【完結】君の笑顔を信じたい

加賀ユカリ

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第一章

2.放課後

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 食堂でうどんを食べ終えたあと、浩太と蓮は並んで廊下を歩いていた。
 昼休みの校舎には、窓から眩しい光が差し込んでいる。

 蓮の背は、浩太よりも頭ひとつ分ほど高い。並んで歩くと、浩太は蓮の方を自然と見上げるかたちになる。

「うどん、ごちそうさまでした!すごく美味しかったです!」
「それならよかった。……瀬川くんがうどん苦手だったらどうしようって、ちょっと不安だったからさ」
「俺、うどん大好きです!それと……俺のこと、“蓮”って呼んでください」

 さらりとした口調ながら、どこか照れくさそうな声色だった。その響きに、浩太は反射的に視線をそらし、少しだけ頬をゆるめる。

「……わかった。蓮」

 浩太がそう名前を呼ぶと、蓮はふわっと笑った。
 目を細めて、わずかに身を屈めるようにして浩太の方を見上げてくるその顔は、まるでしっぽを振る大型犬ように愛嬌があった。

「また一緒に、ご飯食べたいです!」
「……まあ、機会があれば」
「じゃあ、絶対に行きましょう!」
「“機会があれば”って言っただけだけどな……」

 浩太がぼそりと呟くと、蓮はいたずらっぽく笑って返す。

「その“機会”、俺がちゃんと作りますから!」

 その調子の良さに、浩太は内心小さくため息をつく。けれど、不思議と嫌な気はしなかった。

 ◇

「浩太先輩~!」

 とある日の放課後。
 外が少しだけ赤く染まり始めたころ、聞き覚えのある声が響いた。

 浩太が振り返ると、制服のネクタイを少し緩めた蓮が手を振って駆け寄ってきた。

「……蓮」
「浩太先輩、今から帰るんですか?」
「まあ、そのつもりだけど……」
「よかった!俺もちょうど帰ろうと思っていたところです!……一緒に帰りませんか?」

 そう言って蓮はにこっと笑う。人懐っこいその笑顔を見ていると、なんとなく断れなくなる。

 二人で並んで歩く、放課後の廊下。
 どこか遠くから吹奏楽部の演奏が響いている。

「今日も図書室で勉強していたんですか?」
「うん。家じゃ集中できないからさ」
「わかります!俺なんて、気づいたら動画とか見てて……」

 蓮は恥ずかしそうに笑った。
 そんな何気ない話でも、彼の明るい表情に自然と頬が緩んだ。


 校門を抜けて外に出ると、空はうっすら茜色に染まり始めていた。

「……浩太先輩、小腹空いてませんか?」
「……え?まあ……ちょっとは空いてるかも」
「駅前のハンバーガー屋、行きましょう!今、すっごい行きたい気分なんです!」

 (……“機会を作る”って、このことか?)

 あの時の言葉を思い出す。

 蓮に軽く腕を引かれながら、浩太はそのまま流れるように駅へと向かって歩き出した。気づけば、自分が彼のペースに自然と乗せられていることに、浩太は少しだけ苦笑した。


 夕方の店内は、放課後の学生たちの声で賑やかだった。揚げたてのポテトや甘いドリンクの匂いが店中を包み込んでおり、浩太の空腹を刺激する。

「久しぶりに来たな……」

 レジに並びながら、浩太はぽつりとこぼす。
 前に立っていた蓮がこちらへ振り返る。

「そうなんですか?」
「最近は学校と家を往復ばっかでさ」
「……テストもありますもんね」
「まあ、息抜きも必要とは思っているんだけど……」

 店員のレジ捌きはスムーズで、列は少しずつ前へと進んでいく。

 壁のメニューを見上げながら、蓮が問いかけてくる。

「浩太先輩は何を食べます?」
「……てりやきバーガーのセット、かな」
「おお、いいですね!」

 蓮は嬉しそうに笑って、目を細めた。それがどこか、無邪気な子どものようだった。

「……なんで、俺の注文聞いただけでそんなに嬉しそうなんだよ」
「浩太先輩の好きなもの、知れたので」

 あまりにまっすぐな言葉に、浩太は少しだけ返す言葉に詰まった。その間に二人のレジの順番が回ってきた。

「浩太先輩、注文の番ですよ!」
「あ、ああ……」


 二人はハンバーガーとポテトを手にし、空いていたテーブルに座る。

 正面に座った蓮は、チーズバーガーの包装紙を剥きながら話し始めた。

「浩太先輩はいつも図書室で勉強してるんですか?」
「まあ……集中できるし、静かだしな」

 浩太がポテトをつまみながら答えると、蓮はぼそりとつぶやいた。

「……あの、先輩」
「ん?」
「俺、勉強教えてほしくて。よかったら──俺の家で、勉強会しませんか?」

 その言葉に浩太の手が止まる。

 蓮の目は真剣で、でもどこか楽しげだった。

「……うん。俺なんかが役に立つか分かんないけど……」
「本当ですか!?楽しみにしてます!」

 ◇

 ハンバーガーを食べ終えた蓮は、どこか落ち着かない様子でストローをいじっていた。

「……そういえば、勉強会っていつごろがいいですか?」
「ん?ああ……別にいつでもいいけど。放課後とか?」
「いいですね!俺ん家、駅から歩いてすぐなんで!」

 やけに嬉しそうに話す蓮に、浩太は少し苦笑した。

「そんなにテンション上がることか?」
「だって浩太先輩が家に来るんですよ!?嬉しくなるに決まってます!……部屋、掃除しとかないと。……勉強の合間に甘いものあった方がいいですよね?あっ、でも俺、料理ほんとダメで……」
「落ち着けって。別に手作りじゃなくていいだろ……」
「よかった……この前、卵焼き作ろうとして危うく家が火事になるところだったんですよ……」
「それはお前、ヤバいだろ……」

 浩太がふっと笑うと、蓮も安心したように笑い返した。

 その視線があまりにもまっすぐで。
 浩太は少しだけ視線を逸らした。
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