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「次の王太子妃の発表……?」
私はエドワード様の言葉を反芻しながら、クラウス様を見上げた。
彼の表情はいつもよりずっと厳しく、深く考え込んでいるようだった。
「父上が……何を考えている?」
クラウス様は小さく息をつきながら、低い声で呟いた。
エドワード様は慎重に言葉を選びながら続ける。
「この発表は、反乱鎮圧の直後に行われる予定です。おそらく、国の安定を示すためのものかと……」
「それは分かっている。しかし……」
クラウス様は私の方をちらりと見た。
「レティシアの意志を無視するような形で決められたのなら、俺は断固として反対する」
彼の言葉に、胸がぎゅっと締めつけられる。
(クラウス様は、いつも私の気持ちを大切にしてくれる)
そんな彼だからこそ、私は――。
「クラウス様」
私は彼の袖をそっと握った。
「私は……」
しかし、言葉を紡ぐ前に、エドワード様が厳しい声で言った。
「王が決定を下した以上、それを覆すのは容易ではありません。今後の展開次第では、レティシア様の身に危険が及ぶ可能性もあります」
「……!」
「今回の反乱の件で、彼女をよく思わない貴族がいることは事実です。正式に王太子妃となれば、それはますます顕著になるでしょう」
私は、無意識のうちにクラウス様の袖を強く握っていた。
彼はそれに気づいたのか、私の手を優しく包み込む。
「レティシア、お前はどうしたい?」
彼は、私の意志を尊重してくれる。
だからこそ、私は――。
「私は……」
自分の気持ちを確かめるように、ゆっくりと口を開く。
「クラウス様のそばにいたいです」
そう言うと、彼は安堵したように微笑んだ。
「なら、俺がすべきことは決まっているな」
それから数日後。
王宮では、王太子妃の発表を控え、華やかな準備が進められていた。
けれど――。
「まさか、私がここまで注目されることになるなんて……」
私は王宮の廊下で、一人ため息をつく。
私の存在が、国の未来を左右する立場になりつつある。
「本当に、これでいいのかしら……」
不安を抱えながら歩いていると、不意に誰かに呼び止められた。
「レティシア」
振り向くと、そこには見慣れた人物が立っていた。
「……ローレンス様?」
ローレンス・シュトラウス侯爵。
彼は、以前私の婚約を破棄した元婚約者の側近であり、今回の反乱を主導していた貴族派閥の中心人物の一人だった。
「久しぶりだな」
彼はにこやかに微笑んでいたが、その目は冷静に私を観察している。
「……私に何かご用ですか?」
「随分と偉くなったものだな、レティシア」
皮肉めいた口調に、私は眉をひそめる。
「クラウス殿下の寵愛を受けるだけでは飽き足らず、ついには王太子妃の座まで手に入れようとしているとは」
「私は……そんなつもりは」
「だが、事実だろう?」
彼は一歩、私に近づく。
「君が王太子妃になれば、クラウス殿下は完全に君に夢中になり、我々の意見など聞かなくなる」
「それは……」
「だからこそ、私は忠告しに来た」
ローレンス様は真剣な表情になり、低く囁く。
「今すぐ、この国を去れ」
「……え?」
「君がいる限り、この国の分裂は避けられない」
「そんな……!」
「君のために、クラウス殿下が命を懸けることもあるだろう。その時、君は彼を守れるのか?」
私は言葉を失った。
「クラウス殿下は、君のためならどんな犠牲も厭わないだろう。だが、それは本当に彼のためになるのか?」
「……」
「君が去れば、すべては丸く収まる。だから――」
「それは違う」
突然、鋭い声が割って入った。
「クラウス様……!」
彼が、いつの間にかそこに立っていた。
「ローレンス、お前の言うことは正論だ。だが、俺はレティシアを手放すつもりはない」
「クラウス殿下……!」
「何があろうと、俺は彼女とともに未来を築く」
彼の言葉に、胸が熱くなる。
(私は……一人じゃない)
ローレンス様は、深くため息をついた。
「……それが、あなたの答えなのですね」
「ああ。だから、もう俺たちの前に現れるな」
「分かりました」
ローレンス様は私を一瞥し、静かに去っていった。
「レティシア、大丈夫か?」
クラウス様が、私の頬にそっと触れる。
「……はい。でも」
私は彼の手をそっと握りしめた。
「私がいることで、クラウス様が大変な目に遭うのではと……」
「そんなことを心配するな」
彼は優しく微笑む。
「俺は、お前を守ると決めたんだ」
「……!」
「だから、もう迷うな」
その言葉が、私の迷いを吹き飛ばした。
「……はい!」
私は、強く頷いた。
そして、迎えた王太子妃の発表の日。
王宮の大広間には、貴族たちが集まり、厳かな雰囲気が漂っていた。
王が立ち上がり、重々しく口を開く。
「王太子妃として、レティシア・アルバートを迎えることをここに正式に発表する」
その瞬間、広間がざわめいた。
貴族たちの間で、賛否が飛び交う。
私は、ぎゅっと手を握りしめた。
(これが、私の選んだ道……)
クラウス様は、そっと私の手を握る。
「大丈夫だ、俺がいる」
その言葉に、私は微笑んだ。
しかし――その直後、突然の声が響いた。
「この婚約に、異議あり!」
大広間の扉が勢いよく開かれる。
そこに現れたのは――。
(まさか……!?)
