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第77話 決断
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一九三八年三月三十日。
自由都市ダンツィヒにて、ドイツによるポーランド併合に関する条約「ダンツィヒ条約」が締結され、ポーランド全域がドイツの支配下に置かれることになった。
イギリスの支援虚しく、ドイツ領となったポーランドには総督府が設置され、まさに植民地に近い扱いを受けることとなった。
一方フランス方面は、フランス軍の徹底抗戦が功を奏しているようで、戦線自体は膠着状態にあった。それでもなお、パリを包囲される可能性は残っており、事態は変わっていないのが実情だ。
だが、希望はまだ残っている。アメリカのレンドリース法により、フランスへ兵器が続々と到着しているからだ。特に、ドイツの機甲師団に対抗すべく、アメリカはM4中戦車「シャーマン」を開発させ、量産ラインに乗せた。史実通りの性能を持っているシャーマンは、フランスの戦局を大きく変えると多くの市民は考えている。
さらにフランスは、パリの中心部から半径50kmを国防確保線として設定。これより内側にはドイツ軍を一切侵入させない、という発表まで行った。
これを見た宍戸は一言。
「ドイツを躍起にさせるだけじゃないかなぁ……」
そんなこんなで約一月が経過した。季節は春を過ぎ、初夏の雰囲気を感じさせる。
一九三八年四月二十九日。
日本政府は、朝鮮半島の独立に関する発表を国内のマスコミ各社に対して行った。
「……結論としまして、我が国は朝鮮半島の全ての利権を仮称朝鮮王国に譲渡し、大陸から撤退することを表明します。王位には昌徳宮李王垠殿下を据え、帝国陸軍が建国を補助させるものとします」
マスコミ関係者は次々と質問を飛ばす。
「では中国大陸からは離れるということですか!?」
「米英がなんというか分かりませんよ!?」
「こうなることが分かっていたのなら、国際連盟を脱退した意味がないですよ!?」
記者から、当然の如く批判の声を浴びる米内総理。しかし、そういう状況であっても、冷静であった。
「えー、記者諸君には、不満な点や言いたいことが複数あると思う。しかしながら、それは時代の流れが許さないということでもあります。我が国の転生者はこう言いました。『全ての植民地は宗主国から解放され、独立を果たす』と。それを我が国は先駆けて行ってきた。つまり今回の朝鮮王国建国は、その未来に繋がるための第一歩として、列強諸国から先んじることで、新たな歴史に導くことが目的なのであります」
「だからと言って、朝鮮併合を無かったことにするのは、国民に対して失礼だと思わないのか!?」
「失礼とは何だ? いちいち国の決定事項や閣議決定に、国民投票を行うと言うのか? 国家の存亡を一国民にまで押し付けるのは、いくら民主主義国家でもあってはならんことだと思わんかね?」
その一言で、記者たちは黙りこくってしまった。
こうして、国内外共に朝鮮王国の建国を宣言することになる。
「お疲れ様でした、米内総理」
会見終了後に、宍戸は米内総理の元に寄る。
「全く。記者らはなんで、あぁも怒鳴り散らかすのかね?」
「それが仕事だからじゃないですかねぇ……?」
「しかし、今回の厄介事は骨が折れた。陛下の承諾を得るのに、どれだけ時間を割いたことか……」
「ですが、これで新しい未来に近づきましたよ」
「それならいいのだが……」
その数日後。米内総理の元に、ジョセフ・グルー米国大使がやってきた。ある書類を携えて。
『合衆国の日本に対する最終交渉』
それが書類の題名だった。内容は至ってシンプル。朝鮮王国の利権を寄こさなければ、武力に物言わせるというものだ。
つまり、事実上の最後通謀である。
「こりゃ参ったな……」
宍戸は自動車の中で、最後通謀の簡単な内容を聞く。
「このままでは、日米開戦待ったなしです」
自動車に同乗し、説明をする林。
「だから緊急の宮城閣僚会議を開催するなんて言い出したんですね」
向かっている先は皇居。いつもの会議室である。
