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お兄様、現わる
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その日は夢見が悪かったそうで、朝から食堂の端っこで新聞を眺めてマリオンはボーッとしていた。
腕の中にルミナスを抱いて、ひたすらふわふわの綿毛をもふっていた。ストレスがある証拠だ。
「前世かあ。確かにあなたたち二人の前世は拗れてたわねえ」
マリオンから夢の話を聞いて、百年前のことをしみじみ姉妹の妹ハスミンが思い返している。
「マリオン。いつかあなたに言っておこうと思ってたことがある。確かにあなたとエドの間には前世からの因縁があるけれど、前世に捉われる必要はないのよ」
マリオンの人生はマリオンのものだ。たとえ魂が同じでも前世の自分の続きではない。
姉ガブリエラはそう言ってくれたが、どうにもスッキリしない。
「ねえ、研究学園を出てからあなた、あたしたちの手伝いでしか外に出てないじゃない? たまには王都で遊んできたらどう?」
「遊び?」
妹ハスミンが提案して、マリオンと同じ鮮やかな水色の瞳を悪戯っぽく輝かせた。
「もうお金の心配もないんでしょ? 服を買ったり……あと下町の屋台は美味しいもの揃ってたわよう~」
いわゆるジャンクフードの類だ。
街中のレストランみたいに傷のない材料を使った美しい料理ではなかったが、安価で食べやすいものが屋台街に揃っているそうな。
「はい、地図。迷ったら区画ごとに衛兵の詰所があるから探して道を聞くようにね」
「ここ、ここのポテトフライが絶品だったの! 揚げ物ってアケロニア王国だとあんまりなかったでしょ、一回は食べてごらんなさいな」
姉妹がそれぞれオススメの地区や店の印を書き込んでいく。
「ルミナス、マリオンを守るのよ」
「ピュイピュイッ」(このルミナスにお任せください!)
魔導具師のローブはフード付きで暖かいので、コート代わりに羽織って街を探索することにした。
ルミナスは仔犬サイズのままフードの中に収納だ。ほんのり首元が暖かく、たまに羽毛がくすぐったい。
「雑貨屋をいくつか覗いてみようか。ブルー商会の取り扱い商品もあるだろうし」
「ピューン」(どこにでも付いていくよ!)
本当なら百貨店や専門店に行くのが一番良いのだが、格式ある店に入れる略礼装以上の衣装は研究学園の小屋に置きっぱなしだ。
祖父ダリオンによると王家が回収して保管してくれているそうだが、まだマリオンの手元に戻ってきていなかった。
その後、王都の中心街を散策した。故郷より発展した街並みや活気に驚きながらも楽しかった。
「この国、芸術の国だけあって綺麗だよね。貧富の差はあるけど、国自体がお金持ちだから貧民窟もないんだって」
「ピュ?」(下町に行っても安全だよってお姉ちゃんたちが言ってたね?)
昼近くになるとさすがに腹が減ってきた。
姉妹がおすすめの屋台街は徒歩でもちょっと遠いが行ける。
途中、露店でルミナス用のごはんにリンゴを一個買って屋台街を目指した。
「そこの魔導具師くん。一緒にお茶でもどうかな?」
そんな声をかけられたのは、屋台街に到着して、昼飯を何にしようか屋台を覗いていたときだった。
振り向くと、そこには金髪碧眼の端正な顔立ちの青年がいた。
歳はマリオンより数歳上、二十歳を少し過ぎたぐらいだろうか。
ぱっと見た感じ、素朴な庶民風の白い綿の襟付きシャツと濃いグレーのズボンに編み上げサンダルを履いていたが、溢れ出る支配者オーラが隠せていない。
良くて貴族のお忍びスタイル、マリオンの予想では最悪のケースだった。
「……もしやエドのご家族ですか?」
「きみ、なかなか勘がいいね!」
「タイアド王族は金髪碧眼でしょ。有名な話じゃないですか」
金髪も碧眼も珍しくはないが、セットになるとこの世界ではぐんと数が減る。
それとなく辺りを見回すと、明らかに街を巡回しているはずの衛兵の姿が多い。
どう見ても目の前の青年の護衛の変装だった。
