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第94話 絶望の航海 その二
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「馬鹿なことを言うなッ!」
ハルゼー少将の怒号が飛ぶ。
彼は今しがた、自軍と敵軍の損害を聞いたところだ。
「合衆国軍がジャップに負けただと!? 虚偽申告は貴様のためにならんぞ!?」
「いえ……、これは本当のことです、提督……」
部下は嘘でないことを強調する。
「そんなことが……、そんなことがあってたまるか! 相手はあのジャップだぞ!?」
そういって机を何度も強く叩く。
「クソッ、ルーズベルト大統領もこのような気持ちだったのかもしれん……」
落ち着きを取り戻し、椅子に座る。
「ジャップはこうなることを予想していたのか?」
「それは分かりませんが……。噂では、参謀の役割を持つ組織に転生者がいるとか……」
「それなら、我々の行動を見抜くことが出来ると?」
「おそらく」
「我が国にも転生者がいるのに、どうしてこのような状況に陥っているのだ……!?」
ハルゼー少将の言葉には怒りが込められていた。
「合衆国に転生した者は、以前より対話による解決を至上としていたと聞きます。何度も対話の道を探り、業を煮やしたルーズベルト大統領はホワイトハウスを含めた政府の関係施設の出入りを禁じられたそうで……」
「どうしてそんなことになっているんだ……! これでは合衆国が欲しい情報をドブに捨てているようなものではないか!」
ハルゼー少将は、また拳を机に叩きつけようとしたが、手を上げたところで止める。
「我が国は自由の国であると謳ってきたが、こんなにも脆い自由を有り難がっていたのか……」
行き所のないイラつきが、ハルゼー少将のことを襲う。
とにもかくにも、現状の損害であればフューリアス作戦は失敗の部類に入るだろう。このまま作戦を続行すれば、士気の低下に伴ってより多くの損害を出すことになる。
「海軍省経由で大統領に伝えてくれ。作戦失敗と撤退の許可をな」
「はっ、直ちに」
答えは一時間後に帰ってきた。
「『本作戦に失敗はない。撤退は許可できない』とのことです……」
「……ッ!」
ハルゼー少将は怒りを堪えるのに精一杯だった。
数分後。何とか冷静になり、命令を下す。
「全艦に告ぐ。これよりハワイ諸島に最接近する。奪還はできなくとも、海軍基地としての機能を失わせることはできるだろう」
こうして第8艦隊は、さらにハワイ諸島に接近することになった。
半日後、ハワイ諸島のうち最も大きい島であるハワイ島まで八十キロメートルまで接近する。
「パールハーバーまではもうすぐそこなんだが……」
そういってハルゼー少将は、双眼鏡を覗きながら周辺を見る。ハワイ島の火山が小さく見えるだろう。
そんな時、通信が入る。
「前方を哨戒している駆逐艦から通信です! ……前方よりジャップの艦船が接近中とのことです!」
第8艦隊の前に立ちはだかったのは、帝国海軍の艦隊である。しかも只の艦隊ではない。この艦隊は駆逐艦のみで構成された、駆逐艦隊である。旗艦を白雪として、宍戸が提唱していた戦時量産型駆逐艦を引き連れている。
「今度は何を用意している……?」
ハルゼー少将は考える。が、その前にやるべきことがある。
「護衛空母から偵察機を一機……、いや、三機上げてくれ」
「了解」
すぐに護衛空母から、偵察のために雷撃機が上げられる。
そして状況が伝えられてくる。
「どうやら駆逐艦のみで構成されている艦隊のようです。しかも単横陣で接近しつつあるとのこと」
「駆逐艦のみで単横陣だと……? 奇妙以外の何物でもないな。何か隠しているに違いない」
ハルゼー少将はそのように考察する。
「敵までの距離は?」
「およそ十二マイルです」
「なら砲撃は届くな……。砲戦用意! 敵駆逐艦隊をかき乱せ!」
「イエッサー!」
直ちに砲撃準備が行われる。砲門に取り付けられた蓋を外し、砲身の角度を上げる。
