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第二章
16.日曜日の偶然(蓮視点)
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日曜日の昼下がり。
駅前のショッピングモールには、休日を楽しむ家族連れや若者たちのざわめきが満ちていた。
蓮は、母親に頼まれた調味料や日用品を買いに一人でふらりと買い物に来ていた。
「……おつかい、終わった、けど」
レジ袋を片手に、エスカレーターを下りながら、蓮はふと立ち止まる。
(このまま帰るのもつまんないな……)
目に留まったのは、館内の小さな本屋。
外からでも平積みされた漫画の新刊が見えて、蓮の足は自然とそちらへ向かっていた。
──と、そこで。
「……ん?」
棚の向こうに見覚えのある後ろ姿があった。
黒いキャップに、ラフなTシャツとジーンズ。制服姿では見慣れていたはずのその人の、少しくだけた服装に、思わず二度見してしまう。
「……浩太、先輩?」
声に出すか迷ったその瞬間、相手が振り向いた。
そして、目が合った。
「……蓮?」
思わず手を振ると、浩太は少し驚いた顔で、すぐに微笑んだ。
「奇遇だな。ひとりか?」
「はい。浩太先輩も?」
「俺は妹に頼まれて……“新刊の発売日、忘れんな”って言われてさ」
そう言って、浩太は手にしていた少女漫画を蓮に見せてきた。タイトルを見て、蓮はくすっと笑う。
「それ、妹さんの推し作品ですか?」
「そうそう。主人公が“あざと可愛い男子”らしい。……なんか、お前に似てない?」
「え、俺ですか!?それ、褒めてます?」
「どうだろな。読んだら報告するわ」
冗談交じりの会話に、自然と笑みがこぼれる。
以前なら、この“なにげないやりとり”さえどこか緊張していた気がする。
けれど、今は──気を張らずに、こうして話せている。
「蓮は何買いに来たんだ?」
「日用品とか、ですけど……。あ、でもマンガの新刊も見たかったんです。ちょうど今巻が出てて──」
と、蓮が指差した棚に浩太が目をやる。
「へえ。お前、これ読むんだな。俺も名前くらいは知ってるけど」
「面白いですよ! キャラの心理描写が細かくて……あと主人公の先輩がかっこよくて……」
「また“先輩”推しかよ」
「や、やっぱり頼れる先輩って憧れますから……って、ちが、これはキャラの話です!」
「分かってるって」
くすくす笑いながら、二人は隣同士で漫画を手に取った。
店内には、柔らかなBGMと静かな空気が流れている。
休日の喧騒から少しだけ距離を置いたこの空間は、どこか落ち着く。
(……なんか、こういうの、いいな)
制服じゃない浩太は、少し大人びて見えた。
たぶん、普段よりもゆるくて、けれど確かに“浩太先輩”だった。
──だけど。
それを見ていたのは、自分だけじゃなかった。
「……え、ねえ、あれ……瀬川くんじゃない?」
「ほんとだ! あの人、浩太先輩じゃない?」
声をひそめながら、背後から女の子たちの声が聞こえてきた。
振り向かなくても、クラスの女子たちの声だと分かった。
(やばっ……!)
思わず体が固まる。
──けど。
「……よっ」
浩太は気づいていたのか、あっさり手を挙げた。
「よ、先輩……! や、あの、たまたま会って……!」
蓮は慌てて言い訳しようとする。
けれど、浩太はまるでそれを気にするそぶりもなく、普通のテンションで続けた。
「こいつ、今日もテンション高ぇよな。さっきから漫画の話止まんないんだよ」
「浩太先輩っ!?もうっ……!」
「ほんと仲良いね、二人」
「付き合ってるの?」
「違いますっ!」
速攻で否定したのは蓮だった。
すると女子たちはクスクス笑いながら、「そっかそっか」と去っていく。
蓮は顔を赤くしながら、浩太を睨んだ。
「からかわないでください……!」
「別にからかってねーよ。……お前、ああいう時すぐ焦るのな」
「そりゃ焦りますよ……」
「でも堂々としてればいいんだって。俺は別に、お前とどこで会ってても平気だし」
蓮は言葉を失った。
(……そうやって言ってくれるから、ずるいんだよ、先輩は)
ドキドキするのが、嫌じゃなかった。
嫌じゃないけど、やっぱり照れくさかった。
「じゃあ、その漫画、買って帰るか」
浩太の何気ない一言に、蓮は小さく頷いた。
「……はい」
二人はレジに並び、レジ袋をぶら下げながらモールを出た。
夕方の光に包まれた駅前通りを、並んで歩く。
さりげなく歩幅を合わせてくれる先輩の横顔を、蓮はちらりと見上げた。
(制服じゃなくても、やっぱり……この人は、俺の“かっこいい先輩”だ)
今はまだ、胸に秘めたままでいい。
