【完結】変態αのフェロモン観測記録

加賀ユカリ

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第五章

33.禁断の引き出し

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 ヒートから完全復帰して数日後。

 瑞樹は慧の部屋でのんびりくつろいでいた。
 授業もレポートも終わり、午後の光がカーテン越しに差し込む静かな午後。
 慧はキッチンでコーヒーを淹れており、部屋には穏やかな音楽が流れている。

 完璧な平穏──だったはずなのに。

「……ん?」

 何気なく視線を動かした先、慧のデスクの引き出し。
 そこだけ妙に“空気が濃い”。
 整頓された部屋の中で、唯一触れてはいけないオーラを放っていた。

(……これ、気になる。めちゃくちゃ気になる。)

 瑞樹は数秒の葛藤の末、理性よりも好奇心を選んだ。

「ん……? これなに?」

 カチャ、と引き出しが開いた瞬間──

「だめぇ!!!」

 慧が全力ダッシュで飛び込んできたが、時すでに遅し。
 瑞樹の目に、並々ならぬ“愛の記録群”が飛び込んでくる。

 引き出しの中には──

・USBメモリ(mizuki_voice_01~07)
・写真(慧の胸にしがみついて眠る瑞樹)
・音声CD『mizuki whisper night』


 一瞬で静寂が広がった。

 瑞樹、硬直。慧も硬直。

 そして──

「……お前……っ!」
「……ち、違うんだ瑞樹……その、これは科学的データであって……」
「科学!?  どの辺が科学的データなんだよ!」
「音声フェロモン記録的な……?」
「そのタイトルのどこに“実験”の気配があるんだ!」

 慧は苦笑しながら、背中を丸めた。

「……でも、可愛すぎて、聞き返したくなっちゃって……」
「“whisper night”ってなに!? 誰に渡すつもりだった!」
「いや違う違う違う! 完っ全に自分用! 流出とか絶対ありえないから!」

 瑞樹の頬がみるみるうちに赤く染まっていく。
 怒鳴りたいのに、声が出ない。羞恥心が喉に詰まる。

「……俺、全部覚えてるのに……慧のこと呼びながら泣いたり、パーカーにくるまって『けいのにおいがしないとやだ……』とか言ってたの……」
「……言ってたね。可愛かった」
「ぐっ……っ! ほんとにっ……あれ、黒歴史通り越して放送事故だから!!!」

 慧は笑うのをこらえながら、目を細めた。
 そして真面目な声で言う。

「でもさ、僕にとっては全部大事だったよ。瑞樹が僕にしか見せない顔だったから。……番になれたのが、ほんとに嬉しかったんだ」

 一瞬、瑞樹の心が揺れた。
 怒りと恥ずかしさの中に、あたたかい何かが混じる。

「……わかってるよ。慧が優しいのも、ちゃんと大事にしてくれてるのも。……っ、でも!」
「でも?」
「次のヒートは、録音はぜったい禁止!!!」

 慧はほんの数秒沈黙した。
 その表情が「やれやれ」と言わんばかりに緩む。

「録らないよ。……でも、こっそり動画は撮るかもしれない」
「慧っ!!」

 瑞樹の怒声が響く中、慧はにやにやしながら引き出しをそっと閉めた。鍵をかける音がして、静寂が戻る。

「……慧」
「なに?」
「そのフォルダ、ほんとに消せよ」
「……」

 慧は笑って、瑞樹の頭を撫でた。

「大丈夫。外に出す気なんてない。僕の一番の宝物だから」

 瑞樹は真っ赤な顔で、そっぽを向いた。
 慧の笑みが、柔らかく溶ける。

「じゃあ、代わりにこれ渡すね」

 慧は机の下から、ひとつの書類を差し出した。

『録音禁止協定書(ただしハグ・なでなで記録は例外)』と書かれていた。


「例外多すぎだろ!」

 瑞樹の大声が、今日も慧の部屋に響いた。




 ─────

 慧の趣味ファイル(瑞樹非公認)

 フォルダ名:mizuki_love_data

・mizuki_log_08:「けい……ぎゅーして……」の甘え声
・mizuki_sleepy_06:寝起き5秒後、とろんとした瞳
・mizuki_sulked_02:「慧ばっか録ってずるい……」の拗ね声
・mizuki_ilst_01:足にしがみつく瑞樹


『このフォルダは瑞樹に見つかってはいけない』

 ※万が一発覚した場合、土下座+ケーキで許してもらうこと
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