「砲撃準備完了しました!」
「照準が合い次第、一斉射撃!」
「一斉射撃、撃て!」
照準が合っている砲から砲撃が始まる。砲弾は数十秒ほど飛翔したのち、海面に着弾した。残念ながら、駆逐艦のような小さな目標には命中しなかった。
その時である。駆逐艦隊の煙突から黒煙が噴き出したのだ。そしてそのまま回頭していく。
「な、なんだ?」
それをハルゼー少将は双眼鏡で見ていた。
「敵艦隊、煙幕を張っている模様!」
「煙幕だと!?」
それを聞いて、ハルゼー少将は確信した。
「あれらの後ろには主力艦隊がいるに違いない! 潜水艦を直ちに向かわせろ!」
そのように命令を下す。潜水艦に命令が届き、潜水をし始めたときである。とある通信が入ってきた。
「上空にいる偵察機からです! 『煙幕の先は無人』! 繰り返します! 『煙幕の先は無人』!」
「……無人だと? それは……、あれか? 何かのジョークか?」
「その後の通信には、『駆逐艦隊以外無し』と続きますが……」
ハルゼー少将は混乱し出した。
「なんだ? なんだこの違和感は? 主力艦隊がいないのなら、何故煙幕を張る?」
その時であった。
「右舷より魚雷多数! 艦隊外郭まで千ヤード!」
「本艦にも魚雷が接近しています!」
第8艦隊の右舷側。つまり北の方角から魚雷が接近しているという。
その時、ハルゼー少将は気が付いた。
「しまった! 潜水艦の攻撃だ!」
目の前にいる駆逐艦隊と煙幕はブラフであり、本命は多数の潜水艦による魚雷攻撃。魚雷一本で家が数軒建つとも言われる高級品を贅沢に使用した、まさに贅沢な攻撃である。
「回避! 回避ー!」
回避を試みるものの、すでに駆逐艦を中心に被害が出ている。中には当たり所が悪くて、沈没する艦もあった。
そんな中、駆逐艦隊に反撃を試みる艦艇がいたものの、まともな命中弾もなく取り逃がしてしまう。
一方で潜水艦隊にも反撃を試みたが、敵味方入り乱れたスクリュー音のせいで、そもそもどこにいるのか分からない状態だ。こちらも取り逃がしたと思われる。
「こんな……、こんなことがあっていいのか……」
ハルゼー少将は、思わず膝から崩れ落ちた。
ハルゼー少将の怒号が飛ぶ。
彼は今しがた、自軍と敵軍の損害を聞いたところだ。
「合衆国軍がジャップに負けただと!? 虚偽申告は貴様のためにならんぞ!?」
「いえ……、これは本当のことです、提督……」
部下は嘘でないことを強調する。
「そんなことが……、そんなことがあってたまるか! 相手はあのジャップだぞ!?」
そういって机を何度も強く叩く。
「クソッ、ルーズベルト大統領もこのような気持ちだったのかもしれん……」
落ち着きを取り戻し、椅子に座る。
「ジャップはこうなることを予想していたのか?」
「それは分かりませんが……。噂では、参謀の役割を持つ組織に転生者がいるとか……」
「それなら、我々の行動を見抜くことが出来ると?」
「おそらく」
「我が国にも転生者がいるのに、どうしてこのような状況に陥っているのだ……!?」
ハルゼー少将の言葉には怒りが込められていた。
「合衆国に転生した者は、以前より対話による解決を至上としていたと聞きます。何度も対話の道を探り、業を煮やしたルーズベルト大統領はホワイトハウスを含めた政府の関係施設の出入りを禁じられたそうで……」
「どうしてそんなことになっているんだ……! これでは合衆国が欲しい情報をドブに捨てているようなものではないか!」
ハルゼー少将は、また拳を机に叩きつけようとしたが、手を上げたところで止める。
「我が国は自由の国であると謳ってきたが、こんなにも脆い自由を有り難がっていたのか……」
行き所のないイラつきが、ハルゼー少将のことを襲う。
とにもかくにも、現状の損害であればフューリアス作戦は失敗の部類に入るだろう。このまま作戦を続行すれば、士気の低下に伴ってより多くの損害を出すことになる。
「海軍省経由で大統領に伝えてくれ。作戦失敗と撤退の許可をな」
「はっ、直ちに」
答えは一時間後に帰ってきた。
