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第二章
10.集中するとフェロモン値が上がるらしい
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昼下がりのキャンパス。
人の少ないカフェテリアの隅で、瑞樹は講義ノートと参考書を広げていた。
もうすぐ中間試験。
「勉強会しよう」と言い出したのは慧だったが、実際は、九割方邪魔をしてくる。
「ねえ、瑞樹くん。いまフェロモン値、0.4上がったよ」
「……また測ってるのかよ」
「だって、集中してるときの瑞樹くん、すごく綺麗なんだもん。脳が回転してる音が聞こえそうでさ」
「褒めてるようで気持ち悪いな」
慧はお構いなしに笑う。
指先でスマホの画面を操作しながら、フェロモン値のグラフを見せてくる。
そこには、瑞樹のフェロモンが数値として刻まれていた。
「怒ったときは0.6、照れてるときは0.8上がる。……瑞樹くん、感情にすごく素直だね」
「そんな分析いらない……。俺はΩとしても、フェロモン弱いんだから」
「弱い? 違うよ」
慧がペンを置き、静かに言った。
その声はいつになく真面目だった。
「瑞樹くんのフェロモンは“穏やか”なんだ。強さじゃなくて、優しさに寄ってる。僕はその香りに何度も救われたよ」
瑞樹は目を瞬かせる。
こんなふうに言われたのは、初めてだった。
「……救われたって、なにそれ」
「授業が終わって、疲れてるとき。人混みの中で瑞樹くんを見つけると、それだけで落ち着くんだ。きっと、君のフェロモンがそういう性質なんだと思う」
「そんな都合のいい分析、初めて聞いた」
「でも事実だよ。……ほら、今も数値、0.9になってる」
慧が微笑む。
瑞樹は思わず自分の胸元を押さえた。
(……なんでだよ、確かにちょっと鼓動が早い)
「……慧、さ。なんでそんなに俺に構うの?」
「好きだから」
即答だった。
迷いが一切ない声に、瑞樹は言葉を失う。
「“欠陥Ω”とか関係ない。僕は瑞樹くんの匂いも、声も、仕草も、ぜんぶ好きなんだ」
「……そういうこと、平気で言うなよ」
「本当のことだから。それに、瑞樹くんが勉強してるときの数値がいちばん綺麗なんだ! ……努力フェロモン、って呼んでいい?」
「呼ぶな!」
瑞樹が顔を真っ赤にして言うと、慧は笑いながらノートを覗き込んだ。
「ねえ、この問題、一緒に解こうか」
「……おまえ、ほんとに教える気あったの?」
「もちろん。データ収集を兼ねて、まずは基礎から」
「やっぱり変態だ」
小さく笑い合いながら、ふたりの距離は少しずつ近づいていく。
窓の外では夕陽が差し込み、机の上を淡く染めていた。
瑞樹のフェロモン値は、静かに1.0の上昇を記録した。
慧はそれを見て、満足そうに微笑む。
──まるで、誰よりも瑞樹の数値を大切にしているかのように。
人の少ないカフェテリアの隅で、瑞樹は講義ノートと参考書を広げていた。
もうすぐ中間試験。
「勉強会しよう」と言い出したのは慧だったが、実際は、九割方邪魔をしてくる。
「ねえ、瑞樹くん。いまフェロモン値、0.4上がったよ」
「……また測ってるのかよ」
「だって、集中してるときの瑞樹くん、すごく綺麗なんだもん。脳が回転してる音が聞こえそうでさ」
「褒めてるようで気持ち悪いな」
慧はお構いなしに笑う。
指先でスマホの画面を操作しながら、フェロモン値のグラフを見せてくる。
そこには、瑞樹のフェロモンが数値として刻まれていた。
「怒ったときは0.6、照れてるときは0.8上がる。……瑞樹くん、感情にすごく素直だね」
「そんな分析いらない……。俺はΩとしても、フェロモン弱いんだから」
「弱い? 違うよ」
慧がペンを置き、静かに言った。
その声はいつになく真面目だった。
「瑞樹くんのフェロモンは“穏やか”なんだ。強さじゃなくて、優しさに寄ってる。僕はその香りに何度も救われたよ」
瑞樹は目を瞬かせる。
こんなふうに言われたのは、初めてだった。
「……救われたって、なにそれ」
「授業が終わって、疲れてるとき。人混みの中で瑞樹くんを見つけると、それだけで落ち着くんだ。きっと、君のフェロモンがそういう性質なんだと思う」
「そんな都合のいい分析、初めて聞いた」
「でも事実だよ。……ほら、今も数値、0.9になってる」
慧が微笑む。
瑞樹は思わず自分の胸元を押さえた。
(……なんでだよ、確かにちょっと鼓動が早い)
「……慧、さ。なんでそんなに俺に構うの?」
「好きだから」
即答だった。
迷いが一切ない声に、瑞樹は言葉を失う。
「“欠陥Ω”とか関係ない。僕は瑞樹くんの匂いも、声も、仕草も、ぜんぶ好きなんだ」
「……そういうこと、平気で言うなよ」
「本当のことだから。それに、瑞樹くんが勉強してるときの数値がいちばん綺麗なんだ! ……努力フェロモン、って呼んでいい?」
「呼ぶな!」
瑞樹が顔を真っ赤にして言うと、慧は笑いながらノートを覗き込んだ。
「ねえ、この問題、一緒に解こうか」
「……おまえ、ほんとに教える気あったの?」
「もちろん。データ収集を兼ねて、まずは基礎から」
「やっぱり変態だ」
小さく笑い合いながら、ふたりの距離は少しずつ近づいていく。
窓の外では夕陽が差し込み、机の上を淡く染めていた。
瑞樹のフェロモン値は、静かに1.0の上昇を記録した。
慧はそれを見て、満足そうに微笑む。
──まるで、誰よりも瑞樹の数値を大切にしているかのように。
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