でもその距離は、確かに少しずつ、近づいていた。
──休日の、やさしい風が吹いた。
駅前のショッピングモールには、休日を楽しむ家族連れや若者たちのざわめきが満ちていた。
蓮は、母親に頼まれた調味料や日用品を買いに一人でふらりと買い物に来ていた。
「……おつかい、終わった、けど」
レジ袋を片手に、エスカレーターを下りながら、蓮はふと立ち止まる。
(このまま帰るのもつまんないな……)
目に留まったのは、館内の小さな本屋。
外からでも平積みされた漫画の新刊が見えて、蓮の足は自然とそちらへ向かっていた。
──と、そこで。
「……ん?」
棚の向こうに見覚えのある後ろ姿があった。
黒いキャップに、ラフなTシャツとジーンズ。制服姿では見慣れていたはずのその人の、少しくだけた服装に、思わず二度見してしまう。
「……浩太、先輩?」
声に出すか迷ったその瞬間、相手が振り向いた。
そして、目が合った。
「……蓮?」
思わず手を振ると、浩太は少し驚いた顔で、すぐに微笑んだ。
「奇遇だな。ひとりか?」
「はい。浩太先輩も?」
「俺は妹に頼まれて……“新刊の発売日、忘れんな”って言われてさ」
そう言って、浩太は手にしていた少女漫画を蓮に見せてきた。タイトルを見て、蓮はくすっと笑う。
「それ、妹さんの推し作品ですか?」
「そうそう。主人公が“あざと可愛い男子”らしい。……なんか、お前に似てない?」
「え、俺ですか!?それ、褒めてます?」
「どうだろな。読んだら報告するわ」
冗談交じりの会話に、自然と笑みがこぼれる。
以前なら、この“なにげないやりとり”さえどこか緊張していた気がする。
けれど、今は──気を張らずに、こうして話せている。
「蓮は何買いに来たんだ?」
「日用品とか、ですけど……。あ、でもマンガの新刊も見たかったんです。ちょうど今巻が出てて──」
と、蓮が指差した棚に浩太が目をやる。
「へえ。お前、これ読むんだな。俺も名前くらいは知ってるけど」
「面白いですよ! キャラの心理描写が細かくて……あと主人公の先輩がかっこよくて……」
「また“先輩”推しかよ」
「や、やっぱり頼れる先輩って憧れますから……って、ちが、これはキャラの話です!」
「分かってるって」
くすくす笑いながら、二人は隣同士で漫画を手に取った。
店内には、柔らかなBGMと静かな空気が流れている。
休日の喧騒から少しだけ距離を置いたこの空間は、どこか落ち着く。
(……なんか、こういうの、いいな)
制服じゃない浩太は、少し大人びて見えた。
たぶん、普段よりもゆるくて、けれど確かに“浩太先輩”だった。
──だけど。
それを見ていたのは、自分だけじゃなかった。
「……え、ねえ、あれ……瀬川くんじゃない?」
「ほんとだ! あの人、浩太先輩じゃない?」
声をひそめながら、背後から女の子たちの声が聞こえてきた。
振り向かなくても、クラスの女子たちの声だと分かった。
(やばっ……!)
思わず体が固まる。
──けど。
「……よっ」
浩太は気づいていたのか、あっさり手を挙げた。
「よ、先輩……! や、あの、たまたま会って……!」
蓮は慌てて言い訳しようとする。
けれど、浩太はまるでそれを気にするそぶりもなく、普通のテンションで続けた。
「こいつ、今日もテンション高ぇよな。さっきから漫画の話止まんないんだよ」
「浩太先輩っ!?もうっ……!」
「ほんと仲良いね、二人」
「付き合ってるの?」
「違いますっ!」
速攻で否定したのは蓮だった。
すると女子たちはクスクス笑いながら、「そっかそっか」と去っていく。
蓮は顔を赤くしながら、浩太を睨んだ。
「からかわないでください……!」
「別にからかってねーよ。……お前、ああいう時すぐ焦るのな」
「そりゃ焦りますよ……」
「でも堂々としてればいいんだって。俺は別に、お前とどこで会ってても平気だし」
蓮は言葉を失った。
(……そうやって言ってくれるから、ずるいんだよ、先輩は)
ドキドキするのが、嫌じゃなかった。
嫌じゃないけど、やっぱり照れくさかった。
「じゃあ、その漫画、買って帰るか」
浩太の何気ない一言に、蓮は小さく頷いた。
「……はい」
二人はレジに並び、レジ袋をぶら下げながらモールを出た。
夕方の光に包まれた駅前通りを、並んで歩く。
さりげなく歩幅を合わせてくれる先輩の横顔を、蓮はちらりと見上げた。
(制服じゃなくても、やっぱり……この人は、俺の“かっこいい先輩”だ)
今はまだ、胸に秘めたままでいい。
でもその距離は、確かに少しずつ、近づいていた。
──休日の、やさしい風が吹いた。
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