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第五章
36.君の笑顔を信じたい【最終話】
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浩太と蓮が恋人になってから、約一年が経った。
柔らかな春風が街を包み込み、新しい大学の新学期が始まる頃、浩太は二年生となり、少しだけ大人びた表情を見せていた。
桜の花びらがゆっくりと舞い落ち、通学路は新入生の緊張と上級生の慣れた足取りが混ざり合い、どこか活気に満ちている。
真新しい制服姿の高校生がちらほら見える中、浩太と蓮は肩を並べて歩いていた。
「やっぱり、春っていいですね」
蓮がぽつりと呟いた。
その声はどこか心が解けたように軽く、春の空気と同じくらい穏やかだ。
「なんだ、急に詩人みたいなこと言って」
「だって、本当にそう思うんですよ。寒いのも終わって……なんか、いろんなことが始まるって感じがして」
「……確かにな」
浩太もそう頷く。二人の足音が歩道の石畳に優しく響いた。
二人は、この春から生活を少し変えた。
この春、蓮は無事に大学に合格し、浩太の住む街の近くに引っ越してきた。
いずれは一緒に暮らす予定だが、まずは生活リズムの調整のために、数分の距離を行き来する“通い同棲”を選んだのだ。
今日は大学の入学式帰り。
スーツ姿の蓮は少し窮屈そうにネクタイを直しているが、それでも背筋が伸びていて、やっぱり似合っていた。
「浩太さん。俺、今すごく嬉しいんです」
信号待ちで立ち止まったとき、蓮がふいに言った。
視線は前を向いているが、その声はまっすぐ浩太の胸に届く。
「……なんで?」
「だって、ちゃんと“隣にいられる”って感じがするからです」
その言葉に、浩太はふと中学時代の記憶を思い出した。
からかわれて、傷ついて、それでも誰かを好きになることを諦めなかったあの日々。
勇気を出して蓮に告白をしてからも、心の奥に残っていたその痛みは、そう簡単には消えなかった。
だけど──
「なあ、蓮」
「はい?」
「……お前、なんで俺のこと好きなんだっけ」
以前にも口にしたはずの質問を、また繰り返してしまう。
蓮はくすっと笑って返した。
「……顔、ですね」
「またそれかよ」
「でも、今は“顔だけ”じゃないです。……浩太さんの全部が好きです」
「全部って、抽象的すぎ」
「じゃあ、これから一つずつ、毎日教えていきます」
「……それ、めんどくさいな」
「でも、浩太さんは聞いてくれますよね?」
浩太は小さく笑って、目を細めた。
「……ああ。聞くよ。毎日でも聞いてやる」
やがて、信号が青に変わり、二人はゆっくりと歩き出した。
肩が触れそうな距離で、急がず、春の風を受けながら。
◇
夕暮れ時。
浩太の部屋で、二人はくつろいでいた。
テーブルの上には、帰り道で買ってきた惣菜や総菜パンが並び、テレビからはバラエティ番組の笑い声が流れている。
何気ない時間だった。
だけど、それが一番居心地よく、確かな幸福だった。
「……なあ、蓮」
「はい」
「これから先さ、俺たち、いろんなことがあると思うんだよ。喧嘩したり、すれ違ったり。忙しくなって会えなくなったり、飽きたり、疲れたり……」
「……」
「だけど、それでもお前となら、ちゃんと向き合える気がする」
蓮は驚いたように目を見開いた後、穏やかに笑った。
「俺もそう思ってますよ」
「ほんとに?」
「うん。……俺、浩太さんがいてくれたから、ここまで来られたし。あの日、“俺は浩太先輩のこと本気です”って言ったの、今も本当ですから」
「……俺も」
浩太は少し顔を赤くし、続けた。
「お前の笑顔を信じてみたいって、あの時思って……よかったよ」
蓮の笑顔は、浩太に“信じること”を思い出させてくれた。
誰かを好きになることは、怖くもある。
けれどそれ以上に、温かくて、確かで、心を強くしてくれる。
「ねえ、浩太さん。これからも、俺の隣にいてくれますか」
「……当たり前だろ。こっちこそ、離れる気ないから」
蓮がそっと手を伸ばす。
浩太も自然にその手を取った。
重なる手のひら。
一年経っても、何度重ねても、その温もりは変わらない。
──きっとこの先も、変わらない。
◇
夜。
ベランダの窓を開けると、まだ少し冷たい風が流れ込んできた。
街の明かりが遠くに滲み、どこかで桜の花びらが舞っている気配がする。
隣には蓮がいる。
特別なことがなくても、ただ一緒にいるだけで心が満ちていく。
「ねえ、浩太さん。これから先も、ずっと一緒にいられますかね」
「……さあな。でも、努力はする」
「努力?」
「うん。ちゃんと好きでい続ける努力、してやるよ」
「じゃあ、俺も頑張りますね!」
見つめ合い、微笑んで、そしてそっと唇を重ねた。
この数年、傷ついて、すれ違って、それでも想い合ってきた。
そんな二人だから、きっとこれからも大丈夫だろう。
春風がカーテンを揺らし、静かに二人の未来を祝福しているようだった。
──君の笑顔を、信じたい。
それは今も、変わらずに胸の中で輝いている。
─END─
柔らかな春風が街を包み込み、新しい大学の新学期が始まる頃、浩太は二年生となり、少しだけ大人びた表情を見せていた。
桜の花びらがゆっくりと舞い落ち、通学路は新入生の緊張と上級生の慣れた足取りが混ざり合い、どこか活気に満ちている。
真新しい制服姿の高校生がちらほら見える中、浩太と蓮は肩を並べて歩いていた。
「やっぱり、春っていいですね」
