進まないといけません」
外交課課長は少し困惑した表情をし、林は呆れた様子であった。
(そして、友好関係を回復させるには、俺の力が必要不可欠だ……)
何かしらの考えを巡らせる宍戸であった。
大本営立川戦略研究所は、この期間に再び机上演習を行った。
今回は、先の御前会議で決定した方針「南方進出」を念頭に置いて、日米を中心とした周辺国家の動きを確認した。今回も日本を白国としている。
最初は、白国が南方に進出するための土台作りから始まった。硫黄島やパラオを中心に軍事拠点を建造し、これを足掛かりとするためだ。
その後、イギリス領マレー、フィリピン、オランダ領東インド、真珠湾を攻撃するために海軍を増強し、やがて真珠湾攻撃を発端とした連合国との戦争が勃発した。
一年目で真珠湾の無力化、フィリピンとイギリス領マレーの制圧、ビルマ進軍まで果たした。
二年目は、戦線の維持と連合国との交渉を中心に行う。しかし、ここでもアメリカの物量が物を言わせてきた。イギリスと協力し、大規模な艦隊を編成。これで真珠湾とマレー沖へ同時侵攻させた。白国はこれに対抗するも、ハワイ島は奪還され、マレー沖では戦艦三隻、空母二隻を失うという大敗を喫した。
三年目に突入すれば、アメリカの物量作戦はさらに加速する。ハワイ島を足掛けに、次々と重要な島を奪還していく。やがてオーストラリア周辺からオランダ領東インドであるインドネシア周辺を攻撃し、周辺海域を制圧していった。その勢いは止まらず、やがて硫黄島を確保する。
この段階で、中華民国とソ連が朝鮮半島に大攻勢をかけ、朝鮮半島にいる白国陸軍は全滅するという最悪のシナリオを辿る。海軍も、戦時量産型の駆逐艦が十隻ほどしか残らず、これ以上の戦争は困難と判断され、全面降伏することになった。
結局、前回の机上演習と結果は変わらず、アメリカの物量が課題であることに変わりはなかった。
「今回も大変な演習でしたね」
一九三六年七月二十八日。所長室の席にて、今回の演習の結果をまとめた報告書を読む宍戸。
「今回も米国の影響が大きかったですね」
「そうなんですよね。アメリカが参戦してしまったら、日本に勝ち目はありません。その前に何とかしないと……」
林も日本国民の一人だ。日本の未来を憂いている。
「しかし、もう夏ですねぇ」
宍戸の手には扇子が握られている。今は窓を開けて、自然の風で部屋を冷却している。その窓からはセミの鳴き声が聞こえてきており、なんとも風情ある光景だろう。
「そんな呑気なことを言っている場合ではありませんよ」
そう言いながら、所長室に入ってくる男性。彼は外交課の課長である。
「先ほどナチス・ドイツが、オーストリアの併合を発表しました」
「あー、そうだったなぁ……」
宍戸は手で視界を塞ぐ。完全に失念していた。ナチス・ドイツの行動を逐一思い出すのは一種の苦行だろう。
「ナチス・ドイツがオーストリアを併合したということは、チェコスロバキアの解体とスデーテン地方の併合が近いということですね……」
「確かに、そのような動きも出ていますが……」
「やはり、ドイツとは防衛協定を結ばずに、敵対したほうがいいのではないですかね……」
「しかし、それでは帝国が国際連盟から脱退したのが無駄になってしまいます」
「うーん……。でもナチス・ドイツって自分たちの時代の評価では、極悪の独裁者って評価なんですよね」
「極悪と呼ばれるなんて、何をしでかしたんですか?」
「まずはほぼ強引に併合を進める。ユダヤ人を迫害して大量虐殺する。全権を握って独裁状態にする。こんな所ですかね」
「それが悪と決めつけられるのですか……?」
「まぁ、常識なんてすぐに変わるものですからね。百年も違えば相当異なりますよ」
そういって宍戸は席を立ち、壁に掛かっている世界地図を見る。
「ソ連の脅威、アメリカの制裁、それに追随する連合国……。それらと敵対するドイツと日本……。世界は二分され、大戦争へと発展していくことになります」
世界地図から目を離し、席に戻る。
「事なかれ主義の自分は、味方の多い方に鞍替えしたいもんですけどね」
「そんなことをすれば、帝国は滅びますぞ」
「そう、滅びます。だから、根回しをして味方を増やすしかありません。昨日の敵は今日の友。戦争をしたとしても、友好関係は回復させることができます。その時を目指して、我々は進まないといけません」
外交課課長は少し困惑した表情をし、林は呆れた様子であった。
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何かしらの考えを巡らせる宍戸であった。
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