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番外編
無防備な王子様
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部屋に戻ると上品な石鹸の匂いがした。人の気配がして奥へ声をかける。
「オーウェン?」
「ユキ、戻ったのか」
声が返ってきた方へ近づくと濡れた赤い髪が見えた。ガウンを羽織っただけのオーウェンが俺に視線を投げる。窓の傍のイスでぼんやりしていた。
「大丈夫? 疲れてそうだね」
「平気だ。体を流したら少し気が抜けすぎた」
軽く口角を上げたオーウェン。いつもは王子らしくきちんとしているから、首元を開けたガウン姿のままぼうっと座っている彼は新鮮だった。
普段はセットされている髪が下りて、顔にかかっている。水滴がぽたぽたと垂れて首筋と鎖骨の下を濡らした。
オーウェンとの生活も慣れたと思っていたのに、肌を見せながらぼんやりする彼の色気に鼓動が速くなってくる。
目が引き寄せられるのに見てはいけない気がして視線をさ迷わせた。
「今日はもう休むの?」
「いや、ディランから受け取る物がある……あぁ、ちょうど来たな」
丁寧なノック音が部屋に広がる。立ち上がり俺の横を通ろうとしたらオーウェンの前に出て、道を塞いだ。
「どうした?」
この部屋をディランが訪ねてくることも、ディランから何かを受け取るのもいつも通りのことだ。しかしいつもとは違う行動をする俺にオーウェンは不思議そうな顔をした。
「俺が出るよ」
「別にそんなに疲れてるわけじゃないから気にするな」
オーウェンのことを気遣っての行動だと思ったのだろう。平気だと言うように肩に軽く手が置かれる。しかし俺はオーウェンの前からどかなかった。
「いや、そうじゃなくて……たとえディランさんにでも、そんな刺激的な姿のオーウェンを見せたくないんだよ」
できれば誤魔化したかったがそれはできないと悟り、素直に理由を口にする。拗ねたような嫉妬心を伝えたことが気恥ずかしく耳が熱を持った。
驚いた顔で固まったオーウェンを残し、俺は扉に近づく。
「失礼します、こちらを王子にお届けに参りました」
「ありがとうございます、ディランさん。渡しておきますね」
部屋にオーウェンがいることは知っていたのだろう。俺が受け取ると言うとディランは少し驚いた雰囲気を見せた。いつもなら何も言わずに部屋に招き入れるか、すぐにオーウェンを呼ぶからだろうか。
しかしそれ以上は何も言わず数枚の羊皮紙を俺の手に渡す。
「かしこまりました。おやすみなさい、ユキ様」
「おやすみなさい、ディランさん」
品の良い微笑みで挨拶を口にするディランにおやすみと返し扉を閉めた。受け取った羊皮紙をテーブルに置く。
オーウェンに向き直ると、こらえられないといったように、口元をゆるませて立っていた。
「……受け取りありがとう」
「どういたしまして」
少し楽しげな色を見せる瞳でオーウェンは俺を見る。そのまま近づき、抱きしめるように俺の腰に手を回した。
石鹸の香りが強くなり、ガウン越しにオーウェンの体温が伝わってくる。
「ユキには刺激的に見えるのか?」
「見えるよ。直視できないくらい」
「直視しないのか?」
「……どうだろう」
口元を緩ませ楽しそうなオーウェンが体を少し屈ませる。ちゅっという音とともに軽く唇が吸われた。濡れた前髪が少しだけ瞼に触れる。
「俺が同じような格好をしてたらオーウェンも誰にも会わせなそうだけど」
「あぁ、絶対に阻止する」
楽しげだった顔から一転、真剣な表情に変わったオーウェンは俺を閉じ込めるように腕の力を強くした。
「直視できない姿でユキとベッドに入りたい」
「……いいけど髪拭いてからね」
近くのソファにかかっていたタオルを取る。俺の意図に気づいたオーウェンが頭を下げた。