蓮がぽつりと呟いた。
その声はどこか心が解けたように軽く、春の空気と同じくらい穏やかだ。
「なんだ、急に詩人みたいなこと言って」
「だって、本当にそう思うんですよ。寒いのも終わって……なんか、いろんなことが始まるって感じがして」
「……確かにな」
浩太もそう頷く。二人の足音が歩道の石畳に優しく響いた。
二人は、この春から生活を少し変えた。
この春、蓮は無事に大学に合格し、浩太の住む街の近くに引っ越してきた。
いずれは一緒に暮らす予定だが、まずは生活リズムの調整のために、数分の距離を行き来する“通い同棲”を選んだのだ。
今日は大学の入学式帰り。
スーツ姿の蓮は少し窮屈そうにネクタイを直しているが、それでも背筋が伸びていて、やっぱり似合っていた。
「浩太さん。俺、今すごく嬉しいんです」
信号待ちで立ち止まったとき、蓮がふいに言った。
視線は前を向いているが、その声はまっすぐ浩太の胸に届く。
「……なんで?」
「だって、ちゃんと“隣にいられる”って感じがするからです」
その言葉に、浩太はふと中学時代の記憶を思い出した。
からかわれて、傷ついて、それでも誰かを好きになることを諦めなかったあの日々。
勇気を出して蓮に告白をしてからも、心の奥に残っていたその痛みは、そう簡単には消えなかった。
だけど──
「なあ、蓮」
「はい?」
「……お前、なんで俺のこと好きなんだっけ」
以前にも口にしたはずの質問を、また繰り返してしまう。
蓮はくすっと笑って返した。
「……顔、ですね」
「またそれかよ」
「でも、今は“顔だけ”じゃないです。……浩太さんの全部が好きです」
「全部って、抽象的すぎ」
「じゃあ、これから一つずつ、毎日教えていきます」
「……それ、めんどくさいな」
「でも、浩太さんは聞いてくれますよね?」
浩太は小さく笑って、目を細めた。
「……ああ。聞くよ。毎日でも聞いてやる」
やがて、信号が青に変わり、二人はゆっくりと歩き出した。
肩が触れそうな距離で、急がず、春の風を受けながら。
◇
夕暮れ時。
浩太の部屋で、二人はくつろいでいた。
テーブルの上には、帰り道で買ってきた惣菜や総菜パンが並び、テレビからはバラエティ番組の笑い声が流れている。
何気ない時間だった。
だけど、それが一番居心地よく、確かな幸福だった。
「……なあ、蓮」
「はい」
「これから先さ、俺たち、いろんなことがあると思うんだよ。喧嘩したり、すれ違ったり。忙しくなって会えなくなったり、飽きたり、疲れたり……」
「……」
「だけど、それでもお前となら、ちゃんと向き合える気がする」
蓮は驚いたように目を見開いた後、穏やかに笑った。
「俺もそう思ってますよ」
「ほんとに?」
「うん。……俺、浩太さんがいてくれたから、ここまで来られたし。あの日、“俺は浩太先輩のこと本気です”って言ったの、今も本当ですから」
「……俺も」
浩太は少し顔を赤くし、続けた。
「お前の笑顔を信じてみたいって、あの時思って……よかったよ」
蓮の笑顔は、浩太に“信じること”を思い出させてくれた。
誰かを好きになることは、怖くもある。
けれどそれ以上に、温かくて、確かで、心を強くしてくれる。
「ねえ、浩太さん。これからも、俺の隣にいてくれますか」
「……当たり前だろ。こっちこそ、離れる気ないから」
蓮がそっと手を伸ばす。
浩太も自然にその手を取った。
重なる手のひら。
一年経っても、何度重ねても、その温もりは変わらない。
──きっとこの先も、変わらない。
◇
夜。
ベランダの窓を開けると、まだ少し冷たい風が流れ込んできた。
街の明かりが遠くに滲み、どこかで桜の花びらが舞っている気配がする。
隣には蓮がいる。
特別なことがなくても、ただ一緒にいるだけで心が満ちていく。
「ねえ、浩太さん。これから先も、ずっと一緒にいられますかね」
「……さあな。でも、努力はする」
「努力?」
「うん。ちゃんと好きでい続ける努力、してやるよ」
「じゃあ、俺も頑張りますね!」
見つめ合い、微笑んで、そしてそっと唇を重ねた。
この数年、傷ついて、すれ違って、それでも想い合ってきた。
そんな二人だから、きっとこれからも大丈夫だろう。
春風がカーテンを揺らし、静かに二人の未来を祝福しているようだった。
──君の笑顔を、信じたい。
それは今も、変わらずに胸の中で輝いている。
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「青春ってなんや?」と悩みながら書いたのでそう言っていただけてとっても嬉しいです😭
「どこが好き」回は私のお気に入りなんです🤣
浩太自身も蓮の笑顔に惹かれた部分はあるので、ある意味『顔が好き』お互い様なのかもしれないですね!
描写まで褒めていただき感謝感激です!🙏
こちらこそ読んでいただきありがとうございました!
ご感想ありがとうございます!
蓮のわんこ感は私もお気に入りです🫶
蓮のまっすぐさに浩太の心もついつい開いちゃうのでしょうね〜😂
読んでくださりありがとうございます!
10話まで読了です!一章で高まった気持ちが、二章でなんでぇぇ〜っと🥺🥺
早く二人が気持ちを自覚しないかな💓とわくわくしながら読ませていただいてます!
ご感想ありがとうございます!
第二章は第一章との温度差が激しくなっています🥲
書いている私自身も「早く気づいてー!」と叫びたくなります!モヤモヤさせてしまいますが、ぜひお付き合いください…!
読んでくださり、本当にありがとうございます✨