悪役令嬢なのに? 隣国の王太子がなぜか私を溺愛してくる

ほーみ

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市場での視察を終え、馬車に乗り込んだ私は、ようやく落ち着いた気持ちで息をついた。
クラウス様の隣に座っているだけなのに、心臓の鼓動が早くなっているのを自覚してしまう。

「楽しかったか?」

隣からふと優しい声が聞こえる。

「……ええ、とても」

「それはよかった」

クラウス様は満足そうに微笑み、窓の外に目を向ける。

「貴女には、もっとこの国のことを知ってほしい」

「私に……?」

「そうだ。貴女がこの国で生きることを決めるなら、まずは知ることが必要だ」

「……」

彼の言葉には、いつも迷いがない。

私は、本当にここにいていいのかしら?

そんな迷いすら、彼の言葉に揺らされる。

「クラウス様は、どうしてそこまで……私に?」

「……」

彼は私の方を向き、じっと見つめてくる。

「理由がいるのか?」

「えっ?」

「貴女がここにいることが、私にとって自然なことだ。それ以上の理由がいるか?」

彼の真っ直ぐな視線が、私の心を射抜く。

「……それは……」

答えられないまま、私は視線をそらしてしまう。

そんな私を見て、クラウス様は小さくため息をついた。

「貴女はまだ、私の気持ちを疑っているのか?」

「そ、そんなことは……」

「なら、私を信じてくれ」

彼の手がそっと私の頬に触れる。

「私は、貴女がここにいることを望んでいる。それは、何度でも言おう」

「……っ」

胸が、ぎゅっと締め付けられる。

私は、どうしたらいいの?



王宮に戻ると、執務室に向かうクラウス様と別れ、私は自室へと戻った。

ドレスに着替え、侍女のクラリスに髪をとかしてもらいながら、ぼんやりと考え込む。

「レティシア様、何かお悩みですか?」

「え……?」

「先ほどから、少し浮かないお顔をされていますよ」

「……そんなつもりはなかったのだけれど」

私は苦笑しながら、手元のティーカップを見つめる。

「でも、考えすぎてしまうことはあるかもしれないわね」

「それは……クラウス様のこと、ですか?」

「……!」

図星を突かれ、私は思わず目を見開く。

「やっぱり、そうなのですね」

クラリスは微笑みながら、ティーカップに紅茶を注ぐ。

「王太子殿下は、本当にレティシア様のことを大切に思われています」

「……そう、なのかしら」

「ええ、間違いなく」

彼の優しさは、偽りではない。

それは、私にもわかっている。

だけど――。

「……私はまだ、決められなくて」

「無理に決める必要はありませんよ」

クラリスは微笑みながら、そっと私の手を握る。

「時間をかけて、ゆっくりと答えを見つければよいのです」

「……そう、ね」

私はゆっくりと頷いた。



その夜、私はふと目を覚ました。

窓の外を見ると、月明かりが静かに庭を照らしている。

なんとなく眠れなくて、私はバルコニーに出ることにした。

夜風がそっと肌を撫でる。

「……静かね」

こんな夜更けに、誰も起きているはずはない。

そう思っていたのに――。

「こんな時間に、何をしている?」

「っ!」

驚いて振り返ると、クラウス様が立っていた。

「ク、クラウス様!? なぜここに……?」

「貴女が気になってな」

「……え?」

彼は静かに私の前に歩み寄る。

「今日の市場でのこと、そして貴女の表情……貴女はまだ迷っている」

「……」

「私は、貴女に焦れたくない」

彼の手がそっと私の頬に触れる。

「でも、こうしていると、どうしようもなく貴女に触れたくなる」

「っ……」

月明かりの下、彼の瞳が私を捕らえる。

「私は、貴女を待つつもりだった」

「……だった?」

「だが……もう、限界だ」

彼の腕が私の腰を引き寄せる。

「クラウス様……っ」

「貴女を、私のものにしたい」

その言葉に、私の心臓が大きく跳ねた。

「……っ」

「拒むなら、今すぐ言え」

彼の唇が、私の耳元に触れる。

「私は、それでも貴女を諦めないがな」

「……っ」

私の頬が、熱くなる。

「……クラウス様は、本当に私を……?」

「今さら疑うのか?」

彼は私の手を取り、そっと指先に口づける。

「貴女が必要だ、レティシア」

その言葉に、私は――。

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