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アダルベルト公爵
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数日後、復興支援のためアストリア王宮に来ていた健太の客室を将軍が訪れた。将軍は表情を曇らせ、周囲を警戒するようにして部屋に入ってきた。
「健太殿、少々お時間をいただいてもよろしいでしょうか」
将軍はそう言うと、健太に背を向け、静かに扉を閉めた。そして、健太の目の前まで来ると、声を潜めて話し始めた。
「実は、貴殿に伝えたいことがあるのです。これは国王陛下にも伏せていることですので、どうか他言無用でお願いします」
将軍の言葉に、健太は緊張した。ルミナの警告が現実のものとなろうとしている。
「一体、何が…?」
「王宮には、国王陛下の弟君であるアダルベルト公爵という方がおります。彼は表向きは国王陛下の忠実な弟を演じていますが、裏では密かに、王位を狙っているのです。そして、貴殿の力を利用しようと画策しています」
健太は息を呑んだ。やはり、王宮内部に不穏な動きがある。
「アダルベルト公爵は、王宮の地下に封印されている魔道具に目をつけ、それを手に入れようとしています。その魔道具は、かつて王国に大きな災いをもたらしたもので、非常に危険なものです。彼はその魔道具と貴殿の力を結びつけ、王国を掌握しようとしているのです」
将軍の言葉に、健太は背筋が凍りついた。ルミナが言っていた「危険な魔道具」とは、このことだったのか。
「なぜ、そんな危険なものを…」
「公爵は、その魔道具を『王国の力』と称し、自らの権力を強化しようと目論んでいます。そして、貴殿の力を利用して、その魔道具の封印を解こうとしているのです」
将軍はさらに続けた。
「公爵は、すでに王宮内部の人間や、一部の貴族たちと結託しています。貴殿を狙って接触してきた不審者たちも、おそらく彼の配下の者でしょう。私も、公爵の動きを警戒し、密かに貴殿の護衛を強化しておりました」
健太は将軍の言葉に納得した。夜中に彼を守ってくれていたのは、将軍の配下の衛兵だったのか。
「では、国王陛下はそのことをご存知ないのですか?」
「はい。陛下は身内を疑うことをお好みになりません。加えて公爵は巧妙に偽装しており、陛下もまだ気づかれていないのです」
将軍は苦しそうに顔を歪めた。
「ですが、このままでは、アストリア王国は内乱の危機に瀕します。貴殿の存在は、公爵にとって非常に邪魔な存在であり、同時に喉から手が出るほど欲しい力なのです」
健太は不安を押し殺すように力強く拳を握る。
「私はどうすれば…」
「どうか、公爵の甘言には決して乗らないでください。そして、彼の動向に注意を払ってください。私も、公爵の動きを監視し、陛下に真実を伝える機会を窺っています。しかし、公爵の勢力は日増しに強大になっており、一歩間違えれば、王国全体が危機に陥ります」
将軍は健太に深々と頭を下げた。
「健太殿、どうか、我々に力を貸してください。アストリア王国を、お守りいただきたいのです」
健太は将軍の真剣な眼差しを受け止め、深く頷いた。この世界で平和に暮らしたいという思いに加え、健太には新たな使命感が心に芽生えていた。
「分かりました。できる限り、協力させていただきます」
健太の言葉に、将軍の顔に安堵の色が浮かんだ。将軍は再び深々と頭を下げると、静かに客室を出て行った。
将軍が去った後、健太はすぐにルミナに語りかけた。
「ルミナ、今の将軍の話、聞こえてたか?」
『はい、全て解析済みです。将軍の報告は、私の分析結果と完全に一致します。アダルベルト公爵は、王位継承権を持つ者の中でも、特に危険な存在です。彼の目的は王国の支配であり、そのためには手段を選ばないでしょう』
「王宮の地下にある魔道具って、一体どんなものなんだ?」
