家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道

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反乱

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 公爵との接触から数日後、王宮に異変が起こった。

朝、健太が目覚めると、王宮全体が異様な雰囲気に包まれていた。普段なら活気に満ちているはずの廊下は静まり返り、衛兵の姿もまばらだ。

『主、王宮内部の魔素エネルギーが急激に乱れています。中央広場方面から、非常に強い魔素の反応を感知。警戒を最大レベルに引き上げます。これは…「闇の玉座」の封印が解かれようとしています!』

ルミナの緊急の警告に、健太は飛び起きた。やはり公爵が動き出したのだ。健太はすぐに身支度を整え、客室を出た。

廊下を歩くと、遠くから剣と剣がぶつかり合う音や、人々の悲鳴が聞こえてくる。健太は音のする方向へ向かった。

中央広場に到着すると、信じられない光景が広がっていた。将軍率いる国王派の衛兵と、アダルベルト公爵の配下の衛兵が激しく衝突していたのだ。広場の中心には、将軍が公爵と対峙していた。将軍の顔には、疲労と焦りの色が浮かんでいる。公爵の背後には、不気味な黒いオーラを放つ男が控えていた。

「将軍!何が起こっているんですか!?」

健太が叫ぶと、将軍は健太の姿に気づき、安堵と焦りが入り混じった表情を浮かべた。

「健太殿!来てくださったか!公爵が、闇の玉座の封印を解こうとしています!あの男は、公爵が連れてきた魔術師です!」

将軍はそう言うと、公爵に再び剣を向けた。

「アダルベルト!貴様、何ということを!陛下を裏切り、王国を危機に陥れるつもりか!」
「フン、将軍。愚かな。これは王国をより強大にするためだ。陛下ではこの国を導くことはできない。この『闇の玉座』の力と、健太の力が合わされば、このアストリア王国は、世界の覇者となれるのだ!」

公爵は高笑いした。彼の背後にいる魔術師が、不気味な詠唱を始めた。詠唱が進むにつれて、広場の地面が揺れ始め、地中から禍々しい黒い光が漏れ出した。

『主、危険です!闇の玉座の封印が解かれようとしています!』

ルミナの警告に、健太は身構えた。将軍は公爵と魔術師を止めようと奮戦しているが、公爵の配下の衛兵に阻まれ、なかなか近づけない。

その時、公爵が将軍に向かって嘲笑するように言った。

「将軍、貴様はもう用済みだ。我々の邪魔をするな!」

公爵の指示で、魔術師が将軍に向けて闇の魔法を放った。将軍は避けようとするが、多勢に無勢。衛兵たちも、将軍を助けようとするが、公爵の配下たちに阻まれてしまう。

「将軍!!」

健太は思わず叫んだ。将軍に闇の魔法が直撃すれば、ただでは済まない。その時、健太の脳裏に、ルミナの言葉が蘇った。「解析能力の発動には、主の明確な意思と、対象への強い集中が必要です」。

健太は将軍を救うため、そして「闇の玉座」を無力化するため、意を決した。

「ルミナ、俺は…将軍を救いたい!そして、闇の玉座を絶対に止めたい!」

健太の強い意思がルミナに伝わった。

『認識しました。主の強い意思に基づき、「解析」能力を発動します。対象を「闇の玉座」と設定。魔素エネルギー転送、開始』

健太の足元から、淡く、しかし力強い光が再び広がり始めた。光は将軍と魔術師、そして闇の玉座の封印が解かれようとしている地面を包み込んだ。

公爵と魔術師は、突如現れた光に驚き、動きを止める。光は闇の魔法の軌道を歪ませ、将軍に直撃するはずだった魔法を霧散させた。将軍は無事だった。

光はさらに「闇の玉座」の封印が解かれようとしている場所へと集中していった。そして、健太は、自分の意識が「闇の玉座」の内部へと吸い込まれていくような感覚に襲われた。

目の前に広がるのは、禍々しい黒いオーラに包まれた巨大な玉座。そこからは、人々の絶望や憎悪、そして狂気の感情が渦巻いているように感じられた。

『主、これが「闇の玉座」の内部構造です。この負の感情の塊が、この魔道具の動力源となっています。これを停止させるには、その核となる部分を「浄化」する必要があります。浄化には、主の精神的なエネルギー、すなわち「希望」の感情が不可欠です』

 ルミナの声が健太の心に直接響いた。健太は、これまで出会ったアストリア王国の人々の笑顔を思い出す。彼らが抱いた希望、そして健太自身が感じた喜び。それら全てが、彼の心の中で光となって集まっていく。

