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六章 金の神殿
110. ディオンヌ商会の絹
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スラ競の景品が発表されて、運動場やディオンヌ商会アーケードに訓練者が現れる年末、マグダリーナ達も新年の王宮参りの準備に忙しかった。
去年はダーモットもシャロンも翌日に帰って来ていた。
新年の焼肉ビンゴパーティーは諦めるとして、スラ競ことスライム掬い競争の観戦に間に合うかが気になるところ。
だって、今年もアンソニーが参加するから。
今年のスラ競の女子枠は、ドーラとカレンが参加してくれることになっているので、マグダリーナはゆっくり観戦していい。
王宮の新年祭について、家族の人数的にパートナー居ない問題が発生するところも、ライアンが年末の休み前にパートナーが居なくて困っている女生徒に声を掛けて、事なきを得ていた。
相手は領内の貴族が一気に減った、マグダリーナの友人、ミネット・ウィーデンだったので、二重の意味でマグダリーナはほっとした。
そして今、マグダリーナはアンソニーと、雑貨屋の布生地コーナーで布選びをしていた。
「うーん、こっちの綿生地より、絹の方が明らかに安いってどうなの?」
――ディオンヌ商会の「絹」その特徴と安さの秘密―― という小さな看板を覗き込む。
その看板の下には、映像表示の魔法が展開されて、絹についての紹介動画が流れていた。
マグダリーナは夏休みのキャンプ前に、参加者に運動服を配りながら言った、エステラのセリフを思い出した。
「え~と、ライアンとレベッカには云ってなかったけど、私はハイエルフのお師匠から、まだ母親のお腹にいる段階から魔法の伝授を受けてたの。その影響で、前世の記憶があって、その前世はこの世界とは違う文化、文明の異世界だったのよ。ウシュ帝国滅亡時に多くの人やハイエルフが亡くなって、その魂の何割かは世界が破滅しそうだった余波でこの世界の外に飛ばされた。そしてまたこの世界に帰って来てる……だから前世は異世界にいたって云う人はまあそこそこいるらしいの。ただ普通は前世の記憶はもちろん無いけどね」
「そこそこいるの?」
エステラは頷く。
マグダリーナはなんで異世界転生したんだろうと思ってたけど、元がこの世界発だったのかと腑に落ちた。
「でもうちのお師匠は創世からこの世界しか知らないじゃない? で、前世の記憶がある私が、異世界とこっちの環境が違いすぎると不便だろうという建前で、私の異世界の記憶をニレルと二人で共有して、異世界にあるあれこれ興味深ーい、あれこれをこっちでも……いやいっそもっとハイレベルなもの作って見たーい、老い先短いから自重しないぞーぅとやった、あれこれの一つが絹やゴムを造る精霊獣達です」
エステラが両手で顔を押さえて告白した。
なるほど、エステラが自重しないのはディオンヌさん譲りなのか。
誰もがそう思った瞬間だった。
そうして出来上がったのが、前世の絹の水や摩擦なんかに「弱い」という弱点を完全に克服し、むしろちょっと魔法と物理防御あったりしない? 丈夫過ぎでは? 快適過ぎでは? 美し過ぎでは? というハイパー布地となってしまったのだ。
安さの秘訣はもちろん、糸作りから染色、織りや編みまでやっちゃうスライムゴーレムことスラゴーの人件費0エルだ。
正直稀少魔獣の素材というだけで、高級素材なのに、とんだ価格破壊である。
エステラが絹の存在を暴露してしまったのだから、今回のショウネシー家とアスティン家の盛装は全て絹だった。
エステラが見せた、色んな織り方の絹地を見た、ショウネシー領唯一の服飾店を営むヴァイオレット氏の瞳は輝き、高速でデザインのスケッチを始めたのを思い出した。
「絹も糸の種類や織り方で、色んな布になるんですね」
アンソニーが見本の端切れを触りながら、楽しそうに見つめる。
この世界の布地は基本平織りだ。
ゴブラン織りや着物の帯の様な模様を織る技術もあるが、まず平民の手には届かない。
ましてや前世にあった、メリヤス生地などない。ディオンヌ商会以外には。
布地選びに悩んでいると、店員マゴーが毛糸コーナーで手招きしている。
マグダリーナとアンソニーが揃ってそこへいくと、マゴーはふわふわした細い毛のついた毛糸で編んだ、シンプルなレースのショールを見せてくれた。
「絹と金毛ウモウの毛で作った糸で編んでありまーす。レースなので軽く、ショールにもマフラーにもお使いになれますよ!
