家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道

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厄介者、王都を出る

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 数週間後、健太の「家」では、最後の作戦会議が開かれていた。標的は、西方三国で最も強大なヴァルカン王国。彼らは、アストリア王国の旧王都を占領し、強力な魔導兵器を配備していた。

健太は、疲弊した顔でルミナに問いかけた。

「ルミナ、ヴァルカン王国の最新の兵力情報をスキャンしてくれ。特に、新型の魔導兵器や、奇策の兆候はないか?」
『スキャン結果、ヴァルカン王国は、アストリア王国の旧王都に、強力な魔力シールド発生装置を配備しています。これは、天空の舟の衝撃波や、エルフの広範囲魔法をも無効化する可能性があります。また、旧王都の地下には、有事の際に発動する自爆装置が仕掛けられている可能性も示唆されています』

ルミナの報告に、健太は眉をひそめた。

「自爆装置だと?ヴァルカン王国は、王都を破壊するつもりなのか?」
『はい。もし劣勢に陥れば、王都ごと自爆し、我々を巻き込む可能性が高いです』

健太は、その情報に絶句した。ヴァルカン王国は、なりふり構わず、全てを道連れにするつもりなのだ。

健太は、テーブルに広げられた地図を睨み、深く考え込んだ。ヴァルカン王国の魔力シールドと自爆装置。この二つをどう攻略するかが、最後の戦いの鍵となる。

「ルミナ、魔力シールドを突破する方法は?そして、自爆装置を無効化する方法は?」
『魔力シールドは、一度に高密度の魔力を集中させることで、一時的に破壊することが可能です。しかし、そのためには膨大な魔力が必要となり、主の現在の魔力では不可能です』

健太は絶望した。彼の魔力は、度重なる戦闘と、里長の死による精神的な疲弊で、以前よりも消耗していた。

「では、どうすれば……」
『自爆装置については、王都の地下深くに設置されており、解除するにはヴァルカン王国の最高位の魔術師の認証が必要となります。物理的な破壊は困難です』

健太は、頭を抱えた。手詰まりだ。その時、ロアが健太の前に進み出た。

「健太様、俺に、その魔力シールドの破壊を任せてください」

健太は驚いてロアを見た。ロアの瞳には、かつての弱々しさはなく、強い意志が宿っていた。

「何を言ってるんだ、ロア。お前には無理だ」
「いえ、できます。俺の体には、魔王の血が流れている。まだ未熟ですが、その魔力を制御することができれば、一時的に健太様以上の魔力を引き出すことができるはずです」

ロアの言葉に、健太は目を見開いた。魔王の血。よくわからないがその絶大な力が、今、希望となる可能性があるのか。

だが……

「危険すぎる!」

健太はロアの身を案じた。

「それでも、俺はやりたいんです!健太様が俺を救ってくれたように、今度は俺が、健太様とアストリア王国を救う番です!」

ロアの強い決意に、健太は言葉を失った。その時、ユーリも前に進み出る。

「ロアがシールドを破る間に、私が自爆装置を止めます。私の盗賊としてのスキルと、ルミナの支援があれば、潜入は可能です」

健太はユーリを見た。ユーリの瞳にも、強い覚悟が宿っていた。

「しかし……」
「危険を承知で、私たちも戦います。健太様だけが背負う必要はありません」

ユーリの言葉に、健太は目頭が熱くなった。あの時助けた弱々しく守ってやらなければならなかった子供たちが、こんなにも頼もしい「仲間」になったのだ。

健太は、二人の顔を交互に見つめ、やがて静かに頷いた。

「分かった。ロア、ユーリ。頼む。そして、レオン、ガルム、エルフの騎士団長。二人の援護を頼む。ヴァルカン王国の兵士は、全て我々が引き受ける」

全員が健太の言葉に力強く頷いた。

 翌日、天空の舟はヴァルカン王国の旧王都上空へと向かっていた。王都には、ヴァルカン王国の強固な魔力シールドが展開されており、その威容は健太たちを威圧した。

「ロア、ユーリ。準備はいいか?」

健太の問いに、二人は力強く頷いた。

「いつでもいけます、健太様!」
「任せてください!」

ロアが天空の舟の甲板に立ち、両手を広げた。彼の体から、漆黒の魔力が放出され、それが巨大な塊となって魔力シールドへと向かっていく。────これが魔王の血の力ってやつなのか?

