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一章 ナイナイづくしの異世界転生
7. 転生チートすらナイ
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「おゆはんだよぉ」
ヒラとハラが台所から食事とカトラリーを運んでくる。
(何か音が聞こえると思ってたけど、え? 食事作ってたの? スライムが?!)
「スライムって、お料理もできるの?」
青みがあり、くりくりのお目々をしたヒラが、ぷるんと透明感のあるスライムボディを誇示する。小さな光の粒が、ほわっと弾けた。
イケメンパウダーならぬ、イケスラパウダーだと、マグダリーナは勝手に呼称することにした。
「ヒラとハラはぁ、とってもデキるスライムなのぉ。タラやおばあちゃんにお料理もレシピも他にもいろいろ教わって、きちんと学習できてるよぉ」
ヒラはマグダリーナとアンソニーのこともリーナとトニーと呼ぶ。
愛称で呼ぶ派らしく、エステラのことはタラと呼んでいた。おばあちゃんは亡くなったエステラの師匠だ。
ぽこんと胸(?)を反らせてドヤる様が可愛らしい。
もちろんそのたびに、イケスラパウダーが弾ける。
「どうぞぉ」
マグダリーナの前に、スプーンとフォークが置かれる。そして木製漆塗りのどんぶりと丸いパンに焼いたキノコを並べたお皿たちが乗ったお盆が続く。
ハラに給仕されていたアンソニーは、どんぶりの中の具沢山のスープを見て驚いていた。
「お姉さま、初めての香りがします!」
「気になるなら、ミルクやバターで好みの味にして。でもまずそのまま食べてみて。パンは中にゆで卵が入ってるから、そのままかぶりついてね。あとそのキノコはさっき獲ったウマイシタケよ。このタレをつけて食べてね」
エステラがそういうと、サッとハラがミルクとバターが入った容器、そして醤油ベースのタレを置いた。
(味噌だ味噌だ味噌汁だこの香り……豚汁だ……!! しかもこのウマイシタケ、形は違うけど、香りは松茸だ!)
そっとスプーンで掬って、マグダリーナは汁を吸う。
(ん――――っ 汁だけでしっかり旨味を感じる)
ふと顔を上げると、エステラとニレルだけでなく、ハラとヒラまでお箸と、レンゲのような形のスプーンを使って食べていた。
エステラと目が合う。
「マグダリーナさんも、お箸の方が良かった? そうよね、前世は日本人だったって言ってたもんね」
「待って、やっぱりエステラさんも?」
エステラは頷いた。
「私の場合は魔力暴走じゃないの。私がまだお母さんのお腹にいた時から、お師匠が私の魂に繋がってガンガン魔力流してくれたせいだと思う。前世の個人情報的な記憶まではないけど、どんな文化でどういう生活してたかとか、そういうのは記憶に残ってる。それ以外にも前世の世界のことは情報として、前世で知らなかったことも引き出せるの。お師匠が異世界の文化文明に興味を持って、私を媒体にそういう魔法を構築したのよ」
(なるほど、チートなのは、転生者じゃなくハイエルフなお師匠様だったのね)
エステラとはなんだか不思議な縁を感じるなと思いつつ、多分大丈夫だろうと聞いてみる。
「その……転生チートみたいなのはないの?」
「残念ながら転生者特典などないのです……」
ないのかぁ。エステラの場合も、本人のチート能力じゃなくて、お師匠様に能力開発されたからだもんね……
異世界でも現実世界って厳しい。
しんみりした気持ちを抱えて、お箸とレンゲを貰って食事を再開する。
「この豚汁、すごく美味しい! 特にお肉……柔らかくて脂の甘みもしっかりしてるのにしつこくない……」
無意識に呟いたマグダリーナに、エステラが至極真面目な顔で答えた。
「残念ながら、お肉は豚じゃなくて魔獣なんですよ」
