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七章 腹黒妖精熊事件
130. エルフの女性
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ケントの母親は、珍しい純血のエルフだった。エルロンド王国で生まれたのではない。たまたま、他所の国で生まれたその女性を、運良く父が拐って来たのだ。
だからだろう、母はあの手この手で父と交渉して、ケント以外の子は産まず、若くして寿命が尽きるその時まで、ケントを側に置いた。
そして彼女が外の国で教わったこと、さまざまな知識や常識、そして愛情を、ケントという器に注ぎこんだ。
母が亡くなって、昔ながらののエルフ族の教育を受けるようになっても、母の思い出と共に、ケントの中は、エルロンド王国のエルフとしては消えない異物を抱えたままだった。
ケントがリーン王国の占領に失敗して、ジョゼフ・ショウネシーの護衛としてエルロンドに戻って来た時、多くのエルフが裏切り者と罵った。
ケントの家系は名高い戦士の家系で、家門を継ぐものは、前当主と命をかけて戦い、勝ち残らないといけない。もちろんケントも父を殺して生き残った、最強のエルフだった。
だから誰もがケントがリーン王国に寝返ったと思った。
しかし、スラゴー達が決闘の映像を流すと、罵声も、どんな声も聞こえなくなった。
決して負けないはずのエルフの戦士が、幼い少女に両腕を切り落とされて、負けたのだ。
今、その少女の従魔が三匹、ケントの目の前にいた。
青、黄、桃のスライムが綺麗に並んで、ケントを見ている。内一匹は本当はスライムでは無いが、そんなことはケントは知らない。
「その……どうが……とやらを作る為に、この本のセリフ? を覚えて、私に演技をしろ……と?」
スライム達がジリジリとケントとの距離を詰めてくる。
「私の仕事は、ここで領主の護衛をする事だったと思うのだが?」
「それは一時、スラゴー達に代わって貰うので、良いのです」
黄色いのがそう言うと、青も続けて。
「ケンがぁ、ここで育ててるぅ、椎茸達もぉ、ちぁゃんとスラゴーが面倒見るからぁ、大丈夫だよぉ」
護衛仕事の合間に、領主館で椎茸栽培をしてることがバレていた。
「ケンちゃん、ハラちゃん達には逆らえないんだからゴネるだけ無駄だよ。はい、椎茸持って行って、マグダリーナ嬢やエステラちゃんの機嫌とっておいで」
ジョゼフがどどんと、干し椎茸と生椎茸の入った大箱を持ってきた。
王の生誕祭の、一か月ほど前の出来事だった。
◇◇◇
生誕祭の翌日にショウネシー領に戻って来たマグダリーナ達一家は、忙しいからと今年の夜会は欠席し領地に残ったハンフリーと、夏の討伐の準備があるからと同じく領地に残っていたヴェリタスが、夜中にやらかした騒動について聞いた。
そして、来年からは何がなんでもハンフリーを夜会に参加させると決めた。
それより落ち込んでいたのは、ルシンの奇行を知ったエステラだ。
ショウネシー邸のいつものサロンのソファで、黙ってゼラとササミ(メス)を抱えて、その間に顔を埋めている。
「わだじが……じゅぐずいじでだばっがりに……」
もふもふとむにゅむちの間で、エステラはくぐもった声で呟く。
マグダリーナはどう慰めていいかわからず、そっとエステラの背中を撫でた。反対側では、ニレルがエステラの頭を撫でていた。
ルシンはヴェリタスをジロリと見たが、ヴェリタスは俺じゃないと首を振った。
エデンが軽く咳払いして、ルシンに注意する。
「ンー、ダメだろう、ルシン。今後はちゃんとバレないよう、人目を避けなきゃあなあ」
その一言に、ルシンとニレル以外の全員の視線が、エデンに集まった。
「そういう問題ではないだろう?」
珍しくダーモットがそういうと、皆その通りとばかり頷いた。
「くっは、ところがそういう問題だ。ルシンはルシンなりに責任感じて、あのカエルクンを連れ出しては、少しずつ精素を与えて寿命を延ばしてる」
エステラは、がばりと頭を起こして、兄を見た。
「そうなの? お兄ちゃん?」
ルシンはバツが悪そうに、目を逸らすと微かに頷いた。
