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「ほら、釣竿を持って! 今日はザリガニ釣りをするんだ!」
「……ザリガニ?」
「そうだ! この池には大きいのがいるんだぞう!」
テオドールは楽しげに笑い、糸の先につけた餌を池へと垂らす。
そして、釣竿の扱い方をケイに教え始めた。
「ケイ、コツはこうだぞ! 焦らずにゆっくり……そうそう、いいぞ!」
まるで普通の兄弟のような時間だ。
最初こそ警戒していたケイだったが、テオドールの楽しそうな表情につられ、気づけば純粋に釣りを楽しんでいた。
というより、ザリガニ釣りは奥が深い。つい夢中になってしまった。
(……何なんだ、これは?)
おかしい。こんなに無邪気な兄だったか?
確かに、最初の人生でも兄と遊んだ記憶はある。
だが今よりもっと幼かったごく短い期間だけだし、必ず父も一緒のときに限られていた。
「〝お兄ちゃま〟か……」
疑問が拭えぬまま、ケイは兄と夕暮れまで釣りを楽しんでしまった。
釣れたザリガニは、兄が五匹、ケイがゼロ匹。
得意げにドヤ顔する、自分とよく似た兄の顔が、とても憎らしかった。
(む、むちゃくちゃ悔しいのだが!?)
次は絶対に勝つ。そう誓って兄と別れた。
その後も、正妻セオドラが留守にすると、兄はケイの部屋を訪れるようになった。
「ケイ、一緒に本を読もう!」
「ケイ、次の休日、一緒に庭で剣の練習をしよう!」
「ケイ、お兄ちゃまと呼んでくれ!」
遊びに誘われ、勉強を共にし、時には剣術の練習をする。
この距離の近さ。
前の人生の兄とは、まるで違う。
「……どういうことだ? 兄はこんなフレンドリーなんかじゃなかったはず」
ケイは混乱していた。
兄は何かを企んでいるのか?
それとも、まだ幼いから純粋なだけなのか?
しかし、もうケイも兄も十歳だ。
回帰前の人生では、この頃には既に険悪な中だったじゃないか。
「……俺の記憶に、何か抜け落ちがあるのだろうか?」
しかし思い返してみても、わからなかった。
「ピアディ、お前から見て、兄はどう見える?」
寝室のベッドの上で、ケイは小さなウーパールーパーに尋ねた。
ピアディはちょこんとケイの手の中に座り、じっと青い瞳でケイを見上げてくる。
「うむ。我から見たあの兄は、あのままのブラコンにしか見えぬぞ?」
「………………ブラコン、だと?」
何だそれは。
回帰前の兄を思い出すと、それほど兄から遠い単語もなかった。
「うむうむ。お前の兄は、お前と一緒にいると楽しそうなのだ!」
「……俺の知ってる兄は、そんな奴じゃなかった」
「本当にそうだったのか?」
「ああ」
「本当に?」
繰り返し確認してくるピアディの言葉に、ケイは思案した。
(回帰前の俺は、兄の何を知っていた? そりゃ確かにすべてを知ってたとは言えないが)
何せ同じ伯爵家の屋敷に住んでいても、正妻と嫡男のあちらは本邸住まい。
妾とその息子ケイは、同じ敷地内の別邸に住んでいる。
最初は父の意向でケイたちも本邸に住んでいたのだが、正妻セオドラを恐れて避難しているとも言えた。
兄テオドールは常に冷酷だったか?
それとも、何かの理由でそう振る舞っていただけなのか?
「まだ、わからないことだらけだな」
ケイは静かに拳を握る。
今はまだ、すべてが謎のままだ。
だが、一つだけ確かなことがある。
この世界は、前世と微妙に違う。
兄も、正妻も、そして俺自身も――何かが違っている。
それを知るためには、もっと多くのことを探らなければならない――。
「……ザリガニ?」
「そうだ! この池には大きいのがいるんだぞう!」
テオドールは楽しげに笑い、糸の先につけた餌を池へと垂らす。
そして、釣竿の扱い方をケイに教え始めた。
「ケイ、コツはこうだぞ! 焦らずにゆっくり……そうそう、いいぞ!」
まるで普通の兄弟のような時間だ。
最初こそ警戒していたケイだったが、テオドールの楽しそうな表情につられ、気づけば純粋に釣りを楽しんでいた。
というより、ザリガニ釣りは奥が深い。つい夢中になってしまった。
(……何なんだ、これは?)
おかしい。こんなに無邪気な兄だったか?
確かに、最初の人生でも兄と遊んだ記憶はある。
だが今よりもっと幼かったごく短い期間だけだし、必ず父も一緒のときに限られていた。
「〝お兄ちゃま〟か……」
疑問が拭えぬまま、ケイは兄と夕暮れまで釣りを楽しんでしまった。
釣れたザリガニは、兄が五匹、ケイがゼロ匹。
得意げにドヤ顔する、自分とよく似た兄の顔が、とても憎らしかった。
(む、むちゃくちゃ悔しいのだが!?)
次は絶対に勝つ。そう誓って兄と別れた。
その後も、正妻セオドラが留守にすると、兄はケイの部屋を訪れるようになった。
「ケイ、一緒に本を読もう!」
「ケイ、次の休日、一緒に庭で剣の練習をしよう!」
「ケイ、お兄ちゃまと呼んでくれ!」
遊びに誘われ、勉強を共にし、時には剣術の練習をする。
この距離の近さ。
前の人生の兄とは、まるで違う。
「……どういうことだ? 兄はこんなフレンドリーなんかじゃなかったはず」
ケイは混乱していた。
兄は何かを企んでいるのか?
それとも、まだ幼いから純粋なだけなのか?
しかし、もうケイも兄も十歳だ。
回帰前の人生では、この頃には既に険悪な中だったじゃないか。
「……俺の記憶に、何か抜け落ちがあるのだろうか?」
しかし思い返してみても、わからなかった。
「ピアディ、お前から見て、兄はどう見える?」
寝室のベッドの上で、ケイは小さなウーパールーパーに尋ねた。
ピアディはちょこんとケイの手の中に座り、じっと青い瞳でケイを見上げてくる。
「うむ。我から見たあの兄は、あのままのブラコンにしか見えぬぞ?」
「………………ブラコン、だと?」
何だそれは。
回帰前の兄を思い出すと、それほど兄から遠い単語もなかった。
「うむうむ。お前の兄は、お前と一緒にいると楽しそうなのだ!」
「……俺の知ってる兄は、そんな奴じゃなかった」
「本当にそうだったのか?」
「ああ」
「本当に?」
繰り返し確認してくるピアディの言葉に、ケイは思案した。
(回帰前の俺は、兄の何を知っていた? そりゃ確かにすべてを知ってたとは言えないが)
何せ同じ伯爵家の屋敷に住んでいても、正妻と嫡男のあちらは本邸住まい。
妾とその息子ケイは、同じ敷地内の別邸に住んでいる。
最初は父の意向でケイたちも本邸に住んでいたのだが、正妻セオドラを恐れて避難しているとも言えた。
兄テオドールは常に冷酷だったか?
それとも、何かの理由でそう振る舞っていただけなのか?
「まだ、わからないことだらけだな」
ケイは静かに拳を握る。
今はまだ、すべてが謎のままだ。
だが、一つだけ確かなことがある。
この世界は、前世と微妙に違う。
兄も、正妻も、そして俺自身も――何かが違っている。
それを知るためには、もっと多くのことを探らなければならない――。
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