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第一章
2.紳士的ストーカー
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「なんで、お前がここにいるんだ!?」
「え? 僕もここの大学生だからだよ~!」
目の前の青年は相変わらず眩しい笑みを浮かべていた。
「でも、お前みたいな変な男、学内で一度も見たことないぞ」
「そりゃ、違う学部だからね!」
「……じゃあ、なんでこの教室にいるんだよ」
「今までは違う曜日で受けてたんだ。今日は特別に振り替えにしてもらったんだよ!」
青年は瑞樹に向かって、キラキラとした笑顔でピースをしてみせる。
確かにこの授業は全学部共通であり、曜日ごとに複数の枠がある。
「これからは天橋瑞樹くんと同じ曜日で受けるね!」
「……っていうか、なんで俺の名前知ってるんだよ」
「ちょいちょいと調べたからね!」
「……なんだそれ」
「時間割もバッチリだよ!」
「ただのストーカーじゃねーか!」
(聞くんじゃなかった……)
「僕は天橋瑞樹くんの運命の番であり──“紳士的ストーカー”なんだ」
(ストーカーに“紳士的”とかないだろ)
「そのフルネームで呼ぶのやめろ。いちいち気持ち悪い」
「えっ!? 名前で呼んでいいの!?」
青年は顔を赤らめ、そわそわと身をよじる。
瑞樹はすぐさま、自分の発言を後悔した。
「えっと……どうしよ。みーくん? それとも、みぃみぃ?」
「……気持ちわる……」
この青年にその名前で呼ばれるのは、どこか屈辱的だった。
「じゃあ……瑞樹くん、かな」
「お前、距離感バグってんのか!?」
「え~、じゃあ“みぃみぃ”でもいい?」
「くっ……」
「よろしくね、瑞樹くん!!」
差し出された手を振り払い、瑞樹は自分の席に逃げ込んだ。
◇
授業が始まっても、瑞樹の心は落ち着かなかった。
(運命の番……?)
そんなことを言われたこともなかった。
いや、言われるような存在じゃないと思っていた。
“欠陥Ω”──それは瑞樹について回るレッテルである。
ヒートは来ないし、フェロモンもほとんどない。医師の診断も『個人差』という曖昧なものだった。
(普通のΩみたいに、誰かを強く惹きつけることなんて俺には……)
だが、あの青年は瑞樹を真っ直ぐ見つめながら言うのだ。『君は僕の運命だ』と。
冗談を言っているようには見えなかった。
──あの手が自分に触れた瞬間、自分の中で確かに“何か”が反応した気がした。
(あれは──)
偶然だと自分に言い聞かせる。
「はぁ……」
深いため息を漏らしながら、瑞樹はノートにペンを走らせた。
(中途半端なんだよ、俺)
Ωらしくもない、βにもなれない。
ヒートも来たことのない自分が、誰かに選ばれるなんて夢にも思わないほうがいい。
(でも……)
もし、あの言葉が本当だったら。自分にも誰かに選ばれる価値があるのなら。
だが、期待して否定されるのは怖い。
『番だと思ったけど違った』なんて言われたら立ち直れない気がする。
だからこそ、受け入れたくない。自分の中にある『誰かに認められたい』という醜い欲望を見透かされたくない。
「はぁ……」
またひとつ、重いため息が落ちた。
「あっ、瑞樹くん! 今、フェロモン揺れたよ! 集中してないでしょ、昨日ちゃんと寝られた?」
「……うるさい」
気づけば青年は瑞樹の背後に座り、授業をそっちのけでフェロモン実況をしていた。
「眠たそうなフェロモンだね。後で僕が癒してあげる!」
「適当なこと言ってんじゃねぇよ。お前に分かるわけ──」
「分かるよ! すっごくいい匂いで、僕は幸せだよ~!!」
「おい、そこ! 静かに!!」
教員の怒声が飛ぶと、さすがの青年も口をつぐんだ。
◇
「──それでは、今日の授業はここまでです」
その声と同時に瑞樹は席を立ち、廊下へと飛び出した。
(あいつ、いないよな……?)