濡れていつもより暗い色の頭に優しくタオルをかける。
「オーウェン?」
「ユキ、戻ったのか」
声が返ってきた方へ近づくと濡れた赤い髪が見えた。ガウンを羽織っただけのオーウェンが俺に視線を投げる。窓の傍のイスでぼんやりしていた。
「大丈夫? 疲れてそうだね」
「平気だ。体を流したら少し気が抜けすぎた」
軽く口角を上げたオーウェン。いつもは王子らしくきちんとしているから、首元を開けたガウン姿のままぼうっと座っている彼は新鮮だった。
普段はセットされている髪が下りて、顔にかかっている。水滴がぽたぽたと垂れて首筋と鎖骨の下を濡らした。
オーウェンとの生活も慣れたと思っていたのに、肌を見せながらぼんやりする彼の色気に鼓動が速くなってくる。
目が引き寄せられるのに見てはいけない気がして視線をさ迷わせた。
「今日はもう休むの?」
「いや、ディランから受け取る物がある……あぁ、ちょうど来たな」
丁寧なノック音が部屋に広がる。立ち上がり俺の横を通ろうとしたらオーウェンの前に出て、道を塞いだ。
「どうした?」
この部屋をディランが訪ねてくることも、ディランから何かを受け取るのもいつも通りのことだ。しかしいつもとは違う行動をする俺にオーウェンは不思議そうな顔をした。
「俺が出るよ」
「別にそんなに疲れてるわけじゃないから気にするな」
オーウェンのことを気遣っての行動だと思ったのだろう。平気だと言うように肩に軽く手が置かれる。しかし俺はオーウェンの前からどかなかった。
「いや、そうじゃなくて……たとえディランさんにでも、そんな刺激的な姿のオーウェンを見せたくないんだよ」
できれば誤魔化したかったがそれはできないと悟り、素直に理由を口にする。拗ねたような嫉妬心を伝えたことが気恥ずかしく耳が熱を持った。
驚いた顔で固まったオーウェンを残し、俺は扉に近づく。
「失礼します、こちらを王子にお届けに参りました」
「ありがとうございます、ディランさん。渡しておきますね」
部屋にオーウェンがいることは知っていたのだろう。俺が受け取ると言うとディランは少し驚いた雰囲気を見せた。いつもなら何も言わずに部屋に招き入れるか、すぐにオーウェンを呼ぶからだろうか。
しかしそれ以上は何も言わず数枚の羊皮紙を俺の手に渡す。
「かしこまりました。おやすみなさい、ユキ様」
「おやすみなさい、ディランさん」
品の良い微笑みで挨拶を口にするディランにおやすみと返し扉を閉めた。受け取った羊皮紙をテーブルに置く。
オーウェンに向き直ると、こらえられないといったように、口元をゆるませて立っていた。
「……受け取りありがとう」
「どういたしまして」
少し楽しげな色を見せる瞳でオーウェンは俺を見る。そのまま近づき、抱きしめるように俺の腰に手を回した。
石鹸の香りが強くなり、ガウン越しにオーウェンの体温が伝わってくる。
「ユキには刺激的に見えるのか?」
「見えるよ。直視できないくらい」
「直視しないのか?」
「……どうだろう」
口元を緩ませ楽しそうなオーウェンが体を少し屈ませる。ちゅっという音とともに軽く唇が吸われた。濡れた前髪が少しだけ瞼に触れる。
「俺が同じような格好をしてたらオーウェンも誰にも会わせなそうだけど」
「あぁ、絶対に阻止する」
楽しげだった顔から一転、真剣な表情に変わったオーウェンは俺を閉じ込めるように腕の力を強くした。
「直視できない姿でユキとベッドに入りたい」
「……いいけど髪拭いてからね」
近くのソファにかかっていたタオルを取る。俺の意図に気づいたオーウェンが頭を下げた。
濡れていつもより暗い色の頭に優しくタオルをかける。
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素敵な作品をありがとうございました!
まさにそういった関係を目指しているので本当に嬉しいです!こちらこそ感想ありがとうございました!