「クリストファー王太子殿下。こんなとこ来てていいんですか?」
エドアルド王子の異母兄、マリオンが研究学園で虐げられる元凶の王妃の息子だった。
腕の中にルミナスを抱いて、ひたすらふわふわの綿毛をもふっていた。ストレスがある証拠だ。
「前世かあ。確かにあなたたち二人の前世は拗れてたわねえ」
マリオンから夢の話を聞いて、百年前のことをしみじみ姉妹の妹ハスミンが思い返している。
「マリオン。いつかあなたに言っておこうと思ってたことがある。確かにあなたとエドの間には前世からの因縁があるけれど、前世に捉われる必要はないのよ」
マリオンの人生はマリオンのものだ。たとえ魂が同じでも前世の自分の続きではない。
姉ガブリエラはそう言ってくれたが、どうにもスッキリしない。
「ねえ、研究学園を出てからあなた、あたしたちの手伝いでしか外に出てないじゃない? たまには王都で遊んできたらどう?」
「遊び?」
妹ハスミンが提案して、マリオンと同じ鮮やかな水色の瞳を悪戯っぽく輝かせた。
「もうお金の心配もないんでしょ? 服を買ったり……あと下町の屋台は美味しいもの揃ってたわよう~」
いわゆるジャンクフードの類だ。
街中のレストランみたいに傷のない材料を使った美しい料理ではなかったが、安価で食べやすいものが屋台街に揃っているそうな。
「はい、地図。迷ったら区画ごとに衛兵の詰所があるから探して道を聞くようにね」
「ここ、ここのポテトフライが絶品だったの! 揚げ物ってアケロニア王国だとあんまりなかったでしょ、一回は食べてごらんなさいな」
姉妹がそれぞれオススメの地区や店の印を書き込んでいく。
「ルミナス、マリオンを守るのよ」
「ピュイピュイッ」(このルミナスにお任せください!)
魔導具師のローブはフード付きで暖かいので、コート代わりに羽織って街を探索することにした。
ルミナスは仔犬サイズのままフードの中に収納だ。ほんのり首元が暖かく、たまに羽毛がくすぐったい。
「雑貨屋をいくつか覗いてみようか。ブルー商会の取り扱い商品もあるだろうし」
「ピューン」(どこにでも付いていくよ!)
本当なら百貨店や専門店に行くのが一番良いのだが、格式ある店に入れる略礼装以上の衣装は研究学園の小屋に置きっぱなしだ。
祖父ダリオンによると王家が回収して保管してくれているそうだが、まだマリオンの手元に戻ってきていなかった。
その後、王都の中心街を散策した。故郷より発展した街並みや活気に驚きながらも楽しかった。
「この国、芸術の国だけあって綺麗だよね。貧富の差はあるけど、国自体がお金持ちだから貧民窟もないんだって」
「ピュ?」(下町に行っても安全だよってお姉ちゃんたちが言ってたね?)
昼近くになるとさすがに腹が減ってきた。
姉妹がおすすめの屋台街は徒歩でもちょっと遠いが行ける。
途中、露店でルミナス用のごはんにリンゴを一個買って屋台街を目指した。
「そこの魔導具師くん。一緒にお茶でもどうかな?」
そんな声をかけられたのは、屋台街に到着して、昼飯を何にしようか屋台を覗いていたときだった。
振り向くと、そこには金髪碧眼の端正な顔立ちの青年がいた。
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ぱっと見た感じ、素朴な庶民風の白い綿の襟付きシャツと濃いグレーのズボンに編み上げサンダルを履いていたが、溢れ出る支配者オーラが隠せていない。
良くて貴族のお忍びスタイル、マリオンの予想では最悪のケースだった。
「……もしやエドのご家族ですか?」
「きみ、なかなか勘がいいね!」
「タイアド王族は金髪碧眼でしょ。有名な話じゃないですか」
金髪も碧眼も珍しくはないが、セットになるとこの世界ではぐんと数が減る。
それとなく辺りを見回すと、明らかに街を巡回しているはずの衛兵の姿が多い。
どう見ても目の前の青年の護衛の変装だった。
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