死に戻りオメガはもう旦那様の言うことを聞きたくありません!

進木えい

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旦那様の願い

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「『死んでくれ』と、旦那様からのお達しです」
「…………」
 
 こんな瞬間にでも思い浮かぶのは旦那様、アルバの顔だった。冷酷残忍だと揶揄される彼。言葉は最低限、義務的に夫婦をこなしていた。それでも好きだった。
 戦が始まり、アルバは戦場に赴いた。戦況が芳しくないとは聞いている。領土に敵軍が攻め込んで来ていることは、目に見えている。明日にでも攻め落とされるであろう城の主人の部屋から城下町を見下ろす。彼が守ってきた美しい街だったのに、火の手が上がっている。
 アルバの腹心の部下が、リオールに告げたその言葉は、予想していなかったものだった。旦那の訃報でなかっただけマシか。部下はリオールに短剣を渡した。喉元を掻き切れば、簡単に死ねると教えてくれた。
 
「アルバは、生きているの……?」
「はい。しかし、アルバ様が攻め落とされるのも時間の問題だと思われます。近いうちに捕えられて処刑されるか、戦死するか、二つに一つです」
 
 苦しそうな顔をしている。腹心の部下をこんなところに寄越して、アルバは今、どんな状況なのだろう。少しでも戦力が欲しいはずなのに。
 
「俺が死んだのを見守ったら、アルバのところへ戻りますか?」
「はい。そうせよ、とのお達しなので」
「分かりました」
 
 飲み掛けの紅茶に口をつけなかった。結婚式の日に贈られた指輪を、紅茶の隣に置いた。手紙を一筆書いた。最後に家紋を押して、彼の部下に渡す。
 
「これは……?」
「……アルバがもし捕えられたら、俺の実家にこれをお渡しください。アルバの助命を依頼するものです」
「拝命いたします」
 
 短剣を逆手に持った。『死んでくれ』と。人伝であったものの最期に聞いた旦那の言葉は、自分の死を願うものだった。涙が溢れる。誰にも愛されない人生だったな。目を閉じる。勢いよく喉元を一の字に掻き切った。苦しくて、前のめりに倒れ込むと机ごと床に体が落ちた。視界が赤い。もう目を開けていられなくて、もう何も見えなくて、苦しくて。ただ血の気が引いて冷たくなっていく体。もう楽になれるのだと抗わずに目を閉じた。
 
 
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