何度も後ろを振り返りながら足早に歩く。
人混みをかき分け、廊下の角を曲がった瞬間──
「げっ!!」
「ちょっと、瑞樹く~ん! 足速すぎるよ!!」
そこには、当然のように青年がいた。
「追ってくるな! 変態!」
「はい、今日もフェロモン測定器持って来たよ」
差し出されたのは腕時計型の測定器。
青年は強引に瑞樹の腕に取り付けようとする。
「待て待て! 俺は協力するなんて一言も──」
「昨日のは旧型で、これは新型なんだ。まだ試作段階だけど──」
その指先が瑞樹の肌に触れた瞬間、彼の表情が変わった。
「……今、すごくいい匂いがした」
「は?」
「ほんの一瞬。だけど僕には分かる。きっと僕だけに分かる匂いだ」
青年はじっと瑞樹を見つめた。
「瑞樹くん。やっぱり君は僕の運命の番だ……」
その言葉に心臓が跳ねた。
「や、やめろよ。そういう冗談……」
「冗談なんかじゃない。これは僕の直感と本能だ」
彼の言葉が瑞樹の胸に真っすぐ突き刺さる。
(俺はずっと、Ωとして誰かに選ばれたかった……)
「う、うるせえよ……変態」
その言葉を絞り出すのが精いっぱいだった。
だが、青年は満面の笑みを浮かべ、瑞樹の手首に測定器を装着する。
「フェロモン値、安定しているね。素直じゃないところも可愛い。瑞樹くんのフェロモン、毎日チェックするから」
「え? 僕もここの大学生だからだよ~!」
目の前の青年は相変わらず眩しい笑みを浮かべていた。
「でも、お前みたいな変な男、学内で一度も見たことないぞ」
「そりゃ、違う学部だからね!」
「……じゃあ、なんでこの教室にいるんだよ」
「今までは違う曜日で受けてたんだ。今日は特別に振り替えにしてもらったんだよ!」
青年は瑞樹に向かって、キラキラとした笑顔でピースをしてみせる。
確かにこの授業は全学部共通であり、曜日ごとに複数の枠がある。
「これからは天橋瑞樹くんと同じ曜日で受けるね!」
「……っていうか、なんで俺の名前知ってるんだよ」
「ちょいちょいと調べたからね!」
「……なんだそれ」
「時間割もバッチリだよ!」
「ただのストーカーじゃねーか!」
(聞くんじゃなかった……)
「僕は天橋瑞樹くんの運命の番であり──“紳士的ストーカー”なんだ」
(ストーカーに“紳士的”とかないだろ)
「そのフルネームで呼ぶのやめろ。いちいち気持ち悪い」
「えっ!? 名前で呼んでいいの!?」
青年は顔を赤らめ、そわそわと身をよじる。
瑞樹はすぐさま、自分の発言を後悔した。
「えっと……どうしよ。みーくん? それとも、みぃみぃ?」
「……気持ちわる……」
この青年にその名前で呼ばれるのは、どこか屈辱的だった。
「じゃあ……瑞樹くん、かな」
「お前、距離感バグってんのか!?」
「え~、じゃあ“みぃみぃ”でもいい?」
「くっ……」
「よろしくね、瑞樹くん!!」
差し出された手を振り払い、瑞樹は自分の席に逃げ込んだ。
◇
授業が始まっても、瑞樹の心は落ち着かなかった。
(運命の番……?)
そんなことを言われたこともなかった。
いや、言われるような存在じゃないと思っていた。
“欠陥Ω”──それは瑞樹について回るレッテルである。
ヒートは来ないし、フェロモンもほとんどない。医師の診断も『個人差』という曖昧なものだった。
(普通のΩみたいに、誰かを強く惹きつけることなんて俺には……)
だが、あの青年は瑞樹を真っ直ぐ見つめながら言うのだ。『君は僕の運命だ』と。
冗談を言っているようには見えなかった。
──あの手が自分に触れた瞬間、自分の中で確かに“何か”が反応した気がした。
(あれは──)
偶然だと自分に言い聞かせる。
「はぁ……」
深いため息を漏らしながら、瑞樹はノートにペンを走らせた。
(中途半端なんだよ、俺)
Ωらしくもない、βにもなれない。
ヒートも来たことのない自分が、誰かに選ばれるなんて夢にも思わないほうがいい。
(でも……)
もし、あの言葉が本当だったら。自分にも誰かに選ばれる価値があるのなら。
だが、期待して否定されるのは怖い。
『番だと思ったけど違った』なんて言われたら立ち直れない気がする。
だからこそ、受け入れたくない。自分の中にある『誰かに認められたい』という醜い欲望を見透かされたくない。
「はぁ……」
またひとつ、重いため息が落ちた。
「あっ、瑞樹くん! 今、フェロモン揺れたよ! 集中してないでしょ、昨日ちゃんと寝られた?」
「……うるさい」
気づけば青年は瑞樹の背後に座り、授業をそっちのけでフェロモン実況をしていた。
「眠たそうなフェロモンだね。後で僕が癒してあげる!」
「適当なこと言ってんじゃねぇよ。お前に分かるわけ──」
「分かるよ! すっごくいい匂いで、僕は幸せだよ~!!」
「おい、そこ! 静かに!!」
教員の怒声が飛ぶと、さすがの青年も口をつぐんだ。
◇
「──それでは、今日の授業はここまでです」
その声と同時に瑞樹は席を立ち、廊下へと飛び出した。
(あいつ、いないよな……?)
何度も後ろを振り返りながら足早に歩く。
人混みをかき分け、廊下の角を曲がった瞬間──
「げっ!!」
「ちょっと、瑞樹く~ん! 足速すぎるよ!!」
そこには、当然のように青年がいた。
「追ってくるな! 変態!」
「はい、今日もフェロモン測定器持って来たよ」
差し出されたのは腕時計型の測定器。
青年は強引に瑞樹の腕に取り付けようとする。
「待て待て! 俺は協力するなんて一言も──」
「昨日のは旧型で、これは新型なんだ。まだ試作段階だけど──」
その指先が瑞樹の肌に触れた瞬間、彼の表情が変わった。
「……今、すごくいい匂いがした」
「は?」
「ほんの一瞬。だけど僕には分かる。きっと僕だけに分かる匂いだ」
青年はじっと瑞樹を見つめた。
「瑞樹くん。やっぱり君は僕の運命の番だ……」
その言葉に心臓が跳ねた。
「や、やめろよ。そういう冗談……」
「冗談なんかじゃない。これは僕の直感と本能だ」
彼の言葉が瑞樹の胸に真っすぐ突き刺さる。
(俺はずっと、Ωとして誰かに選ばれたかった……)
「う、うるせえよ……変態」
その言葉を絞り出すのが精いっぱいだった。
だが、青年は満面の笑みを浮かべ、瑞樹の手首に測定器を装着する。
「フェロモン値、安定しているね。素直じゃないところも可愛い。瑞樹くんのフェロモン、毎日チェックするから」
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