幼なじみのあなたを好きだとなぜか誤解されているようで不愉快なので、どうぞ私なしで生きていってください

麻宮デコ@SS短編

文字の大きさ
1 / 4

しおりを挟む
 フローラ(16)……マーブル村の鍛冶工房に勤めている鍛冶見習い。

 ハインツ(20)……フローラの相方の鍛冶見習い。力が強い。フローラとは幼なじみでもある。


 * * * 


「フローラ、今度の夏祭りに一緒に行かないか?」

「いいねえ。この斧の仕上げが終わってからだけどね」

 ここは鍛冶場の工房。斧の柄付けや研ぎなどは比較的気楽な作業の方だから、ついついお喋りしてしまう。

 フローラとハインツが夏祭りの話題で盛り上がっていれば、師匠から「そこ、口より手を動かせ!」と叱られ、二人して首を竦めた。

 二人は幼なじみでもあり、仕事上の相棒でもあって気心が知れている仲だった。

「ほら、これは俺が運ぶよ」

「あ、ありがと」

 フローラが重さでふらふらになりながら運んでいる鉄材や冷却水などを男のハインツはけろっともっていってしまう。

 男の職場と言われる鍛冶屋に特別体が大きいわけでも丈夫というわけでもない普通の体格の女性フローラがいるのは、単にこの仕事が好きだからである。

 フローラは男ほど体力がないし、ハインツはフローラほどの細心さと繊細さがなかったため、その辺りはフローラが請け負っていて、お互いカバーをしあって過ごしていた。

 しかし、作業場を出ればフローラはただの一人の女の子だ。

 休みの日は村の女友達と遊びに行くことだってある。

 今日は仲良しなエレインと店を冷やかしながら歩いていた。
 
「もうすぐ夏祭りね。フローラはどうするの?」

 やはり村に住む者にとって大きな話題は、もうすぐ開催される夏祭りだ。みんな楽しみにしているのだろう。

「私はハインツと一緒に行くつもりだよ」

 あ、これ、可愛いね、と売り物のカップを手に取りながら、エレインの質問にフローラは何気なく答えた。そんなフローラをエレインはなんとも言えない顔をしてみていたが。

「…………。ねえ、フローラ、貴方、ハインツと付き合ってるの?」

 唐突なエレインの不躾ぶしつけな質問にフローラは眉をひそめる。

「はあ? そんなわけないでしょ?」

「だって、ずっと一緒にいるじゃない。職場でも一緒なだけでなく、お祭りまで一緒にいくなんて」

「誘われたから行くだけよ」

「フローラ、あなたって村の男の子に人気あるのに……幼馴染とずっと一緒にいるから、みんなあなたたちのことを邪推しちゃうのよ?」

「人気ある? そんなわけないって! それに今の私には、恋人作りとかより仕事の方が大事だしね」

 そんな相手ではないと全力でエレインの言葉を否定し、笑った次の日のことだった。
 
 師匠がにやにや笑いながらハインツに『隣の大工のオヤジから口利きを頼まれたんだけどよぉ』と話しかけてきた。

 そこにいるフローラも、別に聞き耳を立てるわけではなかったが、一緒になって話をきくこととなってしまった。

「ハインツ、お前に見合いの話が来ている」

 その言葉にフローラは「わぁ!」と両手を売って面白がり、ハインツは照れて真っ赤になった。
 
「へー、ハインツ、おめでとう! 式には呼んでよ」

「まだ相手の娘と会ってもないんだぞ!? 気が早いって!」

「ハインツがいいなら会ってみるか?」

 その言葉と場に流された形となってハインツが頷き、アンナという隣村の女性と見合いすることになったのだが、その噂は狭い村の中で、あっという間に広がった。

 その後、顔合わせをしたハインツとアンナは幸いにもお互いを気に入ったようで、結婚を前提のお付き合いも順調に進んでいっているようなのだが。

 そんな中でフローラは何度も、村の人からこっそりと尋ねられていた。

「フローラ、お前いいのか?」 

「なにが?」
 
「お前、ハインツのこと好きなんじゃないの?」
 
「幼馴染ってだけだってば」

 ハインツの婚約でなぜかフローラが気遣われることがあって当惑してしまった。他の人もフローラを物言いたげに見ている気がするし。
 
「すまない、夏祭りの約束していたのに行けそうにない」

「そりゃそうでしょ。婚約者と行きなさいよ」

 そしてなぜかハインツまでも済まなそうな顔をしているのも解せなくて、フローラは彼の肩を笑って頑張れ、と叩いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