『将軍が言及した魔道具は「闇の玉座」と呼ばれています。それは、過去に王国を滅亡寸前にまで追いやったとされる古代の兵器です。使用者の精神力を吸収し、周囲の生命エネルギーを操る能力を持っていますが、その代償として、使用者を狂気に陥らせる危険性を孕んでいます』
健太はゾッとした。そんな危険なものが、王宮の地下に封印されているとは。
「その闇の玉座を、俺の力で封印解除できるってことか?」
『「闇の玉座」は、膨大な魔素エネルギーを必要とします。主の「家」は、その魔素エネルギーを供給する能力を持っています。公爵は、主のその能力を悪用しようと目論んでいると推測されます。しかし、主の能力を強制的に奪うことは不可能です。この拠点は、主の意思なしには機能しません』
ルミナの言葉に、健太はわずかな安堵を覚えた。しかし、安心はできない。公爵がどういう手段で彼に近づいてくるか分からないのだ。
「ルミナ、何か、その闇の玉座を無力化できる方法はないのか?」
健太の問いに、ルミナは静かに答えた。
『主の「家」は、特定の条件下において、物質やエネルギーの構造を「解析」し、その本質を理解する能力を有しています。この「解析」能力を「闇の玉座」に適用することで、その機能を停止させる、あるいはその危険性を大幅に低減させることが可能となるかもしれません。しかし、これには非常に高度な魔素エネルギーの運用と、対象への直接的な接触が必要となります』
「解析能力…!?」
健太は驚きを隠せない。彼の「家」は、まだ彼が知らない能力を秘めているというのか。
「それって、どうやって使うんだ?」
『「解析」能力の発動には、主の明確な意思と、対象への強い集中が必要です。また、対象が危険なものである場合、相応のリスクを伴います。現時点では、闇の玉座の具体的な構造が不明なため、詳細な手順を提示することはできません。しかし、主が闇の玉座に近づき、その本質を理解しようと強く願うことで、この能力は発現する可能性があります』
健太は再び腕を組み、深く考え込んだ。将軍の言葉、そしてルミナの警告。「闇の玉座」の存在。彼の平和な日々は、この王宮の闇によって脅かされている。
しかし、それと同時に、彼にはこの世界を救うための新たな力が与えられようとしているのだ。
「分かった。もし公爵が『闇の玉座』を狙ってくるなら、その時に『解析』能力を使ってみる。それまでは、警戒を怠らないようにしよう」
健太は決意を固めた。彼の異世界での物語は、新たな局面を迎えようとしていた。
数日後、健太は王宮の庭園を散策していた。初夏の陽光が降り注ぎ、色とりどりの花々が咲き誇る美しい場所だった。しかし、健太の心は、ルミナの警告と将軍の密談によって張り詰めている。
その時、一人の男が健太に近づいてきた。男は豪華な衣装を身につけ、顔には親しみやすい笑みを浮かべている。それが、アダルベルト公爵だった。
「おお、聖なる救済者様。庭園でお見かけするとは、光栄の極みです」
公爵は深々と頭を下げた。その声は穏やかで、一見すると何の悪意も感じられない。
「アダルベルト公爵殿下。お会いできて光栄です」
健太は警戒しながらも、冷静に返答した。
「貴殿の功績は、このアストリア王国を救った。陛下も、そして私も、心から感謝しております。しかし…」
公爵は言葉を切り、周囲に人がいないことを確認するように視線を巡らせた。そして、健太に一歩近づき、声を潜めた。
「陛下は、少々お人好しすぎるところがある。この国を取り巻く脅威は、貴殿の想像を遥かに超えるものです。魔物の脅威はもちろんのこと、隣国との関係も常に不安定。この国は、もっと強大な力を持つべきなのです」
公爵の言葉に、健太は注意深く耳を傾けた。まさに将軍が言っていた通りだ。
「貴殿の力は、まさに天がこのアストリア王国に与え給うた奇跡。その力を、真にこの国の未来のために役立てるべきだと私は考えております。ですが陛下では、その力を最大限に活用することはできない」
