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第一章
3.勉強会
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「浩太先輩、いらっしゃいませー!」
玄関先で元気よく声を張り上げる蓮に、浩太は思わず小さく笑った。
二人でハンバーガー屋に行き、蓮から勉強会を提案された一週間後。
この日、蓮の家で二人で勉強会をすることになった。
「お邪魔します」
「どうぞ上がってください!俺の部屋、二階にあるんです」
案内された通された蓮の部屋は、整頓されていてどこか居心地がよかった。机の上に目を通すと、そこには参考書とお菓子の袋が綺麗に並べられている。そのひとつひとつから、どこか張り切った雰囲気が滲み出ていた。
「……準備、しすぎじゃないか?」
「え、やっぱりやりすぎですかね?俺、こういうの初めてで……」
「こういうの……?」
「べ、勉強会ですよ、勉強会!」
蓮は慌てて取り繕うように言いながら、頭を掻いた。
(……そういう意味、じゃないよな)
曖昧な言葉に含まれた何かを感じ取りながら、浩太は黙って部屋の床に座り込んだ。
◇
勉強に集中する時間は想像以上にあっという間だった。
蓮は質問が多い分、吸収スピードも早い。何度も「これってこういうことですか?」と食い下がるように尋ねてきて、浩太もその都度、真剣に答えた。
「なるほど……。浩太先輩、人に教えるのうまいですね。めっちゃ分かりやすいです!」
「そうか?」
「はい、なんか……こう、優しいっていうか……ちゃんと俺に向き合ってくれるというか……」
「ただ教えてるだけだよ」
「でもそれがありがたいんです。俺、ひとりじゃすぐ諦めるタイプだから」
蓮の目が少し潤んだように見えて、浩太はわざとノートに視線を戻した。
勉強が一段落したタイミングで、蓮がそっと口を開いた。
「ちょっと休憩にしませんか?」
そう言って蓮は袋の中からプリンを取り出した。
「……これは手作りじゃないよな?」
「当たりです、さすが浩太先輩。手作りできたらいいんですけどね……俺ができるのは片付けぐらいです。……まあ、誰かが来るってなったらやる気が出るっていうか」
その誰かに自分が含まれているのを察しながらも、浩太は表情を変えなかった。
◇
勉強を一通り教え終わったころには、すっかり空は夕暮れ色に染まっていた。
蓮の部屋の時計の針は十八時半を指していた。
「……そろそろお開きにするか」
「そうですね。浩太先輩、ありがとうございました!めちゃめちゃ勉強になりました」
「いいよ。俺も良い復習になったし」
浩太は机の上に並べていた教科書や筆記用具を鞄へとゆっくりと片付けていく。
「じゃあ、俺帰るわ。プリンもありがとう、美味しかった」
「俺、駅まで送ります!」
「いや大丈夫だよ。迷う距離でもないし」
「近道知ってるんで!さあ、行きましょ!」
浩太が断る間もなく、蓮は立ち上がってドアの方へと向かってしまった。
蓮に連れられ、二人で人気の少ない近道を歩く。
蓮が少し俯いたまま口を開いた。
「……浩太先輩」
「ん?」
「あの、またこうやって勉強会とか……出かけたりとか、したいです」
その口ぶりは、ただの後輩のお願い以上の響きを持っていた。
浩太は、蓮と視線を合わせないまま返した。
「……また、タイミングが合えばな」
「それなら大丈夫です。俺、絶対にタイミング合わせますから!」
嬉しそうに笑う蓮の顔を見ながらも、浩太の頬の筋肉は微かに強ばっていた。
少し冷たい風が二人の間を駆け抜ける。
「……その、先輩は好きな人とか……いたり、しますか?」
その問いかけに浩太は一瞬息が詰まった。けれどすぐに口を開いた。
「……そういうの、考えてない」
「え、なんで……」
「興味がないってだけ」
その冷たいような響きをもった浩太の声に、蓮は何も言えなくなった。
◇
その日の夜。
浩太は自室の窓から夜空を見上げていた。夜にも関わらず空気は少し生ぬるく、どこか初夏を感じさせる。
「蒸し暑いな……」
こうして夏が近づいてくると、あの時のことを思い出してしまう。
(もう、誰かと恋愛なんて……)
蓮の言葉や笑顔が、何度も脳裏に浮かんでは消えていく。
あの目は本物だった。まっすぐで何の嘘もない。
でも──それが一番怖かった。
だから、踏み込めない。
だから、蓮に本音を向けられない。
