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眩しい光が、瞼を突き抜けるように差し込んだ。
柔らかな布団の感触。温かな空気。
ゆっくりと瞼を開けると、見覚えのある天井があった。
「ここは……?」
ケイはゆっくりと起き上がる。
身体が妙に軽い。手を見下ろすと、以前よりもずっと細く、小さくなっていた。
小さな手。小さな身体。
「……なんだ、これは?」
震える手を見つめる。
子供の小さな手だ。記憶にあるよりずっと小さい。
回帰前の時点でケイは二十歳を越えた青年だった。
冒険者として日銭を稼いでいた両手は指が節くれだって、傷だらけだったはずだ。
なのに、この手は小さく、柔らかい。傷なんてどこにもない。
慌てて部屋の鏡を見る。
黒髪と黒目の、端正な顔立ちの男の子がいる。
間違いない――これは、十年以上前の自分の姿だ。
(十歳くらい、か? ……ん? 何かいる……)
枕元には、見慣れない存在がいた。
半透明のピンク色のウーパールーパーだ。
青く澄んだ大きな目がぱちぱちと瞬きをし、小さく短い手足をゆっくりと動かしている。
なかなか愛らしい生き物だ。
「おお、目覚めたのだな!」
幼児のような高く、愛らしい声が響く。
――目の前のウーパールーパーが喋っている!?
その存在に思い当たるものがあった。
「お前、サラマンダーか?」
「そうなのだ! そなたひとりじゃ心配すぎて回帰に付き合ってやったのだ。われがいれば人生勝ち組まちがいなし! 期待してるとよいのだ!」
ウーパールーパーがぷるんと誇らしげに胸を張る。
「われのことは〝ピアディ様〟と呼ぶがよい! 種族はラッキーサラマンダーぞ。別名〝福の神〟とも申す尊いウパルパ様である!」
【作者からの補足】
※ウパルパはウーパールーパーのうち、胴体が短い種の名前です。
「ピアディか。俺はケイ。よろしくな」
「アッ。〝様〟を付けぬか、無礼者め!」
「……ふふ」
小さなウーパールーパーを手に取ると、しっとりと柔らかい。
ちょっとだけ冷んやりしていて、気持ちのよい感触だ。
「俺、本当に……戻ったんだな……」
呟くと同時に、記憶が怒涛のように押し寄せる。
最初の人生は最悪だった。
母とともに伯爵家を追放され、スラムで死んだ日々。
海に沈み、サラマンダーに出会い、こうして時を戻された――。
「おっと。喜ぶにはまだ早いのだ」
「どういうことだ?」
「そなたはまだ、完全に回帰はしてないのだ。今も死にかけで海の底に沈んだままなのだ」
「……は?」
それは聞き捨てならない。
「われの魔法で回帰させてやったのだ。それは確か。だが、まだ仮の状態なのだ」
「仮だと?」
「うむ。そなたはまだ前の人生で死にかけたまま。だから、ここで試練を乗り越えてもらうのだ」
「試練とは?」
「そうなのだ。われと出会ったときの海の底は暗くて穢れておっただろ? あれを勇者の力で浄化してもらいたいのだ」
ピアディは小さな前足を必死に動かしながら説明する。
「でも、どうやって? また海の底に潜れというのか?」
「ノーオ! 今のそなたと、回帰前のお前はリンクしているのだ。だから、今のそなたが勇者に覚醒していけば、前のそなたがいる海の底も自動的に浄化されるしくみ」
「な、なるほど?」
「浄化に成功したら、本当に回帰を確定させてやるのだ」
「じゃあ、失敗したら?」
「そのまま死ぬのだ」
「な……!」
「だから、必死にやるのだ!」
ピアディはけろりと言った。
「そなたにはしっかり勇者の素質があるのだ。それを発揮すれば、浄化なんてちょちょいのちょいなのだ!」
「勇者の素質、か」
ケイは戸惑いを隠せなかった。
自分が勇者の素質を持っているなんて、信じられない。
今のケイは十歳に戻っている。見下ろす両手はとても小さい。
まだ剣を習う前の、柔らかい手だ。
(こんな俺に何ができる? 勇者? お母様を死なせた俺にそんな資格なんてあるわけがない……)
「本当はわれも封印されてた時期が長くて本調子じゃないのだ。でも、そなたをサポートしてれば全盛期に戻れそうな予感!」
ピアディはちゃっかりした口調で言った。
「おい。俺を利用するつもりか?」
「うむ。持ちつ持たれつというやつなのだ」
悪びれないピアディにケイは呆れた。
だが、このピンク色のウーパールーパーには憎めない愛嬌がある。
「期待されるのは嬉しいが、俺にできると思うか?」
「できるのだ。あの勇者の光を思い出せばいいのだ」
ピアディが真剣な目で見つめてくる。
「われと出会ったとき、そなたの身体から金色の光が出てたのを覚えているか?」
「ああ」
「金色の光は誰でも持てるものではない。勇者の素質がある証拠なのだ」
この世界には魔法があり、人間が持つ魔力には色が付くことがある。実力が大きいほど鮮やかな色が付く。
だが、金色の魔力の持ち主がいるなどと、ケイは聞いたことがなかった。
ケイは自分の手を見つめた。
あの時、確かに何かが光った気がする。
(もし、俺にそんな力があるなら)
ケイは決意を固めた。
「わかった。やってみよう」
「うむ、それでいいのだ!」
ピアディが満足そうに頷いた。
だが、すぐに不安そうに俯いた。
「海の底の、われと仲間たちのいた海底神殿を穢した者がいるのだ。あの邪悪な気配……もしかしたらそなたを害した者と関係があるのやも。気をつけるのだぞ」
何やら不吉な忠告を頂戴した。
柔らかな布団の感触。温かな空気。
ゆっくりと瞼を開けると、見覚えのある天井があった。
「ここは……?」
ケイはゆっくりと起き上がる。
身体が妙に軽い。手を見下ろすと、以前よりもずっと細く、小さくなっていた。
小さな手。小さな身体。
「……なんだ、これは?」
震える手を見つめる。
子供の小さな手だ。記憶にあるよりずっと小さい。
回帰前の時点でケイは二十歳を越えた青年だった。
冒険者として日銭を稼いでいた両手は指が節くれだって、傷だらけだったはずだ。
なのに、この手は小さく、柔らかい。傷なんてどこにもない。
慌てて部屋の鏡を見る。
黒髪と黒目の、端正な顔立ちの男の子がいる。
間違いない――これは、十年以上前の自分の姿だ。
(十歳くらい、か? ……ん? 何かいる……)
枕元には、見慣れない存在がいた。
半透明のピンク色のウーパールーパーだ。
青く澄んだ大きな目がぱちぱちと瞬きをし、小さく短い手足をゆっくりと動かしている。
なかなか愛らしい生き物だ。
「おお、目覚めたのだな!」
幼児のような高く、愛らしい声が響く。
――目の前のウーパールーパーが喋っている!?
