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第三章
18.劇練習
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文化祭まで残り一週間。
三年生の教室が喧騒と笑い声に包まれる中、蓮のクラスもまた、準備に熱を帯びていた。
彼らが選んだ出し物は“オリジナル童話劇”。
──勇気と恋の物語。
──呪われた王国を救う、ひとりの王子の話。
その主役の王子に選ばれたのは──蓮だった。
「瀬川くんって、立ち姿が綺麗だし、声も通るし!」
「ちょっと中性的な顔立ちが、物語の王子っぽいよね!」
蓮本人が何かアピールしたわけでもないのに、いつの間にか票が集中していた。
「俺なんかが主役でいいんでしょうか……」
そう戸惑いながらも、断りきれず引き受けることになり、台本を手にした彼は日々の練習に追われていた。
◇◇
その数日後──放課後の図書室裏のベンチ。
「はい、もう一回な。“ずっとそばにいてほしい”だろ」
「あ、はい……“そばにいてほしい”」
「……気持ち、入ってねーぞ。感情が抜けてる。王子ってのはな、もっと情熱的なんだよ」
「情熱的、ですか……?」
ベンチに座る蓮の前で腕を組んでいるのは、浩太だった。
蓮が劇の練習をしていると聞いて、軽い気持ちで付き合うことにしたのがきっかけだったが──
(……思ったより本気でやってんじゃん)
当初はただの“文化祭の遊び”だと思っていた。しかし、台本を読み込む蓮の姿勢や、毎回同じセリフに真剣に向き合う様子を見るうちに、浩太の中にもいつしかスイッチが入っていた。
「感情、ですかぁ……」
蓮は台本を見下ろし、少しだけ目を細めた。
「王子って、浩太先輩みたいですよね」
「は?どこが」
「一見ぶっきらぼうだけど、大事なとこでちゃんと守ってくれるところとか……」
「……お前、それ、からかってんのか?」
「本気ですよ?」
浩太は咳払いして誤魔化した。
「ま、いいからもう一回。今度は俺が相手役やるから、しっかり言えよ」
「……わかりました」
蓮は小さく深呼吸し、真剣な眼差しで浩太を見つめた。
「“ずっとそばにいてほしい”」
「──……」
その一言に、不意に胸がざわついたのは、彼が役に入りすぎたせいだろうか。
浩太は目をそらす。
「……まあ、今のは悪くなかった」
「よかったです……」
蓮はほっとしたように笑った。その頬がほんのり赤らんでいるのを、浩太は気づかないふりをした。
◇◇
文化祭前日。
蓮のクラスは教室を簡易的に劇場仕様に飾り付け、衣装や小道具のチェックに追われていた。
蓮もその一角で、白いシャツにベスト、王子様風の肩掛けマントを羽織っている。
「うわ、瀬川くんガチで王子じゃん!」
「え、照明当てたらほんと映えそう……!」
「なんか、もうステージ立つだけで観客騒ぎそう」
褒められる度に、蓮は照れたように笑いながらうつむいた。
そんな中──
「瀬川~!セリフ合わせしてもらっていいか?」
「は、はい!」
蓮は立ち上がると、教室の片隅で女子の“ヒロイン役”と向き合った。
けれど、どこかぎこちない。
彼女の目を見て言葉をかけるものの、その声音にどこか硬さが残っている。
「うーん……なんか、瀬川くん、台本は合ってるけど、気持ちが飛んでるというか……」
(やっぱり、俺は……)
「もう一回いいかな?」
蓮は頭の中である人物をそっと思い浮かべた。
彼女の手を取り、小さく息をのむ。
「“ずっとそばにいてほしい──”」
今度のセリフには、確かな熱が宿っていた。
演技というより、もはや“本心”のようで。
周囲のクラスメイトたちも、思わず静まり返った。
「……瀬川くん、いまの、すごくよかったよ」
