ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ

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四章 死の狼と神獣

67. お小遣い稼ぎ

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 新年のスラ競で財布付き領民カード入れを狙っただけあって、アンソニーが一番領民カードの扱いに詳しかった。

 マグダリーナ達が学園に行っている間、図書館に通ったり、領内を見て回ったりしているのでそのせいだろう。

 アンソニーは一生懸命、ライアンとレベッカに色々教えていた。


 役所で領民カードを発行してもらい、冒険者ギルドで見習い登録をする。

 今回は他の冒険者同伴なので、研修なしで依頼を受けるが、見習いを卒業したければ、必ず研修を受けないといけない。

 とうとうマグダリーナも、冒険者見習いになってしまった。

 エステラがアーベルに、依頼の件を確認する。

「ここの畑だ。腰を痛めたらしくて、毎日サトウマンドラゴラの罵倒を聞かされてるらしい」

(罵倒……?)

 マグダリーナはサトウマンドラゴラに関しては、収穫作業は見たことはなく、美味しくて役に立つことと、なんか鳴く、という認識しかなかった。


 エステラは今いるメンバーで、この依頼だけのパーティー登録をする。

 依頼が完了すれば依頼料が自動で均等割で支払われる。割り切れない分はリーダーに入ることになる。

 今回の報酬は一人当たり時給千エルだが、今日中に全部の収穫が終われば追加でもう千エル上乗せされる。


 冒険者ギルドからは、緑マゴー車に乗って、依頼主の畑に着く。


とーう ととーーう
さっとーう


 青々とした広い畑の側に、蹲ってるひとがいる。いかにもギックリ腰やったっぽいポーズだ。


「早く抜くとーう! 旬が過ぎたら許さんとーう」
「腰やってんじゃないとーう! 未熟とーう」
「立つとーう! そして掘り出すとーう! そもそも魔法を使うとーう! シャベルでちまちま掘ってるから腰やるとーう!」
「そうとーう! ここに何株元気に埋まってると思うとーう! ちゃんと算数できるとーう?」

「お……ま……え……らぁぁぁ」

 依頼者の農夫はシャベルを杖代わりにヨロヨロ立ち上がる。

 サトウマンドラゴラが思っていたより喋る事に、エステラとアンソニー以外びっくりする。

「すみませーん、冒険者ギルドから依頼受けて来ましたぁ」

 エステラが元気よく声掛ける。

「ああ助かるわ、この通りの状態でな……エステラ師匠と坊ちゃんか!! 助かるぅぅぅ!」

 農夫はエステラの姿を認め、顔を綻ばせた。

 アンソニーが魔法収納からテントを取り出すと、手際よく立てる。魔法でだ。

 きっちり中を隠せる三角のテントではなく、屋根があるだけの四角いテントで、更に収納からアッシを取り出してソファーベッド形態にする。

 どうやらアンソニーは、畑を周りながら何度かこうやって手伝っているようだ。

 ヴェリタスとライアンが農夫を片側ずつ支えて、アッシベッドに寝かせた。

「収穫が終わったら、白マゴー車を呼びますね」
「ああ、坊ちゃん、ありがとうございます」

 白マゴー車は最近導入された、いわゆる救急車だ。

「さて収穫するわよ。まずはお手本見せるわね。そりゃっ」

 エステラの掛け声と共に、一つの畝のサトウマンドラゴラが横回転しながら、スポッと大地から飛び出した。

 その実に土一つついてないが、ととのえる魔法で見えない汚れまで落とされ、輝くようにピッカピカなボディになったサトウマンドラゴラは、すちゃっときれいに着地すると、とてててと走り出し、皆農夫の所へ行った。

「未熟者とーう あの魔法を見習うとーう」
「でも世話はまあまあ良かったとーう」
「うっかり者め、腰しっかり治すとーう」
「頭もしっかり使って、収穫計画も立てるがいいとーう」

 サトウマンドラゴラはめいめい農夫の腕や頭をぺちぺちしながら声をかけて、今度は畑の端に置いてある四角い箱に頭部の種を落とすと、その横の収穫箱に綺麗に収まっていってから、静かになった。

「よっ」

 段に置かれた収穫箱を、アンソニーは広げてサトウマンドラゴラが入りやすいようにしていく。

「とまあ、こんな感じなんだけど、ヴェリタス出来そう?」
「ん、まず数本練習していいか」
「じゃあそっちの畝で」

「リーナは大丈夫よね」
 確認じゃなく確信の問いが来た。

『できるぴゅん』
 返事はマグダリーナじゃなくて、肩に乗ってるエアがした。

「じゃあアンソニーと一緒に、じゃんじゃんやっちゃって」

 マグダリーナはアンソニーに誘われて、一番奥の方で作業する事にした。


「じゃあライアンとレベッカはこっちの、さっき収穫した何もない畝のところで、今の魔法の遣り方説明するから」

「「えっ」」

「俺は火属性なんだけど……」
「私も聖属性ですわ」

「大丈夫、そういうの今は忘れて」

 アッシが農夫のおっさんを乗せたまま歩いてくる。おっさんも一緒に魔法の説明を聞きたいらしい。

「魔力も、魔力を媒体に魔法を使う力も、基本どの種族にも備わってる標準装備です。何らかの理由で、魔法を発動する器官が壊れたりしないかぎり、貴族も平民も関係なく、魔法が使えます」

「なんらかの理由……リーナお姉様は魔力暴走で、その魔法を発動する器官が壊れたのですよね?」
「そう、でも魔力自身は沢山あるから、壊れた器官の代わりを魔導具がしてるの」

 エステラは落ちている枝を拾って、地面に絵を描く。

「魔力は地下に貯まってる水みたいなもの。その水を汲んで飲んだり、色々使うには水を汲む井戸がいるでしょう? その井戸が魔法を発動する器官……だれの体内にも備わってる。井戸、わかる?」
「わかるわ。オーブリーの領地で見た事あるもの」
 レベッカは頷いた。

「レベッカもライアンも学園でいろんな勉強するでしょう? その中で特に好きな科目があったり、そうじゃなかったりしない? その好きな科目が魔法の属性。でもそうじゃない科目も、教わって勉強してそれなりに理解出来るようになるでしょう? 魔法も一緒なのよ」

「という事は、俺もこれから土魔法を使えるように……?」
「なりましょう! まずはこっちの畝の土を、この畝みたいに柔らかくふっかふかにします。サトウマンドラゴラが抜けやすいように!」

 エステラに習いながら、ライアンが土を柔らかくし、レベッカと二人で引っこ抜き、最後にレベッカが浄化魔法で綺麗にしていく。

 二人で二十本収穫する前に、他のメンバーで畑の収穫が順調に終わってしまった。

「いやぁほんっと助かったわ。ギルドに追加報酬も振り込んでおくから受け取って」

 領民カードから魔法で表示展開される依頼終了書に指紋で承認印をしてから、農夫は白マゴー車に運ばれていった。

 役所から来たマゴー達が、収穫されたサトウマンドラゴラを検品して運んでいく。

 領民カードからピコンと音がして確認すると、カードの表面に冒険者ギルドから依頼料が振り込まれましたと金額と共に表示された。

 二時間働いて一人五千エルだ。追加報酬に色をつけてくれたらしい。きっとエステラ講座の分だろう。

 ライアンとレベッカの報酬からは、きっちりマゴー車の乗車料金が引かれていた。
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