その存在に思い当たるものがあった。
「お前、サラマンダーか?」
「そうなのだ! そなたひとりじゃ心配すぎて回帰に付き合ってやったのだ。われがいれば人生勝ち組まちがいなし! 期待してるとよいのだ!」
ウーパールーパーがぷるんと誇らしげに胸を張る。
「われのことは〝ピアディ様〟と呼ぶがよい! 種族はラッキーサラマンダーぞ。別名〝福の神〟とも申す尊いウパルパ様である!」
【作者からの補足】
※ウパルパはウーパールーパーのうち、胴体が短い種の名前です。
「ピアディか。俺はケイ。よろしくな」
「アッ。〝様〟を付けぬか、無礼者め!」
「……ふふ」
小さなウーパールーパーを手に取ると、しっとりと柔らかい。
ちょっとだけ冷んやりしていて、気持ちのよい感触だ。
「俺、本当に……戻ったんだな……」
呟くと同時に、記憶が怒涛のように押し寄せる。
最初の人生は最悪だった。
母とともに伯爵家を追放され、スラムで死んだ日々。
海に沈み、サラマンダーに出会い、こうして時を戻された――。
「おっと。喜ぶにはまだ早いのだ」
「どういうことだ?」
「そなたはまだ、完全に回帰はしてないのだ。今も死にかけで海の底に沈んだままなのだ」
「……は?」
それは聞き捨てならない。
「われの魔法で回帰させてやったのだ。それは確か。だが、まだ仮の状態なのだ」
「仮だと?」
「うむ。そなたはまだ前の人生で死にかけたまま。だから、ここで試練を乗り越えてもらうのだ」
「試練とは?」
「そうなのだ。われと出会ったときの海の底は暗くて穢れておっただろ? あれを勇者の力で浄化してもらいたいのだ」
ピアディは小さな前足を必死に動かしながら説明する。
「でも、どうやって? また海の底に潜れというのか?」
「ノーオ! 今のそなたと、回帰前のお前はリンクしているのだ。だから、今のそなたが勇者に覚醒していけば、前のそなたがいる海の底も自動的に浄化されるしくみ」
「な、なるほど?」
「浄化に成功したら、本当に回帰を確定させてやるのだ」
「じゃあ、失敗したら?」
「そのまま死ぬのだ」
「な……!」
「だから、必死にやるのだ!」
ピアディはけろりと言った。
「そなたにはしっかり勇者の素質があるのだ。それを発揮すれば、浄化なんてちょちょいのちょいなのだ!」
「勇者の素質、か」
ケイは戸惑いを隠せなかった。
自分が勇者の素質を持っているなんて、信じられない。
今のケイは十歳に戻っている。見下ろす両手はとても小さい。
まだ剣を習う前の、柔らかい手だ。
(こんな俺に何ができる? 勇者? お母様を死なせた俺にそんな資格なんてあるわけがない……)
「本当はわれも封印されてた時期が長くて本調子じゃないのだ。でも、そなたをサポートしてれば全盛期に戻れそうな予感!」
ピアディはちゃっかりした口調で言った。
「おい。俺を利用するつもりか?」
「うむ。持ちつ持たれつというやつなのだ」
悪びれないピアディにケイは呆れた。
だが、このピンク色のウーパールーパーには憎めない愛嬌がある。
「期待されるのは嬉しいが、俺にできると思うか?」
「できるのだ。あの勇者の光を思い出せばいいのだ」
ピアディが真剣な目で見つめてくる。
「われと出会ったとき、そなたの身体から金色の光が出てたのを覚えているか?」
「ああ」
「金色の光は誰でも持てるものではない。勇者の素質がある証拠なのだ」
この世界には魔法があり、人間が持つ魔力には色が付くことがある。実力が大きいほど鮮やかな色が付く。
だが、金色の魔力の持ち主がいるなどと、ケイは聞いたことがなかった。
ケイは自分の手を見つめた。
あの時、確かに何かが光った気がする。
(もし、俺にそんな力があるなら)
ケイは決意を固めた。
「わかった。やってみよう」
「うむ、それでいいのだ!」
ピアディが満足そうに頷いた。
だが、すぐに不安そうに俯いた。
「海の底の、われと仲間たちのいた海底神殿を穢した者がいるのだ。あの邪悪な気配……もしかしたらそなたを害した者と関係があるのやも。気をつけるのだぞ」
何やら不吉な忠告を頂戴した。
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