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舞踏会の夜、私は婚約者であるエドワード王太子から婚約破棄を言い渡された。
「リリアーナ、お前とは結婚できない。僕は真実の愛を見つけたんだ」
彼の隣には、可憐な金髪の少女が立っていた。侯爵家の令嬢、エミリア。
「エミリアは純粋で心優しく、君のような冷たい悪役令嬢とは違うんだ」
――悪役令嬢? そう、確かに私はリリアーナ・フォン・ローゼンタール。父は公爵、母は元王族という名門中の名門。けれど、それは私の性格が悪いという理由にはならない。私はただ、貴族としての矜持を持っていただけなのに……。
エドワード王太子の言葉に、会場の視線が私に突き刺さる。中にはほくそ笑む者もいるし、同情の色を浮かべる者もいる。しかし、誰も助け舟は出さない。
私はそっとスカートの裾を握りしめ、微笑んだ。
「……かしこまりました。では、この婚約破棄を受け入れます」
そう言い残し、私は舞踏会場を後にした。
――これで、私は自由だ。
公爵家に戻るつもりはなかった。父や母の名誉に傷をつけるわけにはいかないし、何より、すぐに厄介者扱いされるのが目に見えている。ならば……。
私は、一人で隣国へ向かった。
馬車に揺られ、たどり着いたのは隣国ルヴェール王国。国境の町で宿を探していた私は、ふと広場で騒ぎが起きているのを見つけた。
「……何かしら?」
野次馬の隙間から覗き込むと、一人の男性が数人の兵士に囲まれていた。黒髪に深い紫の瞳。その佇まいからして、ただの町人ではないのは明らかだった。
「王太子に無礼を働くとは、貴様、命が惜しくないのか?」
王太子? まさか……。
周囲の人々が囁いているのを聞いて、私は驚いた。彼はこの国の王太子、レオンハルト・ルヴェール――次期国王となる人物だった。
「ちょっと待ちなさい」
気づけば私は、足を踏み出していた。
「あなたがた、王太子に無礼を働いているのはどちらかしら?」
私の声に、兵士たちは動きを止める。
「貴様、何者だ!」
鋭い声が飛んできたが、私は動じない。元々、公爵令嬢として育てられたのだ。王族に接する礼儀は心得ているし、それなりの威厳も持ち合わせている。
すると、レオンハルト王太子が私を見つめ、不意に微笑んだ。
「君は……面白いね」
その一言に、私の心がざわめいた。
「リリアーナ、君はこれからどこへ行くつもりなんだ?」
騒動のあと、レオンハルト王太子に連れられて王城へと招かれた私は、今まさに豪奢な部屋で彼と向かい合っていた。
「特に決めていません。ただ、王都でしばらく暮らすつもりでした」
そう答えると、レオンハルトは満足そうに頷く。
「ならば、王城に住めばいい」
「……はい?」
何を言っているのか、理解できなかった。
「君のように聡明で美しい女性を放っておくわけにはいかない。ルヴェール王国の未来のためにも、君にはここにいてほしい」
「ちょ、ちょっと待ってください! なぜそうなるのですか!?」
私は思わず立ち上がる。しかし、レオンハルトは優雅に微笑んだままだった。
「私はね、リリアーナ。君のことを一目見たときから気に入ったんだよ」
「気に入った……?」
「そう。だから君を手放すつもりはない」
さらりと言ってのける彼の言葉に、私は戸惑った。
なぜ、こんなにも溺愛されているのだろう?
私の戸惑いをよそに、レオンハルトは私の手を優しく取った。
「君には、隣国の王太子に愛される素質があるのかもしれないね」
この人は、一体何を考えているのだろう?
――私の平穏な生活は、どうやら遠ざかりつつあるようだった。
「リリアーナ、お前とは結婚できない。僕は真実の愛を見つけたんだ」
彼の隣には、可憐な金髪の少女が立っていた。侯爵家の令嬢、エミリア。
「エミリアは純粋で心優しく、君のような冷たい悪役令嬢とは違うんだ」
――悪役令嬢? そう、確かに私はリリアーナ・フォン・ローゼンタール。父は公爵、母は元王族という名門中の名門。けれど、それは私の性格が悪いという理由にはならない。私はただ、貴族としての矜持を持っていただけなのに……。
エドワード王太子の言葉に、会場の視線が私に突き刺さる。中にはほくそ笑む者もいるし、同情の色を浮かべる者もいる。しかし、誰も助け舟は出さない。
私はそっとスカートの裾を握りしめ、微笑んだ。
「……かしこまりました。では、この婚約破棄を受け入れます」
そう言い残し、私は舞踏会場を後にした。
――これで、私は自由だ。
公爵家に戻るつもりはなかった。父や母の名誉に傷をつけるわけにはいかないし、何より、すぐに厄介者扱いされるのが目に見えている。ならば……。
私は、一人で隣国へ向かった。
馬車に揺られ、たどり着いたのは隣国ルヴェール王国。国境の町で宿を探していた私は、ふと広場で騒ぎが起きているのを見つけた。
「……何かしら?」
野次馬の隙間から覗き込むと、一人の男性が数人の兵士に囲まれていた。黒髪に深い紫の瞳。その佇まいからして、ただの町人ではないのは明らかだった。
「王太子に無礼を働くとは、貴様、命が惜しくないのか?」
王太子? まさか……。
周囲の人々が囁いているのを聞いて、私は驚いた。彼はこの国の王太子、レオンハルト・ルヴェール――次期国王となる人物だった。
「ちょっと待ちなさい」
気づけば私は、足を踏み出していた。
「あなたがた、王太子に無礼を働いているのはどちらかしら?」
私の声に、兵士たちは動きを止める。
「貴様、何者だ!」
鋭い声が飛んできたが、私は動じない。元々、公爵令嬢として育てられたのだ。王族に接する礼儀は心得ているし、それなりの威厳も持ち合わせている。
すると、レオンハルト王太子が私を見つめ、不意に微笑んだ。
「君は……面白いね」
その一言に、私の心がざわめいた。
「リリアーナ、君はこれからどこへ行くつもりなんだ?」
騒動のあと、レオンハルト王太子に連れられて王城へと招かれた私は、今まさに豪奢な部屋で彼と向かい合っていた。
「特に決めていません。ただ、王都でしばらく暮らすつもりでした」
そう答えると、レオンハルトは満足そうに頷く。
「ならば、王城に住めばいい」
「……はい?」
何を言っているのか、理解できなかった。
「君のように聡明で美しい女性を放っておくわけにはいかない。ルヴェール王国の未来のためにも、君にはここにいてほしい」
「ちょ、ちょっと待ってください! なぜそうなるのですか!?」
私は思わず立ち上がる。しかし、レオンハルトは優雅に微笑んだままだった。
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「気に入った……?」
「そう。だから君を手放すつもりはない」
さらりと言ってのける彼の言葉に、私は戸惑った。
なぜ、こんなにも溺愛されているのだろう?
私の戸惑いをよそに、レオンハルトは私の手を優しく取った。
「君には、隣国の王太子に愛される素質があるのかもしれないね」
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