「『本作戦に失敗はない。撤退は許可できない』とのことです……」
「……ッ!」
ハルゼー少将は怒りを堪えるのに精一杯だった。
数分後。何とか冷静になり、命令を下す。
「全艦に告ぐ。これよりハワイ諸島に最接近する。奪還はできなくとも、海軍基地としての機能を失わせることはできるだろう」
こうして第8艦隊は、さらにハワイ諸島に接近することになった。
半日後、ハワイ諸島のうち最も大きい島であるハワイ島まで八十キロメートルまで接近する。
「パールハーバーまではもうすぐそこなんだが……」
そういってハルゼー少将は、双眼鏡を覗きながら周辺を見る。ハワイ島の火山が小さく見えるだろう。
そんな時、通信が入る。
「前方を哨戒している駆逐艦から通信です! ……前方よりジャップの艦船が接近中とのことです!」
第8艦隊の前に立ちはだかったのは、帝国海軍の艦隊である。しかも只の艦隊ではない。この艦隊は駆逐艦のみで構成された、駆逐艦隊である。旗艦を白雪として、宍戸が提唱していた戦時量産型駆逐艦を引き連れている。
「今度は何を用意している……?」
ハルゼー少将は考える。が、その前にやるべきことがある。
「護衛空母から偵察機を一機……、いや、三機上げてくれ」
「了解」
すぐに護衛空母から、偵察のために雷撃機が上げられる。
そして状況が伝えられてくる。
「どうやら駆逐艦のみで構成されている艦隊のようです。しかも単横陣で接近しつつあるとのこと」
「駆逐艦のみで単横陣だと……? 奇妙以外の何物でもないな。何か隠しているに違いない」
ハルゼー少将はそのように考察する。
「敵までの距離は?」
「およそ十二マイルです」
「なら砲撃は届くな……。砲戦用意! 敵駆逐艦隊をかき乱せ!」
「イエッサー!」
直ちに砲撃準備が行われる。砲門に取り付けられた蓋を外し、砲身の角度を上げる。
「砲撃準備完了しました!」
「照準が合い次第、一斉射撃!」
「一斉射撃、撃て!」
照準が合っている砲から砲撃が始まる。砲弾は数十秒ほど飛翔したのち、海面に着弾した。残念ながら、駆逐艦のような小さな目標には命中しなかった。
その時である。駆逐艦隊の煙突から黒煙が噴き出したのだ。そしてそのまま回頭していく。
「な、なんだ?」
それをハルゼー少将は双眼鏡で見ていた。
「敵艦隊、煙幕を張っている模様!」
「煙幕だと!?」
それを聞いて、ハルゼー少将は確信した。
「あれらの後ろには主力艦隊がいるに違いない! 潜水艦を直ちに向かわせろ!」
そのように命令を下す。潜水艦に命令が届き、潜水をし始めたときである。とある通信が入ってきた。
「上空にいる偵察機からです! 『煙幕の先は無人』! 繰り返します! 『煙幕の先は無人』!」
「……無人だと? それは……、あれか? 何かのジョークか?」
「その後の通信には、『駆逐艦隊以外無し』と続きますが……」
ハルゼー少将は混乱し出した。
「なんだ? なんだこの違和感は? 主力艦隊がいないのなら、何故煙幕を張る?」
その時であった。
「右舷より魚雷多数! 艦隊外郭まで千ヤード!」
「本艦にも魚雷が接近しています!」
第8艦隊の右舷側。つまり北の方角から魚雷が接近しているという。
その時、ハルゼー少将は気が付いた。
「しまった! 潜水艦の攻撃だ!」
目の前にいる駆逐艦隊と煙幕はブラフであり、本命は多数の潜水艦による魚雷攻撃。魚雷一本で家が数軒建つとも言われる高級品を贅沢に使用した、まさに贅沢な攻撃である。
「回避! 回避ー!」
回避を試みるものの、すでに駆逐艦を中心に被害が出ている。中には当たり所が悪くて、沈没する艦もあった。
そんな中、駆逐艦隊に反撃を試みる艦艇がいたものの、まともな命中弾もなく取り逃がしてしまう。
一方で潜水艦隊にも反撃を試みたが、敵味方入り乱れたスクリュー音のせいで、そもそもどこにいるのか分からない状態だ。こちらも取り逃がしたと思われる。
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