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第三章
19.愛情特性オムライス
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文化祭を目前に控えたある日の放課後──三年生の教室では、ホールスタッフを決めるジャンケン大会が繰り広げられていた。
「じゃーんけーん、ぽん!」
「うわあああ……!」
浩太はそっと拳を見下ろした。見事なまでに“ひとり負け”だった。
「というわけで、浩太はホール確定ね~。頑張ってね、メイドさん!」
「っ、……はぁ?」
クラスの女子がニヤニヤと笑いながら衣装の紙袋を差し出す。中には、ふわふわのレースとリボンの付いた黒いワンピース。そう──メイド服だ。
「……最悪だ……」
浩太は頭を抱えた。
◇
「似合うと思うけどなぁ!」
「細身だし、顔整ってるし、女装したら普通にモテるでしょ」
「ほら、笑ってー、浩太ちゃ~ん♪」
準備の日、浩太が着替えた姿を見たクラスメイトは遠慮なく茶化した言葉を浴びせにかけてくる。
(ほんとに、恥ずかしい……)
浩太は鏡に映る自分の姿から目を逸らした。
◇
その夜、メッセージの通知が鳴る。送り主は、蓮だった。
『文化祭、思っていたよりも回る時間がありそうです。浩太先輩のクラスって、何やるんでしたっけ?』
数秒の間を空けて、浩太は指を動かす。
『キッチン。簡単な料理出す感じ。』
嘘だった。
けれど、仕方なかった。
(見られたくない……こんな姿)
蓮は冗談っぽく返してくる。
『じゃあ、浩太先輩の手作り食べに行かないと!』
『別に、俺だけが作るわけじゃないし。市販の食材も使うし……』
いくら否定しても、蓮は軽く受け流すように、
『楽しみにしてます。絶対遊びに行きますね!』
そう返してきた。
浩太はそれ以上、何も言えなかった。
◇
文化祭当日。
教室は開場前からざわついていた。黒板には「カフェ・ふわふわラビット」と可愛らしい字体で書かれ、ピンクの装飾が施されている。
浩太は、フリル付きのメイド服に黒タイツ、そしてうさ耳付きのウィッグまでかぶせられた完全装備の状態で、どうにか笑顔を浮かべて接客していた。
(あぁ……こんな姿、絶対に見られたくない)
笑いをこらえて撮影しようとする同級生に「撮影は禁止だ!」と必死に訴えながらも、ホールを回っていたそのときだった。
──ざわめきの中に、聞き慣れた声が混じる。
「すみませーん。ここがメイド喫茶で合ってますか?」
(っ、来た……!?)
蓮がやって来た。
浩太の視界の端に、制服姿の彼が現れる。
浩太はとっさにトレーを置き、「トイレ」とだけ告げて教室を出ようとした。
だが、昼時の教室前は混雑しており、通路を塞ぐ来客で出口は詰まっていた。
(やばい……逃げられない……)
すり抜けようとしたそのとき、背後から声がかかる。
「……浩太、先輩?」
「れ、蓮……!?」
振り返ると、驚いたように目を見開いた蓮がいた。
「ちょっ、ちょっと!見るなよ……!」
浩太は顔を逸らして逃げようとしたが、蓮に腕を掴まれた。
「なんだよ……からかうなら、出禁にするからな……!」
その言葉に、蓮は一瞬きょとんとし──すぐに破顔した。
「……めっちゃ可愛いです……!」
「……っ!?」
蓮の視線が、まっすぐに自分を射抜く。
「やば……普通に天使……」
「ふ、普通って何だよ……!」
「浩太先輩が接客してくれるんですか?ぜひお願いしたいです!」
「……はぁ!?」
◇
結局、蓮の押しに負けて、浩太は彼の案内係を任されることになった。
「メイドさん!すごく似合ってますね!」
「……ご注文は?」
「この“愛情特製オムライス”、ひとつ!」
「……売り切れです」
「えぇ~!? そんなぁ!」
「嘘つくなよ、浩太! 在庫あるぞー!」
クラスメイトが背後から笑いながら差し出した皿を持たされ、逃げ場を失った浩太は、仕方なく蓮の前にオムライスを置く。