「魔獣?」
「魔獣のお肉は家畜より栄養豊富で美味しいのです。しかも、自分で狩ればタダ」
「タダ……」
「お姉さま、魔獣は普通簡単に狩れないので、家畜を育てているのですよ」
こそっとアンソニーが囁いた。
パンの中に入っていたゆで卵は、半熟味玉だった。どうやって半熟を保ったままパンを焼いたのか……料理上手のスライム達め。
美味しいものでお腹を膨らませて眠ることの、なんと贅沢なことか。
しかもこの家は、居心地が良すぎる。
ゆっくり湯船に浸かれるお風呂がある。
しかもシャワー付きだ。
ベッドにはムートンシーツのようにもふもふ魔獣の毛皮が敷かれ、掛け布団は羽毛でほっかほか。
気のせいで無ければ、布団カバーは絹ではなかろうか。前世の親戚に呉服屋があったので、絹地には縁があった。
しかし母のドレスにも伯母様達のドレスにも、記憶の中に絹地はなかった。
この世界の布地は植物繊維か獣毛だ。虫からは糸を取らない文化らしい。
しかもトイレは水洗を超えたオーバーテクノロジーだよ……
前世と同じ腰掛ける便器に、用を足した後は「洗浄」と唱えれば、排泄したものも身体に残った汚れも匂いも何もかも、綺麗さっぱり消えてトイレ全体が清浄な状態になった。
仕組みはさっぱりわからない。
ここの暮らしに慣れたら、絶対家に帰りたくなくなる……いや、すでになってるかも……
その夜はアンソニーが寝る前にマグダリーナの寝室に遊びに来た。
二人とも、お風呂で温まり、良い香りの液体石鹸で全身洗い、髪もお肌もしっとりツルツルだった。
「僕、誰かと一緒にお風呂に入ったのは初めてでした。あと、シャワーっていうのもすごくびっくりしました! いつかお父さまと入って見たいです」
アンソニーは一人でお風呂は使えないだろうと、ニレルが一緒に入ってお世話してくれたのだ。
「お姉さま……僕、頑張ってお姉さまを守れるようになりますね」
ふいにアンソニーが、静かにそう言った。
年齢より大人びたその眼差しに、マグダリーナは胸が締め付けられそうになり、アンソニーをただ抱きしめた。
ヒラとハラが台所から食事とカトラリーを運んでくる。
(何か音が聞こえると思ってたけど、え? 食事作ってたの? スライムが?!)
「スライムって、お料理もできるの?」
青みがあり、くりくりのお目々をしたヒラが、ぷるんと透明感のあるスライムボディを誇示する。小さな光の粒が、ほわっと弾けた。
イケメンパウダーならぬ、イケスラパウダーだと、マグダリーナは勝手に呼称することにした。
「ヒラとハラはぁ、とってもデキるスライムなのぉ。タラやおばあちゃんにお料理もレシピも他にもいろいろ教わって、きちんと学習できてるよぉ」
ヒラはマグダリーナとアンソニーのこともリーナとトニーと呼ぶ。
愛称で呼ぶ派らしく、エステラのことはタラと呼んでいた。おばあちゃんは亡くなったエステラの師匠だ。
ぽこんと胸(?)を反らせてドヤる様が可愛らしい。
もちろんそのたびに、イケスラパウダーが弾ける。
「どうぞぉ」
マグダリーナの前に、スプーンとフォークが置かれる。そして木製漆塗りのどんぶりと丸いパンに焼いたキノコを並べたお皿たちが乗ったお盆が続く。
ハラに給仕されていたアンソニーは、どんぶりの中の具沢山のスープを見て驚いていた。
「お姉さま、初めての香りがします!」
「気になるなら、ミルクやバターで好みの味にして。でもまずそのまま食べてみて。パンは中にゆで卵が入ってるから、そのままかぶりついてね。あとそのキノコはさっき獲ったウマイシタケよ。このタレをつけて食べてね」
エステラがそういうと、サッとハラがミルクとバターが入った容器、そして醤油ベースのタレを置いた。
(味噌だ味噌だ味噌汁だこの香り……豚汁だ……!! しかもこのウマイシタケ、形は違うけど、香りは松茸だ!)
