35 / 40
1章
第三十五話:状況整理
しおりを挟む
「婚約、おめでとー。良かったね、綾乃ちゃん。ヘタレな弟だけどよろしくねー」
家を飛び出そうとした上条祐奈を何とか引き留めて、上条悠斗と一ノ瀬綾乃はリビングで冷め切ってパサパサになったホットケーキをつつきながら、事の次第を説明した感想がソレだった。
元々、祐奈は友人と遊びに出ていて帰りは夕方位の予定だったが、その友人に急用が出来て、早々に切り上げて来たという。
「あ、ありがとうございます……?」
なんとなくお礼を言う綾乃に、悠斗は眉を顰めた。
「いや、姉さん。それはそうなんだけど、大事な所はそこじゃないだろ」
「分かってるわよ。冗談じゃなくて、大問題ね」
弟が見た事も無い程に真面目な顔で、
「喫茶店にでも行ってようか? 二時間位」
「そういう気遣いは要らないから」
「遠慮するんじゃないわよ! もう、袋開けてやる気満々でギンギンだった癖に!」
「ホントに止めて? その辺のデリケートな部分に踏み込んで来ないで!?」
「でも、開けたゴムはどうすんのよ!? ……あ、ソロ練習用? なんか、ごめんね? 着け方、教えようか?」
「ねぇ、だからマジで止めて!?」
ちらりと見ると、綾乃は顔を真っ赤にさせている。
揶揄い過ぎたか、と祐奈は思うが弟とその彼女の濡れ場一歩手前シーンを目の当たりにした姉の気持ちも察して欲しいとも思った。
弟が生を受ける切っ掛けを目撃した時と似た様な居た堪れさだったのだ。
――まぁ、ともあれ、
「しっかし、その御門って子? ガチのクズでサイコ野郎じゃん。普通、ここまでする?」
「そうだよ……。だから、困ってるんだ。いや、ホント。別の惑星から来たんじゃないかと」
メイプルシロップを浸したホットケーキを頬張る姉に、悠斗は心底ウンザリした様に肩を落とした。
綾乃も眉を顰め、
「母星に帰れば良いのに……」
そんな二人の様子に祐奈は珈琲を啜りながら、眉を顰めた。
「――でも、そんなに悩むことかな?」
「悩むだろ! 他人事みたいに言わないでくれ!」
何気なく言う祐奈に悠斗は思わずテーブルを叩いた。
「ユート……」
震える彼の手に綾乃は手を添える。
「――ごめん」
そして、また肩を落とす二人に祐奈は「分かってないなぁ~」と溜息をついた。
「整理すると、綾乃ちゃんは御門光輝に“弱み”を握られて自分と付き合う様に脅してるんだよね?」
「あぁ、そうだ」
祐奈の質問に弟は頷く。
「じゃあ、その“弱み”って何さ?」
「私がその……『避妊具を見ていた事』と、む……『胸の事』です」
詰まらせながら答える綾乃に続いて、
「綾乃は学校じゃあ『清楚な優等生』で通ってる。まだあの噂も消え切って無い内にあんな写真が出回れば、また変な噂が広がる。何より、SNSで晒される事になったら、それこそ冗談じゃ済まない。けど、アイツは本気だ」
数週間前から流れ始めた『一ノ瀬綾乃が援助交際をしている』という噂。
御門光輝が兄に広めさせた一言に、あの写真は多少なりとも説得力を与えてしまう。
全員がそのまま信じる訳では無いにしろ、綾乃がソレを手にしていたのは事実。『彼女はそういう女だ』と認識する。
少なくとも『性的な行為に興味がある』というイメージはついてしまうだろう。
加えて、胸の大きさをパッドで誤魔化していたのも、失笑や嘲られるかもしれない。
それだけならまだ良い。
綾乃の写真や住所まで使って、援助交際を仄めかすアカウントを使われたら本当に彼女の人生が狂う。
悠斗としては、それはなんとしてでも阻止したいのだ。
だが、その手立てが無い。それがもどかしい。
「幸い、月曜まではアイツも動く気は無い筈だ。今のうち、学校なり警察なりに相談しないと……」
「けど、それじゃ間に合わない」
祐奈の指摘に悠斗は肩を落とした。
「……そもそも、なんだけど」
祐奈は悠斗にフォークの先を向ける。
「アンタ達が本当に守りたいものは何? 悠斗は『清楚な優等生』の綾乃ちゃんじゃなきゃプロポーズしなかったの? 綾乃ちゃんは悠斗と居るより、自分のイメージが大事?」
「そんな――!」
姉の言葉を弟が否定するより早く、
「そんな訳ありません!」
強く綾乃が否定する。
「他人にどう思われようと、ユートが好きで居てくれるなら――愛してくれるなら、私は構いません!」
その強い意志の横顔に、
「俺が好きになったのは、綾乃自身だ。誰かの目や言葉なんかでまた手を放して堪るか」
彼も断言する。
結局の所、一番大事なのは二人の気持ち。
そこか明確にあるのなら、後は最低限の所さえ抑えれば、本気の愛の前に、御門光輝は障害にすらならないのだ。
