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1章
第十八話:幼馴染カップルの初デート
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上条、一ノ瀬宅の最寄りのバス停から一つ次の停留所はショッピングモールの入り口にある。
十時頃に上条悠斗と一ノ瀬綾乃は到着し、そのまま娯楽施設の一角にある映画館で映画を見て、約二時間振りに浴びた陽に二人は目を細めた。
「――っ、あぁ~。映画館とか久し振りだったなぁー」
欠伸交じりに伸びをした悠斗に、綾乃は眉を顰めた。
「ごめんね。恋愛映画に付き合わせちゃって……退屈だったよね」
「んー? いや、そんな事は無いよ。あんな連ドラも良く見るからか、主人公とヒロインにも感情移入出来たし。それにアレはweb小説が原作だろ、書いたのが学生って凄いよな」
「うん、そう! 『小説を書こう!』ってサイトのランキング上位の作品でね。作者が高二の時に投稿されてから数年で書籍とコミック化して、ついに実写映画されたの。原作も好きで、書籍版も持ってるし楽しみだったんだー」
えへへ、と笑う綾乃に悠斗も頬が緩んだ。
正直、男子高校生としては二時間弱の間、特に期待をしていなかった恋愛映画を見るのは、“結果的に楽しめたか否か”の前に精神的に辛いものがあるが、愛しの彼女の為とあれば易いものだった。
「何より綾乃が満足したなら、トイレ我慢した甲斐があったよ」
わざとらしく肩を竦ませる悠斗に、綾乃は「うーん」と苦笑する。
「満足したかって言われると……六〇点位かなぁ~」
「あれま、案外辛口評価なんだな」
「楽しめたのは楽しめたんだけど、アレって主人公達が“高校に進学してから卒業するまで”の話なんだけど、それを映画一本にまとめてるじゃない?」
「あぁ、そうだったな。――あ、ちょっと待って」
休憩所に出されている出店でチェロスを買って、悠斗は彼女に手渡した。
「『映画見た後にチェロス買って』っていう細かいお願いを覚えてくれている彼氏好き。好感度が五ポイント上がったわ」
「三〇〇円で上がるなら安いもんですわ。ちなみに今は累計ポイントはどの位?」
「もう上限一杯で切り捨ててる」
綾乃は小さな口で一口頬張り、満足そうに小さく唸る。
「……んで、なんだっけ。――あぁ、そうだ」
彼女は悠斗の口元にチェロスを持っていきつつ、
「ホントは各学年毎に結構長いエピソードがあるのよ。『花火大会』とか『クリスマス』みたいな季節のイベントとかね」
「……ん。映画でもあったな」
一瞬、戸惑ったが今更と遠慮気味に一口。
「同じイベントでも年を重ねる毎に、二人の距離感が近くなるのが良いのよ。一年の時の花火大会だと“手を繋ぐ”だけだったけど、二年ではその……“キス”するとか?」
「あぁ、なるほど――けど、劇中じゃ二年から三年の前半は結構テンポ早かったよな」
「そうなの! 端折ってるの!」
意外と彼がちゃんと映画を見ていた事を嬉しく思いつつ、綾乃は唇を尖らせる。
「いや、そもそも二時間で収まるボリュームじゃないから、削るのは仕方が無いって思うの。けど、それだと“積み重ねる二人の愛情”が勿体ないのよ。原作を知ってるのと知らないとじゃ、印象大分違うからねアレ!」
綾乃の熱量に気圧された悠斗は、ドウドウと宥めて、
「ファンとしては、『無理やり全部を一本にまとめるんじゃなくて、せめて三部作にしろよ』と?」
「……言いたい事が伝わる彼氏ってホント好き」
シミジミ思いつつ、綾乃はまたチェロスにかぶりつく。
「――ホント、大好き」
「俺が?」
「チェロスが」
「揚げ菓子に負けたかぁ……っ」
くぅー! と悠斗が唸ると、口元を抑えて綾乃はクスクスと身悶えた。
「……それはそうとして、大丈夫なのか?」
「チェロスもう一本買ってくれるの?」
この笑顔が見れるのなら、やぶさかでは無いのだが、
「いや、さっきから“素”が出てるからさ」
「あー……そうねぇ……」
言われて綾乃はしばし考えて、へへへ、と子供の様に笑った。
「アンタとデートしてるのよ? 繕うのとか、楽し過ぎて嬉し過ぎてやっぱ無理」
「うん。俺もそう言ってくれて嬉しいよ」
「それに人も結構多いから知り合いが居ても分かんないじゃないかな。それに“学校じゃ大人しくても彼氏と一緒なら、はしゃいじゃう女子”も珍しくないでしょ?」
「そんなに楽しい?」
差し出された最後の一口を頬張った悠斗を愛おしそうに見て、
「ふふ、今ならゾンビ映画でも胸キュン出来そうな位には」
「その何処で?」
「『あのゾンビ歩き方可愛いぃー』?」
「狂気の沙汰だな」
そんなくだらない話ですら、楽しかった。
「そんで、どうする? 時間も丁度良いけどちゃんと食べる?」
「んー。ユートは?」
