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1章
第四十話:付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学自体を取り戻す前に高校ではイチャイチャするだけの話
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「――死ぬかと思った……いや、ホント」
上条悠斗は、十一時を少し回った頃に自宅の自室のベットに腰掛けて、この数時間を他人事の様に振り返りしみじみ思う。
隣に座る一ノ瀬綾乃も疲れ果てた様に肩を落としていた。
教室で暴れ出した御門光輝が秋元冬樹達に取り押さえられた後、負傷した光輝の兄と付き添いの綾乃と共に悠斗は病院に搬送され治療を受けた。
傷は広く流血も多かったが、ブレザー越しだった為か皮膚を切っただけで、簡単な処置で大事には至らなかった。全治は数週間程らしく、多少の傷痕は残っても後遺症などは残らないらしい。
治療を終えた頃には悠斗の母と綾乃の父も駆けつけ、二人を自宅に送った後に学校へと飛んで行ったのだった。
「向こうは向こうで大変そうだな」
今しがた届いた冬樹からのメッセージに悠斗は、苦笑する。
警察が教室に来たり、自分達の親と御門夫妻が職員室に駆け込み、どういう事だと教員に詰め寄っているらしい。
御門夫妻は、『自慢の息子が暴力行為などする訳が無い、相手の子供に問題があったのだ』と喚いているが、綾乃の父がソレに激怒し大騒ぎの様だ。
件の御門光輝は糸が切れた様に無反応で、別の病院へと搬送されたとの事。
これから、冬樹や姉達は当事者として警察や学校側に説明するという。
「……皆にも、迷惑かけちまったなぁ」
重い溜息が漏れた。
チラリと隣を見ると綾乃は俯いたまま。
悠斗が病院で治療を受けている間も彼女は心が此処に無い様だった。
「にしても、まさか、ナイフを持ってたとは……今思うと、ゾッとするよ。本気で全部投げ打つんだもんなー。良い迷惑だ」
はは、とわざとらしく笑って見せると、不意に綾乃が身を寄せて来た。
「――ホントよ。生きた心地がしなかったわ……」
キュッと悠斗の腕を掴む。
すすり泣きながら、
「アンタが死んじゃったらって思ったら、凄く怖かった」
「大丈夫、俺は生きてる」
「でも怪我した」
「なんのこの位」
「痛いでしょ?」
「少しだけな、でも大丈夫だよ」
包帯が巻かれた左腕は動かせば痛みを感じるが、愛している婚約者の涙を拭う程度なら問題ない。
「もう、終わったんだ。俺達も後で、親とか学校とかに説明したりするけど、それで全部解決だ」
悠斗は、力の抜けた少しだらしない笑みで、
「後は、恋人で婚約者な幼馴染と高校生活をイチャラブしながら謳歌するだけですよ」
「……何言ってんのアンタ」
涙が引っ込んだ綾乃は呆れた様に溜息をついた。
そんな彼女に、悠斗はもの言いたげな眼差しを向ける。
「なんだよ、綾乃はそうじゃないのか?」
「え? んー……――ぁー」
問われた綾乃は、悠斗の視線に観念したように小さく溜息をつく。
「私も悠斗とイチャラブしたい……」
その答えに悠斗はまた、だらしなく笑う。
「でも、皆には猫被ってた事自体は言ってないんだよな。それに結局ソレも……」
「ソレ?」
綾乃は彼に指差された自分の胸元に視線を落とす。
以前はEカップ相当の膨らみがあったが、現在はCカップ相当にサイズダウン。
だが、彼女の本来のサイズはBの筈なのだ。
「――結局、盛っちゃうんだもんなー」
「あ、今すんごい憐れみを感じた」
ムスッと綾乃は、
「そりゃ、私はBだけども! ちょっと控え目なBだけども! 良いブラで、色んな所から寄せて上げて頑張れば私だって谷間の一つや二つ出来るんだから――!」
