家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道

文字の大きさ
26 / 41

新たな局面

しおりを挟む
 天空の舟はガリア王国の農耕地帯へと接近していた。夜の闇に紛れて降下していく舟の中から、健太は眼下に広がる広大な農地を見下ろしていた。

「ルミナ、ガリア王国の兵力配置を再確認できるか?特に、ヴァルカン王国からの援軍の有無を」
『スキャン結果、ガリア王国の兵力は、以前の偵察時と大きな変化はありません。ヴァルカン王国からの援軍の兆候もありません』

ルミナの報告に、健太はわずかな違和感を覚えた。ゼフィール王国への奇襲で、あれほどの打撃を与えたにも関わらず、ヴァルカン王国はガリア王国へ援軍を送っていない。これは、彼らの同盟が本当に機能していないのか、それとも何か別の意図があるのか。

「警戒を怠るな。何かおかしい」

健太の指示に、ルミナが応じた。

『認識しました。常に周辺の魔力反応と兵力配置を監視します』

天空の舟が農耕地帯の中心へと降下し、地上に降り立った瞬間、健太は即座に違和感の正体を悟った。

「これは……罠か!?」

地中から、無数の魔力反応が急上昇するのをルミナが感知したのだ。同時に、大地が震え、巨大な岩石が隆起し、行く手を阻むように壁を築き始めた。

「主!これは「地脈操作魔法」です!ガリア王国が、この地域に罠を仕掛けていたようです!」

ルミナの声が響く。周囲の森からは、無数のガリア兵が姿を現し、健太たちを包囲しようと動き始めた。

「くそっ!ロア、ユーリ、騎士団は敵兵を食い止めろ!ガルーダの戦士たち、地下からの攻撃に警戒!里長、エルフの魔法部隊は、地脈操作魔法を解除できますか!?」

健太は、即座に指示を出した。ロアとユーリは、剣を抜き、騎士団と共にガリア兵へと突撃していく。

ガルーダの戦士たちは、その強靭な肉体で隆起する岩石を破壊し、地中からの奇襲に備える。里長は、杖を構え、地脈操作魔法の解除に取り掛かった。

「これは古の魔法……解除には時間がかかります!その間、我々が敵の攻撃から健太殿を守りましょう!」

里長の言葉に、健太は焦りを感じた。時間がかかれば、敵の援軍が到着する可能性がある。

その時、健太の脳裏に、里長がガルーダへ向かう前に言った言葉が蘇った。

「一筋縄では行かないかもしれんな」

そして、ガルーダの族長が言った、信を置いていたのは「亡き先代アストリア国王」だという言葉。

「もしや……」

健太は、ある可能性に気づいた。アストリア国王は、自身の力を西方三国に渡すまいと、健太の力を隠していた。もしかしたら、ガリア王国は、健太の力を欲し、それを奪うために、あえてゼフィール王国への援軍を送らず、健太をおびき寄せるための罠を仕掛けていたのかもしれない。

「ルミナ、ガリア王国の兵力の中に、ヴァルカン王国の兵士は混じっているか?」
『スキャン結果、ガリア王国の兵力の一部に、ヴァルカン王国の紋章をつけた兵士が確認されました。数は約50名、精鋭部隊のようです』

ルミナの報告に、健太は確信した。これは、ガリア王国とヴァルカン王国による、健太を狙った共同作戦だったのだ。ゼフィール王国への奇襲成功は、彼らが仕掛けた罠の一部だったのかもしれない。

