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第12話 森の精霊たちとカラムの火酒
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「行くのか」
鍛冶場の入口で、グリンが腕を組んで俺を見下ろす。いや、身長は俺よりずっと低いのだが、不思議とその視線には重みがあった。
「行くさ。ここで打ったものを、今度は振るう番だ」
「バルドリックの城は湖の上にある。遠いぞ。妖精王を討つ前に剣を盗まれるなよ」
「肝に銘じておくよ」
笑い合った俺たちは強く握手した。ドヴェルグたちの手は分厚く熱かった。長い土と火との暮らしが、そのまま掌に詰まっているようだった。
俺は『フィークンスヴェルズ』を背に負い、森の道を歩み始めた。
剣を手にしたせいか、森の空気は以前より静かに感じられた。木々のざわめきもどこか敬意を含んでいるように思えたのは気のせいか。あるいは、剣の持つ力が、森の理に小さな波紋を投げているのかもしれない。
数日、俺は彷徨い続けた。バルドリックの城へは、どれほどの森を抜けねばたどり着けないのだろうか。
そしてその途中、俺は出会った――
「おおおおおぉぉおぉいっ!人の子じゃ!人の子が一人で歩いておるぞいっ!」
どこか間延びした声が森に響いた。次の瞬間、俺の目の前に、キノコのような帽子をかぶった精霊が現れた。
ドヴェルグたちに似ているが、肌が紅葉した木の葉のような赤茶色、太鼓腹の割に手足がヒョロリと細い。
「あんた、誰だ?」
「わしはカラム!森の祝宴の精霊じゃ!」
カラムは言うが早いか、どこからか酒瓶のようなものを取り出して、ぐいっと一口。中身は火を吹くように強いらしく、頭からきのこ帽がポンと弾けるように浮き上がった。
「お、おい...それ大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃ!ふぅ腹の中が燃える♪」
気がつけば周囲には他にも精霊たちが集まっていた。草の冠をかぶりフワフワと風のように身軽な子、石のような肌の精霊、小さな土の精霊たち。
「人の子よ、ここでひと息ついてゆけ。お主からは鉄の匂いと火の名残がするな」
「歓迎されてるのか?」
「もちろんじゃとも!今宵は宴じゃ、森の真ん中でな!」
その夜、俺は彼らと共に宴を囲んだ。
火酒と呼ばれる甘くて熱い酒を一口飲めば、舌の奥がじんじん痺れ、鼻の奥で焔が舞った。どうやらこれは森にしかない果実を発酵させて蒸留した霊酒らしい。
食卓には、まるで小さな太陽のような果実や、ふわふわと柔らかそうな黄色い実が並び、どれもほんの少し齧るだけで体がじんわりと温まった。
「こいつぁ、炙ったキノコじゃぞ!歯ざわりがたまらん!」
「人の子の口に合うかな?これは木の葉と果実をたっぷり煮たスープじゃ!」
カラムたち精霊の明るさは、ドヴェルグたちのユーモアとはまた違う、軽やかで陽気なものだった。
翌朝...
俺は出発しようとしたが、異様な疲労感のため体調の回復を待った方が良いかもしれないと感じた。
カラムたちも歓迎してくれている。
慣れない暮らしと旅のせいもあるだろうが、この異世界に来てから妙に疲れやすくなっている。
ある夕暮れ。
焚き火の周囲に集まり、火酒の盃を回しながら、ドヴェルグたちに請われて鍛冶談義に花を咲かせていると...
ひとりの精霊が、ふと首をかしげた。
「妙じゃのう。風の精が言うとる。人の子のそばからはいつも『冷たい気』が立ち上っておると」
「冷たい?」
「うむ。底冷えするような闇を感じると」
ざわ、と小さな葉音のようなざわめきが広がった。
誰もが視線を交わし、そして俺を見つめる。
土の精の一人が指差して言う。
「あぁ...それぇぇぇ」
それは...俺のかたわらに置いた魔剣『フィークンスヴェルズ』だった。
焚き火に照らされてうっすらと浮かび上がる。
剣の形となったその金属は鈍い輝きを放ち、禍々しい気配を漂わせていた。
カラムが眉をひそめ、ぽつりと漏らした。
「人の子よ。お主のその剣...人のために振るう剣には見えぬ」
その場に一瞬、焚き火のはぜる音だけが残った。
だが俺は、その視線を正面から受け止める。
カラムはしばし黙り、火酒の盃をゆっくり回した後、ぽん、と膝を打った。
「なあ、人の子よ...」
盃をぐいっと干しながら、どこか寂しげな目で、だがまっすぐな声で問いかけた。
「お主...なんでそんな物騒な剣を持っておる?」
それはただの好奇心ではない。
精霊のひとりとして、火を愛し木を愛し土を愛する者として。
人の子が持つにはあまりにも重く、哀しい『意志』のこもった剣に込められた意味を...
