ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ

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十四章 契約と誓約

273. 精霊の祭壇

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 ついでにドワーフ達に、何か足りない物や困ったことはないか聞いて回った。
 ドワーフ達が一番必要とした各種製作に必要な道具類は、ヒラとハラやエステラ達が錬金術で造ってくれていたので特に困ったことはなさそうだが、彼らは好奇心と探究心が旺盛なので、各家庭や町中にあるエステラ製の魔導具の仕組みが気になるらしく、たびたび質問された。

 魔導具のこと以外では、バンクロフト領の商人に、自分たちが作った物を勝手に売ってしまったがよかっただろうかと聞かれた。どうやら以前の国では、品質がどうあれ一定価格で政府に納めていたらしく、勝手に売ったことだけでなく、高値で売ってしまって大丈夫だったか心配になったとの事。

 「あなた達の作った物は、あなた達のものなので、自由に売って構いません。価格も相手が納得してるのなら問題ないと思いますが、ちゃんと売買記録や帳簿をつけて、損をしない……生活が苦しくならないよう気をつけて下さいね。領都には商売に詳しい方もいますので、もし良かったら紹介します」

 頼んだ祭壇を受け取った時に、マグダリーナはドワーフの長にそう答えておいた。ブレアおじ様ならきっと、ドワーフ達の力になってくれるだろう。


 夕方前に、周回マゴー車に乗って、ニレルとエステラの拠点へ向かう。
 今やリィンの町は、マンドラゴン達とドワーフ達のおかげで、ショウネシーで一番領民の多い町だ。
 マゴー車の窓から、ちらほら見える人の姿に、今までは本当に領民が少なかったんだと実感し、驚いた。役所や畑、ディオンヌ商会アーケードくらいでしか人の姿は見ることが殆どなかったのだから。





 改めてニレルとエステラの宮殿……じゃなかった、女神の塔専用拠点の前に来て、その広さと美しさにびっくりする。
 王都の魔法工房は金を多く使ったゴージャスさだったが、ここは真っ白で神秘的な美しさだ。
 ここにも多くのスラゴー達がいて、いち早くマグダリーナの到着に気づいて案内してくれる。途中、珍しくオス形態になっているササミが、庭園の苔の上でお腹を出して寝っ転がっているのが見えた。

 「いらっしゃ~い♪」
 建物の中に入ると、早速エプロンをしたエステラが、ご機嫌に出迎えしてくれる。焼き菓子の芳ばしい香りが漂っていた。
 お茶とお菓子とスライム達の乗ったワゴンを引いて、ニレルもやってくる。

 「わぁ、リーナよく似合ってる! 可愛い!!」

 ニレルから貰ったドレスを着ているマグダリーナを見て、エステラは早速褒めてくれた。

 「ニレルもエステラの可愛い格好が見たいようだし、エステラも普段からこういうドレス着てみればどう?」

 マグダリーナはニレルにドワーフの作った祭壇を渡して、魔法付与をお願いした。そしてチャンスとばかり話題を振る。

 「……えっと、でも私は平民だし、あんまり目立つのは……」 
 「この世界の治安面を考えるとそうよね。でも以前言ってたじゃない。ショウネシーに居るデボラは、もう可愛い格好をしても良いって。ショウネシー領でエステラに危害を加える人はいないし、私は領民の女性達にも、もっとおしゃれを楽しんで欲しいと思ってるの。それにどんな服装でも、エステラが特別可愛いのは変わりようがないわ。だったら逆にうんとおしゃれして、敢えて財力があるとか、良い家柄の娘とか、そういう風にみせるのも防犯的には有りじゃないかしら? つまり平民の質素な服より、ちょっとおしゃれな服の方が強そうに見えるってことよ」
 「……! 前世の金髪にしたら、痴漢に遭わなくなった的な?!」
 「それよ!」
 「じゃ……じゃあ、夏だし、サングラスも作ってみようかな……女優みたいなやつ」

 エステラがソワソワしだしたので、マグダリーナは心の中でガッツポーズした。

 「綺麗なドレスでつよつよっていうのは、やっぱり憧れだものね!」

 マグダリーナがそう言うと、ニレルからの援護射撃もきた。

 「そうだね。エステラもそういうのが好きだから、叔母上に絹のドレス作ったりしてただろう?」
 「……うん、好き。そうだった……。そういうの、すごく好きだった……。お師匠がいなくなったら、そういうのは特別な理由がない限り着ないって思ってたの……だって私は、魔法が使えるだけの、身寄りのないただの子供だったんだもの……」

 「エステラ……」
 マグダリーナは、そっとエステラの手を握った。伏せたまつ毛を震わせていたエステラは、顔を上げてふわりと微笑む。

 「リーナの云うとおりね! ショウネシーは安全だし、それにもう家族がいっぱいいるし、気にすることないのよね。リーナとトニーに会えてよかった」

 エステラのその言葉に、マグダリーナは胸から全身にふわふわと温もりが広がるのを感じた。握っていたエステラの手を、両手で包み直して、そっと自分の胸元に抱える。

 「私もエステラと一緒にいられて、幸せだわ」



◇◇◇



 寝台の横に精霊の祭壇、窓辺の近くに妖精の祭壇を置いて、マグダリーナはそれぞれの祭壇に、エステラが用意してくれたお菓子を妖精、精霊の順に置いた。ニレルが祭壇を仕上げた時にそう注意してくれたので。

 お菓子はその場ですぐに消え、器だけが残った。

 なんかこう、お祈りとか「どうぞお召し上がりください」とか念じる間もなく消えてしまう。女神様はちゃんとお祈りが終わるまで待ってくれるのに、なんて堪え性のない妖精と精霊たちなんだろう……しかもまだ日の沈む前だというのに……。

 毛玉精霊たちは、眠りの時間にやってくるんだとばかり思い込んでいたが、そうではなかったようだ。
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