【完結】君の笑顔を信じたい

加賀ユカリ

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第四章

28.告白

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 三月。
 まだ朝の風は冷たいのに、光だけはやたらと眩しかった。

 卒業式の朝。
 高校生活の終わりを告げる日が、ついにやってきた。

 浩太は制服の襟を正しながら、鏡の前でひとつ息をついた。
 三年間を過ごしたこの制服とも、今日でお別れである。

 式が行われる体育館は、いつもより静かで、少しだけ神聖な空気が流れていた。

「卒業生、起立──」

 式は粛々と進み、卒業証書が手渡される。
 名前を呼ばれ、一歩一歩壇上へと進む中で、浩太は自然と後ろの生徒席──蓮がいるであろう場所へ視線を送った。

 目が合ったわけじゃない。
 それでも、彼がそこにいることがわかる。

(ちゃんと、伝えたい)

 それだけをずっと胸に抱えていた。

 ◇

 式が終わると、校舎の空気が一気にやわらぐ。

「卒業おめでとう~!」
「お世話になりました!」

 教室では、写真を撮る声や泣き笑いの声が飛び交っていた。

 スーツ姿の保護者たちも交じって、校舎の中は一瞬だけお祭りのようになる。

「浩太ー!最後に記念写真!」
「三年間ありがとうな!」

 同級生たちとの別れを惜しみながらも、浩太の目は、自然と一つの存在を探していた。

 ──蓮。

 どこかで、彼も今日の式を見ていたはずだ。

 あの子は、きっと……待ってくれている。

 ◇

 放課後、昇降口に行くと、そこに蓮の姿があった。
 制服のまま、少し落ち着かない様子で、窓の外を見つめている。

「……蓮」

 名前を呼ぶと、はっと振り返った彼の目が大きく見開かれる。

「浩太先輩……!」
「待っててくれたのか」
「……はい、会いたかったですから」

 その言葉だけで、浩太の胸が強くなった。


 ふと、脳内には中学時代が思い浮かんだ。

 本気で伝えたつもりだったのに、冗談だと思われた過去。

 ──もう誰かに好きだなんて伝えない

 (そう、思ってたんだけどな……)

 ──……一緒に帰りませんか?
 ── 男とか関係ないと思います。

 思い浮かんだのは、蓮の真剣な顔、周りをも魅力してしまう笑顔。

 “蓮の笑顔を信じてみたい”

 そう思った。


 彼の隣に立ち、言葉を選ぶ。
 言いたいことは山ほどあるけど、今は──この気持ちだけを、まっすぐに伝えたかった。

「俺、今日で卒業するけど……。本当は、もっと前から伝えたかったことがある」
「……はい」

 蓮の目がまっすぐこちらを見ている。

 その視線に背中を押されるように、浩太は深呼吸をした。

「俺、蓮のことが好きだ」

 シンプルな言葉だった。
 けれど、これまで積み重ねてきた感情のすべてが詰まっていた。

 最初はただの後輩。
 けれど、病気のときに手を貸したあの日から、ずっと気になっていて。
 文化祭で笑い合ったことも、リレーで走った姿も、全部胸に焼き付いている。

(だから、もう言いたかった)

「もし、少しでも……俺のこと、考えてくれてたら。これからも、隣にいさせてほしい」

 蓮は、しばらく目を伏せていた。

 けれど、やがてふっと顔を上げ、ぽつりと口を開く。

「……俺も、ずっと浩太先輩のこと、見てました」
「えっ……」

「受験のときだって、応援したい気持ちがいっぱいで……でも邪魔になっちゃいけないって思って……。ほんとはもっと、一緒にいたかったです」

 蓮の声は、少しだけ震えていた。

「だから、今日……浩太先輩が卒業する前に、ちゃんと想いを聞けてよかった」

 その言葉が、浩太の心にじんと染みていく。

「……じゃあ、俺たち……」
「はい」

 蓮は、小さく頷いた。

「これから、ちゃんと一緒に歩いていけたらって……思ってます」

 自然と笑みがこぼれる。
 寒さなんてもう感じない。校舎の外には、春の風が吹いていた。

 それから二人は、昇降口を並んで歩き出した。

「蓮、あとで一緒に写真撮ろうぜ」
「はい!でも……ちゃんとキメてくださいね、浩太先輩」
「お前が隣にいれば、それだけで十分キマるって」

 そんな軽口を交わしながら、二人は未来へ向かって歩いていった。

 卒業は、終わりじゃない。
 新しい始まり。
 春は、まだこれからだ。
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