「なんでエデンとニレルは気づいたの!」
エステラの驚きに、エデンは肩をすくめて答えた。
「そりゃ、ディオンヌとそっくりだからなぁ」
ニレルも頷く。
「叔母上も隠したい相手にバレるようなことはしなかったろう? だからエステラが気づかなくても仕方なかったよ」
「ただカエルが好きなだけかと、思ってたのに……」
ダーモットも仕方ないという顔をして、くれぐれもブレアさんに気づかれることのないようにと注意した。
シャロンが客人を連れてサロンにやって来たのは、それから間もなくだった。
事前に客人の正体を知っていたのは、ダーモットとマグダリーナとレベッカの三人だけで、ドロシー王女の姿を見てハンフリーはもちろん、ヴェリタスとライアンも驚いた。
「ドリーと申します。皆さんどうか、ここでは私のことは、シャロン侯爵夫人とショウネシー伯爵の、ただの友人の娘として気軽に接して下さい。夏休みの間、よろしくお願いします」
ドロシー王女は、立ち上がり王族に対する礼をとろうとするハンフリー達にそのままでとお願いすると、こう言って微笑んだ。
服装も下位貴族のような、簡素なドレス姿だった。
「それからこちらが、私を助けてくれる従者のシーラとキースです」
シーラとキースはドロシー王女の言葉に合わせて、それぞれお辞儀した。
ハイエルフ達の視線がシーラに集まった。
「え……普通に長生き?」
「悔しいが、マグダリーナの選択の結果だな」
「もしかすると、エルフ女性の出生率も変わるかな」
「そうかもしれんが、エルフ男が結婚できなきゃ変わらんだろ。ま、俺らも一緒だがな、んははは」
シャロンが扇子をパチンパチンと、閉じたり開いたりするので、ハイエルフ達は即座に口を閉じて大人しくなった。
「リーナ、ドリー嬢へ初対面の方達を紹介してあげてちょうだい」
「はい、伯母様」
こちら側は全員決闘場で、王家の一員として王妃様と一緒にいたドロシー王女を見ているので、正体はバレている。
マグダリーナはドロシー王女の為に、まずアンソニーを紹介し、それからエステラとニレル、エデンにルシンと紹介していく。そしてフェリックスとケーレブ、エステラの従魔達も紹介した。
マハラとマーシャ&メルシャは、先週男児を出産したジョゼフの奥方と、その子のお世話の為にここにはいない。離れの客室に行っている。一応そのことも説明しておく。
だからだろう、母はあの手この手で父と交渉して、ケント以外の子は産まず、若くして寿命が尽きるその時まで、ケントを側に置いた。
そして彼女が外の国で教わったこと、さまざまな知識や常識、そして愛情を、ケントという器に注ぎこんだ。
母が亡くなって、昔ながらののエルフ族の教育を受けるようになっても、母の思い出と共に、ケントの中は、エルロンド王国のエルフとしては消えない異物を抱えたままだった。
ケントがリーン王国の占領に失敗して、ジョゼフ・ショウネシーの護衛としてエルロンドに戻って来た時、多くのエルフが裏切り者と罵った。
ケントの家系は名高い戦士の家系で、家門を継ぐものは、前当主と命をかけて戦い、勝ち残らないといけない。もちろんケントも父を殺して生き残った、最強のエルフだった。
だから誰もがケントがリーン王国に寝返ったと思った。
しかし、スラゴー達が決闘の映像を流すと、罵声も、どんな声も聞こえなくなった。
決して負けないはずのエルフの戦士が、幼い少女に両腕を切り落とされて、負けたのだ。
今、その少女の従魔が三匹、ケントの目の前にいた。
青、黄、桃のスライムが綺麗に並んで、ケントを見ている。内一匹は本当はスライムでは無いが、そんなことはケントは知らない。
「その……どうが……とやらを作る為に、この本のセリフ? を覚えて、私に演技をしろ……と?」
スライム達がジリジリとケントとの距離を詰めてくる。
「私の仕事は、ここで領主の護衛をする事だったと思うのだが?」
「それは一時、スラゴー達に代わって貰うので、良いのです」
黄色いのがそう言うと、青も続けて。
「ケンがぁ、ここで育ててるぅ、椎茸達もぉ、ちぁゃんとスラゴーが面倒見るからぁ、大丈夫だよぉ」
護衛仕事の合間に、領主館で椎茸栽培をしてることがバレていた。
