33 / 37
第五章
33.禁断の引き出し
しおりを挟む
ヒートから完全復帰して数日後。
瑞樹は慧の部屋でのんびりくつろいでいた。
授業もレポートも終わり、午後の光がカーテン越しに差し込む静かな午後。
慧はキッチンでコーヒーを淹れており、部屋には穏やかな音楽が流れている。
完璧な平穏──だったはずなのに。
「……ん?」
何気なく視線を動かした先、慧のデスクの引き出し。
そこだけ妙に“空気が濃い”。
整頓された部屋の中で、唯一触れてはいけないオーラを放っていた。
(……これ、気になる。めちゃくちゃ気になる。)
瑞樹は数秒の葛藤の末、理性よりも好奇心を選んだ。
「ん……? これなに?」
カチャ、と引き出しが開いた瞬間──
「だめぇ!!!」
慧が全力ダッシュで飛び込んできたが、時すでに遅し。
瑞樹の目に、並々ならぬ“愛の記録群”が飛び込んでくる。
引き出しの中には──
・USBメモリ(mizuki_voice_01~07)
・写真(慧の胸にしがみついて眠る瑞樹)
・音声CD『mizuki whisper night』
一瞬で静寂が広がった。
瑞樹、硬直。慧も硬直。
そして──
「……お前……っ!」
「……ち、違うんだ瑞樹……その、これは科学的データであって……」
「科学!? どの辺が科学的データなんだよ!」
「音声フェロモン記録的な……?」
「そのタイトルのどこに“実験”の気配があるんだ!」
慧は苦笑しながら、背中を丸めた。
「……でも、可愛すぎて、聞き返したくなっちゃって……」
「“whisper night”ってなに!? 誰に渡すつもりだった!」
「いや違う違う違う! 完っ全に自分用! 流出とか絶対ありえないから!」
瑞樹の頬がみるみるうちに赤く染まっていく。
怒鳴りたいのに、声が出ない。羞恥心が喉に詰まる。
「……俺、全部覚えてるのに……慧のこと呼びながら泣いたり、パーカーにくるまって『けいのにおいがしないとやだ……』とか言ってたの……」
「……言ってたね。可愛かった」
「ぐっ……っ! ほんとにっ……あれ、黒歴史通り越して放送事故だから!!!」
慧は笑うのをこらえながら、目を細めた。
そして真面目な声で言う。
「でもさ、僕にとっては全部大事だったよ。瑞樹が僕にしか見せない顔だったから。……番になれたのが、ほんとに嬉しかったんだ」
一瞬、瑞樹の心が揺れた。
怒りと恥ずかしさの中に、あたたかい何かが混じる。
「……わかってるよ。慧が優しいのも、ちゃんと大事にしてくれてるのも。……っ、でも!」
「でも?」
「次のヒートは、録音はぜったい禁止!!!」
慧はほんの数秒沈黙した。
その表情が「やれやれ」と言わんばかりに緩む。
「録らないよ。……でも、こっそり動画は撮るかもしれない」
「慧っ!!」
瑞樹の怒声が響く中、慧はにやにやしながら引き出しをそっと閉めた。鍵をかける音がして、静寂が戻る。
「……慧」
「なに?」
「そのフォルダ、ほんとに消せよ」
「……」
慧は笑って、瑞樹の頭を撫でた。
「大丈夫。外に出す気なんてない。僕の一番の宝物だから」
瑞樹は真っ赤な顔で、そっぽを向いた。
慧の笑みが、柔らかく溶ける。
「じゃあ、代わりにこれ渡すね」
慧は机の下から、ひとつの書類を差し出した。
『録音禁止協定書(ただしハグ・なでなで記録は例外)』と書かれていた。
「例外多すぎだろ!」
瑞樹の大声が、今日も慧の部屋に響いた。
─────
慧の趣味ファイル(瑞樹非公認)
フォルダ名:mizuki_love_data
・mizuki_log_08:「けい……ぎゅーして……」の甘え声
・mizuki_sleepy_06:寝起き5秒後、とろんとした瞳
・mizuki_sulked_02:「慧ばっか録ってずるい……」の拗ね声
・mizuki_ilst_01:足にしがみつく瑞樹
『このフォルダは瑞樹に見つかってはいけない』
※万が一発覚した場合、土下座+ケーキで許してもらうこと
瑞樹は慧の部屋でのんびりくつろいでいた。
授業もレポートも終わり、午後の光がカーテン越しに差し込む静かな午後。
慧はキッチンでコーヒーを淹れており、部屋には穏やかな音楽が流れている。
完璧な平穏──だったはずなのに。
「……ん?」
何気なく視線を動かした先、慧のデスクの引き出し。
そこだけ妙に“空気が濃い”。
整頓された部屋の中で、唯一触れてはいけないオーラを放っていた。
(……これ、気になる。めちゃくちゃ気になる。)
瑞樹は数秒の葛藤の末、理性よりも好奇心を選んだ。
「ん……? これなに?」
カチャ、と引き出しが開いた瞬間──
「だめぇ!!!」
慧が全力ダッシュで飛び込んできたが、時すでに遅し。
瑞樹の目に、並々ならぬ“愛の記録群”が飛び込んでくる。
引き出しの中には──
・USBメモリ(mizuki_voice_01~07)
・写真(慧の胸にしがみついて眠る瑞樹)
・音声CD『mizuki whisper night』
一瞬で静寂が広がった。
瑞樹、硬直。慧も硬直。
そして──
「……お前……っ!」
「……ち、違うんだ瑞樹……その、これは科学的データであって……」
「科学!? どの辺が科学的データなんだよ!」
「音声フェロモン記録的な……?」
「そのタイトルのどこに“実験”の気配があるんだ!」