そっとスプーンで掬って、マグダリーナは汁を吸う。
(ん――――っ 汁だけでしっかり旨味を感じる)
ふと顔を上げると、エステラとニレルだけでなく、ハラとヒラまでお箸と、レンゲのような形のスプーンを使って食べていた。
エステラと目が合う。
「マグダリーナさんも、お箸の方が良かった? そうよね、前世は日本人だったって言ってたもんね」
「待って、やっぱりエステラさんも?」
エステラは頷いた。
「私の場合は魔力暴走じゃないの。私がまだお母さんのお腹にいた時から、お師匠が私の魂に繋がってガンガン魔力流してくれたせいだと思う。前世の個人情報的な記憶まではないけど、どんな文化でどういう生活してたかとか、そういうのは記憶に残ってる。それ以外にも前世の世界のことは情報として、前世で知らなかったことも引き出せるの。お師匠が異世界の文化文明に興味を持って、私を媒体にそういう魔法を構築したのよ」
(なるほど、チートなのは、転生者じゃなくハイエルフなお師匠様だったのね)
エステラとはなんだか不思議な縁を感じるなと思いつつ、多分大丈夫だろうと聞いてみる。
「その……転生チートみたいなのはないの?」
「残念ながら転生者特典などないのです……」
ないのかぁ。エステラの場合も、本人のチート能力じゃなくて、お師匠様に能力開発されたからだもんね……
異世界でも現実世界って厳しい。
しんみりした気持ちを抱えて、お箸とレンゲを貰って食事を再開する。
「この豚汁、すごく美味しい! 特にお肉……柔らかくて脂の甘みもしっかりしてるのにしつこくない……」
無意識に呟いたマグダリーナに、エステラが至極真面目な顔で答えた。
「残念ながら、お肉は豚じゃなくて魔獣なんですよ」
「魔獣?」
「魔獣のお肉は家畜より栄養豊富で美味しいのです。しかも、自分で狩ればタダ」
「タダ……」
「お姉さま、魔獣は普通簡単に狩れないので、家畜を育てているのですよ」
こそっとアンソニーが囁いた。
パンの中に入っていたゆで卵は、半熟味玉だった。どうやって半熟を保ったままパンを焼いたのか……料理上手のスライム達め。
美味しいものでお腹を膨らませて眠ることの、なんと贅沢なことか。
しかもこの家は、居心地が良すぎる。
ゆっくり湯船に浸かれるお風呂がある。
しかもシャワー付きだ。
ベッドにはムートンシーツのようにもふもふ魔獣の毛皮が敷かれ、掛け布団は羽毛でほっかほか。
気のせいで無ければ、布団カバーは絹ではなかろうか。前世の親戚に呉服屋があったので、絹地には縁があった。
しかし母のドレスにも伯母様達のドレスにも、記憶の中に絹地はなかった。
この世界の布地は植物繊維か獣毛だ。虫からは糸を取らない文化らしい。
しかもトイレは水洗を超えたオーバーテクノロジーだよ……
前世と同じ腰掛ける便器に、用を足した後は「洗浄」と唱えれば、排泄したものも身体に残った汚れも匂いも何もかも、綺麗さっぱり消えてトイレ全体が清浄な状態になった。
仕組みはさっぱりわからない。
ここの暮らしに慣れたら、絶対家に帰りたくなくなる……いや、すでになってるかも……
その夜はアンソニーが寝る前にマグダリーナの寝室に遊びに来た。
二人とも、お風呂で温まり、良い香りの液体石鹸で全身洗い、髪もお肌もしっとりツルツルだった。
「僕、誰かと一緒にお風呂に入ったのは初めてでした。あと、シャワーっていうのもすごくびっくりしました! いつかお父さまと入って見たいです」
アンソニーは一人でお風呂は使えないだろうと、ニレルが一緒に入ってお世話してくれたのだ。
「お姉さま……僕、頑張ってお姉さまを守れるようになりますね」
ふいにアンソニーが、静かにそう言った。
年齢より大人びたその眼差しに、マグダリーナは胸が締め付けられそうになり、アンソニーをただ抱きしめた。
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