車寄せに止まり、宍戸と林は車を降りる。そしていつもの会議室に到着した。
中に入ると、閣僚たちが話し合いをしているところであった。
「宍戸君。すまないね、急に呼び出して」
「いえ。国家の存亡ならば、いつでも参上するつもりです」
その時、宮内省の職員が部屋に入る。
「陛下がお見えです」
閣僚全員が立ち上がる。宍戸も自分の席の前に立った。
天皇陛下が席に着席されたのを見計らって、閣僚と宍戸も席に座る。
そして米内総理が立ち上がった。
「えー、皆さんご存じの通り、米国から最後通謀とも言える文書が届きました。各国の独立を願う我が帝国としましては、同意しかねる内容となっています。つきましては、ここに米国に対して戦争を起こすことを提案します」
その言葉が、部屋の中の緊張感を高める。
「つきましては、南方進出作戦の承諾を行いたく。いかがでしょう?」
米内総理の言葉に、高木海軍大臣が手を上げる。
「南方進出なら、イギリスとフランスが黙ってはいませんぞ。いかがするおつもりですか?」
それに外務大臣から返答があった。
「今回の朝鮮王国建国に当たり、植民地を手放す覚悟ができたと、英仏蘭から回答を得ている。帝国陸軍は、各植民地に進駐という形で進出する」
「ならば言うことはない。しかし、あのイギリスとフランスをどう説得したのか気になるな」
「それは後にしてくだされ」
それを聞いた米内総理は、閣僚の顔をそれぞれ一瞥する。
「それでは、対米開戦を内閣として正式に決定します。そして陛下、いかがいたしまししょう?」
米内総理は、天皇陛下に尋ねる。
「これも、国家存続のためであるか?」
厳格な声で、天皇陛下は米内総理に聞く。
「もちろんです。我が帝国のみならず、全ての国家民族が平和に過ごすための、一時的な処置とも言えます」
それを聞いた天皇陛下は、しばらく口と目を閉じ、考える。
そして静かに目を開き、言葉を発した。
「全ての国家や民族のためというならば、やってみなさい。ただし、決して負けることはあってはありません」
「御意」
米内総理は、閣僚に改めて宣言する。
「対米戦争を、行う……!」
日本にも、戦争が近づいてきた。
自由都市ダンツィヒにて、ドイツによるポーランド併合に関する条約「ダンツィヒ条約」が締結され、ポーランド全域がドイツの支配下に置かれることになった。
イギリスの支援虚しく、ドイツ領となったポーランドには総督府が設置され、まさに植民地に近い扱いを受けることとなった。
一方フランス方面は、フランス軍の徹底抗戦が功を奏しているようで、戦線自体は膠着状態にあった。それでもなお、パリを包囲される可能性は残っており、事態は変わっていないのが実情だ。
だが、希望はまだ残っている。アメリカのレンドリース法により、フランスへ兵器が続々と到着しているからだ。特に、ドイツの機甲師団に対抗すべく、アメリカはM4中戦車「シャーマン」を開発させ、量産ラインに乗せた。史実通りの性能を持っているシャーマンは、フランスの戦局を大きく変えると多くの市民は考えている。
さらにフランスは、パリの中心部から半径50kmを国防確保線として設定。これより内側にはドイツ軍を一切侵入させない、という発表まで行った。
これを見た宍戸は一言。
「ドイツを躍起にさせるだけじゃないかなぁ……」
そんなこんなで約一月が経過した。季節は春を過ぎ、初夏の雰囲気を感じさせる。
一九三八年四月二十九日。
日本政府は、朝鮮半島の独立に関する発表を国内のマスコミ各社に対して行った。
「……結論としまして、我が国は朝鮮半島の全ての利権を仮称朝鮮王国に譲渡し、大陸から撤退することを表明します。王位には昌徳宮李王垠殿下を据え、帝国陸軍が建国を補助させるものとします」
マスコミ関係者は次々と質問を飛ばす。
「では中国大陸からは離れるということですか!?」
「米英がなんというか分かりませんよ!?」
「こうなることが分かっていたのなら、国際連盟を脱退した意味がないですよ!?」
記者から、当然の如く批判の声を浴びる米内総理。しかし、そういう状況であっても、冷静であった。