漆黒の魔力と魔力シールドが激突し、凄まじい衝撃波が周囲に広がる。

「うおおおおおおっ!」

ロアの叫び声が響き渡る。彼の体は、限界を超えた魔力に耐えきれず、血管が浮き上がり、顔色は蒼白になっていく。しかし、彼は決して諦めなかった。

「いけええええええっ!」

ロアの最後の叫びと共に、魔力シールドに巨大な亀裂が走り、やがて粉々に砕け散った。

「今だ、ユーリ!」

健太の指示に、ユーリは素早く天空の舟から飛び出し闇夜に紛れ、ヴァルカン王国の旧王都へと潜入していく。

「騎士団、獣人部隊、エルフ部隊!突撃開始!」 

レオンの号令と共に、アストリアの騎士団、ガルーダの獣人戦士たち、そしてエルフの魔法部隊が、旧王都へと突入していった。健太もまた、天空の舟から降下し、ヴァルカン王国の兵士たちと激しい戦闘を繰り広げた。

健太の衝撃波が敵兵を吹き飛ばし、エルフの魔法が敵を拘束し、獣人たちの肉弾戦が敵兵を圧倒する。アストリアの騎士たちも、健太の援護を受け、次々と敵兵を打ち倒していく。

その間、ユーリは旧王都の地下深くに潜入していた。ルミナの指示を受けながら、複雑な通路を駆け抜け、自爆装置が設置されている部屋へと辿り着いた。

「ルミナ、解除方法を教えて!」
『認証キーは、ヴァルカン王国の最高位の魔術師の魔力パターンです。ユーリ様、あなたの魔力を、その装置に接触させてください。その後、私が魔力パターンを偽装し、解除コードを入力します』

ユーリは言われた通りに装置に手を触れた。すると、装置からまばゆい光が放たれ、ルミナが瞬時に解除コードを入力した。

「解除完了しました!」
ルミナの声に、ユーリは安堵の息を漏らした。自爆装置は無力化された。

その頃、王都では激しい戦闘が続いていた。ヴァルカン王国の兵士たちは必死に抵抗するが、健太たちの勢いは止まらない。健太たちは、次々と敵兵を打ち倒し、旧王都の最深部へと進んでいった。

そして、ついに健太たちはヴァルカン王国の王宮を制圧した。ヴァルカン王国の兵士たちは降伏し、旧王都は完全にアストリア王国の手に戻った。

王都奪還。それは、アストリア王国再建への、大きな一歩だった。しかし、健太の心には、喜びよりも深い疲労感が勝っていた。

 ヴァルカン王国が陥落し、西方三国は完全に崩壊した。アストリア王国の旧王都には、再び民が戻ってきた。しかし、彼らは瓦礫と化した王都を目にして、健太への不満を募らせていた。

「本当にこれでよかったのか?」
「我々は、この異邦人のためにこんな目に遭わされたのではないのか?」
「あの者がいなければ、王都がこんな惨状になることもなかったはずだ!」

不平不満の声が、王都のあちこちから聞こえてくる。健太は、その声を聞きながら、静かに民たちの前に現れた。

「皆、聞いてほしい」

健太は、静かに話し始めた。里長の死、そしてロアとユーリの活躍について語った後、彼は静かに言葉を続けた。

「私には王位に就く資格はない。私のような異邦人が王になっても、皆が心から納得することはできないだろう。アストリア王国は、アストリアの民の手で、アストリアの者が率いるべきだ」