慧は苦笑しながら、背中を丸めた。
「……でも、可愛すぎて、聞き返したくなっちゃって……」
「“whisper night”ってなに!? 誰に渡すつもりだった!」
「いや違う違う違う! 完っ全に自分用! 流出とか絶対ありえないから!」
瑞樹の頬がみるみるうちに赤く染まっていく。
怒鳴りたいのに、声が出ない。羞恥心が喉に詰まる。
「……俺、全部覚えてるのに……慧のこと呼びながら泣いたり、パーカーにくるまって『けいのにおいがしないとやだ……』とか言ってたの……」
「……言ってたね。可愛かった」
「ぐっ……っ! ほんとにっ……あれ、黒歴史通り越して放送事故だから!!!」
慧は笑うのをこらえながら、目を細めた。
そして真面目な声で言う。
「でもさ、僕にとっては全部大事だったよ。瑞樹が僕にしか見せない顔だったから。……番になれたのが、ほんとに嬉しかったんだ」
一瞬、瑞樹の心が揺れた。
怒りと恥ずかしさの中に、あたたかい何かが混じる。
「……わかってるよ。慧が優しいのも、ちゃんと大事にしてくれてるのも。……っ、でも!」
「でも?」
「次のヒートは、録音はぜったい禁止!!!」
慧はほんの数秒沈黙した。
その表情が「やれやれ」と言わんばかりに緩む。
「録らないよ。……でも、こっそり動画は撮るかもしれない」
「慧っ!!」
瑞樹の怒声が響く中、慧はにやにやしながら引き出しをそっと閉めた。鍵をかける音がして、静寂が戻る。
「……慧」
「なに?」
「そのフォルダ、ほんとに消せよ」
「……」
慧は笑って、瑞樹の頭を撫でた。
「大丈夫。外に出す気なんてない。僕の一番の宝物だから」
瑞樹は真っ赤な顔で、そっぽを向いた。
慧の笑みが、柔らかく溶ける。
「じゃあ、代わりにこれ渡すね」
慧は机の下から、ひとつの書類を差し出した。
『録音禁止協定書(ただしハグ・なでなで記録は例外)』と書かれていた。
「例外多すぎだろ!」
瑞樹の大声が、今日も慧の部屋に響いた。
─────
慧の趣味ファイル(瑞樹非公認)
フォルダ名:mizuki_love_data
・mizuki_log_08:「けい……ぎゅーして……」の甘え声
・mizuki_sleepy_06:寝起き5秒後、とろんとした瞳
・mizuki_sulked_02:「慧ばっか録ってずるい……」の拗ね声
・mizuki_ilst_01:足にしがみつく瑞樹
『このフォルダは瑞樹に見つかってはいけない』
※万が一発覚した場合、土下座+ケーキで許してもらうこと
72
あなたにおすすめの小説
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
2026/01/23 19:00 アルファポリス版限定SS公開予定
累計で6300♡いいねと累計ポイント285000突破の御礼SSになります
氷の支配者と偽りのベータ。過労で倒れたら冷徹上司(銀狼)に拾われ、極上の溺愛生活が始まりました。
水凪しおん
BL
※この作品には、性的描写の表現が含まれています。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。
オメガであることを隠し、メガバンクで身を粉にして働く、水瀬湊。
過労と理不尽な扱いで、心身ともに限界を迎えた夜、彼を救ったのは、冷徹で知られる超エリートα、橘蓮だった。
「君はもう、頑張らなくていい」
――それは、運命の番との出会い。
圧倒的な庇護と、独占欲に戸惑いながらも、湊の凍てついた心は、次第に溶かされていく。
理不尽な会社への華麗なる逆転劇と、極上に甘いオメガバース・オフィスラブ!
Ωの愛なんて幻だ
相音仔
BL
男性オメガの地位が最底辺の世界から、Ωが大事に愛しまれている世界へと迷い込んでしまった青年。
愛されているのは分かるのに、育った世界の常識のせいで、なかなか素直になれない日々。
このひとの愛はホンモノなのだろうか?自分はいったいどうすればいいのだろう。
「Ωの愛なんて幻だ」そう思っていた青年が答えを見つけるまでの物語。
※この小説はムーンライトノベルズでも投稿しています。向こうでは完結済み。
投稿は基本毎日22時。(休日のみ12時30と22時の2回)
・固定CP α(貴族・穏やか・敬語・年上)×Ω(幸薄・無気力・流されやすい・年下)
・ちょっと不思議な設定がある程度でファンタジー(魔法)割合は低め。
・オメガバースで本番ありなので、18歳未満の方はNG。そこそこの描写がある回はタイトルまえに※入れてあります。
のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした
こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。
自立したい僕を社長が甘やかしてきます
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます!】
両親を亡くし、定時制高校に通いながら自立を目指す葵と、葵を可愛がりたい智秋のお話。
今度こそ溺愛を書きたい…!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる