【完結】君の笑顔を信じたい

加賀ユカリ

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第一章

7.花火大会③

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あきら……先輩?」
「久しぶり……」

 晶先輩──中学時代の先輩で、浩太が告白した人である。

「晶~!その子、誰?知り合い?」
由紀ゆき!こいつ、中学の時の後輩だよ。めっちゃ久しぶりに会ったんだ」

 晶の後ろから女性が姿を見せた。

 由紀と呼ばれたその女性は晶と同い年くらいだろう。
 可愛らしく着付けされた浴衣は、晶とお揃いである。誰がどう見ても二人はお似合いのカップルだった。

 浩太は二人のことを視界に入れたくなかった。下を向いたまま二人の会話を聞いていた。

「浩太、先輩……?」

 蓮が不安そうにこちらを見つめ、浩太の頬に手を添える。その手は温かくて、けれどどこか不安げでもあった。

 浩太は反射的に蓮の手から離れるように一歩下がった。

 浩太と蓮の距離感はただの友人同士とは思えなかった。晶はその一瞬のやりとりを見逃さなかった。

「二人は……その、付き合ってるのか?」
「違います……!!」

 晶が言い終える前に浩太は声で遮った。

「浩太、ちょっといいか?ほんの五分だけ……お連れさんもごめん」

 晶は、俯いたままの浩太を人影の少ない場所へと連れ出した。


「浩太……もしかしてあの時の言葉って本気だったのか?」
「な、なんのことですか?」
「中学の時に部活の皆で花火大会来ただろ?あの夜、お前……告白してきたよな。あれって……本気だったのか?」
「……そ、それは……」
「もし、あの時本気だったなら俺は──」

 晶が言葉を続けようとした時、不意に浩太の腕が引かれた。

「──すみません」

 振り返ると、蓮が浩太の身体ごと引き寄せていた。

「やっぱり浩太先輩のこと返してください。……懐かしい話で盛り上がるのも分かるんですけど、今日浩太先輩と約束したのは俺なので」
「蓮……」
「花火ももうすぐ上がります。彼女さんも待ってますよ」

 蓮は、年上の初対面の晶に臆しないほど堂々としていた。

「ああ……すまない。浩太も突然ごめんな。……悪いけど、今日のことは忘れてくれ。俺も忘れるから……」

 晶はそう言い残し、彼女と共に人混みの中へ消えていった。


「浩太先輩……あの人のこと、好きなんですか?」
「へっ!?」
「俺、浩太先輩と仲良くなってまだ日が浅いですけど、顔を見てたら分かります。……正確には、あの人のことが好きだったんですよね?」
「違う……っ!晶先輩は男だし、そんなわけないだろ!」
「男とか、関係ないと思います」

 蓮の声は驚くほど静かだった。

「──本気で好きになったら、男とか女とか関係ないです」
「っ……」
「……誰かを本気で好きになること、俺もあります。相手は男ですけど」
「……!」

 浩太は蓮を見る。そのまっすぐな視線に息が詰まる。

「……俺は違う」
「そうですか?」
「俺は、好きとか……そういうの向いてないんだ。誰かを好きって言っても……」

 浩太の脳内に、冗談だと笑われた記憶が浮かんだ。

「……本気で言ったのに、“冗談だ”って笑われたんだ」

 蓮は無言で浩太の手を取った。
 あたたかくて、優しい手だった。

「でも、今日。浩太先輩は俺と来てくれましたよね?」
「……ああ」
「それだけで、俺はすごく嬉しいです」

 その優しい笑顔に少しだけ心が軽くなった。

 ◇

 やがて、花火が打ちあがった。

 ドン、と大きな音とともに夜空にいくつもの花が咲き誇っている。

「わ……すごい!」

 蓮は子どものように目を輝かせて、夜空を見上げている。
 そんな横顔を見ながら、浩太も自然と笑っていた。

 花火が終わり、立ち上がろうとしたそのとき──

「うわっ……!」
「え、蓮!?」

 すぐそばを通り過ぎた子どもが転んでしまい、持っていた水風船が割れて、蓮に水がかかってしまった。
 水は浴衣にしっかりと染み込み、肩から腕にかけてびっしょりだった。

「ご、ごめんなさい……!!」

 転んだ子どもが涙目で蓮に謝る。
 蓮はしゃがみ、子どもと目線を合わせた。

「俺は大丈夫だよ!……君こそ大丈夫?怪我とかしてない?」
「……してない」
「そっか。よかった」

 蓮は優しく子どもの頭を撫でた。

「そうだ、これあげるよ!はい、どうぞ」

 そう言って蓮は、屋台の射的で当てた駄菓子を子どもに差し出した。

「え、いいの?」
「射的で取ったやつだけど、よかったら貰ってくれないかな?」
「うん!お兄ちゃんありがとう!」

 涙目だった子どもの表情は、すっかり明るいものになっていた。

 二人でその子どもを見送った後、浩太は蓮の方を向いた。

「蓮、大丈夫か?浴衣めちゃくちゃ濡れてるけど」
「へへ、ぶっちゃけ冷たいです。……けど、大丈夫です!」

 蓮は笑っていたが、肩は見るからに冷えていた。

「すぐに拭かないと……タオル、持ってないよな」

 浩太は思わず、濡れた蓮の肩を自分のハンカチで拭こうとした。だが、蓮はその手を止めた。

「いや、俺大丈夫ですから」
「夜、結構寒いし風邪引いたら困るだろ?……ったく、無防備なんだから」

 そう言って拭く浩太の姿を、蓮は嬉しそうに見ていた。
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