ブレザーを脱ぎ、リボンを外して、シャツの胸元を開いた。
「ほら、見ろ! 大好きな彼女の谷間よ! 嬉しいでしょ!?」
「ぉぅ……――」
水色の下着に包まれた白い肌の控え目な谷間に悠斗の視線が釘付けになった。
……しばらくの凝視に、耐えかねて、
「あの――もう、そろそろ……良い?」
「ぁ……うん、嬉しかったです」
「それは、何より……です」
綾乃はバツの悪そうに、シャツのボタンを留め直す。
わざとらしい咳払い。
「いや、ほら……。流石にアレだけ盛ってた後だと、ただブラ着けるだけじゃ差が余りにもエグいのよ――」
ブツブツと呟いた綾乃は、悠斗の気まずそうな表情にヤケクソで、
「まぁ、別にコレは無理して盛ってるんじゃなくて“頑張って形を整えてる”だけであって、この位のポテンシャルは私にもあるんだからね!――まぁ、仕込んでるヌーブラの力が大きいんだけども」
「ヌーブラパワーって凄いんだね」
「外側からフロントホックで寄せてるけども、ヌーブラパワー言うな。馬鹿にしてんでしょ」
彼女は唇を尖らせる。
「――多少はアンタに女として魅力的に見られたいの。この位させてよ……」
「今でも十分、綾乃は魅力的だよ」
呟きに即答されて、
「けど、ありがとうな――嬉しいよ」
そう微笑えまれて、綾乃は身体の奥に熱を感じて視線を逸らす。
「そ、それに、猫被ってる事自体はそう苦痛じゃないわ。先生とかに対してする態度を皆にしてるだけだし。アレの全部が嘘って訳でも無いし、今更他人と素で話すのも大変だもの」
「水原ともか?」
「佳織はまた別だけど……。それでもアンタみたいにはいかないわ」
悠斗の心配そうな表情に、
「だって、私の全部を見せれるのも、知って欲しいのも――愛して欲しいのも、ユートだけだから」
綾乃は頬を赤く染め、か細い声で答えた。
「おま……そういう――」
悠斗は衝動に駆られて、彼女の手を引いて抱き寄せる。
「や、ダメ……そんな乱暴にしたらダメ――」
「ごめん、嫌だったか?」
「嫌じゃない、嫌なんかじゃないけど……」
後数センチで唇が触れ合う程の至近距離で見つめ合い――、
「ぁ、痛ぁーい。割と……割と――」
思いっ切り悠斗は顔を顰めて、ベットに倒れる。
「傷に響くに決まってるでしょ。今のは私のせいじゃないからね」
左腕の痛みに悶える彼が、バカだなぁーと思いつつ愛おしく思う。
「――おばさん達直ぐには帰って来ないでしょ? 少し早いけどお弁当食べる?」
「そうね、綾乃が食べるなら一緒に食べる」
「なら待ってて、どうせだから温めてくる。それと、フォークの方が食べ易いよね」
立ち上がる彼女の手を悠斗は咄嗟に左手で握る。
不意に離れたくないと思った。
「綾乃――」
「え、何――って、なんで左なの!? バカなのホントに傷開くわよ!?」
「ちょ、ちょっと待って……待ってて、座ってて――」
我ながら、バカだなぁーと思いつつ綾乃をベットに座らせ、机の引き出しを開けた。
後でも良い、後の方が良い――と、頭では思うが、心が今直ぐ告げたいと叫んでる。
「ぁっ……」
先日のプロポーズをされた時と状況が重なった。
綾乃の脳裏にあの時の緊張と高揚感と少しばかりの恐怖心が蘇る。
だが、彼が手にしたのは、四角い手の平サイズの白い箱。
そして、悠斗は呆ける綾乃の前に跪いた。
「ぇ、待って。一回、待とう? 心の準備が出来てない。無理無理無理」
「――ごめん、待たない」
悠斗はその箱をパカリと開けた。
箱の中に大事そうに納まる、鮮やかな緑色の小さな宝石が輝く指輪。
「ペリドット。八月の誕生石で、込められた言葉は――」
「『夫婦の、愛』」
悠斗の言葉を綾乃が継いだ。
彼は照れ臭そうに苦笑する。
「まぁ、本物じゃないよ。チェーン店のそれっぽいアクセサリーだ。それに、送るにしても結婚二周年が普通らしい。『太陽の石』とか『夜に輝きを放つ宝石』とも言われてお守りにもされてるし、プロポーズには相応しくは無いかもしれないけど――」