「――ホント、良い顔するようになったなー」
ポツリと姉は呟いて、
「だったら話は単純。アンタ達はそのままで良いのよ」
ニヤリと不敵に笑って見せた。
「一番厄介なのが良い様にパシられてる御門兄だね。そいつは私が黙らせる。――お姉ちゃんが一肌脱いでやるよ」
「黙らせるって……どうやって?」
悠斗の問いに祐奈は追加のメイプルシロップをかけながら、
「大丈夫、大丈夫。あの兄貴とはお友達なんだ」
家を飛び出そうとした上条祐奈を何とか引き留めて、上条悠斗と一ノ瀬綾乃はリビングで冷め切ってパサパサになったホットケーキをつつきながら、事の次第を説明した感想がソレだった。
元々、祐奈は友人と遊びに出ていて帰りは夕方位の予定だったが、その友人に急用が出来て、早々に切り上げて来たという。
「あ、ありがとうございます……?」
なんとなくお礼を言う綾乃に、悠斗は眉を顰めた。
「いや、姉さん。それはそうなんだけど、大事な所はそこじゃないだろ」
「分かってるわよ。冗談じゃなくて、大問題ね」
弟が見た事も無い程に真面目な顔で、
「喫茶店にでも行ってようか? 二時間位」
「そういう気遣いは要らないから」
「遠慮するんじゃないわよ! もう、袋開けてやる気満々でギンギンだった癖に!」
「ホントに止めて? その辺のデリケートな部分に踏み込んで来ないで!?」
「でも、開けたゴムはどうすんのよ!? ……あ、ソロ練習用? なんか、ごめんね? 着け方、教えようか?」
「ねぇ、だからマジで止めて!?」
ちらりと見ると、綾乃は顔を真っ赤にさせている。
揶揄い過ぎたか、と祐奈は思うが弟とその彼女の濡れ場一歩手前シーンを目の当たりにした姉の気持ちも察して欲しいとも思った。
弟が生を受ける切っ掛けを目撃した時と似た様な居た堪れさだったのだ。
――まぁ、ともあれ、
「しっかし、その御門って子? ガチのクズでサイコ野郎じゃん。普通、ここまでする?」
「そうだよ……。だから、困ってるんだ。いや、ホント。別の惑星から来たんじゃないかと」
メイプルシロップを浸したホットケーキを頬張る姉に、悠斗は心底ウンザリした様に肩を落とした。
綾乃も眉を顰め、
「母星に帰れば良いのに……」
そんな二人の様子に祐奈は珈琲を啜りながら、眉を顰めた。
「――でも、そんなに悩むことかな?」
「悩むだろ! 他人事みたいに言わないでくれ!」
何気なく言う祐奈に悠斗は思わずテーブルを叩いた。
「ユート……」
震える彼の手に綾乃は手を添える。
「――ごめん」
そして、また肩を落とす二人に祐奈は「分かってないなぁ~」と溜息をついた。
「整理すると、綾乃ちゃんは御門光輝に“弱み”を握られて自分と付き合う様に脅してるんだよね?」
「あぁ、そうだ」
祐奈の質問に弟は頷く。
「じゃあ、その“弱み”って何さ?」
「私がその……『避妊具を見ていた事』と、む……『胸の事』です」
詰まらせながら答える綾乃に続いて、
「綾乃は学校じゃあ『清楚な優等生』で通ってる。まだあの噂も消え切って無い内にあんな写真が出回れば、また変な噂が広がる。何より、SNSで晒される事になったら、それこそ冗談じゃ済まない。けど、アイツは本気だ」
数週間前から流れ始めた『一ノ瀬綾乃が援助交際をしている』という噂。
御門光輝が兄に広めさせた一言に、あの写真は多少なりとも説得力を与えてしまう。
全員がそのまま信じる訳では無いにしろ、綾乃がソレを手にしていたのは事実。『彼女はそういう女だ』と認識する。
少なくとも『性的な行為に興味がある』というイメージはついてしまうだろう。
加えて、胸の大きさをパッドで誤魔化していたのも、失笑や嘲られるかもしれない。
それだけならまだ良い。
綾乃の写真や住所まで使って、援助交際を仄めかすアカウントを使われたら本当に彼女の人生が狂う。
悠斗としては、それはなんとしてでも阻止したいのだ。
だが、その手立てが無い。それがもどかしい。
「幸い、月曜まではアイツも動く気は無い筈だ。今のうち、学校なり警察なりに相談しないと……」
「けど、それじゃ間に合わない」
祐奈の指摘に悠斗は肩を落とした。
「……そもそも、なんだけど」
祐奈は悠斗にフォークの先を向ける。
「アンタ達が本当に守りたいものは何? 悠斗は『清楚な優等生』の綾乃ちゃんじゃなきゃプロポーズしなかったの? 綾乃ちゃんは悠斗と居るより、自分のイメージが大事?」
「そんな――!」
姉の言葉を弟が否定するより早く、
「そんな訳ありません!」
強く綾乃が否定する。
「他人にどう思われようと、ユートが好きで居てくれるなら――愛してくれるなら、私は構いません!」
その強い意志の横顔に、