(……俺はまた誰かに期待したくない)
そう思った瞬間、心の奥がふっと冷たくなった。
玄関先で元気よく声を張り上げる蓮に、浩太は思わず小さく笑った。
二人でハンバーガー屋に行き、蓮から勉強会を提案された一週間後。
この日、蓮の家で二人で勉強会をすることになった。
「お邪魔します」
「どうぞ上がってください!俺の部屋、二階にあるんです」
案内された通された蓮の部屋は、整頓されていてどこか居心地がよかった。机の上に目を通すと、そこには参考書とお菓子の袋が綺麗に並べられている。そのひとつひとつから、どこか張り切った雰囲気が滲み出ていた。
「……準備、しすぎじゃないか?」
「え、やっぱりやりすぎですかね?俺、こういうの初めてで……」
「こういうの……?」
「べ、勉強会ですよ、勉強会!」
蓮は慌てて取り繕うように言いながら、頭を掻いた。
(……そういう意味、じゃないよな)
曖昧な言葉に含まれた何かを感じ取りながら、浩太は黙って部屋の床に座り込んだ。
◇
勉強に集中する時間は想像以上にあっという間だった。
蓮は質問が多い分、吸収スピードも早い。何度も「これってこういうことですか?」と食い下がるように尋ねてきて、浩太もその都度、真剣に答えた。
「なるほど……。浩太先輩、人に教えるのうまいですね。めっちゃ分かりやすいです!」
「そうか?」
「はい、なんか……こう、優しいっていうか……ちゃんと俺に向き合ってくれるというか……」
「ただ教えてるだけだよ」
「でもそれがありがたいんです。俺、ひとりじゃすぐ諦めるタイプだから」
蓮の目が少し潤んだように見えて、浩太はわざとノートに視線を戻した。
勉強が一段落したタイミングで、蓮がそっと口を開いた。
「ちょっと休憩にしませんか?」
そう言って蓮は袋の中からプリンを取り出した。
「……これは手作りじゃないよな?」
「当たりです、さすが浩太先輩。手作りできたらいいんですけどね……俺ができるのは片付けぐらいです。……まあ、誰かが来るってなったらやる気が出るっていうか」
その誰かに自分が含まれているのを察しながらも、浩太は表情を変えなかった。
◇
勉強を一通り教え終わったころには、すっかり空は夕暮れ色に染まっていた。
蓮の部屋の時計の針は十八時半を指していた。
「……そろそろお開きにするか」
「そうですね。浩太先輩、ありがとうございました!めちゃめちゃ勉強になりました」
「いいよ。俺も良い復習になったし」
浩太は机の上に並べていた教科書や筆記用具を鞄へとゆっくりと片付けていく。
「じゃあ、俺帰るわ。プリンもありがとう、美味しかった」
「俺、駅まで送ります!」
「いや大丈夫だよ。迷う距離でもないし」
「近道知ってるんで!さあ、行きましょ!」
浩太が断る間もなく、蓮は立ち上がってドアの方へと向かってしまった。
蓮に連れられ、二人で人気の少ない近道を歩く。
蓮が少し俯いたまま口を開いた。
「……浩太先輩」
「ん?」
「あの、またこうやって勉強会とか……出かけたりとか、したいです」
その口ぶりは、ただの後輩のお願い以上の響きを持っていた。
浩太は、蓮と視線を合わせないまま返した。
「……また、タイミングが合えばな」
「それなら大丈夫です。俺、絶対にタイミング合わせますから!」
嬉しそうに笑う蓮の顔を見ながらも、浩太の頬の筋肉は微かに強ばっていた。
少し冷たい風が二人の間を駆け抜ける。
「……その、先輩は好きな人とか……いたり、しますか?」
その問いかけに浩太は一瞬息が詰まった。けれどすぐに口を開いた。
「……そういうの、考えてない」
「え、なんで……」
「興味がないってだけ」
その冷たいような響きをもった浩太の声に、蓮は何も言えなくなった。
◇
その日の夜。
浩太は自室の窓から夜空を見上げていた。夜にも関わらず空気は少し生ぬるく、どこか初夏を感じさせる。
「蒸し暑いな……」
こうして夏が近づいてくると、あの時のことを思い出してしまう。
(もう、誰かと恋愛なんて……)
蓮の言葉や笑顔が、何度も脳裏に浮かんでは消えていく。
あの目は本物だった。まっすぐで何の嘘もない。
でも──それが一番怖かった。
だから、踏み込めない。
だから、蓮に本音を向けられない。
(……俺はまた誰かに期待したくない)
そう思った瞬間、心の奥がふっと冷たくなった。
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