転生一九三六〜戦いたくない八人の若者たち〜

紫 和春

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第50話 新年

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 一九三七年一月一日。新年の始まりである。
 年も明けたため、宍戸は心機一転、日本の未来のためにより一層奮起しようと考えていた。
(それが、こうなるのか……)
 午前十一時。宍戸は華族会館にいた。華族による新年会が開催されているのだ。当然華族である宍戸は、ここに召集された。
 そして容量の少ないグラスを片手に、様々な華族の方と挨拶を交わしていた。
「宍戸伯爵、新年明けましておめでとうございます」
「おめでとうございます……」
 宍戸は、貼り付けたような笑顔で挨拶する。しかし、相手が誰だか全く分からない。
 そこですず江の出番である。
「金田侯爵、新年明けましておめでとうございます。本年も何卒よろしくお願いします」
 男爵とはいえ、華族出身のすず江。宍戸と対応力が違う。
 正月なので、和装での参加である。
「さすが、すずはちゃんとしてるなぁ……」
 ある程度挨拶の波が引いたところで、宍戸はすず江に声をかける。
「和一様もこのようにならないといけないのですよ?」
「それは分かってるんだが……、いかんせん平民出身なもので……」
「言い訳は駄目ですよ。今日から練習していきましょうね」
「とほほ……」
 そんなことを話していると、どこからともなく鋭い視線を宍戸は感じる。
「……なんかさっきからチラチラ見られてるような気がするんだけど?」
「それは君が転生者であるからだろう」
 いつの間にか宍戸の後ろに、男性が立っていた。
「うぉっ……! あ、あなたは確か、三笠宮崇仁殿下……」
「お久しゅうございます、殿下」
「うむ。して、宍戸よ。君が視線を浴びるのは、君の出自が特殊であるからだ」
「特殊……。まぁ、確かに特殊ではありますね……」
「その特殊性と様々な感情が混ざりあって、君に降り注がれているのだよ」
「なるほど……。そういえば日本人って異質な人間を排除したがる傾向にあったような……」
「我が臣民たる大和民族がそのような傾向にあるのかね?」
「あ、いや、個人的な感想です……」
「ん、まぁいい。未来の子孫がそのように言うのなら、そうなのだろうな」
 そういって崇仁親王は、宍戸の前から移動する。
「君の活躍を祈っているよ、宍戸君」
 去り際にそのようなことを言い、崇仁親王は別の華族の元へ去っていった。
「ふぅ、アレは本心なのか嫌味なのか……」
「嫌味だとしても、和一様のことを案じているのだと思いますよ」
「ホントかなぁ……」
 こうして新年会は終了した。
 その翌日、一月二日。
 宍戸邸に林がやってきていた。
「三が日のお休み中失礼します。仕事の話です」
「とにかく上がってください」
 そういってリビングへと案内し、お茶を出す。
「それで、仕事の話というのは?」
「はい。大晦日にナチス・ドイツにいる諜報員から連絡がありました」
「どうして大本営の下部組織が、諜報員の情報を掴んでいるんですか?」
「それによりますと、コンドル軍団の爆撃隊が今まさに爆撃をしようとしているそうです」
「無視か……」
「場所はスペイン北部とのことです」
「スペイン北部かぁ……。コンドル軍団って北アフリカに駐留しているんでしたっけ? よくそんな所まで飛んでいけますね」
 そんな呑気なことを言っていると、宍戸はあることを思い出す。
「スペイン北部にコンドル軍団の爆撃……。ゲルニカ爆撃……?」
 ゲルニカ爆撃。それはコンドル軍団による本格的な対都市無差別爆撃である。
 これによって、ゲルニカの街は完全に崩壊するに至った。さらにこの爆撃により、かの有名な画家ピカソが、絵画の「ゲルニカ」を描いたというのは有名な話だ。
「ゲルニカ爆撃が現在行われるんですか?」
「おそらくそうです」
 宍戸はスマホを取り出し、ゲルニカ爆撃について調べる。
「本来の発生日時は今年の四月二十六日……。だいぶ史実より早くなってるな……」
「仮にゲルニカが爆撃地点だとすると、そこは政府軍が保持している地域になりますので、戦略的には矛盾しませんね……」
「さて、世界情勢はどっちに転ぶか……」
 宍戸の言う通り、コンドル軍団の爆撃ポイントはゲルニカであった。
 わずか二十四機の爆撃機が飛来し、ゲルニカに計画的な空爆を行ったのである。
 これによりゲルニカの街は大規模な火災に見舞われ、多数の死傷者を出す結果となった。
 史実と異なるのは日時以外に、バスク地方の自治の象徴であるゲルニカの木が失われたことである。
 この地方の象徴であった木が失われた事実は、スペインのみならず世界中で取り沙汰されることになった。
 特にアメリカやイギリスの報道各社は、この事実を誇張気味に新聞やラジオで市民に伝える。市民は反戦感情が大きくなり、やがてそれは政府を動かす結果となった。
 アメリカ、イギリス、フランスの三ヶ国は、ドイツに対し非難声明を発表。北アフリカから撤退するように要請した。
 当然、ドイツはこれを聞き入れず、まるで日常のようにスペイン内戦に干渉していくのだった。
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