友達にいいように使われていた私ですが、王太子に愛され幸せを掴みました

麻宮デコ@SS短編
恋愛
トリシャはこだわらない性格のおっとりした貴族令嬢。 友人マリエールは「友達だよね」とトリシャをいいように使い、トリシャが自分以外の友人を作らないよう孤立すらさせるワガママな令嬢だった。 マリエールは自分の恋を実らせるためにトリシャに無茶なお願いをするのだが――…。

【完結】お金持ちになりましたがあなたに援助なんてしませんから! ~婚約パーティー中の失敗で婚約破棄された私は商人として大成功する~

新川ねこ
恋愛
ざまぁありの令嬢もの短編をまとめた短編集です。 投稿した短編を短編集としてまとめた物なので既にお読みいただいている物もあるかもしれません。

私の真似ばかりをしている貴方は、私より上に届くことはできないの

麻宮デコ@SS短編
恋愛
レオノーラは社交界のファッションリーダーと呼ばれるほどのお洒落好きである。 ビビアンはそんなレオノーラの恰好をいつも真似ばかりしている。 レオノーラが髪型を変えれば髪型を、ドレスのデザインを変えれば、即座にその真似をして同じものを揃えるという具合に。 しかしある日とうとうビビアンが「レオノーラは私の真似をしているのだ」と言い出すようになってしまい……。 全5話

【完結】なんで、あなたが王様になろうとしているのです?そんな方とはこっちから婚約破棄です。

西東友一
恋愛
現国王である私のお父様が病に伏せられました。 「はっはっはっ。いよいよ俺の出番だな。みなさま、心配なさるなっ!! ヴィクトリアと婚約関係にある、俺に任せろっ!!」  わたくしと婚約関係にあった貴族のネロ。 「婚約破棄ですわ」 「なっ!?」 「はぁ・・・っ」  わたくしの言いたいことが全くわからないようですね。  では、順を追ってご説明致しましょうか。 ★★★ 1万字をわずかに切るぐらいの量です。 R3.10.9に完結予定です。 ヴィクトリア女王やエリザベス女王とか好きです。 そして、主夫が大好きです!! 婚約破棄ざまぁの発展系かもしれませんし、後退系かもしれません。 婚約破棄の王道が好きな方は「箸休め」にお読みください。

【完結】その人が好きなんですね?なるほど。愚かな人、あなたには本当に何も見えていないんですね。

新川ねこ
恋愛
ざまぁありの令嬢もの短編集です。 1作品数話(5000文字程度)の予定です。

彼は私たち双子姉妹のどちらも好きなので片方と結婚できればもう片方も得られると思っていたようです

麻宮デコ@SS短編
恋愛
男爵令嬢である勝気なエルドラと大人しいプリシラは双子の姉妹で仲がいい。 子爵令息のランドルはそんな二人の幼馴染で、二人とも彼と仲がよかったが彼がプロポーズしたのはプリシラの方だった。 エルドラは一人で寂しい気持ちを感じていたが我慢をし、それとなく二人から距離を置くようにするつもりだったが、ランドルは今までと変わらない態度でエルドラに接してきていて、当惑していた――。 全4話

婚約者は迷いの森に私を捨てました

天宮有
恋愛
侯爵令息のダウロスは、婚約者の私ルカを迷いの森に同行させる。 ダウロスは「ミテラを好きになったから、お前が邪魔だ」と言い森から去っていた。 迷いの森から出られない私の元に、公爵令息のリオンが現れ助けてくれる。 力になると言ってくれたから――ダウロスを、必ず後悔させてみせます。

悪いのは全て妹なのに、婚約者は私を捨てるようです

天宮有
恋愛
伯爵令嬢シンディの妹デーリカは、様々な人に迷惑をかけていた。 デーリカはシンディが迷惑をかけていると言い出して、婚約者のオリドスはデーリカの発言を信じてしまう。 オリドスはシンディとの婚約を破棄して、デーリカと婚約したいようだ。 婚約破棄を言い渡されたシンディは、家を捨てようとしていた。

処理中です...