回帰した貴公子はやり直し人生で勇者に覚醒する

真義あさひ

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侍女に扮した邪悪な呪術師ロットヴェインは、水晶玉を通してケイとテオドールの様子を見ていた。

「フフフ……麗しき兄弟愛ですこと」

あの二人が勇者の素質を持つことは、早くから掴んでいた。

「だが、希望など許さぬ。必ず絶望に堕として、美味しくいただくとしよう」



  ☆ ☆ ☆



テオドールは改めて、弟ケイと情報の共有を行った。

特にセオドラの背後に邪悪な呪術師の存在があると知り、その正体を探る決意を互いに固めることになった。

「ロットヴェイン……それが敵の名前か……」

「ケイ。私も、お前を支える。共に邪悪を討とう!」

兄弟の心は一つだった。
憎しみの連鎖を断ち切るため、命を賭ける覚悟があった。

と、そのときだった。

「キャー! 危険、危険、エマージェンシー! 逃げるのだー!」

突如ピアディが悲鳴を上げた。

「「!???」」

だが警告に対策を立てる前に、ケイたちは闇の中に前触れなく飲み込まれた。

「な、何だここは!?」

「真っ暗だな……」

辺りを見回りしても何もない。
目を凝らしても闇が続くばかりだ。

「はうう……ロットヴェインなる者、強敵ぞ。まさか次元を操るスキル持ちとは……」

闇の中で、ピアディの半透明ボディがほんのりと発光している。
その光でようやく、自分たちのいる場所の特殊性を確認することができた。

「次元を操るだと?」

「そんな者が、母上に取り入っていたのか……」

「じゃあ、そいつがすべての元凶だな!」

テオドールも決意を固めた。

「よし、行こう。ロットヴェインを討って、悲劇の連鎖を断ち切るんだ!」



ケイとテオドールはピアディの導きに従って、ロットヴェインの痕跡を追った。

発光するピアディをぷにっとケイが持って、闇の中を歩き続ける。
間もなくたどり着いたのは、古びた館だった。

館は闇の霧に包まれ、不気味な雰囲気を漂わせていた。
空気は冷たく、重苦しい。

「むうう……次元の狭間にこんな建物などあるわけないのだ。罠なのだ!」

ピアディが二人に忠告する。

「だが、罠とわかっていても」

「今は行くしかなさそうだ。誘いに乗ってやろう」

ケイは鋭い目で館を睨みつけ、テオドールも持参していた剣を抜き、構えた。

「気をつけろ、ケイ」

「ひいい……見た目がもろに呪いの館なのだ……邪悪な力が渦巻いているのだ。決して油断してはならーん!」

ケイは頷き、ピアディを持ったままテオドールの先導に続いて館に足を踏み入れた。

館の中は異様に静かで、時間が止まっているかのような感覚に襲われる。
壁には古びた肖像画がいくつも掛けられている。どの人物も不気味な笑みを浮かべていた。

「気味が悪い場所だ」

ケイが呟いた瞬間、館の空間が歪んだ。

「!? 空間が歪んでる??」

暗闇が渦巻き、空間がねじれ始めた。
次元の境界が崩れていく。

「これは……何者だ!?」

直後、目の前に黒いフードを被った女が現れた。
セオドラの侍女だった、あの女だ。

「ようこそ、アルトレイ家のご子息様たち。もうご存知のようですが自己紹介いたしましよう。
――腐敗する血、ロットヴェインと申します」

黒いローブの裾を摘んで淑女の礼、カーテシーをした。
優雅さとは程遠い、しかし完璧な礼だった。

「どうやってお二人を連れ去るか思案しておりましたの。二人揃って私のテリトリーへやって来るとは……手間が省けましたねえ」

女、――ロットヴェインは口元を歪めた。笑っているつもりらしい。

「愚かなる勇者の末裔たちよ、絶望を味わうがいい。ここは絶望の館。お前たちの心の弱さを映し出す」

ロットヴェインの笑い声が闇の中に響いた。

ケイはピアディをポケットに突っ込んで、テオドールと並んで剣を構えた。

「何を企んでいる! ロットヴェイン!」

ロットヴェインの幻影が嘲笑うように答えた。

「ご存じない? 勇者や聖者の血は邪悪な魔力で効果を反転させれば、他人を意のままに操る毒薬の素材になるのだ。ここには勇者の末裔が二人も……フフフ」

「何とおぞましいことを言うのだこやつー!?」

「お前たちの心の弱さが、闇を作り出す。さあ、己の弱さに絶望するがいい」

ケイの視界が歪み、幻影が現れた。
現れたのは、先ほど目の当たりにしたばかりの、流産して苦しむ母ポーラの姿だった。

「お母様……!?」

ポーラは苦しげに呻き、涙を流していた。

『ケイ……ごめんなさい……あなたを守ってあげられなくて……』

ケイは愕然とした。

「そんな……これは幻影だ! 幻影なんだろう!?」

ロットヴェインの嘲笑が闇の中に響いた。

「愚か者め。これはお前の心の闇。お前が、母を救えなかった自責の念が作り出しているのだ」

ケイは拳を震わせた。

「俺が……お母様を救えなかったから……?」

ポーラの幻影が泣きながら叫んだ。

『ケイ……どうして……どうしてお母様を助けてくれなかったの?』

「!?」

そうだ。あれだけ強く母を守りたいと誓い続けていたのに、結果はどうだったか?
母はセオドラの被害に遭い、流産してしまった。

(俺は、お母様を、守れ、なかった……)

ケイは絶望に囚われ、涙を流した。

「俺は……俺は……!」


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