彼は静かに問おうとしていた。
そして俺はその問いに静かに向き合う。
俺はしばらく黙った後、静かに『フィークンスヴェルズ』を鞘から少しだけ引き抜き、その青黒い輝きを見せた。
「世界を、少しだけ変えたいんだ。終わらせたいものがある」
カラムは目をつぶり、腕を組み、しばらく思いに耽っているようだった。
そして、大きく笑った。
「そうかそうか! 大それたことじゃ! そりゃあ楽しい!」
+++++++++++++++
週1話くらいのペースで続きを上げていく予定です
鍛冶場の入口で、グリンが腕を組んで俺を見下ろす。いや、身長は俺よりずっと低いのだが、不思議とその視線には重みがあった。
「行くさ。ここで打ったものを、今度は振るう番だ」
「バルドリックの城は湖の上にある。遠いぞ。妖精王を討つ前に剣を盗まれるなよ」
「肝に銘じておくよ」
笑い合った俺たちは強く握手した。ドヴェルグたちの手は分厚く熱かった。長い土と火との暮らしが、そのまま掌に詰まっているようだった。
俺は『フィークンスヴェルズ』を背に負い、森の道を歩み始めた。
剣を手にしたせいか、森の空気は以前より静かに感じられた。木々のざわめきもどこか敬意を含んでいるように思えたのは気のせいか。あるいは、剣の持つ力が、森の理に小さな波紋を投げているのかもしれない。
数日、俺は彷徨い続けた。バルドリックの城へは、どれほどの森を抜けねばたどり着けないのだろうか。
そしてその途中、俺は出会った――
「おおおおおぉぉおぉいっ!人の子じゃ!人の子が一人で歩いておるぞいっ!」
どこか間延びした声が森に響いた。次の瞬間、俺の目の前に、キノコのような帽子をかぶった精霊が現れた。
ドヴェルグたちに似ているが、肌が紅葉した木の葉のような赤茶色、太鼓腹の割に手足がヒョロリと細い。
「あんた、誰だ?」
「わしはカラム!森の祝宴の精霊じゃ!」
カラムは言うが早いか、どこからか酒瓶のようなものを取り出して、ぐいっと一口。中身は火を吹くように強いらしく、頭からきのこ帽がポンと弾けるように浮き上がった。
「お、おい...それ大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃ!ふぅ腹の中が燃える♪」
気がつけば周囲には他にも精霊たちが集まっていた。草の冠をかぶりフワフワと風のように身軽な子、石のような肌の精霊、小さな土の精霊たち。
「人の子よ、ここでひと息ついてゆけ。お主からは鉄の匂いと火の名残がするな」
「歓迎されてるのか?」
「もちろんじゃとも!今宵は宴じゃ、森の真ん中でな!」
その夜、俺は彼らと共に宴を囲んだ。
火酒と呼ばれる甘くて熱い酒を一口飲めば、舌の奥がじんじん痺れ、鼻の奥で焔が舞った。どうやらこれは森にしかない果実を発酵させて蒸留した霊酒らしい。
食卓には、まるで小さな太陽のような果実や、ふわふわと柔らかそうな黄色い実が並び、どれもほんの少し齧るだけで体がじんわりと温まった。
「こいつぁ、炙ったキノコじゃぞ!歯ざわりがたまらん!」
「人の子の口に合うかな?これは木の葉と果実をたっぷり煮たスープじゃ!」
カラムたち精霊の明るさは、ドヴェルグたちのユーモアとはまた違う、軽やかで陽気なものだった。
翌朝...
俺は出発しようとしたが、異様な疲労感のため体調の回復を待った方が良いかもしれないと感じた。
カラムたちも歓迎してくれている。
慣れない暮らしと旅のせいもあるだろうが、この異世界に来てから妙に疲れやすくなっている。
ある夕暮れ。
焚き火の周囲に集まり、火酒の盃を回しながら、ドヴェルグたちに請われて鍛冶談義に花を咲かせていると...
ひとりの精霊が、ふと首をかしげた。
「妙じゃのう。風の精が言うとる。人の子のそばからはいつも『冷たい気』が立ち上っておると」
「冷たい?」
「うむ。底冷えするような闇を感じると」
ざわ、と小さな葉音のようなざわめきが広がった。
誰もが視線を交わし、そして俺を見つめる。
土の精の一人が指差して言う。
「あぁ...それぇぇぇ」
それは...俺のかたわらに置いた魔剣『フィークンスヴェルズ』だった。
焚き火に照らされてうっすらと浮かび上がる。
剣の形となったその金属は鈍い輝きを放ち、禍々しい気配を漂わせていた。
カラムが眉をひそめ、ぽつりと漏らした。
「人の子よ。お主のその剣...人のために振るう剣には見えぬ」
その場に一瞬、焚き火のはぜる音だけが残った。
だが俺は、その視線を正面から受け止める。
カラムはしばし黙り、火酒の盃をゆっくり回した後、ぽん、と膝を打った。
「なあ、人の子よ...」
盃をぐいっと干しながら、どこか寂しげな目で、だがまっすぐな声で問いかけた。
「お主...なんでそんな物騒な剣を持っておる?」
それはただの好奇心ではない。
精霊のひとりとして、火を愛し木を愛し土を愛する者として。
人の子が持つにはあまりにも重く、哀しい『意志』のこもった剣に込められた意味を...
彼は静かに問おうとしていた。
そして俺はその問いに静かに向き合う。
俺はしばらく黙った後、静かに『フィークンスヴェルズ』を鞘から少しだけ引き抜き、その青黒い輝きを見せた。
「世界を、少しだけ変えたいんだ。終わらせたいものがある」
カラムは目をつぶり、腕を組み、しばらく思いに耽っているようだった。
そして、大きく笑った。
「そうかそうか! 大それたことじゃ! そりゃあ楽しい!」
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週1話くらいのペースで続きを上げていく予定です
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