新たな波乱の幕開けを感じながら、私は息を呑んだ。
私はエドワード様の言葉を反芻しながら、クラウス様を見上げた。
彼の表情はいつもよりずっと厳しく、深く考え込んでいるようだった。
「父上が……何を考えている?」
クラウス様は小さく息をつきながら、低い声で呟いた。
エドワード様は慎重に言葉を選びながら続ける。
「この発表は、反乱鎮圧の直後に行われる予定です。おそらく、国の安定を示すためのものかと……」
「それは分かっている。しかし……」
クラウス様は私の方をちらりと見た。
「レティシアの意志を無視するような形で決められたのなら、俺は断固として反対する」
彼の言葉に、胸がぎゅっと締めつけられる。
(クラウス様は、いつも私の気持ちを大切にしてくれる)
そんな彼だからこそ、私は――。
「クラウス様」
私は彼の袖をそっと握った。
「私は……」
しかし、言葉を紡ぐ前に、エドワード様が厳しい声で言った。
「王が決定を下した以上、それを覆すのは容易ではありません。今後の展開次第では、レティシア様の身に危険が及ぶ可能性もあります」
「……!」
「今回の反乱の件で、彼女をよく思わない貴族がいることは事実です。正式に王太子妃となれば、それはますます顕著になるでしょう」
私は、無意識のうちにクラウス様の袖を強く握っていた。
彼はそれに気づいたのか、私の手を優しく包み込む。
「レティシア、お前はどうしたい?」
彼は、私の意志を尊重してくれる。
だからこそ、私は――。
「私は……」
自分の気持ちを確かめるように、ゆっくりと口を開く。
「クラウス様のそばにいたいです」
そう言うと、彼は安堵したように微笑んだ。
「なら、俺がすべきことは決まっているな」
それから数日後。
王宮では、王太子妃の発表を控え、華やかな準備が進められていた。
けれど――。
「まさか、私がここまで注目されることになるなんて……」
私は王宮の廊下で、一人ため息をつく。
私の存在が、国の未来を左右する立場になりつつある。
「本当に、これでいいのかしら……」
不安を抱えながら歩いていると、不意に誰かに呼び止められた。
「レティシア」
振り向くと、そこには見慣れた人物が立っていた。
「……ローレンス様?」
ローレンス・シュトラウス侯爵。
彼は、以前私の婚約を破棄した元婚約者の側近であり、今回の反乱を主導していた貴族派閥の中心人物の一人だった。
「久しぶりだな」
彼はにこやかに微笑んでいたが、その目は冷静に私を観察している。
「……私に何かご用ですか?」
「随分と偉くなったものだな、レティシア」
皮肉めいた口調に、私は眉をひそめる。
「クラウス殿下の寵愛を受けるだけでは飽き足らず、ついには王太子妃の座まで手に入れようとしているとは」
「私は……そんなつもりは」
「だが、事実だろう?」
彼は一歩、私に近づく。
「君が王太子妃になれば、クラウス殿下は完全に君に夢中になり、我々の意見など聞かなくなる」
「それは……」
「だからこそ、私は忠告しに来た」
ローレンス様は真剣な表情になり、低く囁く。
「今すぐ、この国を去れ」
「……え?」
「君がいる限り、この国の分裂は避けられない」
「そんな……!」
「君のために、クラウス殿下が命を懸けることもあるだろう。その時、君は彼を守れるのか?」
私は言葉を失った。
「クラウス殿下は、君のためならどんな犠牲も厭わないだろう。だが、それは本当に彼のためになるのか?」
「……」
「君が去れば、すべては丸く収まる。だから――」
「それは違う」
突然、鋭い声が割って入った。
「クラウス様……!」
彼が、いつの間にかそこに立っていた。
「ローレンス、お前の言うことは正論だ。だが、俺はレティシアを手放すつもりはない」
「クラウス殿下……!」
「何があろうと、俺は彼女とともに未来を築く」
彼の言葉に、胸が熱くなる。
(私は……一人じゃない)
ローレンス様は、深くため息をついた。
「……それが、あなたの答えなのですね」
「ああ。だから、もう俺たちの前に現れるな」
「分かりました」
ローレンス様は私を一瞥し、静かに去っていった。
「レティシア、大丈夫か?」
クラウス様が、私の頬にそっと触れる。
「……はい。でも」
私は彼の手をそっと握りしめた。
「私がいることで、クラウス様が大変な目に遭うのではと……」
「そんなことを心配するな」
彼は優しく微笑む。
「俺は、お前を守ると決めたんだ」
「……!」
「だから、もう迷うな」
その言葉が、私の迷いを吹き飛ばした。
「……はい!」
私は、強く頷いた。
そして、迎えた王太子妃の発表の日。
王宮の大広間には、貴族たちが集まり、厳かな雰囲気が漂っていた。
王が立ち上がり、重々しく口を開く。
「王太子妃として、レティシア・アルバートを迎えることをここに正式に発表する」
その瞬間、広間がざわめいた。
貴族たちの間で、賛否が飛び交う。
私は、ぎゅっと手を握りしめた。
(これが、私の選んだ道……)
クラウス様は、そっと私の手を握る。
「大丈夫だ、俺がいる」
その言葉に、私は微笑んだ。
しかし――その直後、突然の声が響いた。
「この婚約に、異議あり!」
大広間の扉が勢いよく開かれる。
そこに現れたのは――。
(まさか……!?)
新たな波乱の幕開けを感じながら、私は息を呑んだ。
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