健太の言葉に、民たちはざわめいた。彼らの表情には、不満の中に困惑の色が混じっていた。

「よって、私は皆に、次の王を決めてもらいたい。この戦いで力を尽くした者たちの中から、皆が本当に信頼し、このアストリア王国を導いてくれる者を選んでほしい」

健太は、ロアとユーリ、そしてアストリアの主要な人々を見渡した。ロアは驚きと動揺の表情を浮かべ、ユーリもまた、健太の言葉に目を見開いていた。

「私がここにいる限り、アストリア王国は、常に危険に晒されるだろう」

それは、アストリアの民たちの不満の言葉が、健太の心に深く刻み込まれていたから出た言葉だ。彼は、自分の存在が彼らにとっての災厄だと信じていた。

「俺がいなければ、この世界は、本来の調和を取り戻せるはずだ。そして、皆が選んだ新しい王が、このアストリア王国を導いてくれるだろう」

健太の言葉に、ロアは涙を流した。

「そんなことないです!健太様がいなければ、俺たちは……」

ロアの言葉を、健太は静かに遮った。

「ロア、お前はもう一人じゃない。ユーリも、レオンも、ガルムも、エルフの騎士団長も、みんながお前を支えてくれる。そして、このアストリアの民たちも、この国を救ったお前を信じてくれるはずだ」

健太は、ロアの肩に手を置いた。

「もう心配するな。俺は、お前たちの未来を信じている」

ユーリも、健太の言葉に涙を流している。

「健太様……本当に、行ってしまうの……?」

健太は、優しくユーリの頭を撫でた。頭を撫でられたユーリはあどけない子供の時のような表情をしておりロアとユーリがまだ自分と暮らしていた時のことを思い出し懐かしくなった。

「ああ。俺の旅は、これで終わりじゃない。この世界で、新天地を探し、そこで念願のスローライフを送るさ。次はみんなに迷惑かけないように静かに暮らすんだ」

それは、健太の偽らざる本心だった。彼がこの世界に召喚された目的はよくわからないが、本人の目的としては異世界でも快適にスローライフを送ることだった。

それが、王国を救うという大きな使命に変わってしまったが、全ての戦いが終わり、王国が再建されようとしている今、彼は再び、本来の目的へと戻ることができるのだ。

しかし、その言葉の裏には、アストリアの民たちの不満によって傷つけられた健太の心が隠されていた。彼らにとって、自分は異物であり、災厄の種なのだ。ならば、自分が去ることが、彼らにしてやれる最後の奉仕であると彼は信じていた。

健太は、リリア、ルーク、グレンのもとへ向かった。彼らは、健太の旅立ちを知り、不安そうな顔で健太を見つめていた。

「お兄ちゃん、行っちゃうの?」

リリアが、健太の服の裾を掴んだ。

「ああ。でも、心配するな。お兄ちゃんは、この世界を旅するだけだ。またいつか、どこかで会えるさ」

健太は、優しく彼らを抱きしめる。この世界の異物である自分と一緒にいればこの子たちまで不幸にしてしまう。そう思い、健太はリリアたちをロアとユーリに任せることにしたのだ。

「だから、いい子で、ロアお兄ちゃんたちの言うことを聞くんだぞ」

リリアは泣きながら頷いた。ルークとグレンも、涙をこらえながら健太を見送った。

 翌朝、天空の舟は、アストリア王国の旧王都を飛び立った。窓から見える王都は、瓦礫が撤去され、少しずつ復興の兆しを見せ始めている。

健太の隣には姿形こそないが、相棒のルミナが静かに控えている。また、地上では「厄介者の異邦人がいなくなった」と喜ぶアストリアの民たちの他に、健太との別れに涙を流し、頭上の健太が乗る天空の舟をいつまでも見上げているロア、ユーリ、そしてリリアたちの姿が天空の舟のモニターに映し出されていた。

「主、このまま、どこへ向かいますか?」

ルミナの問いに、健太は静かに答えた。

「どこへでもいい。誰も俺を知らない場所へ。俺の力が、誰の迷惑にもならない場所へ」

健太は、自らの力を誰かのために使うことを、もうやめようとしていた。彼は、静かに、そしてのんびり生きていこうと決意した。

天空の舟は、アストリア王国の空を離れ、東へと進路を取る。彼の新たな旅路は、始まったばかりだ。しかし、その旅が、健太の心に刻まれた傷を癒し、彼に真の安らぎをもたらすのかどうかは、まだ誰も知らない。

(俺は、これでよかったんだ……)

健太は、そう自分に言い聞かせた。しかし、彼の心には、拭いきれない寂しさが残っていた。
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