ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ

文字の大きさ
87 / 285
五章 白の神官の輪廻

87. 空飛ぶ焼肉計画

しおりを挟む
 ぽ ぽぽぽぽぽ と、夜の闇の中に光の提灯が灯されて行く。
 ヒラは上機嫌にふわぽよと空中で踊っていた。

「どぉ? ヒラのぉ、可愛いさにぃ ほっこりしたぁ?」

「んん……っ!!」
 うっかりほっこりしたショウネシー一家だったが、敵さんは混乱しているだけだ。

「たかがスライムだ! あれごと穢毒のブレスで薙ぎ払え!!」

 ワイバーンが邪悪なブレスを吐き出す。

 ばさり。
 ヒラの背から金と虹色に輝く八枚羽根が現れ、ブレスを無効化する。

 さらに。
 ぺかーっとヒラが輝きを浴びせると、漆黒だったワイバーン達が鈍色に戻って行く。

「ただのワイバーンに戻ったのか? そんな……」

 隷属の魔法が切れたのか、ワイバーン達は背に人が乗っているのが気に入らず、振り落とした。

「うわあ!」

 地上に落下すると思われた襲撃者達は、何故かそこに床でもあるように、空中で背中をぶつける。


「貴方達に選択肢をあげる」
 夜空に淡い淡い金の髪が靡く。
 エステラがゆっくりと、空の上を「歩いて」来た。

 ハラが魔法で二人の刺客を、縛り上げる。

 エステラは指折り数えた。

「ひとーつ、持ってる情報を全部吐いて、主人を変える。ふたーつ、持ってる情報を全部吐いて、ここであったことを忘れて、お土産を持って今の主人のところに帰る。さあ、じっくり考えて決めて。私は今夜、悪い子になっちゃうから、貴方達にもとことん付き合ってもらうわ」

 刺客の一人が、エステラの顔をみて、呆然と呟いた。
「スーリヤ様?」

 エステラも目を見開いた。



◇◇◇



 コッコ車の扉が開くと、ニレルが顔を出した。

「もう大丈夫だよ。僕たちはこれから彼らの尋問をするけど、君たちはどうする? 帰って休むかい?」

 扉が開いた瞬間、しゅしゅっと高速でマゴー達が出て行ったけど、「遅かったぁぁぁぁ!!!」という嘆きが聞こえた。
 アッシの映像を見ると、既に一匹のワイバーンの周りにヒラ、ハラ、ササミ(メス)のみならず、コッコ車に繋がれていたはずのコッコ達まで群がって何か食べている。

 残りの一匹は大人しく伏せていた。

 そしてエステラはテーブルセットを用意して、捕まえた二人を座らせ、さらに縛り上げる。

 テーブルには卓上の魔導コンロ、鉄板、網、お皿に、冷たい飲み物、調味料など用意されていく。用意しているマゴーはうまみ屋のエプロンをしていた。

「食事でもするの?」
 マグダリーナの疑問に、ニレルは笑顔で答えた。

「そう、竜種の肉は滅多に食べれない美食だからね。僕らはこれから焼肉パーティーさ」
「まあ! 王宮ではほとんど食べる暇がなかったの。それにワイバーンのお肉を食べる機会を逃せば、一生後悔します!」

 ドーラ伯母様の食べたい宣言で、全員の焼肉パーティーの参加が決まった。



◇◇◇



「まあ、なんて美味しいの!! ただ焼いただけでも美味しいのに、このタレがまた合うわぁ。あら、ブレア様は生で食べていらっしゃるの?」

 マゴーが完璧な処理をして、ワイバーン肉のたたきも用意した。
 紅玉のように輝く赤身は、細かくサシが入って、口の中で溶けるように旨味と甘味が広がる。

「うむ、この醤油と香辛料で食べると、なんとも美味い!」

「私はこのハーブソースのステーキが好き! リーナお姉さまは?」

 焼肉だけでなく、マゴーがステーキも焼いてくれている。

「私はやっぱり、ポン酢おろしね」

 いくらでも肉が入る、さっぱりポン酢と大根おろしのコンビネーションは鉄板だった。

 リーン王国の貴族は肉、川魚、パン、果物、砂糖菓子の食生活なので、良い肉には敏感だ。

 ハラとササミ(メス)が「バーナードへ 肉食べろ ワイバーン美味しい」と手紙を書いてるのを、めざとくシャロンが見つけて、他の王族にも口に入るよう、お肉は多めにとお願いしていた。