公爵は健太の目を見つめ、甘い言葉で誘惑してきた。
「実は、この王宮の地下には、古くから伝わる『王国の秘宝』が封印されております。『闇の玉座』と呼ばれるその秘宝は、かつてこの国に栄光をもたらしたと言われる伝説の魔道具。しかし、その力を引き出すには、並々ならぬ魔素エネルギーが必要となるのです。貴殿の力があれば、その封印を解き放ち、秘宝の真の力を引き出すことができるはず。どうか、私に力を貸していただきたい」
公爵はそう言って、健太の手を取ろうとした。健太は無意識にその手を避けた。
「申し訳ありませんが、私にはそのような力はありません。私はただ、食料や医療品を供給し、荒れた土地を回復させることしかできません」
健太はあくまでも謙遜した態度を崩さなかった。公爵の顔に、わずかな苛立ちの色が浮かんだが、すぐに笑顔に戻る。
「ご謙遜なさいますな。貴殿の力は、私が直接目にしました。どうか、私の言葉を信じていただきたい。もし貴殿が私に協力してくださるなら、私は貴殿に、このアストリア王国の副宰相の座をお約束しましょう。そして、この国を、貴殿の望むがままに平和な国へと変えることができるのです」
公爵は健太に、甘美な未来を提示した。しかし、健太の脳裏には、ルミナの警告と将軍の顔が浮かんでいた。「闇の玉座」は、王国に災いをもたらす危険な魔道具だ。
「申し訳ありませんが、私にはそのような大役は務まりません。私はあくまで、一介の旅人にすぎません」
健太はきっぱりと断った。公爵の顔から、完全に笑みが消えた。
「これは…残念ですな。貴殿の力を信じていたのですが…」
公爵はそう言うと、健太に背を向け、何も言わずに去っていった。その背中には、明らかな怒りと、底知れない執着が感じられた。
『主、公爵は主の誘惑に失敗しました。次の一手は、強硬手段に出る可能性があります。警戒を最大レベルに引き上げます』
ルミナの声が、健太の心に響いた。健太は静かに息を吐くと王宮の空を見上げた。
困っている人を助けながらものんびり暮らしたいという健太の願いに反して、異世界での生活はますます波乱に満ちたものになろうとしていた。
「健太殿、少々お時間をいただいてもよろしいでしょうか」
将軍はそう言うと、健太に背を向け、静かに扉を閉めた。そして、健太の目の前まで来ると、声を潜めて話し始めた。
「実は、貴殿に伝えたいことがあるのです。これは国王陛下にも伏せていることですので、どうか他言無用でお願いします」
将軍の言葉に、健太は緊張した。ルミナの警告が現実のものとなろうとしている。
「一体、何が…?」
「王宮には、国王陛下の弟君であるアダルベルト公爵という方がおります。彼は表向きは国王陛下の忠実な弟を演じていますが、裏では密かに、王位を狙っているのです。そして、貴殿の力を利用しようと画策しています」
健太は息を呑んだ。やはり、王宮内部に不穏な動きがある。
「アダルベルト公爵は、王宮の地下に封印されている魔道具に目をつけ、それを手に入れようとしています。その魔道具は、かつて王国に大きな災いをもたらしたもので、非常に危険なものです。彼はその魔道具と貴殿の力を結びつけ、王国を掌握しようとしているのです」
将軍の言葉に、健太は背筋が凍りついた。ルミナが言っていた「危険な魔道具」とは、このことだったのか。
「なぜ、そんな危険なものを…」
「公爵は、その魔道具を『王国の力』と称し、自らの権力を強化しようと目論んでいます。そして、貴殿の力を利用して、その魔道具の封印を解こうとしているのです」
将軍はさらに続けた。
「公爵は、すでに王宮内部の人間や、一部の貴族たちと結託しています。貴殿を狙って接触してきた不審者たちも、おそらく彼の配下の者でしょう。私も、公爵の動きを警戒し、密かに貴殿の護衛を強化しておりました」
健太は将軍の言葉に納得した。夜中に彼を守ってくれていたのは、将軍の配下の衛兵だったのか。