「えー、記者諸君には、不満な点や言いたいことが複数あると思う。しかしながら、それは時代の流れが許さないということでもあります。我が国の転生者はこう言いました。『全ての植民地は宗主国から解放され、独立を果たす』と。それを我が国は先駆けて行ってきた。つまり今回の朝鮮王国建国は、その未来に繋がるための第一歩として、列強諸国から先んじることで、新たな歴史に導くことが目的なのであります」
「だからと言って、朝鮮併合を無かったことにするのは、国民に対して失礼だと思わないのか!?」
「失礼とは何だ? いちいち国の決定事項や閣議決定に、国民投票を行うと言うのか? 国家の存亡を一国民にまで押し付けるのは、いくら民主主義国家でもあってはならんことだと思わんかね?」
その一言で、記者たちは黙りこくってしまった。
こうして、国内外共に朝鮮王国の建国を宣言することになる。
「お疲れ様でした、米内総理」
会見終了後に、宍戸は米内総理の元に寄る。
「全く。記者らはなんで、あぁも怒鳴り散らかすのかね?」
「それが仕事だからじゃないですかねぇ……?」
「しかし、今回の厄介事は骨が折れた。陛下の承諾を得るのに、どれだけ時間を割いたことか……」
「ですが、これで新しい未来に近づきましたよ」
「それならいいのだが……」
その数日後。米内総理の元に、ジョセフ・グルー米国大使がやってきた。ある書類を携えて。
『合衆国の日本に対する最終交渉』
それが書類の題名だった。内容は至ってシンプル。朝鮮王国の利権を寄こさなければ、武力に物言わせるというものだ。
つまり、事実上の最後通謀である。
「こりゃ参ったな……」
宍戸は自動車の中で、最後通謀の簡単な内容を聞く。
「このままでは、日米開戦待ったなしです」
自動車に同乗し、説明をする林。
「だから緊急の宮城閣僚会議を開催するなんて言い出したんですね」
向かっている先は皇居。いつもの会議室である。
車寄せに止まり、宍戸と林は車を降りる。そしていつもの会議室に到着した。
中に入ると、閣僚たちが話し合いをしているところであった。
「宍戸君。すまないね、急に呼び出して」
「いえ。国家の存亡ならば、いつでも参上するつもりです」
その時、宮内省の職員が部屋に入る。
「陛下がお見えです」
閣僚全員が立ち上がる。宍戸も自分の席の前に立った。
天皇陛下が席に着席されたのを見計らって、閣僚と宍戸も席に座る。
そして米内総理が立ち上がった。
「えー、皆さんご存じの通り、米国から最後通謀とも言える文書が届きました。各国の独立を願う我が帝国としましては、同意しかねる内容となっています。つきましては、ここに米国に対して戦争を起こすことを提案します」
その言葉が、部屋の中の緊張感を高める。
「つきましては、南方進出作戦の承諾を行いたく。いかがでしょう?」
米内総理の言葉に、高木海軍大臣が手を上げる。
「南方進出なら、イギリスとフランスが黙ってはいませんぞ。いかがするおつもりですか?」
それに外務大臣から返答があった。
「今回の朝鮮王国建国に当たり、植民地を手放す覚悟ができたと、英仏蘭から回答を得ている。帝国陸軍は、各植民地に進駐という形で進出する」
「ならば言うことはない。しかし、あのイギリスとフランスをどう説得したのか気になるな」
「それは後にしてくだされ」
それを聞いた米内総理は、閣僚の顔をそれぞれ一瞥する。
「それでは、対米開戦を内閣として正式に決定します。そして陛下、いかがいたしまししょう?」
米内総理は、天皇陛下に尋ねる。
「これも、国家存続のためであるか?」
厳格な声で、天皇陛下は米内総理に聞く。
「もちろんです。我が帝国のみならず、全ての国家民族が平和に過ごすための、一時的な処置とも言えます」
それを聞いた天皇陛下は、しばらく口と目を閉じ、考える。
そして静かに目を開き、言葉を発した。
「全ての国家や民族のためというならば、やってみなさい。ただし、決して負けることはあってはありません」
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「対米戦争を、行う……!」
日本にも、戦争が近づいてきた。
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