【完結】君の笑顔を信じたい

加賀ユカリ

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第五章

31.どこが好き

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 まだ少し肌寒さが残るある日。

 ぽかぽかとした陽射しがカーテン越しに差し込む中、蓮の部屋で、二人は布団にくるまりながらのんびりと過ごしていた。
 テレビもつけず、音楽も流さず。ただ、静かに隣にいる。そんな穏やかな時間。

 休日に二人でゆっくりできる時間は、思っていたよりもずっと心地いい。

 ベッドの上で、肩と肩がゆるく触れ合う距離。
 小さな寝息が聞こえてきそうな静けさに包まれながら、ふと浩太の中に言葉が浮かんできた。

「なあ、蓮は俺のどこが好きなの?」

 静かな部屋に、浩太の声が自然と染み込んでいく。
 蓮は何かを考えるそぶりもなく、即答した。

「顔です」
「は?」

 あまりにも即答だったものだから、浩太は思わず体を起こし、まじまじと蓮の顔を見つめた。

「……俺は浩太先輩の顔が好きです」

 蓮の顔は真顔であり、どうやら冗談ではないようだった。

「……それだけ?」
「はい」
「おい。なんだよそれ、性格とか、優しいところとか、そういうのじゃないの?」

 蓮はくすっと笑った。
 そして、布団の中から半身を起こすと、浩太の顔の方へとゆっくり手を伸ばした。

「……な、なに?」
「言葉で説明しても伝わらないので、ちゃんと触れた方が伝わると思いまして」

 そう言って、蓮の指先が浩太の目元にふれた。
 細く、優しく、まるで宝物でも扱うような手つきだった。

「俺のことを一生懸命見てくれる、この目が好きです」

 今度は頬を撫でられる。さらりと撫でるような触れ方だった。

「思わず触れたくなる肌が好きです。気がついたら、手が伸びてるんです」

 鼻先を指先でなぞられたときは、さすがに浩太も反射的に顔を背けた。

「俺の胸に顔をうずめて、こっそり匂いを嗅いでるこの鼻も」
「し、してねぇ!」
「してますよ、気づいてないだけで。寝ぼけてるときに、とかね」

 次に触れられたのは耳。そっと親指で撫でられる。

「すぐ赤くなるこの耳が、可愛いと思ってます。俺のちょっとした言葉にすぐ反応して、そういうとこが浩太先輩らしくて、好きです」

 最後に、そっと指先が優しく浩太の唇にふれる。

「柔らかい唇も。話してるときも、黙ってるときも、キスしてるときも。ずっと、可愛いって思ってます」

 指を外した蓮が、静かに息をついた。

「……だから俺は、浩太先輩の“顔”が好きなんです」

 その瞬間、顔が一気に熱くなるのが分かった。

「……馬鹿じゃねーの、お前」
「そうですかね?」

 照れ隠しのように言ってみたが、蓮は肩をすくめて笑ったまま、まったく揺るがなかった。
 からかっているようで、本気なのがわかるから、余計にどうしていいかわからない。

「……そんなこと言われたら、恥ずかしくて顔合わせらんねぇよ」
「でも浩太先輩、赤くなってても俺の顔見てくれるじゃないですか。だから、やっぱり好きなんですよ」
「……うるせぇ……」

 浩太は布団を引き寄せて、蓮の顔から隠れるように潜り込んだ。
 けれど中途半端に開いた隙間から、蓮の笑った目がちゃんと見えていた。

「浩太先輩」
「……なに」
「俺は浩太先輩の全部が好きです。でも、特に顔は反則です。だから、ちゃんと大事にさせてくださいね」
「……それ、付き合ってる本人に言う台詞かよ……」
「好きだから仕方ないですよ。俺の可愛い浩太先輩」

 布団の中にまで蓮の手が伸びてきて、そっと浩太の手をぎゅっと握る。

 言葉も、触れる手も、全部があたたかく感じた。

 ──こいつはときどきずるいくらい真っ直ぐで、ずるいくらい優しい。でもそんな蓮が、自分も好きだと思う。

「……今度は俺が、蓮のどこが好きか教える番だな」
「お、楽しみにしてます」

 そう言って蓮は浩太の額にキスを落とした。

 春の午後の部屋に、あたたかな静けさが満ちていた。
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