「くそっ!まんまと奴らの策略にはまったな!」

健太は、目の前の状況に怒りを覚えた。しかし、このまま引き下がるわけにはいかない。

「ルミナ、天空の舟を再度上昇させろ!上空からの攻撃で、地脈操作魔法の起動部隊を叩く!」

健太の指示に、天空の舟がゆっくりと上昇を始めた。ガリア兵たちが、弓矢や魔法で舟を攻撃しようとするが、舟のシールドがそれらを弾き飛ばす。

「ロア、ユーリ、みんな、俺が上空から援護する!持ちこたえてくれ!」

健太は、天空の舟から、地脈操作魔法の起動部隊へと衝撃波を放った。轟音と共に、複数のガリア兵が吹き飛ばされ、地脈操作魔法の勢いがわずかに弱まる。

しかし、ヴァルカン王国の精鋭部隊が、健太が乗る天空の舟に照準を合わせ、魔導弓を構えた。

「健太殿!あれは、ヴァルカン王国の対空魔導弓です!強力な魔力で、天空の舟のシールドを貫通する可能性があります!」

里長の声が響く。健太は、身をかがめ、操縦桿を握りしめた。

「ルミナ、シールドを最大出力に!そして、彼らの射線を予測し、回避しろ!」

天空の舟は、ヴァルカン王国の魔導弓から放たれる強力な魔力弾を、間一髪で回避していく。しかし、その動きは決して楽ではなかった。

地上では、ロア、ユーリ、レオン、ガルムたちが、必死にガリア兵とヴァルカン王国の連合精鋭部隊と戦っていた。数の不利、そして地脈操作魔法による足場の悪さが、彼らを苦しめていた。

「健太様!増援です!」

レオンの声が響いた。農耕地帯の奥から、大量のヴァルカン王国の兵士たちが、行進してくるのが見えた。

「くそっ!これで完璧に包囲されたな!」

健太は舌打ちした。このままでは、全滅する可能性もある。

「ルミナ、撤退ルートを構築しろ!ここでの戦闘は不利だ!」
『認識しました。最も安全な撤退ルートを構築します。しかし、このままでは、生存者の多くを見捨てることになります。主の「家」への転移を推奨します』

ルミナの提案に、健太は葛藤した。しかし、これ以上の戦闘は無駄死にを増やすだけだ。

「……分かった。ルミナ、生存者全員を「家」へと転移させろ!俺は殿(しんがり)を務める!」

健太は、天空の舟から降り立ち、地上へと飛び降りた。彼の目の前には、無数のガリア兵とヴァルカン王国の兵士たちが迫っていた。

「みんな、急いで転移しろ!俺が時間を稼ぐ!」

健太は、両手から強力な衝撃波を放ち、迫りくる敵兵を吹き飛ばしていく。彼の圧倒的な力に、敵兵たちは一瞬怯んだ。その隙に、ロア、ユーリ、レオン、ガルム、そして各国の精鋭たちが次々と「家」へと転移していく。

「健太様!早く!」

ロアの声が聞こえたが、健太は敵兵の波に飲み込まれそうになっていた。

「くそっ!」

健太は、ルミナに最後の指示を出した。

「ルミナ、残りの生存者が転移し終えたら、俺を「家」へと転移させろ!多少のダメージは構わない!」

健太は、押し寄せる敵兵の攻撃を、自らの肉体で受け止めながら、時間を稼ぎ続けた。彼の体に、無数の傷が刻まれていく。

『主、生存者の転移が完了しました。主を「家」へと転移させます!』

ルミナの声と共に、健太の体から淡い光が放たれ、その場から消え去った。
健太の姿が消えた後、ガリア兵とヴァルカン王国の兵士たちは、互いに顔を見合わせた。彼らは、目の前の光景にただ呆然としていた。

「奴は……一体何者だ!?」

ヴァルカン王国の指揮官が、怒りにも似た声で叫んだ。

「報告!目標の対象は消失しました!アストリアの生き残りの精鋭部隊も消えました!」

兵士の報告に、指揮官は苛立ちを露わにした。

「くそっ!取り逃がしたか!しかし、これで奴らの居場所は分からなくなった。まさか、あの空間転移の能力まで持っているとは……!」

指揮官は、健太の能力に改めて驚愕する。彼らは、健太の力を手に入れるため、綿密な計画を立てていたはずだった。しかし、その計画は、健太の予期せぬ行動によって、大きく狂い始めた。


