死に戻りオメガはもう旦那様の言うことを聞きたくありません!

進木えい

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緑と縁

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 クロードは先にいて、部屋に色んなものを用意していた。地図に、王家の家系図、色んなものが広がっていた。書斎の一番上等な肘置きのある椅子にフォスが腰掛け、足を組む。
 
「……? 貴様らも座れ」
「遠慮とかないんだよ、この子。さあアルバ殿も座って」
「遠慮する必要があるのか。私が一番由緒正しき血筋だ。貴様らとは歴史が違う」
「はいはい。飲み物いる?」
 
 フォスは目線だけクロードに送り、クロードはレモンの入った水を注ぐ。アルバの分も用意された。クロードのお手製だという。
 
「男爵家の家系図、辿れる限り書け」
「家系図……」
「お前の父母の出自は分かるだろう」
 
 父が平民出身であることは知っている。騎士崩れの実際傭兵の様なものだっただろう。戦争の際に功績を上げて、爵位と領土を授かった。母は、記憶にない。子爵の娘だったのではなかっただろうか。母の腹違いの姉妹に王子の母親がいる。
 
「お前の母君の兄弟、行方不明になっている人が一人いる。王家にオメガは入れない。最近いくらバースに関する差別意識の低下があると言えども、王家にだけは許されない。この人はオメガなのだろうな」
「…………消えた、オメガ」
「あくまでも噂だ。歴史の中で王家に近い家から人が消えることはよくある」
「フォス。話が逸れてるよ」
「ああ。そうだった。お前、公爵家から男爵家に嫁入りさせるなんて有り得ない。私に対する嫌がらせだとしても、他にも意図がありそうだと見る。あのクソ女の意図が。お前、心当たりはないのか。結婚の条件」
 
 クソ女は公爵夫人のことね、とクロードから耳打ちをされる。公爵夫人との結婚についての話し合い。アルバは腕を組んで考えた。人生一度分とくらい前の事なのだ。フォスは明らかに苛立っている顔をしている。
 
「鉱山」
「……あ、そんなこと言っていたな」
「エメラルドが出る鉱山だ。あの女は特に緑を好いており、同じ色を身につけて社交界出てくる女どもをいびるくらいだ」
「緑へのこだわり、ね。フォスも目が緑だよね。綺麗」
 
 フォスは旦那をゴミを見る様な目で見た。それ夫を見る目じゃない。嫌いな継母の好きなものと結びつけられたのがよほど嫌な様だった。リオールから継母の話はあまり出てこないが、まあいい思い出はないのだろう。フォスは尚更だ。
 
「違う。茶化したつもりはないんだよ。公爵様は、瞳が緑だよね。リオールくんはブラウンだけど」
「うちはあと二人、クソ女の実子がいるが、二人とも緑の瞳ではない」
 
 とんとんとフォスは自分の唇を指で叩く。この前の不安定な様子とは違い、アルバは感心した。
 
「問題は、なぜ鉱山で宝石が掘れることを知っていたかという話だ。お前が領主になった後、もっと言うとアレと結婚した後、初めて、王家に申告した。間違いないな」
「ああ。確かにそうだ」
「あの女、何故知っていたんだ…………、何故……、なぜ…………」
 
 フォスは黙り込み、そのまま喋ることは無くなった。クロードが代わりにアルバと話を続けていく。
 
「お父上との思い出はないのかな」
「……ほっこりする様な思い出はない。殺されかけたことは両手の数では足りない。あの男は母が亡くなった後、後妻を迎えることはなかったが……、女は出入りしていたと思う」
「女……。どんな方だったかとか覚えているかい」
 
 アルバは子ども時代のことを思い出す。意味があるかはわからない。父親とのことはほとんどいい思い出がない。
 
「娼婦から、メイドから、何処ぞから家紋を隠した馬車でくる高貴な方もいた。あの男は母の服を女達に貸していた。こんな時代遅れの服はいらないと、暖炉に焚べられたこともあったな」
「ああそう……なんかごめんね」
「暖炉の中から母の形見のナイフを見つけた。多分ドレスの中にしまってあったのだと思う。自分を傷つけるものか、父を傷付けたいがために持っていたか分からないが貴族の令嬢が傭兵上がりの父に傷を付けられるとは思えない。きっとお守りの様なものだったと、思っている」
 
 そして、父を殺す大義名分を貰ったと思った。復讐心は父が油断する時まで尖らせた。父は人を信用しない人だったから、用心深く用心深く、形見のナイフを研いで時を待った。
 
「……俺、暖かい飲み物持ってくる様に頼んでくるね」
「? ああ」
 
 フォスは今だに唇をとんとんと指で触り、考え事を続けている。クロードが飲み物を淹れてきて、並べた時もフォスは無言だった。
 
「アルバ殿。多分こうなるとフォスはしばらく考え込むから、休もうか」
「……少しでも、リオールの顔を見せてもらえないか」
 
 クロードは唇の前に指を置き、ナイショと言った。クロードとは書斎を出て分かれた。アルバはリオールの部屋の前に行き、扉を開けた。リオールはただ静かに寝息を立てていた。良かったとホッと息を吐く。額にかかった髪を払う。
 子どもの頃から研いだナイフを、アルバはリオールの前では鞘にしまう。ただ彼を守る刃になれればいいのだ。
 
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