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いつものように目覚めを知らせる声で覚醒したアンテリーゼ・フォン・マトヴァイユは、大きなあくびをして背伸びをして三拍後、夢の内容を思い出し、目をひん剥いて喉元に慌てて手を添えた。
「死んでない!?」
「お嬢様、大声ははしたないですよ。なんですか、まだ夢心地でいらっしゃいますか?」
山木色の薄手のカーテンに留め具をかけながら、侍女のユイゼルゼが呆れた声を出した。
はた、と視線を向ければ彼女は苦笑しながら寝台の机の横に置いてある水差しを持ち上げ、真新しいグラスに水を注ぎこんで、トレイの上に置いてアンテリーゼに笑って促す。
「さあさあ、今日は大忙しですから時間があまりありませんよ。今日は午後からお茶会の予定でしょう」
ユイゼルゼは言い終わるや否や、洗顔の用意をするために部屋を退出していってしまった。
「わたし……。夢を見ていたのね」
人生において明らかに大きな事件と呼ぶべくの自分の婚約破棄騒動の裏側で起こっていた事案。
思い出すと頭痛がしてくるが、終わったことなのでこれはもう忘れるしか頭痛を治す薬がない。
アンテリーゼは寝台から立ち上がると、バルコニーに面した大きな窓に歩み寄った。両手を組んで思いっきり伸びると、まだ早い朝の光が柔らかく全身を包み込むのを感じる。
「いい天気ね」
今日の日が、まるで夢のようだと独り言ちながらアンテリーゼは窓をそっと開けて、バルコニーに出た。
少し寒い暖かな春の日差しを受けた空気が体を覆い、熱を奪い始める。
眼下に広がるのは、素朴だけど丁寧に手入れされた小さな庭。その直ぐ先には人々が馬車を走らせる道があり、夜を照らす街灯の明かりはすっかり消え去っている。
「新しい一日が始まるのね」
真っすぐに眼下の景色を眺めながらアンテリーゼは呟いた。
ひんやりとした空気に冷やされた右手の指輪が存在を主張し、アンテリーゼは左の人差し指でそっと表面を撫でる。
さあ、新しい今日のために令嬢たちを迎える支度をはじめなければ。
バルコニーに背を向けて室内を見れば、両手からお湯の入った手桶を落として慌てふためいているユイゼルゼと、朝食前の紅茶とフルーツを持ってきたエリーゼの姿が目に留まる。
これからは、わたしをちゃんと楽しもう。
アンテリーゼは笑いながら後ろ手に窓をそっと閉めた。
(Fin)
「死んでない!?」
「お嬢様、大声ははしたないですよ。なんですか、まだ夢心地でいらっしゃいますか?」
山木色の薄手のカーテンに留め具をかけながら、侍女のユイゼルゼが呆れた声を出した。
はた、と視線を向ければ彼女は苦笑しながら寝台の机の横に置いてある水差しを持ち上げ、真新しいグラスに水を注ぎこんで、トレイの上に置いてアンテリーゼに笑って促す。
「さあさあ、今日は大忙しですから時間があまりありませんよ。今日は午後からお茶会の予定でしょう」
ユイゼルゼは言い終わるや否や、洗顔の用意をするために部屋を退出していってしまった。
「わたし……。夢を見ていたのね」
人生において明らかに大きな事件と呼ぶべくの自分の婚約破棄騒動の裏側で起こっていた事案。
思い出すと頭痛がしてくるが、終わったことなのでこれはもう忘れるしか頭痛を治す薬がない。
アンテリーゼは寝台から立ち上がると、バルコニーに面した大きな窓に歩み寄った。両手を組んで思いっきり伸びると、まだ早い朝の光が柔らかく全身を包み込むのを感じる。
「いい天気ね」
今日の日が、まるで夢のようだと独り言ちながらアンテリーゼは窓をそっと開けて、バルコニーに出た。
少し寒い暖かな春の日差しを受けた空気が体を覆い、熱を奪い始める。
眼下に広がるのは、素朴だけど丁寧に手入れされた小さな庭。その直ぐ先には人々が馬車を走らせる道があり、夜を照らす街灯の明かりはすっかり消え去っている。
「新しい一日が始まるのね」
真っすぐに眼下の景色を眺めながらアンテリーゼは呟いた。
ひんやりとした空気に冷やされた右手の指輪が存在を主張し、アンテリーゼは左の人差し指でそっと表面を撫でる。
さあ、新しい今日のために令嬢たちを迎える支度をはじめなければ。
バルコニーに背を向けて室内を見れば、両手からお湯の入った手桶を落として慌てふためいているユイゼルゼと、朝食前の紅茶とフルーツを持ってきたエリーゼの姿が目に留まる。
これからは、わたしをちゃんと楽しもう。
アンテリーゼは笑いながら後ろ手に窓をそっと閉めた。
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