「綾乃次第。食べるなら一緒に食べる位」
それなら、と綾乃は考えて、
「じゃあ、先に私の買い物付き合って?」
十時頃に上条悠斗と一ノ瀬綾乃は到着し、そのまま娯楽施設の一角にある映画館で映画を見て、約二時間振りに浴びた陽に二人は目を細めた。
「――っ、あぁ~。映画館とか久し振りだったなぁー」
欠伸交じりに伸びをした悠斗に、綾乃は眉を顰めた。
「ごめんね。恋愛映画に付き合わせちゃって……退屈だったよね」
「んー? いや、そんな事は無いよ。あんな連ドラも良く見るからか、主人公とヒロインにも感情移入出来たし。それにアレはweb小説が原作だろ、書いたのが学生って凄いよな」
「うん、そう! 『小説を書こう!』ってサイトのランキング上位の作品でね。作者が高二の時に投稿されてから数年で書籍とコミック化して、ついに実写映画されたの。原作も好きで、書籍版も持ってるし楽しみだったんだー」
えへへ、と笑う綾乃に悠斗も頬が緩んだ。
正直、男子高校生としては二時間弱の間、特に期待をしていなかった恋愛映画を見るのは、“結果的に楽しめたか否か”の前に精神的に辛いものがあるが、愛しの彼女の為とあれば易いものだった。
「何より綾乃が満足したなら、トイレ我慢した甲斐があったよ」
わざとらしく肩を竦ませる悠斗に、綾乃は「うーん」と苦笑する。
「満足したかって言われると……六〇点位かなぁ~」
「あれま、案外辛口評価なんだな」
「楽しめたのは楽しめたんだけど、アレって主人公達が“高校に進学してから卒業するまで”の話なんだけど、それを映画一本にまとめてるじゃない?」
「あぁ、そうだったな。――あ、ちょっと待って」
休憩所に出されている出店でチェロスを買って、悠斗は彼女に手渡した。
「『映画見た後にチェロス買って』っていう細かいお願いを覚えてくれている彼氏好き。好感度が五ポイント上がったわ」
「三〇〇円で上がるなら安いもんですわ。ちなみに今は累計ポイントはどの位?」
「もう上限一杯で切り捨ててる」
綾乃は小さな口で一口頬張り、満足そうに小さく唸る。
「……んで、なんだっけ。――あぁ、そうだ」
彼女は悠斗の口元にチェロスを持っていきつつ、
「ホントは各学年毎に結構長いエピソードがあるのよ。『花火大会』とか『クリスマス』みたいな季節のイベントとかね」
「……ん。映画でもあったな」
一瞬、戸惑ったが今更と遠慮気味に一口。
「同じイベントでも年を重ねる毎に、二人の距離感が近くなるのが良いのよ。一年の時の花火大会だと“手を繋ぐ”だけだったけど、二年ではその……“キス”するとか?」
「あぁ、なるほど――けど、劇中じゃ二年から三年の前半は結構テンポ早かったよな」
「そうなの! 端折ってるの!」
意外と彼がちゃんと映画を見ていた事を嬉しく思いつつ、綾乃は唇を尖らせる。
「いや、そもそも二時間で収まるボリュームじゃないから、削るのは仕方が無いって思うの。けど、それだと“積み重ねる二人の愛情”が勿体ないのよ。原作を知ってるのと知らないとじゃ、印象大分違うからねアレ!」
綾乃の熱量に気圧された悠斗は、ドウドウと宥めて、
「ファンとしては、『無理やり全部を一本にまとめるんじゃなくて、せめて三部作にしろよ』と?」
「……言いたい事が伝わる彼氏ってホント好き」
シミジミ思いつつ、綾乃はまたチェロスにかぶりつく。
「――ホント、大好き」
「俺が?」
「チェロスが」
「揚げ菓子に負けたかぁ……っ」
くぅー! と悠斗が唸ると、口元を抑えて綾乃はクスクスと身悶えた。
「……それはそうとして、大丈夫なのか?」
「チェロスもう一本買ってくれるの?」
この笑顔が見れるのなら、やぶさかでは無いのだが、
「いや、さっきから“素”が出てるからさ」
「あー……そうねぇ……」
言われて綾乃はしばし考えて、へへへ、と子供の様に笑った。
「アンタとデートしてるのよ? 繕うのとか、楽し過ぎて嬉し過ぎてやっぱ無理」
「うん。俺もそう言ってくれて嬉しいよ」
「それに人も結構多いから知り合いが居ても分かんないじゃないかな。それに“学校じゃ大人しくても彼氏と一緒なら、はしゃいじゃう女子”も珍しくないでしょ?」
「そんなに楽しい?」
差し出された最後の一口を頬張った悠斗を愛おしそうに見て、
「ふふ、今ならゾンビ映画でも胸キュン出来そうな位には」
「その何処で?」
「『あのゾンビ歩き方可愛いぃー』?」
「狂気の沙汰だな」
そんなくだらない話ですら、楽しかった。
「そんで、どうする? 時間も丁度良いけどちゃんと食べる?」
「んー。ユートは?」
「綾乃次第。食べるなら一緒に食べる位」
それなら、と綾乃は考えて、
「じゃあ、先に私の買い物付き合って?」
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