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王子の企み
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「これで良くなったはずです」
「……痛みが、なくなりました」
「おぉ、さすがヒロナだ」
包帯の上から手をどかす。無言のまま腕を動かしたルーフスさんは、不思議そうに角度を変えて眺めた。
「お力になれて良かったです。また痛みが戻ったり、何かあれば、いつでも教えてください」
「賢者様……ありがとうございます」
ぼんやり腕を眺めていたルーフスさんが、ハッとしたみたいに背筋を伸ばす。力強い紫の瞳が思いのほか近くにあり、急いで体を離した。治療のためだから自然なこととはいえ、彼に触れていたことを今になって実感する。
少しの間でもこの手がルーフスさんに触れていた。そう思うと、体温が上昇していく。少しだけ俯いた僕は、頬に生まれた熱をどう誤魔化そうかと頭を巡らせた。
「失礼します」
腕に手が置かれる。たったそれだけで、自分でも驚くほどにうろたえた。予期していなかった賢者様の治療。怪我を負った姿など見られたくなかったが、もう隠すこともできず、賢者様にゆだねる。
ぼうっと淡い光が灯った。日々、この国のために力を尽くす賢者様が、今だけは俺の事を考えている。ただの治療だというのに都合良く捉えた体は、燃えるように熱くなった。
触れている手のひらから、胸の高鳴りや、賢者様を独占して喜ぶ邪な心が伝わってしまわないよう願う。
どうか気づかないでくれと思っているうちに、幻想的な光は消えた。
「これで良くなったはずです」
「……痛みが、なくなりました」
「おぉ、さすがヒロナだ」
手がどけられてから腕を持ち上げてみる。賢者様が言った通り、さっきまであった痛みや傷の熱はすっかりなくなっていた。腕を動かし、角度を変えても何も違和感がない。
「お力になれて良かったです。また痛みが戻ったり、何かあれば、いつでも教えてください」
「賢者様……ありがとうございます」
礼も伝えずにぼんやりしていたことを思い出し、咄嗟に背筋を伸ばす。感謝が伝わるようしっかり見つめ、その後に頭を下げた。
「ルーフスの怪我が治って何よりだ……じきに城下の祭だからな」
治療とは関係の無い話題が突然湧き、嫌な予感を覚えながら隣を向く。どこか白々しいロズア王子はまた何か企みを抱いているのだとわかる。
「城下の祭……そういえばもうすぐでしたね」
「殿下が城下においでになるとは聞いておりません」
「あぁ、行くのは私ではない。ルーフスにも時には休息が必要だろうと思ってな。しかし一人で祭は浮いてしまうかもしれないな……」
強引に進んでいく話にため息を吐きそうになる。怪我も治ったのだし休みは必要ないと言おうとしたが、そんな隙も与えずに王子は言葉を続けた。
「そうだ、ヒロナは行かぬのか? おぬしであれば先約があっただろうか」
「いえ、僕は城から雰囲気を味わえれば十分です……一緒に行くような間柄の方もおりませんし」
一緒に行くような関係の人はいない。それは特別な相手がいないと考えても良いのだろうか。望んでいた答えを聞けた王子は、にやりと口角を上げた。
「そうか、ではヒロナが良ければルーフスと共に行ってくれぬか? こうでもしなければ休みを取らないのでな」
「っ、殿下、それは賢者様にご迷惑が」
「ルーフスさんと祭に……僕も城下のことを知りたかったので、こちらからお願いしたいくらいです」
予想もしていなかった流れに、焦りと期待感が生まれる。こんなに都合が良いことがあるのだろうか。
にやにやとした王子の笑みを視界の端で捉えながら、浮ついた気持ちをなんとか沈めようと必死になっていた。
「……痛みが、なくなりました」
「おぉ、さすがヒロナだ」
包帯の上から手をどかす。無言のまま腕を動かしたルーフスさんは、不思議そうに角度を変えて眺めた。
「お力になれて良かったです。また痛みが戻ったり、何かあれば、いつでも教えてください」
「賢者様……ありがとうございます」
ぼんやり腕を眺めていたルーフスさんが、ハッとしたみたいに背筋を伸ばす。力強い紫の瞳が思いのほか近くにあり、急いで体を離した。治療のためだから自然なこととはいえ、彼に触れていたことを今になって実感する。
少しの間でもこの手がルーフスさんに触れていた。そう思うと、体温が上昇していく。少しだけ俯いた僕は、頬に生まれた熱をどう誤魔化そうかと頭を巡らせた。
「失礼します」
腕に手が置かれる。たったそれだけで、自分でも驚くほどにうろたえた。予期していなかった賢者様の治療。怪我を負った姿など見られたくなかったが、もう隠すこともできず、賢者様にゆだねる。
ぼうっと淡い光が灯った。日々、この国のために力を尽くす賢者様が、今だけは俺の事を考えている。ただの治療だというのに都合良く捉えた体は、燃えるように熱くなった。
触れている手のひらから、胸の高鳴りや、賢者様を独占して喜ぶ邪な心が伝わってしまわないよう願う。
どうか気づかないでくれと思っているうちに、幻想的な光は消えた。
「これで良くなったはずです」
「……痛みが、なくなりました」
「おぉ、さすがヒロナだ」
手がどけられてから腕を持ち上げてみる。賢者様が言った通り、さっきまであった痛みや傷の熱はすっかりなくなっていた。腕を動かし、角度を変えても何も違和感がない。
「お力になれて良かったです。また痛みが戻ったり、何かあれば、いつでも教えてください」
「賢者様……ありがとうございます」
礼も伝えずにぼんやりしていたことを思い出し、咄嗟に背筋を伸ばす。感謝が伝わるようしっかり見つめ、その後に頭を下げた。
「ルーフスの怪我が治って何よりだ……じきに城下の祭だからな」
治療とは関係の無い話題が突然湧き、嫌な予感を覚えながら隣を向く。どこか白々しいロズア王子はまた何か企みを抱いているのだとわかる。
「城下の祭……そういえばもうすぐでしたね」
「殿下が城下においでになるとは聞いておりません」
「あぁ、行くのは私ではない。ルーフスにも時には休息が必要だろうと思ってな。しかし一人で祭は浮いてしまうかもしれないな……」
強引に進んでいく話にため息を吐きそうになる。怪我も治ったのだし休みは必要ないと言おうとしたが、そんな隙も与えずに王子は言葉を続けた。
「そうだ、ヒロナは行かぬのか? おぬしであれば先約があっただろうか」
「いえ、僕は城から雰囲気を味わえれば十分です……一緒に行くような間柄の方もおりませんし」
一緒に行くような関係の人はいない。それは特別な相手がいないと考えても良いのだろうか。望んでいた答えを聞けた王子は、にやりと口角を上げた。
「そうか、ではヒロナが良ければルーフスと共に行ってくれぬか? こうでもしなければ休みを取らないのでな」
「っ、殿下、それは賢者様にご迷惑が」
「ルーフスさんと祭に……僕も城下のことを知りたかったので、こちらからお願いしたいくらいです」
予想もしていなかった流れに、焦りと期待感が生まれる。こんなに都合が良いことがあるのだろうか。
にやにやとした王子の笑みを視界の端で捉えながら、浮ついた気持ちをなんとか沈めようと必死になっていた。
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