あなたの瞳に映るのは妹だけ…闇の中で生きる私など、きっと一生愛されはしない。

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あなたの瞳に映るのは妹だけ…闇の中で生きる私など、きっと一生愛されはしない。

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『君が俺の婚約者…?なら一緒に遊ぼうよ。外に出れなくても、家の中でさ。』

 そう言って、私に優しく笑いかけてくれた彼はもう居ない─。

「お兄様~、何だかこの部屋、空気が悪いわ。原因は…この引きこもり女よ!きっと、こいつが変な匂いを出してるのね!」

「そうだな。おい…俺たちはもう出かけるんだ、留守中は地下牢に戻れ!…さぁ、行こうか。」

「えぇ、町で何でも買ってくれる約束だったものね!」

 二人は腕を組み、楽しそうに部屋を出て行った。

 私はただ…婚約者のあなたがせっかく家に居るのだから、少しでもいいから話をしたかったの。
 
 だって私は、この家からは出るなと、あなたのお父上に言われていて…もし破ったら、厳しい罰を受けるから─。
 
※※※

 婚約者があんなふうになってしまったのは、彼にあの可愛い義妹が出来てからだ。

 最初はあくまで兄として、彼女を可愛がっていた彼。
 でも義妹が可愛く成長して行く中で、彼は次第に彼女に夢中になっていった。

 私と過ごして居た時間は、いつしか義妹と過ごす時間に変わり…今ではもう、彼の瞳には義妹しか映らなくなってしまった。

『あの子と俺は愛し合ってる。でも、義理とはいえ兄妹だからな…表立って愛し合えない。だから、お前の事は好きではないがこのまま婚約者でいて貰う。そしていずれは妻に…でも、一生お前を愛する事はない。そこはよくわきまえろよ?』

 そう彼は言ったけど…だったらもう、私はここに居たくないわ。
 だって、私がここに連れて来られたのは─。

 日も暮れたのか少し肌寒さを感じた頃、義妹が私を訪ねて来た。

「見てこのドレス、綺麗でしょう。今日お兄様が買って下さったのよ!それに比べ、あなた何?お兄様の婚約者の癖に、いつもお母様のお古のドレスを着せられて…。そんなあなたに、私がとっておきのプレゼントをあげる。」
 
 義妹は、桶に入った泥水を私に浴びせた。

 私は余りの事に叫び声を上げ、その場に蹲った。

「ウフフ…どう、少しは臭い匂いも取れた?あら、逆に汚れちゃったわね。」

「どうした、何をやっている!?」

「た、助け─」

「何だ、こいつに水浴びでもさせたのか?お前は優しい子だな…おい、俺の妹に感謝しろよ?」

 その瞬間…私の中で、プツリと何かが切れる音がした─。

※※※

 すると…突然下から何か突き上げる衝撃があり、屋敷がグラグラ揺れ始めた。

 そしてそれはどんどん酷くなり、婚約者と義妹は立って居られずその場に倒れ込んでしまった。
 その二人の上に、崩れて来た壁や天井がガラガラと落ちて来る。

「じ…地震か!?」

「違うわ…大地の精霊の怒りよ。私を虐め、傷付けたあなたたちに怒ってるの。」

「精霊が、何故お前の味方を…?」

「私は、この地の精霊に愛された子供だった。そういう子供は、幸福と繁栄を呼び込む。だからあなたのお父様はこの家に術をかけ、私を地下牢に閉じ込めた上であなたの婚約者にしたの。私は…私に優しくしてくれたあなたを好きだったから、それでもいいと思ってた。でも今のあなたは、もう私の好きだったあなたじゃない。だから私は、もうこの家の為に精霊に祈らない…そして、ここを出て行くわ!」

 落ちて来た天井に挟まれ動けないでいる義妹から、私はこの地下牢の鍵を抜き取った。

「な…何するの?」

「私から見て、あなたは太陽の光の様に明るく眩しい存在だった。でもね…そんな太陽も、地平に沈み姿を消すものよ…。だから、あなたもそうなさい。愛するお兄様と、一緒にね─。」

「待て、行かないでくれ─!」

 私は二人が動けないでいる地下牢に鍵をかけ、崩れ行き術が解けた屋敷を後にした─。

※※※

 その後…屋敷跡から、あの家の当主…彼のお父様とその妻が瀕死の状態で見つかった。

 そして地下からは、瓦礫にまみれボロボロになった二人が…見るも無残な姿で発見された。

 精霊の怒りを買った者は皆不幸になり、命さえ落とす─。
 その言い伝えは、本当だったのだ。

 こうして屋敷を出た私は、大地の精霊に導かれるまま、新しい土地に移り住んだ。
 
 そして、そこで出会った素敵な殿方と恋に落ち…近く、婚約する事に─。

 彼は、私の笑顔が陽だまりの様に暖かく穏やかで好きだと言ってくれる。

 ずっと闇の中で生き続け、一生愛される事はないと思っていたから…こうして明るい空の下、彼の愛に包まれ生活を送る事が出来て、私は今とても幸せよ─。
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