「こんなものに、負けてたまるか!」

健太は心の中で強く念じる。彼の心の中に集まった「希望」の光が、「闇の玉座」の核へと向かって放たれた。光が触れると、黒いオーラは瞬く間に浄化され、禍々しかった玉座は、純粋な光を放つ美しいクリスタルの玉座へと変貌を遂げた。

同時に、王宮全体を包んでいた不穏な魔素の波動が消え去り、広場に広がる黒い光も消滅した。



 健太が目を開けると、目の前には、浄化され、美しく輝くクリスタルの玉座が佇んでいた。広場にいた人々は、その光景に呆然と立ち尽くしている。
公爵は、信じられないものを見るかのように、目を見開いていた。

「馬鹿な…『闇の玉座』が…なぜこのような姿に…!?」

魔術師は恐怖に顔を歪め、後ずさりする。

「まさか…『闇の玉座』を浄化する者が現れるとは…!?」

将軍は、健太の隣に駆け寄ってきた。

「健太殿…これは…一体…」

健太は息を整え、将軍に答えた。

「この玉座は、もう王国に災いをもたらすことはありません。むしろ、王国に恵みをもたらすものへと変わったはずです」

健太の言葉を聞き、公爵は激昂した。

「貴様!何ということをしてくれたのだ!私の、私の野望を…!」

公爵は健太に襲い掛かろうとしたが、その瞬間、王宮中に警報が鳴り響いた。そして、国王と、その護衛の精鋭たちが広場に現れた。国王の顔には、怒りと悲しみが入り混じった複雑な表情が浮かんでいた。

「アダルベルト!何をしている!?」

国王の声に公爵は動きを止めた。国王は、健太が浄化したクリスタルの玉座を見て驚きを隠せない様子だった。そして、将軍から事の次第を聞くと、国王の顔に深い悲しみの色が浮かんだ。

「アダルベルト…貴様、このようなことを…」

国王は、涙を浮かべながら公爵を見つめた。公爵は、完全に追い詰められた表情で、その場に崩れ落ちた。

「陛下…どうか…どうかお許しを…」

公爵は、もはや何の力も持たない哀れな男になっていた。魔術師は、公爵を見捨て、その場から逃げ去ろうとしたが、将軍の指示を受けた衛兵たちに捕らえられていた。

こうして、アストリア王国を揺るがしかけた内乱の危機は、健太の「解析」能力によって未然に防がれたのだった。

 事件後、アダルベルト公爵は捕らえられ、国王は公爵を厳しく罰することを決めた。そして、健太は国王から、正式にアストリア王国の「聖なる救世主」として、その功績を称えられた。

国王は、クリスタルの玉座の前に健太を招き入れると玉座は清らかな光を放った。

「健太殿…貴殿は、このアストリア王国を一度ならず二度三度と救ってくれた。そして、私自身の愚かさをも教えてくれた。本当に感謝してもしきれない」

国王は深々と頭を下げた。健太は恐縮しながら、国王の言葉を受け止めた。

「陛下、私はただ、できることをしたまでです」
「いや、違う。貴殿は、我々に希望を与え、道を指し示してくれた。このクリスタルの玉座は、もはや『闇の玉座』などではない。我々の希望の象徴となったのだ」

国王はそう言うと、健太に新たな提案をした。

「健太殿、どうかこのアストリア王国に、永住してはいただけないだろうか?  そして、この国の、いや、この世界の平和のために、貴殿の力を貸してほしい。もちろん、貴殿の自由は一切奪わない。ただ、困った時に、貴殿の助言と力を借りることを許してほしいのだ」

健太は、国王の真剣な眼差しに、これまで抱えていた葛藤が解消されていくのを感じた。彼の「のんびり平和に暮らしたい」という思いと、「人の役に立ちたい」という新たな目的が、今、一つに繋がったような気がした。

「陛下…そのお申し出、喜んでお受けいたします」

健太の言葉に、国王の顔に満面の笑みが浮かんだ。

『主、アストリア王国における主の存在は、この世界の歴史に新たな道を刻むこととなるでしょう。主の精神的な成長は、この拠点の能力をさらに高め、やがては世界全体の安定と繁栄へと繋がるはずです』

ルミナの声が、健太の心に温かく響いた。

健太は、アストリア王国の「聖なる救済者」として、この異世界で新たな一歩を踏み出した。彼の「平凡な家」は、この世界における「最強の拠点」、否、「人々の希望」として、そして彼自身もまた、そんな人々の希望を背負う「救世主」として、その名を轟かせていくことだろう。

彼の異世界での物語は、まだ始まったばかりだ。そして、その物語は、アストリア王国という小さな国の枠を超え、この世界を巻き込んでいくことになるだろう。

日本では平凡なサラリーマンだった健太が、この世界にどのような未来をもたらすのか。それは、まだ誰も知らない。
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