彼女の瞳を真っ直ぐ見て、
「この石に込められた想いと、俺の気持ちは一緒だったから」
心から、
「――俺と結婚して下さい」
もう一度、告白をする。
「――――――ぁ」
ポロポロと、綾乃の頬に涙が零れた。
一度聞いた筈の言葉。伝えられ受け入れた想い。
彼がまた改めて告白してくれると、本人からも仄めかされていた。
分かってた筈なのに、どうしてこんなにも――嬉しいのだろう。
今が自分の抱ける愛情の上限だと思っていたのに、ソレを簡単に超えてくる。
答えを待つ、彼はどこか不安気だった。
本当にバカだなぁーと思う。
一ノ瀬綾乃が上条悠斗を振る可能性など、万に一つも、億に一つもありはしないのに。
でも、大切な想いは口に出して伝えるのが一番だろう。
「はい、喜んで――!」
彼女は応えて、彼は指輪を白く細い左手の薬指にそっとはめた。
彼等は、中学生の三年間を無駄にした。
十五になって、別の男に告白されたのが切っ掛けなのは、男として情けない事だが、それでも彼は想いを伝えられた。
彼女はその想いに正直――とは、言えなかったが応える事が出来た。
恋人としてキスをした。
お弁当を作ってあげた。
彼女の秘密と苦労を知った。
異性として求め合っている事を自覚した。
初めて恋人らしいデートをした。
良からぬ噂が流れたが二人で乗り切った。
最悪な男に弱みを握られたが、よくよく考えればなんという事も無かった。
友人とも本当の意味で打ち解けたと思う。
――そして、今、彼等は婚約者となった。
未成年の二人は、文字通りまだまだ子供。
どんなに愛があったとしても全てが自由になる程の力は無い。
些細な事で、悩み、喧嘩し、嫌いになるかもしれない。
そして、些細な事で、喜び、寄り添い、好きになるのだ。
嘗ての三年を取り戻す様に、これからの三年間を歩んで行く。
そして三十年後も手を携えているだろう。
ここから改めて、始まるのだ。
「俺は綾乃を――」
「私はユートを――」
――愛してる。
上条悠斗は、十一時を少し回った頃に自宅の自室のベットに腰掛けて、この数時間を他人事の様に振り返りしみじみ思う。
隣に座る一ノ瀬綾乃も疲れ果てた様に肩を落としていた。
教室で暴れ出した御門光輝が秋元冬樹達に取り押さえられた後、負傷した光輝の兄と付き添いの綾乃と共に悠斗は病院に搬送され治療を受けた。
傷は広く流血も多かったが、ブレザー越しだった為か皮膚を切っただけで、簡単な処置で大事には至らなかった。全治は数週間程らしく、多少の傷痕は残っても後遺症などは残らないらしい。
治療を終えた頃には悠斗の母と綾乃の父も駆けつけ、二人を自宅に送った後に学校へと飛んで行ったのだった。
「向こうは向こうで大変そうだな」
今しがた届いた冬樹からのメッセージに悠斗は、苦笑する。
警察が教室に来たり、自分達の親と御門夫妻が職員室に駆け込み、どういう事だと教員に詰め寄っているらしい。
御門夫妻は、『自慢の息子が暴力行為などする訳が無い、相手の子供に問題があったのだ』と喚いているが、綾乃の父がソレに激怒し大騒ぎの様だ。
件の御門光輝は糸が切れた様に無反応で、別の病院へと搬送されたとの事。
これから、冬樹や姉達は当事者として警察や学校側に説明するという。
「……皆にも、迷惑かけちまったなぁ」
重い溜息が漏れた。
チラリと隣を見ると綾乃は俯いたまま。
悠斗が病院で治療を受けている間も彼女は心が此処に無い様だった。
「にしても、まさか、ナイフを持ってたとは……今思うと、ゾッとするよ。本気で全部投げ打つんだもんなー。良い迷惑だ」
はは、とわざとらしく笑って見せると、不意に綾乃が身を寄せて来た。
「――ホントよ。生きた心地がしなかったわ……」