 チラリと隣のテーブルを伺うと、捕まった刺客達は、最初に薄ーい肉を一口与えられてから、目の前で焼肉パーティーを開かれ、お腹の音がこちらのテーブルにまで聞こえてきた。

 エステラが膝の上のヒラを撫でて、エルロンド王国の奴隷達に見せつけるように、香ばしく焼けたワイバーンの肉にタレをつけて、ヒラに食べさせる。

「ヒラぁ ほっぺた幸せぇ とってもおいし~」

「素直に質問に答えれば、このほっぺたが幸せになるお肉が存分に食べられます。まず誰を狙って来たの?」


 テーブルには珍しくデボラやヨナスまで含めたハイエルフが全員揃い、彼らの正面には、いつも美味しそうに食事をする、デボラとイラナが配置されていた。当然今も、美味しそうに食べてる。

 アーベルが、奴隷達がたっぷり焼肉の匂いを堪能できるよう団扇で仰いでいた。

 ぎゅるるる
 ぐぐぐぅ

 二人のお腹が激しく鳴る中、ヒラとハラがお肉の乗った小皿を持って、お箸で奴隷達の目の前で美味しいお肉をヒラヒラふる。

「美味しいよぉ、皆んなで食べようよぉ」
「早くしないと、なくなっちゃうの」

 ぎゅっと何かを我慢していた十五、六歳程の褐色肌の奴隷の青年が、エステラを見て言った。

「あんたが、俺の質問に答えてくれるなら、教えてもいい」
「おい! 勝手なことをするな! 俺はお前の道連れで死にたくないぞ」

 もう一人の灰銀髪の青年は、十八、九歳といったところか。真面目で融通がきかなそうな雰囲気だったので、隣にエデンが座っていた。

「くっはは、んな心配してたのか。ばっかだなぁ。この空間見ろよ。ん? キミタチの主人じゃこんなことできんだろ? 命令違反の死の契約はとっくに解いてあるさ」

「じゃあ、俺たちは自由なのか……?」
「まさか。この空間を出れば、元の通りさ」
「そんな……」

 灰銀色の髪をした奴隷は項垂れ、そして顔を上げた時には、真っ直ぐにエデンを見つめて言った。

「元大商団の代表だった、バークレー夫妻を殺すよう依頼を受けた。それだけだ」

 ハラは奴隷の青年の口に、肉を入れる。

「慌てずよく噛んで食べなきゃだめなの」

 青年は十分咀嚼して嚥下すると、涙を流した。

「美味い……こんな美味いものを食べてしまっては、もうあの国に帰れない……」

 エデンは青年の肩を抱いた。

「そりゃそうだ、兄弟。キミさえソノ気なら、あの国に戻ることなんてない。碌に食べる物も寝る所も与えられず、寒さに震え過ごして来たんだろう? だがあの男……ほら、あそこでコッコのメスに囲まれてる眼鏡の男だ。女神にかけて彼に忠誠を誓うなら、キミは今夜から食うに困らず、清潔で暖かい寝床で安らぐことが出来る。キミの決断次第だ。だが彼を裏切れば今度こそ、君は苦しみから逃げられなくなるだろう。さあ、 ど う す る ?」

 彼は震えながら、決断した。


 隣のテーブルで聞いていた面々は、苦笑いしていた。

「エデンさんはとても良い提案をしているのに、どうして彼の方はあんなに震えているんでしょう?」

 首を傾げるアンソニーに、マグダリーナは真剣な顔で言った。

「トニーはエデンの真似をしちゃダメだからね、絶対よ」
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...