悪役令嬢なのに？ 隣国の王太子がなぜか私を溺愛してくる

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クラウス様の真剣な眼差しが、私の心を捉えて離さない。

「レティシア、お前はどうしたい？」

彼の言葉は、まるで私の奥深くに隠していた迷いをすべて見抜かれているようだった。

私は、彼のそばにいたいのか――それとも？

「……私は」

何かを言おうとしたそのとき、不意に部屋の扉が激しく叩かれた。

「殿下、大変です！」

クラウス様が顔を上げると、扉の向こうから聞こえてきたのはエドワード様の声だった。

「どうした？」

「王都の一部で、ついに反乱が勃発しました！」

「――！」

クラウス様の表情が険しくなる。

私は息を呑んだ。

「詳細を話せ」

「一部の貴族が私兵を動かし、王宮へ向かう動きを見せています。王もすでに対策を指示しましたが、混乱は避けられません」

「父上は無事か？」

「はい、今のところご無事ですが……」

エドワード様は言いにくそうに続けた。

「敵側の貴族の中には、レティシア様の存在を問題視する者もいるようです」

「……やはり」

クラウス様は低く呟き、私の方を向いた。

「レティシア、お前はここにいろ」

「でも……！」

「危険だ。今の状況では、お前を守ることすら難しくなるかもしれない」

「……」

私は唇を噛んだ。

また、私は誰かの邪魔になってしまうの？

「私は……何もできないのでしょうか」

「違う」

クラウス様は、私の肩にそっと手を置いた。

「お前が無事でいることが、俺にとって一番大切なんだ」

「……クラウス様」

「必ず戻る。だから、信じて待っていてくれ」

そう言い残し、クラウス様はエドワード様とともに部屋を出ていった。

私はただ、彼の背中を見送ることしかできなかった。



王宮の外では、すでに戦いが始まっていた。

私が窓から見下ろすと、城門のあたりで兵士たちが剣を交え、怒号が飛び交っているのが見える。

（クラウス様……どうかご無事で）

そんな私の祈りを嘲笑うかのように、不意に部屋の扉が開いた。

「っ！」

私はすぐに振り向いた。

そこに立っていたのは――黒いフードを被った男たちだった。

「ようやく見つけたぞ、悪役令嬢殿」

「……あなたたちは？」

「俺たちは、クラウス殿下の婚約に反対する者たちさ」

男はニヤリと笑いながら、部屋に踏み込んできた。

「お前さえいなければ、殿下は正当な王太子として、余計な混乱を招くことはなかったんだ」

「……私を連れていくつもりですか？」

「話が早くて助かる」

男たちは私に向かってゆっくりと近づいてくる。

私は後ずさるが、背後は壁。逃げ場はない。

（どうすれば……！）

そのとき――。

ガシャーンッ！

「離れろ！」

鋭い声とともに、窓ガラスが割れた。

「えっ……？」

驚いて目を見開く私の前に、金色の髪が揺れる。

「クラウス様……！」

「レティシア、大丈夫か？」

「……はい！」

クラウス様は私を庇うように立ち、敵の男たちを鋭く睨みつける。

「貴様ら、よくも俺の大切な人に手を出してくれたな」

その瞬間、空気が変わった。

クラウス様の目が、まるで猛獣のように鋭く光る。

「覚悟はできているんだろうな？」

「くっ……！」

男たちは怯んだが、すぐに剣を抜いた。

「このまま引き下がるわけにはいかねぇ！」

次の瞬間、彼らは一斉に襲いかかってきた。

「レティシア、後ろに下がっていろ！」

「でも……！」

「俺は、もう二度とお前を失いたくないんだ！」

「……っ！」

クラウス様の言葉に、私は思わず息を呑んだ。

（そんなふうに思ってくれていたの……？）

彼は私のことを、本当に大切に思ってくれている。

だからこそ、私は――。

「……分かりました。待っています！」

私は強く頷き、クラウス様の背中を信じて見守ることにした。



戦いは激しくなり、反乱は収束へと向かっていた。

王宮の兵士たちが次々と敵を制圧し、ついに王都の混乱は終息した。

そして――。

「……終わったの？」

私は王宮のバルコニーから、燃えるような夕焼けを眺めながら呟いた。

「もう、大丈夫だ」

そう言いながら、クラウス様が私の隣に立つ。

「クラウス様……お怪我は？」

「軽い傷だ。心配するな」

彼は微笑んで、私の髪をそっと撫でる。

「レティシア……お前を守れてよかった」

「……ありがとうございます」

私は静かに目を閉じた。

（私は……）

自分の気持ちに、もう嘘はつけない。

「クラウス様」

私はそっと彼の袖を握った。

「……私は、貴方のそばにいたいです」

「……本当か？」

クラウス様の目が、驚きと喜びで揺れる。

「はい。私は……もう迷いません」

彼のために生きたい。

彼のそばで、彼の支えになりたい。

「レティシア……！」

クラウス様は私をそっと抱きしめた。

私は彼の腕の中で、安堵の息を吐く。

（やっと、答えを見つけた）

けれど――。

「殿下！ 緊急の報告が！」

またしても、エドワード様が慌ただしく駆け込んできた。

「……今度は何だ？」

「王の決定が下りました。次の王太子妃の発表をするそうです」

「――！」

「おそらく……貴女のことです、レティシア様」

私は目を見開いた。

（私が……王太子妃に？）

クラウス様と私の未来は、今、新たな局面を迎えようとしていた。