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クレア(17)……主人公。ディアイ伯爵家の娘。もの静かで慎み深い。
メルディナ(18)……クレアの姉。可愛らしく愛嬌があるがワガママで周囲を振り回す。
アレス ……ダラン公爵家の嫡子。当代1の貴公子と名高い
* * *
「あの枝の先にある葉っぱが一番綺麗だわ。誰かとってきてくれないかしら」
小首をかしげて、潤んだ大きな瞳で周囲にかしずく男の子たちを見つめるメルディナ。
まだ10にも満たないのに美しく育ち、愛らしい彼女の言葉をきくと、我先に、と少年たちはその木に向かって突進していった。
(もう、お姉さまったら、あんなことを言って……誰も怪我しなければいいけれど)
見慣れているその様子はまるで宗教のようだ。姉が教祖で、取り巻きは信者。
クレアは毎度のことだと呆れながらも見守っていた。
8歳のクレアでも姉の高慢で危うい態度にはらはらしてしまうのに、メルディナの周囲には彼女の言う言葉に全て「ごもっとも」と頷く男しかいない。
今日もメルディナの提案で、大人に内緒で勝手に森の中に入り込んでしまっている。
ここは猟場でもあって、子供が入り込んで興奮した獲物と出会ったり、猟犬や矢に当たって大ケガをする可能性だってあるというのに。
姉を止めきれなかったクレアは男の子たちが高いところから飛び降りて勇気があるところを愛しいメルディナに見せようとするのを、必死に止める役割をしていた。
既に挑戦して失敗でもしたのだろうか。一人、びっこを引いている男の子を見つけると手招きをする。
「そこの貴方、こちらにいらっしゃいな」
名前も知らないメルディナの取り巻きは、幸い慣れない森歩きに足をくじいてしまっただけのようだった。
クレア以外は彼の様子に誰も気づいていなかった。
みんなメルディナのことに夢中なのだから当然といえば当然である。
「この草の根を叩き潰して塗れば、腫れがおさまるのよ。足を見せてちょうだい」
「そんなみっともないことできるわけないだろ!」
腫れた足を隠すようにして後ずさりする男の子。
ケガをしていることも弱みと思い、他のライバルたちに負けたくない少年らしい見栄の張り方は、こういう場所では困ってしまうので、クレアはさらに続けた。
「その足で森の外まで行けるの? 誰も貴方をおぶってあげられないわよ」
「うるせえ、ブス! ほっとけよ!」
そういうと、足を引きずってメルディナの方に戻って行ってしまった。
仕方なくクレアは姉に頼んで、彼に治療を受けるよう命じるようお願いをすると、姉は妹のお願いを聞いてくれる。
妹に優しい姉の姿を周囲に見せるのが好きなメルディナは、人前でクレアと仲良くするのを好んでいるのだ。
そしてメルディナの言うことならケガをした彼も素直に聞いてくれ、治療をさせてくれたのでほっとした。
容姿が美しく、しかもトラブルメーカーの姉を持つ妹の役割は、常にその尻ぬぐいと引き立て役だ。
物心ついた時から常にメルディナについて回り、好きな女の子の気を引きたくて無茶をしそうになるやんちゃ坊主たちを見張っている。
たいていはメルディナが「やろう」というような無茶ぶりを止める係だ。
彼らの行動の度が過ぎそうなら大人を呼んできたりもしたから彼らには「余計なことをして」と常に恨まれて嫌われるという損な役回りだったが。
(仕方ないわね。)
そう、諦めながら日々、生きていた。
姉が周囲にもたらす被害を最小限に抑えよう。そう尽力しながら。
メルディナ(18)……クレアの姉。可愛らしく愛嬌があるがワガママで周囲を振り回す。
アレス ……ダラン公爵家の嫡子。当代1の貴公子と名高い
* * *
「あの枝の先にある葉っぱが一番綺麗だわ。誰かとってきてくれないかしら」
小首をかしげて、潤んだ大きな瞳で周囲にかしずく男の子たちを見つめるメルディナ。
まだ10にも満たないのに美しく育ち、愛らしい彼女の言葉をきくと、我先に、と少年たちはその木に向かって突進していった。
(もう、お姉さまったら、あんなことを言って……誰も怪我しなければいいけれど)
見慣れているその様子はまるで宗教のようだ。姉が教祖で、取り巻きは信者。
クレアは毎度のことだと呆れながらも見守っていた。
8歳のクレアでも姉の高慢で危うい態度にはらはらしてしまうのに、メルディナの周囲には彼女の言う言葉に全て「ごもっとも」と頷く男しかいない。
今日もメルディナの提案で、大人に内緒で勝手に森の中に入り込んでしまっている。
ここは猟場でもあって、子供が入り込んで興奮した獲物と出会ったり、猟犬や矢に当たって大ケガをする可能性だってあるというのに。
姉を止めきれなかったクレアは男の子たちが高いところから飛び降りて勇気があるところを愛しいメルディナに見せようとするのを、必死に止める役割をしていた。
既に挑戦して失敗でもしたのだろうか。一人、びっこを引いている男の子を見つけると手招きをする。
「そこの貴方、こちらにいらっしゃいな」
名前も知らないメルディナの取り巻きは、幸い慣れない森歩きに足をくじいてしまっただけのようだった。
クレア以外は彼の様子に誰も気づいていなかった。
みんなメルディナのことに夢中なのだから当然といえば当然である。
「この草の根を叩き潰して塗れば、腫れがおさまるのよ。足を見せてちょうだい」
「そんなみっともないことできるわけないだろ!」
腫れた足を隠すようにして後ずさりする男の子。
ケガをしていることも弱みと思い、他のライバルたちに負けたくない少年らしい見栄の張り方は、こういう場所では困ってしまうので、クレアはさらに続けた。
「その足で森の外まで行けるの? 誰も貴方をおぶってあげられないわよ」
「うるせえ、ブス! ほっとけよ!」
そういうと、足を引きずってメルディナの方に戻って行ってしまった。
仕方なくクレアは姉に頼んで、彼に治療を受けるよう命じるようお願いをすると、姉は妹のお願いを聞いてくれる。
妹に優しい姉の姿を周囲に見せるのが好きなメルディナは、人前でクレアと仲良くするのを好んでいるのだ。
そしてメルディナの言うことならケガをした彼も素直に聞いてくれ、治療をさせてくれたのでほっとした。
容姿が美しく、しかもトラブルメーカーの姉を持つ妹の役割は、常にその尻ぬぐいと引き立て役だ。
物心ついた時から常にメルディナについて回り、好きな女の子の気を引きたくて無茶をしそうになるやんちゃ坊主たちを見張っている。
たいていはメルディナが「やろう」というような無茶ぶりを止める係だ。
彼らの行動の度が過ぎそうなら大人を呼んできたりもしたから彼らには「余計なことをして」と常に恨まれて嫌われるという損な役回りだったが。
(仕方ないわね。)
そう、諦めながら日々、生きていた。
姉が周囲にもたらす被害を最小限に抑えよう。そう尽力しながら。
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