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第一章
6.その姿を知っているのは
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連休が明け、久しぶりに大学へ登校した日。
瑞樹は久しぶりに慧の姿を見つけた。だが、その顔にはいつもの余裕も、あの不気味な笑みもなかった。
「……あ、瑞樹くん。ひさしぶりぃ……」
慧の声に力がない。
ふらりと足取りもおぼつかない彼を見て、瑞樹は眉をひそめた。
「おい、どうした。顔、真っ青じゃん。連休で何したんだよ」
「……み、瑞樹くんが僕の心配してくれる……! うれしい……」
言葉はいつも通り変態気味だが、目の焦点がどこか合っていない。
軽口を叩く余裕もなさそうだった。
「風邪か? 熱あるんじゃね? 授業サボって寝た方がいいぞ」
「ふふふ……でも、瑞樹くんの顔見たら……元気になってきたぁ……」
そう呟くと、慧はゆらりと背を向け、よろけながら廊下の奥へと消えていった。
その背中を見送る瑞樹の胸に、嫌な予感が走った。
◇
放課後、慧のいる教室へと向かった。
「……うわ、マジかよ」
教室のドアを開けた瞬間、慧が崩れるように瑞樹へ倒れかかってきた。
瑞樹の腕の中にずしりとした体温が落ちる。額に触れると、火がついたように熱い。
「お前、これで大学来てたの!? バカじゃねぇの!?」
「……みずきくん……ひとりじゃ帰れなかった……」
「今は甘えんのかよ……!」
そう言いながらも、放っておけるわけがなかった。
瑞樹はため息をつき、慧の腕を肩に回す。
「ったく……しょうがねぇな。歩けるか?」
「……みずきくんが、支えてくれるなら……どこまででも歩ける……」
「はいはい、口は元気だな。黙って歩け」
結局そのまま、慧を家まで送り届けることになった。
◇
慧の部屋へ着いた。
静かな彼の部屋。カーテンの隙間から差す光が、白い寝具を淡く照らしている。
瑞樹はベッドに慧を寝かせ、冷えピタを貼り、氷枕をセットする。
「ほら、水。飲める?」
「……僕の可愛い運命の番ちゃんが……優しい……」
「運命の番って言うな。つか、黙って寝てろ。体力削れるだろ」
「……瑞樹くんにしか、こういうの見せたくないから……」
小さく漏れたその声に、瑞樹の手が止まる。
氷水を持つ指先が、少し震えた。
「……は? 今なんつった?」
「僕の看病……瑞樹くんがいい。おかゆも食べさせて……お水も飲ませて……髪、撫でて……頭ぽんぽんして……」
「お前さぁ……どこまで図々しいんだよ!」
「全部、瑞樹くんがいい……回復フェロモンが出る……」
布団に半分埋もれた慧が、うっすら笑ってそう呟いた。
その頬は赤く、熱で滲む汗が髪に絡んでいる。
「……もう、ほんとにバカだなお前……」
瑞樹は顔をそむけ、手早くタオルを絞りなおす。
だが結局、慧が「みずきくん……」と甘えた声を出すたびに、言われた通り全部してしまう自分がいた。
水を飲ませ、おでこを拭き、髪を撫でる。
その度に慧の呼吸が落ち着いていくのが分かった。
「……ありがと……大好き……」
布団の中からか細い声。
瑞樹は返事をする代わりに、慧の髪をそっと撫でながら小さく呟く。
「……知ってるよ、そんなの」
慧は変態で、普段はうるさくて、理屈っぽくて。
でも、こうして熱に浮かされて無防備に甘えてくる時だけは、ただの“年相応の男”に戻る。
その姿を知っているのは、自分だけだ。
それがなんとなく誇らしくて、少しだけ胸がくすぐったかった。
◇
翌朝、慧の熱は下がっていた。
瑞樹が起きると、キッチンから心地よい香りが漂ってきた。
「おはよう、瑞樹くん。朝ごはん作っといたよ。昨日のお礼!」
「……いや、寝とけよ。回復早すぎだろ」
「瑞樹くんが看病してくれたから、治っちゃったんだよ」
「……はぁ、もう勝手にしろ」
慧が見せた穏やかな笑みは、どこか本当に幸せそうだった。