キュッと悠斗の腕を掴む。
すすり泣きながら、
「アンタが死んじゃったらって思ったら、凄く怖かった」
「大丈夫、俺は生きてる」
「でも怪我した」
「なんのこの位」
「痛いでしょ?」
「少しだけな、でも大丈夫だよ」
包帯が巻かれた左腕は動かせば痛みを感じるが、愛している婚約者の涙を拭う程度なら問題ない。
「もう、終わったんだ。俺達も後で、親とか学校とかに説明したりするけど、それで全部解決だ」
悠斗は、力の抜けた少しだらしない笑みで、
「後は、恋人で婚約者な幼馴染と高校生活をイチャラブしながら謳歌するだけですよ」
「……何言ってんのアンタ」
涙が引っ込んだ綾乃は呆れた様に溜息をついた。
そんな彼女に、悠斗はもの言いたげな眼差しを向ける。
「なんだよ、綾乃はそうじゃないのか?」
「え? んー……――ぁー」
問われた綾乃は、悠斗の視線に観念したように小さく溜息をつく。
「私も悠斗とイチャラブしたい……」
その答えに悠斗はまた、だらしなく笑う。
「でも、皆には猫被ってた事自体は言ってないんだよな。それに結局ソレも……」
「ソレ?」
綾乃は彼に指差された自分の胸元に視線を落とす。
以前はEカップ相当の膨らみがあったが、現在はCカップ相当にサイズダウン。
だが、彼女の本来のサイズはBの筈なのだ。
「――結局、盛っちゃうんだもんなー」
「あ、今すんごい憐れみを感じた」
ムスッと綾乃は、
「そりゃ、私はBだけども! ちょっと控え目なBだけども! 良いブラで、色んな所から寄せて上げて頑張れば私だって谷間の一つや二つ出来るんだから――!」
ブレザーを脱ぎ、リボンを外して、シャツの胸元を開いた。
「ほら、見ろ! 大好きな彼女の谷間よ! 嬉しいでしょ!?」
「ぉぅ……――」
水色の下着に包まれた白い肌の控え目な谷間に悠斗の視線が釘付けになった。
……しばらくの凝視に、耐えかねて、
「あの――もう、そろそろ……良い?」
「ぁ……うん、嬉しかったです」
「それは、何より……です」
綾乃はバツの悪そうに、シャツのボタンを留め直す。
わざとらしい咳払い。
「いや、ほら……。流石にアレだけ盛ってた後だと、ただブラ着けるだけじゃ差が余りにもエグいのよ――」
ブツブツと呟いた綾乃は、悠斗の気まずそうな表情にヤケクソで、
「まぁ、別にコレは無理して盛ってるんじゃなくて“頑張って形を整えてる”だけであって、この位のポテンシャルは私にもあるんだからね!――まぁ、仕込んでるヌーブラの力が大きいんだけども」
「ヌーブラパワーって凄いんだね」
「外側からフロントホックで寄せてるけども、ヌーブラパワー言うな。馬鹿にしてんでしょ」
彼女は唇を尖らせる。
「――多少はアンタに女として魅力的に見られたいの。この位させてよ……」
「今でも十分、綾乃は魅力的だよ」
呟きに即答されて、
「けど、ありがとうな――嬉しいよ」
そう微笑えまれて、綾乃は身体の奥に熱を感じて視線を逸らす。
「そ、それに、猫被ってる事自体はそう苦痛じゃないわ。先生とかに対してする態度を皆にしてるだけだし。アレの全部が嘘って訳でも無いし、今更他人と素で話すのも大変だもの」
「水原ともか?」
「佳織はまた別だけど……。それでもアンタみたいにはいかないわ」
悠斗の心配そうな表情に、
「だって、私の全部を見せれるのも、知って欲しいのも――愛して欲しいのも、ユートだけだから」
綾乃は頬を赤く染め、か細い声で答えた。
「おま……そういう――」
悠斗は衝動に駆られて、彼女の手を引いて抱き寄せる。
「や、ダメ……そんな乱暴にしたらダメ――」
「ごめん、嫌だったか?」
「嫌じゃない、嫌なんかじゃないけど……」
後数センチで唇が触れ合う程の至近距離で見つめ合い――、
「ぁ、痛ぁーい。割と……割と――」
思いっ切り悠斗は顔を顰めて、ベットに倒れる。