「ケンちゃん、ハラちゃん達には逆らえないんだからゴネるだけ無駄だよ。はい、椎茸持って行って、マグダリーナ嬢やエステラちゃんの機嫌とっておいで」
ジョゼフがどどんと、干し椎茸と生椎茸の入った大箱を持ってきた。
王の生誕祭の、一か月ほど前の出来事だった。
◇◇◇
生誕祭の翌日にショウネシー領に戻って来たマグダリーナ達一家は、忙しいからと今年の夜会は欠席し領地に残ったハンフリーと、夏の討伐の準備があるからと同じく領地に残っていたヴェリタスが、夜中にやらかした騒動について聞いた。
そして、来年からは何がなんでもハンフリーを夜会に参加させると決めた。
それより落ち込んでいたのは、ルシンの奇行を知ったエステラだ。
ショウネシー邸のいつものサロンのソファで、黙ってゼラとササミ(メス)を抱えて、その間に顔を埋めている。
「わだじが……じゅぐずいじでだばっがりに……」
もふもふとむにゅむちの間で、エステラはくぐもった声で呟く。
マグダリーナはどう慰めていいかわからず、そっとエステラの背中を撫でた。反対側では、ニレルがエステラの頭を撫でていた。
ルシンはヴェリタスをジロリと見たが、ヴェリタスは俺じゃないと首を振った。
エデンが軽く咳払いして、ルシンに注意する。
「ンー、ダメだろう、ルシン。今後はちゃんとバレないよう、人目を避けなきゃあなあ」
その一言に、ルシンとニレル以外の全員の視線が、エデンに集まった。
「そういう問題ではないだろう?」
珍しくダーモットがそういうと、皆その通りとばかり頷いた。
「くっは、ところがそういう問題だ。ルシンはルシンなりに責任感じて、あのカエルクンを連れ出しては、少しずつ精素を与えて寿命を延ばしてる」
エステラは、がばりと頭を起こして、兄を見た。
「そうなの? お兄ちゃん?」
ルシンはバツが悪そうに、目を逸らすと微かに頷いた。
「なんでエデンとニレルは気づいたの!」
エステラの驚きに、エデンは肩をすくめて答えた。
「そりゃ、ディオンヌとそっくりだからなぁ」
ニレルも頷く。
「叔母上も隠したい相手にバレるようなことはしなかったろう? だからエステラが気づかなくても仕方なかったよ」
「ただカエルが好きなだけかと、思ってたのに……」
ダーモットも仕方ないという顔をして、くれぐれもブレアさんに気づかれることのないようにと注意した。
シャロンが客人を連れてサロンにやって来たのは、それから間もなくだった。
事前に客人の正体を知っていたのは、ダーモットとマグダリーナとレベッカの三人だけで、ドロシー王女の姿を見てハンフリーはもちろん、ヴェリタスとライアンも驚いた。
「ドリーと申します。皆さんどうか、ここでは私のことは、シャロン侯爵夫人とショウネシー伯爵の、ただの友人の娘として気軽に接して下さい。夏休みの間、よろしくお願いします」
ドロシー王女は、立ち上がり王族に対する礼をとろうとするハンフリー達にそのままでとお願いすると、こう言って微笑んだ。
服装も下位貴族のような、簡素なドレス姿だった。
「それからこちらが、私を助けてくれる従者のシーラとキースです」
シーラとキースはドロシー王女の言葉に合わせて、それぞれお辞儀した。
ハイエルフ達の視線がシーラに集まった。
「え……普通に長生き?」
「悔しいが、マグダリーナの選択の結果だな」
「もしかすると、エルフ女性の出生率も変わるかな」
「そうかもしれんが、エルフ男が結婚できなきゃ変わらんだろ。ま、俺らも一緒だがな、んははは」
シャロンが扇子をパチンパチンと、閉じたり開いたりするので、ハイエルフ達は即座に口を閉じて大人しくなった。
「リーナ、ドリー嬢へ初対面の方達を紹介してあげてちょうだい」
「はい、伯母様」
こちら側は全員決闘場で、王家の一員として王妃様と一緒にいたドロシー王女を見ているので、正体はバレている。
マグダリーナはドロシー王女の為に、まずアンソニーを紹介し、それからエステラとニレル、エデンにルシンと紹介していく。そしてフェリックスとケーレブ、エステラの従魔達も紹介した。
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