トッピングのケチャップボトルを握りしめ、心の中で覚悟を決めた。
(……やるしか、ない……)
「……も、萌え……萌え……きゅん……」
浩太は死んだ目をしながら、小さくハートを描いた。
その姿に、蓮は感極まったように両手を打ち鳴らす。
「可愛いです……!浩太先輩、天才!」
「……っ、くそ……こんなの、拷問じゃねーか……」
周囲のクラスメイトが拍手しながら、からかうように声をかけてくる。
「高森~、後輩の前だと全力だな~」
「照れてるのか~? かわい~!」
「だまれぇ……!」
赤くなった顔を手で覆い、浩太は机に突っ伏した。
しかし、蓮の視線は終始まっすぐで、優しくて──からかいなど一切なく、ただただ浩太を「可愛い」と思っていることが、その目からまるわかりだった。
(……こんなにまっすぐ言われると……ごまかせないじゃんか……)
彼の頬が、ほんの少しだけ緩んだことに気づいた者は、誰もいなかった。
そんな時、不意に声が飛んできた。
「あ!“愛情特性オムライス”を注文したお客様には、特別にメイドさんとツーショットの特典付きでーす!」
「はぁ!?」
浩太がキッチンの方へと振り返ると、ニヤニヤとした顔のクラスメイトが手を振っていた。
「え、本当ですか!?ぜひ、お願いします!」
蓮もすっかりノリノリである。
「……まじかよ……」
断れない雰囲気に浩太はすっかり戦意を失い、しぶしぶ蓮との撮影を引き受けた。
「はい、撮るよ~!」
パシャ、という音とともに蓮にぐっと身体を引き寄せられ、今までで一番距離が近づいた。
「浩太先輩、いい笑顔ですね~!」
写真を見ながら本当に嬉しそうに笑っている蓮の顔をみたら、もう……何も言えなかった。
「じゃーんけーん、ぽん!」
「うわあああ……!」
浩太はそっと拳を見下ろした。見事なまでに“ひとり負け”だった。
「というわけで、浩太はホール確定ね~。頑張ってね、メイドさん!」
「っ、……はぁ?」
クラスの女子がニヤニヤと笑いながら衣装の紙袋を差し出す。中には、ふわふわのレースとリボンの付いた黒いワンピース。そう──メイド服だ。
「……最悪だ……」
浩太は頭を抱えた。
◇
「似合うと思うけどなぁ!」
「細身だし、顔整ってるし、女装したら普通にモテるでしょ」
「ほら、笑ってー、浩太ちゃ~ん♪」
準備の日、浩太が着替えた姿を見たクラスメイトは遠慮なく茶化した言葉を浴びせにかけてくる。
(ほんとに、恥ずかしい……)
浩太は鏡に映る自分の姿から目を逸らした。
◇
その夜、メッセージの通知が鳴る。送り主は、蓮だった。
『文化祭、思っていたよりも回る時間がありそうです。浩太先輩のクラスって、何やるんでしたっけ?』
数秒の間を空けて、浩太は指を動かす。
『キッチン。簡単な料理出す感じ。』
嘘だった。
けれど、仕方なかった。
(見られたくない……こんな姿)
蓮は冗談っぽく返してくる。
『じゃあ、浩太先輩の手作り食べに行かないと!』
『別に、俺だけが作るわけじゃないし。市販の食材も使うし……』
いくら否定しても、蓮は軽く受け流すように、
『楽しみにしてます。絶対遊びに行きますね!』
そう返してきた。
浩太はそれ以上、何も言えなかった。
◇
文化祭当日。
教室は開場前からざわついていた。黒板には「カフェ・ふわふわラビット」と可愛らしい字体で書かれ、ピンクの装飾が施されている。
浩太は、フリル付きのメイド服に黒タイツ、そしてうさ耳付きのウィッグまでかぶせられた完全装備の状態で、どうにか笑顔を浮かべて接客していた。
(あぁ……こんな姿、絶対に見られたくない)
笑いをこらえて撮影しようとする同級生に「撮影は禁止だ!」と必死に訴えながらも、ホールを回っていたそのときだった。
──ざわめきの中に、聞き慣れた声が混じる。
「すみませーん。ここがメイド喫茶で合ってますか?」
(っ、来た……!?)