瑞樹は、心の中でこっそり思った。
(まったく……。こいつ、放っておけるわけないじゃん)
瑞樹は久しぶりに慧の姿を見つけた。だが、その顔にはいつもの余裕も、あの不気味な笑みもなかった。
「……あ、瑞樹くん。ひさしぶりぃ……」
慧の声に力がない。
ふらりと足取りもおぼつかない彼を見て、瑞樹は眉をひそめた。
「おい、どうした。顔、真っ青じゃん。連休で何したんだよ」
「……み、瑞樹くんが僕の心配してくれる……! うれしい……」
言葉はいつも通り変態気味だが、目の焦点がどこか合っていない。
軽口を叩く余裕もなさそうだった。
「風邪か? 熱あるんじゃね? 授業サボって寝た方がいいぞ」
「ふふふ……でも、瑞樹くんの顔見たら……元気になってきたぁ……」
そう呟くと、慧はゆらりと背を向け、よろけながら廊下の奥へと消えていった。
その背中を見送る瑞樹の胸に、嫌な予感が走った。
◇
放課後、慧のいる教室へと向かった。
「……うわ、マジかよ」
教室のドアを開けた瞬間、慧が崩れるように瑞樹へ倒れかかってきた。
瑞樹の腕の中にずしりとした体温が落ちる。額に触れると、火がついたように熱い。
「お前、これで大学来てたの!? バカじゃねぇの!?」
「……みずきくん……ひとりじゃ帰れなかった……」
「今は甘えんのかよ……!」
そう言いながらも、放っておけるわけがなかった。
瑞樹はため息をつき、慧の腕を肩に回す。
「ったく……しょうがねぇな。歩けるか?」
「……みずきくんが、支えてくれるなら……どこまででも歩ける……」
「はいはい、口は元気だな。黙って歩け」
結局そのまま、慧を家まで送り届けることになった。
◇
慧の部屋へ着いた。
静かな彼の部屋。カーテンの隙間から差す光が、白い寝具を淡く照らしている。
瑞樹はベッドに慧を寝かせ、冷えピタを貼り、氷枕をセットする。
「ほら、水。飲める?」
「……僕の可愛い運命の番ちゃんが……優しい……」
「運命の番って言うな。つか、黙って寝てろ。体力削れるだろ」
「……瑞樹くんにしか、こういうの見せたくないから……」
小さく漏れたその声に、瑞樹の手が止まる。
氷水を持つ指先が、少し震えた。
「……は? 今なんつった?」
「僕の看病……瑞樹くんがいい。おかゆも食べさせて……お水も飲ませて……髪、撫でて……頭ぽんぽんして……」
「お前さぁ……どこまで図々しいんだよ!」
「全部、瑞樹くんがいい……回復フェロモンが出る……」
布団に半分埋もれた慧が、うっすら笑ってそう呟いた。
その頬は赤く、熱で滲む汗が髪に絡んでいる。
「……もう、ほんとにバカだなお前……」
瑞樹は顔をそむけ、手早くタオルを絞りなおす。
だが結局、慧が「みずきくん……」と甘えた声を出すたびに、言われた通り全部してしまう自分がいた。
水を飲ませ、おでこを拭き、髪を撫でる。
その度に慧の呼吸が落ち着いていくのが分かった。
「……ありがと……大好き……」
布団の中からか細い声。
瑞樹は返事をする代わりに、慧の髪をそっと撫でながら小さく呟く。
「……知ってるよ、そんなの」
慧は変態で、普段はうるさくて、理屈っぽくて。
でも、こうして熱に浮かされて無防備に甘えてくる時だけは、ただの“年相応の男”に戻る。
その姿を知っているのは、自分だけだ。
それがなんとなく誇らしくて、少しだけ胸がくすぐったかった。
◇
翌朝、慧の熱は下がっていた。
瑞樹が起きると、キッチンから心地よい香りが漂ってきた。
「おはよう、瑞樹くん。朝ごはん作っといたよ。昨日のお礼!」
「……いや、寝とけよ。回復早すぎだろ」
「瑞樹くんが看病してくれたから、治っちゃったんだよ」
「……はぁ、もう勝手にしろ」
慧が見せた穏やかな笑みは、どこか本当に幸せそうだった。
瑞樹は、心の中でこっそり思った。
(まったく……。こいつ、放っておけるわけないじゃん)
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