「では、国王陛下はそのことをご存知ないのですか?」
「はい。陛下は身内を疑うことをお好みになりません。加えて公爵は巧妙に偽装しており、陛下もまだ気づかれていないのです」
将軍は苦しそうに顔を歪めた。
「ですが、このままでは、アストリア王国は内乱の危機に瀕します。貴殿の存在は、公爵にとって非常に邪魔な存在であり、同時に喉から手が出るほど欲しい力なのです」
健太は不安を押し殺すように力強く拳を握る。
「私はどうすれば…」
「どうか、公爵の甘言には決して乗らないでください。そして、彼の動向に注意を払ってください。私も、公爵の動きを監視し、陛下に真実を伝える機会を窺っています。しかし、公爵の勢力は日増しに強大になっており、一歩間違えれば、王国全体が危機に陥ります」
将軍は健太に深々と頭を下げた。
「健太殿、どうか、我々に力を貸してください。アストリア王国を、お守りいただきたいのです」
健太は将軍の真剣な眼差しを受け止め、深く頷いた。この世界で平和に暮らしたいという思いに加え、健太には新たな使命感が心に芽生えていた。
「分かりました。できる限り、協力させていただきます」
健太の言葉に、将軍の顔に安堵の色が浮かんだ。将軍は再び深々と頭を下げると、静かに客室を出て行った。
将軍が去った後、健太はすぐにルミナに語りかけた。
「ルミナ、今の将軍の話、聞こえてたか?」
『はい、全て解析済みです。将軍の報告は、私の分析結果と完全に一致します。アダルベルト公爵は、王位継承権を持つ者の中でも、特に危険な存在です。彼の目的は王国の支配であり、そのためには手段を選ばないでしょう』
「王宮の地下にある魔道具って、一体どんなものなんだ?」
『将軍が言及した魔道具は「闇の玉座」と呼ばれています。それは、過去に王国を滅亡寸前にまで追いやったとされる古代の兵器です。使用者の精神力を吸収し、周囲の生命エネルギーを操る能力を持っていますが、その代償として、使用者を狂気に陥らせる危険性を孕んでいます』
健太はゾッとした。そんな危険なものが、王宮の地下に封印されているとは。
「その闇の玉座を、俺の力で封印解除できるってことか?」
『「闇の玉座」は、膨大な魔素エネルギーを必要とします。主の「家」は、その魔素エネルギーを供給する能力を持っています。公爵は、主のその能力を悪用しようと目論んでいると推測されます。しかし、主の能力を強制的に奪うことは不可能です。この拠点は、主の意思なしには機能しません』
ルミナの言葉に、健太はわずかな安堵を覚えた。しかし、安心はできない。公爵がどういう手段で彼に近づいてくるか分からないのだ。
「ルミナ、何か、その闇の玉座を無力化できる方法はないのか?」
健太の問いに、ルミナは静かに答えた。
『主の「家」は、特定の条件下において、物質やエネルギーの構造を「解析」し、その本質を理解する能力を有しています。この「解析」能力を「闇の玉座」に適用することで、その機能を停止させる、あるいはその危険性を大幅に低減させることが可能となるかもしれません。しかし、これには非常に高度な魔素エネルギーの運用と、対象への直接的な接触が必要となります』
「解析能力…!?」
健太は驚きを隠せない。彼の「家」は、まだ彼が知らない能力を秘めているというのか。
「それって、どうやって使うんだ?」
『「解析」能力の発動には、主の明確な意思と、対象への強い集中が必要です。また、対象が危険なものである場合、相応のリスクを伴います。現時点では、闇の玉座の具体的な構造が不明なため、詳細な手順を提示することはできません。しかし、主が闇の玉座に近づき、その本質を理解しようと強く願うことで、この能力は発現する可能性があります』
健太は再び腕を組み、深く考え込んだ。将軍の言葉、そしてルミナの警告。「闇の玉座」の存在。彼の平和な日々は、この王宮の闇によって脅かされている。