 健太の「家」のリビングに転移した健太は、その場に倒れ込んだ。全身を激しい痛みが襲い、意識が朦朧とする。

「健太様!」

ロアとユーリが駆け寄り、健太の体を支えた。彼の体には、無数の斬り傷や打撲痕が刻まれ、鮮血が流れ出ていた。

『主、緊急治療を開始します。生命の泉の水を生成し、傷口に直接散布します』

ルミナの声と共に、健太の傷口に清らかな水が降り注ぎ、みるみるうちに傷が癒えていく。しかし、精神的な疲労や恐怖は、簡単には癒されない。

里長と族長も、健太の無事な姿に安堵しながらも、その表情には悔しさが滲んでいた。

「申し訳ない、健太殿。我々の読みが甘かった」

里長が静かに頭を下げた。族長も歯噛みした。

「くそっ!まさか、奴らがそこまで周到な罠を仕掛けていたとはな!」

健太は、ゆっくり立ち上がると、皆の顔を見回し頭を下げた。

「俺の責任だ。俺が油断した。奴らの同盟は、俺が思っていた以上に強固だったのかもしれない」

健太の言葉に、ロアとユーリは顔を伏せた。

「ボクたちが不甲斐ないばかりに……」
「違う!お前たちはよく戦ってくれた!」

健太は、ロアの言葉を遮り、力強く言った。

「今回の敗北は、俺の甘さが招いたものだ。俺は、自分の能力に頼りきり、この世界の状況を甘く見ていた。国王陛下の犠牲も、今回の罠も、全て俺の未熟さが招いたものだ」

健太は、自分の無力さをまた痛感することとなった。精霊の森での体験が、彼をどこか浮足立たせていたのかもしれない。気を引き締めていたつもりだったが、「神の御使い」という言葉に、傲慢になっていた部分があったのかもしれない。

ミストニアやガルーダの協力を得られ油断していたのかもしれない。

健太は深呼吸をする。これはゲームや漫画とは違う。死んでしまったらコンテニューなど無いのだ。

「しかし、これで終わりではない。今回の敗北は、我々にとって大きな教訓となった。奴らは、俺の力を知っている。そして、俺たちを危険視している。だが、同時に、俺の空間転移の能力までは把握できていないはずだ。それが、我々が生き残った理由だ」

健太の言葉に、皆の顔に、再び希望の光が宿っていく。

「ルミナ、西方三国の動向を監視し続けろ。特に、俺の力をどう分析し、どのような対策を練ってくるのかを」
『承知いたしました、主。常に最新の情報を収集し、分析を継続します』

健太は、里長と族長、そしてロア、ユーリ、レオン、ガルムの顔を真っ直ぐに見つめた。

「今回の敗北は、確かに痛手だった。だが、我々はまだ生きている。そして、アストリア王国を再建し、この世界の平和を取り戻すという目標は、何一つ変わっていない」

健太の瞳には、悲しみと悔しさに加えて、新たな決意の炎が宿っていた。

「俺は、必ずこの世界に平和をもたらす。そのためならば、どんな困難にも立ち向かう。皆、力を貸してほしい。そして、二度と、このような悲劇が起こらない世界を、共に創り上げよう」

健太の言葉に、皆は力強く頷いた。彼らの心には、健太への信頼と、未来への希望が満ち溢れていた。

アストリア王国の復興、そして西方三国との戦いに暗雲が立ち込める。だが、健太たちには今回の敗北を悔やんでいる暇などない。

天空の舟は、来るべき戦いに備え、静かにその時を待っていた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!

にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。 そう、ノエールは転生者だったのだ。 そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。

精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~

ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。 異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。 夢は優しい国づくり。 『くに、つくりますか?』 『あめのぬぼこ、ぐるぐる』 『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』 いや、それはもう過ぎてますから。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

処理中です...