蓮がやって来た。
浩太の視界の端に、制服姿の彼が現れる。
浩太はとっさにトレーを置き、「トイレ」とだけ告げて教室を出ようとした。
だが、昼時の教室前は混雑しており、通路を塞ぐ来客で出口は詰まっていた。
(やばい……逃げられない……)
すり抜けようとしたそのとき、背後から声がかかる。
「……浩太、先輩?」
「れ、蓮……!?」
振り返ると、驚いたように目を見開いた蓮がいた。
「ちょっ、ちょっと!見るなよ……!」
浩太は顔を逸らして逃げようとしたが、蓮に腕を掴まれた。
「なんだよ……からかうなら、出禁にするからな……!」
その言葉に、蓮は一瞬きょとんとし──すぐに破顔した。
「……めっちゃ可愛いです……!」
「……っ!?」
蓮の視線が、まっすぐに自分を射抜く。
「やば……普通に天使……」
「ふ、普通って何だよ……!」
「浩太先輩が接客してくれるんですか?ぜひお願いしたいです!」
「……はぁ!?」
◇
結局、蓮の押しに負けて、浩太は彼の案内係を任されることになった。
「メイドさん!すごく似合ってますね!」
「……ご注文は?」
「この“愛情特製オムライス”、ひとつ!」
「……売り切れです」
「えぇ~!? そんなぁ!」
「嘘つくなよ、浩太! 在庫あるぞー!」
クラスメイトが背後から笑いながら差し出した皿を持たされ、逃げ場を失った浩太は、仕方なく蓮の前にオムライスを置く。
トッピングのケチャップボトルを握りしめ、心の中で覚悟を決めた。
(……やるしか、ない……)
「……も、萌え……萌え……きゅん……」
浩太は死んだ目をしながら、小さくハートを描いた。
その姿に、蓮は感極まったように両手を打ち鳴らす。
「可愛いです……!浩太先輩、天才!」
「……っ、くそ……こんなの、拷問じゃねーか……」
周囲のクラスメイトが拍手しながら、からかうように声をかけてくる。
「高森~、後輩の前だと全力だな~」
「照れてるのか~? かわい~!」
「だまれぇ……!」
赤くなった顔を手で覆い、浩太は机に突っ伏した。
しかし、蓮の視線は終始まっすぐで、優しくて──からかいなど一切なく、ただただ浩太を「可愛い」と思っていることが、その目からまるわかりだった。
(……こんなにまっすぐ言われると……ごまかせないじゃんか……)
彼の頬が、ほんの少しだけ緩んだことに気づいた者は、誰もいなかった。
そんな時、不意に声が飛んできた。
「あ!“愛情特性オムライス”を注文したお客様には、特別にメイドさんとツーショットの特典付きでーす!」
「はぁ!?」
浩太がキッチンの方へと振り返ると、ニヤニヤとした顔のクラスメイトが手を振っていた。
「え、本当ですか!?ぜひ、お願いします!」
蓮もすっかりノリノリである。
「……まじかよ……」
断れない雰囲気に浩太はすっかり戦意を失い、しぶしぶ蓮との撮影を引き受けた。
「はい、撮るよ~!」
パシャ、という音とともに蓮にぐっと身体を引き寄せられ、今までで一番距離が近づいた。
「浩太先輩、いい笑顔ですね~!」
写真を見ながら本当に嬉しそうに笑っている蓮の顔をみたら、もう……何も言えなかった。
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