しかし、それと同時に、彼にはこの世界を救うための新たな力が与えられようとしているのだ。
「分かった。もし公爵が『闇の玉座』を狙ってくるなら、その時に『解析』能力を使ってみる。それまでは、警戒を怠らないようにしよう」
健太は決意を固めた。彼の異世界での物語は、新たな局面を迎えようとしていた。
数日後、健太は王宮の庭園を散策していた。初夏の陽光が降り注ぎ、色とりどりの花々が咲き誇る美しい場所だった。しかし、健太の心は、ルミナの警告と将軍の密談によって張り詰めている。
その時、一人の男が健太に近づいてきた。男は豪華な衣装を身につけ、顔には親しみやすい笑みを浮かべている。それが、アダルベルト公爵だった。
「おお、聖なる救済者様。庭園でお見かけするとは、光栄の極みです」
公爵は深々と頭を下げた。その声は穏やかで、一見すると何の悪意も感じられない。
「アダルベルト公爵殿下。お会いできて光栄です」
健太は警戒しながらも、冷静に返答した。
「貴殿の功績は、このアストリア王国を救った。陛下も、そして私も、心から感謝しております。しかし…」
公爵は言葉を切り、周囲に人がいないことを確認するように視線を巡らせた。そして、健太に一歩近づき、声を潜めた。
「陛下は、少々お人好しすぎるところがある。この国を取り巻く脅威は、貴殿の想像を遥かに超えるものです。魔物の脅威はもちろんのこと、隣国との関係も常に不安定。この国は、もっと強大な力を持つべきなのです」
公爵の言葉に、健太は注意深く耳を傾けた。まさに将軍が言っていた通りだ。
「貴殿の力は、まさに天がこのアストリア王国に与え給うた奇跡。その力を、真にこの国の未来のために役立てるべきだと私は考えております。ですが陛下では、その力を最大限に活用することはできない」
公爵は健太の目を見つめ、甘い言葉で誘惑してきた。
「実は、この王宮の地下には、古くから伝わる『王国の秘宝』が封印されております。『闇の玉座』と呼ばれるその秘宝は、かつてこの国に栄光をもたらしたと言われる伝説の魔道具。しかし、その力を引き出すには、並々ならぬ魔素エネルギーが必要となるのです。貴殿の力があれば、その封印を解き放ち、秘宝の真の力を引き出すことができるはず。どうか、私に力を貸していただきたい」
公爵はそう言って、健太の手を取ろうとした。健太は無意識にその手を避けた。
「申し訳ありませんが、私にはそのような力はありません。私はただ、食料や医療品を供給し、荒れた土地を回復させることしかできません」
健太はあくまでも謙遜した態度を崩さなかった。公爵の顔に、わずかな苛立ちの色が浮かんだが、すぐに笑顔に戻る。
「ご謙遜なさいますな。貴殿の力は、私が直接目にしました。どうか、私の言葉を信じていただきたい。もし貴殿が私に協力してくださるなら、私は貴殿に、このアストリア王国の副宰相の座をお約束しましょう。そして、この国を、貴殿の望むがままに平和な国へと変えることができるのです」
公爵は健太に、甘美な未来を提示した。しかし、健太の脳裏には、ルミナの警告と将軍の顔が浮かんでいた。「闇の玉座」は、王国に災いをもたらす危険な魔道具だ。
「申し訳ありませんが、私にはそのような大役は務まりません。私はあくまで、一介の旅人にすぎません」
健太はきっぱりと断った。公爵の顔から、完全に笑みが消えた。
「これは…残念ですな。貴殿の力を信じていたのですが…」
公爵はそう言うと、健太に背を向け、何も言わずに去っていった。その背中には、明らかな怒りと、底知れない執着が感じられた。
『主、公爵は主の誘惑に失敗しました。次の一手は、強硬手段に出る可能性があります。警戒を最大レベルに引き上げます』
ルミナの声が、健太の心に響いた。健太は静かに息を吐くと王宮の空を見上げた。
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