「……ありがとう」
その後、練習は滞りなく終了し、蓮の演技にも自信が宿り始めていた。
三年生の教室が喧騒と笑い声に包まれる中、蓮のクラスもまた、準備に熱を帯びていた。
彼らが選んだ出し物は“オリジナル童話劇”。
──勇気と恋の物語。
──呪われた王国を救う、ひとりの王子の話。
その主役の王子に選ばれたのは──蓮だった。
「瀬川くんって、立ち姿が綺麗だし、声も通るし!」
「ちょっと中性的な顔立ちが、物語の王子っぽいよね!」
蓮本人が何かアピールしたわけでもないのに、いつの間にか票が集中していた。
「俺なんかが主役でいいんでしょうか……」
そう戸惑いながらも、断りきれず引き受けることになり、台本を手にした彼は日々の練習に追われていた。
◇◇
その数日後──放課後の図書室裏のベンチ。
「はい、もう一回な。“ずっとそばにいてほしい”だろ」
「あ、はい……“そばにいてほしい”」
「……気持ち、入ってねーぞ。感情が抜けてる。王子ってのはな、もっと情熱的なんだよ」
「情熱的、ですか……?」
ベンチに座る蓮の前で腕を組んでいるのは、浩太だった。
蓮が劇の練習をしていると聞いて、軽い気持ちで付き合うことにしたのがきっかけだったが──
(……思ったより本気でやってんじゃん)
当初はただの“文化祭の遊び”だと思っていた。しかし、台本を読み込む蓮の姿勢や、毎回同じセリフに真剣に向き合う様子を見るうちに、浩太の中にもいつしかスイッチが入っていた。
「感情、ですかぁ……」
蓮は台本を見下ろし、少しだけ目を細めた。
「王子って、浩太先輩みたいですよね」
「は?どこが」
「一見ぶっきらぼうだけど、大事なとこでちゃんと守ってくれるところとか……」
「……お前、それ、からかってんのか?」
「本気ですよ?」
浩太は咳払いして誤魔化した。
「ま、いいからもう一回。今度は俺が相手役やるから、しっかり言えよ」
「……わかりました」
蓮は小さく深呼吸し、真剣な眼差しで浩太を見つめた。
「“ずっとそばにいてほしい”」
「──……」
その一言に、不意に胸がざわついたのは、彼が役に入りすぎたせいだろうか。
浩太は目をそらす。
「……まあ、今のは悪くなかった」
「よかったです……」
蓮はほっとしたように笑った。その頬がほんのり赤らんでいるのを、浩太は気づかないふりをした。
◇◇
文化祭前日。
蓮のクラスは教室を簡易的に劇場仕様に飾り付け、衣装や小道具のチェックに追われていた。
蓮もその一角で、白いシャツにベスト、王子様風の肩掛けマントを羽織っている。
「うわ、瀬川くんガチで王子じゃん!」
「え、照明当てたらほんと映えそう……!」
「なんか、もうステージ立つだけで観客騒ぎそう」
褒められる度に、蓮は照れたように笑いながらうつむいた。
そんな中──
「瀬川~!セリフ合わせしてもらっていいか?」
「は、はい!」
蓮は立ち上がると、教室の片隅で女子の“ヒロイン役”と向き合った。
けれど、どこかぎこちない。
彼女の目を見て言葉をかけるものの、その声音にどこか硬さが残っている。
「うーん……なんか、瀬川くん、台本は合ってるけど、気持ちが飛んでるというか……」
(やっぱり、俺は……)
「もう一回いいかな?」
蓮は頭の中である人物をそっと思い浮かべた。
彼女の手を取り、小さく息をのむ。
「“ずっとそばにいてほしい──”」
今度のセリフには、確かな熱が宿っていた。
演技というより、もはや“本心”のようで。
周囲のクラスメイトたちも、思わず静まり返った。
「……瀬川くん、いまの、すごくよかったよ」
「……ありがとう」
その後、練習は滞りなく終了し、蓮の演技にも自信が宿り始めていた。
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