「傷に響くに決まってるでしょ。今のは私のせいじゃないからね」
左腕の痛みに悶える彼が、バカだなぁーと思いつつ愛おしく思う。
「――おばさん達直ぐには帰って来ないでしょ? 少し早いけどお弁当食べる?」
「そうね、綾乃が食べるなら一緒に食べる」
「なら待ってて、どうせだから温めてくる。それと、フォークの方が食べ易いよね」
立ち上がる彼女の手を悠斗は咄嗟に左手で握る。
不意に離れたくないと思った。
「綾乃――」
「え、何――って、なんで左なの!? バカなのホントに傷開くわよ!?」
「ちょ、ちょっと待って……待ってて、座ってて――」
我ながら、バカだなぁーと思いつつ綾乃をベットに座らせ、机の引き出しを開けた。
後でも良い、後の方が良い――と、頭では思うが、心が今直ぐ告げたいと叫んでる。
「ぁっ……」
先日のプロポーズをされた時と状況が重なった。
綾乃の脳裏にあの時の緊張と高揚感と少しばかりの恐怖心が蘇る。
だが、彼が手にしたのは、四角い手の平サイズの白い箱。
そして、悠斗は呆ける綾乃の前に跪いた。
「ぇ、待って。一回、待とう? 心の準備が出来てない。無理無理無理」
「――ごめん、待たない」
悠斗はその箱をパカリと開けた。
箱の中に大事そうに納まる、鮮やかな緑色の小さな宝石が輝く指輪。
「ペリドット。八月の誕生石で、込められた言葉は――」
「『夫婦の、愛』」
悠斗の言葉を綾乃が継いだ。
彼は照れ臭そうに苦笑する。
「まぁ、本物じゃないよ。チェーン店のそれっぽいアクセサリーだ。それに、送るにしても結婚二周年が普通らしい。『太陽の石』とか『夜に輝きを放つ宝石』とも言われてお守りにもされてるし、プロポーズには相応しくは無いかもしれないけど――」
彼女の瞳を真っ直ぐ見て、
「この石に込められた想いと、俺の気持ちは一緒だったから」
心から、
「――俺と結婚して下さい」
もう一度、告白をする。
「――――――ぁ」
ポロポロと、綾乃の頬に涙が零れた。
一度聞いた筈の言葉。伝えられ受け入れた想い。
彼がまた改めて告白してくれると、本人からも仄めかされていた。
分かってた筈なのに、どうしてこんなにも――嬉しいのだろう。
今が自分の抱ける愛情の上限だと思っていたのに、ソレを簡単に超えてくる。
答えを待つ、彼はどこか不安気だった。
本当にバカだなぁーと思う。
一ノ瀬綾乃が上条悠斗を振る可能性など、万に一つも、億に一つもありはしないのに。
でも、大切な想いは口に出して伝えるのが一番だろう。
「はい、喜んで――!」
彼女は応えて、彼は指輪を白く細い左手の薬指にそっとはめた。
彼等は、中学生の三年間を無駄にした。
十五になって、別の男に告白されたのが切っ掛けなのは、男として情けない事だが、それでも彼は想いを伝えられた。
彼女はその想いに正直――とは、言えなかったが応える事が出来た。
恋人としてキスをした。
お弁当を作ってあげた。
彼女の秘密と苦労を知った。
異性として求め合っている事を自覚した。
初めて恋人らしいデートをした。
良からぬ噂が流れたが二人で乗り切った。
最悪な男に弱みを握られたが、よくよく考えればなんという事も無かった。
友人とも本当の意味で打ち解けたと思う。
――そして、今、彼等は婚約者となった。
未成年の二人は、文字通りまだまだ子供。
どんなに愛があったとしても全てが自由になる程の力は無い。
些細な事で、悩み、喧嘩し、嫌いになるかもしれない。
そして、些細な事で、喜び、寄り添い、好きになるのだ。
嘗ての三年を取り戻す様に、これからの三年間を歩んで行く。
そして三十年後も手を携えているだろう。
ここから改めて、始まるのだ。
「俺は綾乃を――」
「私はユートを――」
――愛してる。
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