この柄だときちんと花もキャッチ出来ますし、絹糸なので、存分に振り回しても切れる心配も有りません」
金毛ウモウは額の一部の毛が金色で、ウモウの上位種だった。その毛は、羊より山羊に似た艶と柔らかさと細さだ。
マグダリーナとアンソニーは頷きあった。
「この淡いたまご色のを頂戴」
「まいどありー。今保存瓶のコーナーは混んでますので、もし目当ての物がありましたら、こちらで選んで行かれますか?」
マゴーはすっとタブレットを出して、保存瓶の画像を見せてくれる。
「因みに僕たちが使っているのは、こちらのストレートタイプに、この魔導具パーツを組み合わせたものです」
「この持ち手の部分が、広口のじょうごになって、花を入れやすくしてくれるのね!」
「あっそう言えば、マゴーのみんなはこの横の部分を持って振り回してたっけ」
「よく覚えておいでです」
アンソニーの言葉に、マゴーは頷いた。
「パーツ込みで四セットお願い」
マグダリーナは領民カードを差し出した。
「ありがとうございますー! 瓶はお館にお届けしますか?」
「全部収納に入れてしまうから、大丈夫よ」
「かしこまりましたー」
アンソニーも念の為、もう四セット購入した。ついでにマグダリーナとお揃いの空色のショールと。
去年はダーモットもシャロンも翌日に帰って来ていた。
新年の焼肉ビンゴパーティーは諦めるとして、スラ競ことスライム掬い競争の観戦に間に合うかが気になるところ。
だって、今年もアンソニーが参加するから。
今年のスラ競の女子枠は、ドーラとカレンが参加してくれることになっているので、マグダリーナはゆっくり観戦していい。
王宮の新年祭について、家族の人数的にパートナー居ない問題が発生するところも、ライアンが年末の休み前にパートナーが居なくて困っている女生徒に声を掛けて、事なきを得ていた。
相手は領内の貴族が一気に減った、マグダリーナの友人、ミネット・ウィーデンだったので、二重の意味でマグダリーナはほっとした。
そして今、マグダリーナはアンソニーと、雑貨屋の布生地コーナーで布選びをしていた。
「うーん、こっちの綿生地より、絹の方が明らかに安いってどうなの?」
――ディオンヌ商会の「絹」その特徴と安さの秘密―― という小さな看板を覗き込む。
その看板の下には、映像表示の魔法が展開されて、絹についての紹介動画が流れていた。
マグダリーナは夏休みのキャンプ前に、参加者に運動服を配りながら言った、エステラのセリフを思い出した。
「え~と、ライアンとレベッカには云ってなかったけど、私はハイエルフのお師匠から、まだ母親のお腹にいる段階から魔法の伝授を受けてたの。その影響で、前世の記憶があって、その前世はこの世界とは違う文化、文明の異世界だったのよ。ウシュ帝国滅亡時に多くの人やハイエルフが亡くなって、その魂の何割かは世界が破滅しそうだった余波でこの世界の外に飛ばされた。そしてまたこの世界に帰って来てる……だから前世は異世界にいたって云う人はまあそこそこいるらしいの。ただ普通は前世の記憶はもちろん無いけどね」
「そこそこいるの?」
エステラは頷く。
マグダリーナはなんで異世界転生したんだろうと思ってたけど、元がこの世界発だったのかと腑に落ちた。
「でもうちのお師匠は創世からこの世界しか知らないじゃない? で、前世の記憶がある私が、異世界とこっちの環境が違いすぎると不便だろうという建前で、私の異世界の記憶をニレルと二人で共有して、異世界にあるあれこれ興味深ーい、あれこれをこっちでも……いやいっそもっとハイレベルなもの作って見たーい、老い先短いから自重しないぞーぅとやった、あれこれの一つが絹やゴムを造る精霊獣達です」
エステラが両手で顔を押さえて告白した。
なるほど、エステラが自重しないのはディオンヌさん譲りなのか。
誰もがそう思った瞬間だった。
そうして出来上がったのが、前世の絹の水や摩擦なんかに「弱い」という弱点を完全に克服し、むしろちょっと魔法と物理防御あったりしない? 丈夫過ぎでは? 快適過ぎでは? 美し過ぎでは? というハイパー布地となってしまったのだ。
安さの秘訣はもちろん、糸作りから染色、織りや編みまでやっちゃうスライムゴーレムことスラゴーの人件費0エルだ。
正直稀少魔獣の素材というだけで、高級素材なのに、とんだ価格破壊である。
エステラが絹の存在を暴露してしまったのだから、今回のショウネシー家とアスティン家の盛装は全て絹だった。
エステラが見せた、色んな織り方の絹地を見た、ショウネシー領唯一の服飾店を営むヴァイオレット氏の瞳は輝き、高速でデザインのスケッチを始めたのを思い出した。
「絹も糸の種類や織り方で、色んな布になるんですね」
アンソニーが見本の端切れを触りながら、楽しそうに見つめる。
この世界の布地は基本平織りだ。
ゴブラン織りや着物の帯の様な模様を織る技術もあるが、まず平民の手には届かない。
ましてや前世にあった、メリヤス生地などない。ディオンヌ商会以外には。
布地選びに悩んでいると、店員マゴーが毛糸コーナーで手招きしている。
マグダリーナとアンソニーが揃ってそこへいくと、マゴーはふわふわした細い毛のついた毛糸で編んだ、シンプルなレースのショールを見せてくれた。
「絹と金毛ウモウの毛で作った糸で編んでありまーす。レースなので軽く、ショールにもマフラーにもお使いになれますよ!
この柄だときちんと花もキャッチ出来ますし、絹糸なので、存分に振り回しても切れる心配も有りません」
金毛ウモウは額の一部の毛が金色で、ウモウの上位種だった。その毛は、羊より山羊に似た艶と柔らかさと細さだ。
マグダリーナとアンソニーは頷きあった。
「この淡いたまご色のを頂戴」
「まいどありー。今保存瓶のコーナーは混んでますので、もし目当ての物がありましたら、こちらで選んで行かれますか?」
マゴーはすっとタブレットを出して、保存瓶の画像を見せてくれる。
「因みに僕たちが使っているのは、こちらのストレートタイプに、この魔導具パーツを組み合わせたものです」
「この持ち手の部分が、広口のじょうごになって、花を入れやすくしてくれるのね!」
「あっそう言えば、マゴーのみんなはこの横の部分を持って振り回してたっけ」
「よく覚えておいでです」
アンソニーの言葉に、マゴーは頷いた。
「パーツ込みで四セットお願い」
マグダリーナは領民カードを差し出した。
「ありがとうございますー! 瓶はお館にお届けしますか?」
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