「俺が好きになったのは、綾乃自身だ。誰かの目や言葉なんかでまた手を放して堪るか」
彼も断言する。
結局の所、一番大事なのは二人の気持ち。
そこか明確にあるのなら、後は最低限の所さえ抑えれば、本気の愛の前に、御門光輝は障害にすらならないのだ。
「――ホント、良い顔するようになったなー」
ポツリと姉は呟いて、
「だったら話は単純。アンタ達はそのままで良いのよ」
ニヤリと不敵に笑って見せた。
「一番厄介なのが良い様にパシられてる御門兄だね。そいつは私が黙らせる。――お姉ちゃんが一肌脱いでやるよ」
「黙らせるって……どうやって?」
悠斗の問いに祐奈は追加のメイプルシロップをかけながら、
「大丈夫、大丈夫。あの兄貴とはお友達なんだ」
0
あなたにおすすめの小説
高校生なのに娘ができちゃった!?
まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!?
そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。
小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!
竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」
俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。
彼女の名前は下野ルカ。
幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。
俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。
だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている!
堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!
昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件
マサタカ
青春
俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。
あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。
そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。
「久しぶりですね、兄さん」
義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。
ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。
「矯正します」
「それがなにか関係あります? 今のあなたと」
冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。
今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人?
ノベルアッププラスでも公開。
幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。
静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について
おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である
そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。
なんと、彼女は学園のマドンナだった……!
こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。
彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。
そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。
そして助けられた少女もまた……。
二人の青春、そして成長物語をご覧ください。
※中盤から甘々にご注意を。
※性描写ありは保険です。
他サイトにも掲載しております。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる