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9.すれ違い
しおりを挟むバルザックの宮に来てふた月が経とうとしていた。
私がこの国に慣れるまで一月程家にいたバルザックは先月から仕事に復帰した。
バルザックの為に何かしたいと申し出た私に執事さんがランチを届ける仕事をくれたので毎日ランチを届けに行っている。
褐色の肌が一般的なこの国で私の白い肌は珍しいらしく、初めの頃はじろじろ見られた。
しかし今はみんなが慣れたのか、誰からも見られなくなり、バルザックの執務室へと流れるように通されるようになった。
いつもより早く着いたので、執務室の側の庭へ行った。
晴れた日には東屋でランチをとることも多いので、先に準備をして驚かそうと思ったのだ。
向こうからバルザックが見えた。手を振ろうとして、慌てて薔薇の生垣の陰に隠れる。
バルザックが友人とおぼしき人物と連れ立って歩いていたからだ。
バルザックは、アリアを友人に見せたがらない。
公妾であるアリアが側にいればバルザックの品位にかかわるのだろう。
アリアはつきんと胸が痛むのを感じながら、そっと隠れた。
「バルザック王太子、聞いたぞ。来月いよいよ結婚するんだってな。」
えっ?バルザックは王太子だったの?
確かに王宮の中に屋敷を構えて住んでいたが、軍属の彼は王族の1人にすぎないと思っていた。
私は、彼の何も知らない。知っているのは名前とそのあたたかな温もりだけ…。
そして……。
「そうなんだ。来月結婚式を行うんだ。」
バルザックが結婚?嬉しそうなバルザックの姿はアリアをさらにどん底に突き落とした。
初めて出逢った日の翌日。彼の元から去ろうとしたアリアを引き止めたバルザック。
たった一夜。望んたのはそれだけだったはずなのに、アリアの望みは日々増えていく。
バルザックはいつも優しくて、その温かな日々が永遠に続くのではないかと誤解してしまっていたわ。
もうこれ以上聞きたくないのに、隠れているのが見つかってしまうから、アリアは動けないでいた。
「ちゃんと、プロポーズしたのか?」
いつなんだろう。いつも一緒にいたのに。いつ誰とあっていたんだろう。
「ああ、相手は帝国ゆかりの姫だから、覆されないように古式に則った儀式をきっちり行った。」
高貴な姫君が輿入れされるのね。
皮肉だわ。私にも帝国の血が流れているというのに……。
アリアは、自分の置かれた立場を呪った。今までどんな目にあっても耐えられたのに……。
今回ばかりは天を呪った。
「そうか。相手からも了承を得られたんだな。」
おめでとうとバルザックの肩を叩いた相手に、バルザックは満面の笑顔で答えた。
「ああ、相手からの同意を得た上で妻とした。」
「だったらお前、例の公妾の件どうするんだ?お前が独り占めしてるからみんなに順番が回って来ないってみんなおこってるぜ。新婦にバレないうちに
身辺を綺麗にしておけよ。邪魔になるようなら早々に俺の番に回してくれよな。」
その言葉にキリッと顔を引き締めたバルザック。
「公妾の件はきちんと落とし前をつける。今はまだ公に出来ないが、準備が済み次第お前の番に回すさ。」
その言葉にアリアは目の前が暗くなるのを感じた。
「了解!楽しみに待っている。あの肌の白さがいいんだよな。」
アリアは青ざめた顔で楽しげに去っていく2人を見送った。
バルザックが結婚?公妾を次に友人の番に回す?
私はバルザックに本気で恋したけれど、バルザックは私の事を平気で友人に回せるくらいのものだったんだわ。
アリアはその場に崩れ落ちた。
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