ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ

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七章 腹黒妖精熊事件

136. 腹黒妖精熊

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『続きましては、王国騎士団、宮廷魔法師団、王立学園の生徒達の夏の魔獣討伐戦の様子を生中継でお届けします』

 今日の放送の大本命だ。今頃シャロンも邸宅のアッシの側で、息子の姿を確認する為に待機して居るだろう。

 ヴェリタスの姿は必ず映る。何処にも配慮の要らない相手だからだ。

 意外なことに騎士科にいたエリック王子だが、その姿を流していいかどうかは、微妙だ。
 あらかじめ王宮から、怪我をしていたりした場合は、映すことは禁じられている。
 ドリーが弟の無事な姿が見れるようにと、祈るような気持ちでいるのが、マグダリーナにも感じられた。

『はい、こちら王領でもジンデル領の魔る蜂の森に近接する森林地帯です。今回の討伐はこの森で行われています』

 マゴー何号かの声が聞こえ、それと共に上空からの森の映像が流れた。
 撮影に使う録画魔導具は、小さなボールに羽根が生えたような形で自由飛行する仕組みで、それを数体飛ばして撮影していた。

『夏の魔獣討伐戦は、春の繁殖期を終えて一気に活動しはじめる魔獣を間引き、暮らしの安全性を確保するだけでなく、食料としての肉や貴重な素材を得る重要な行事です。討伐戦は七日間行われ、本日は六日目となります。参加者達の疲労も激しいと思われ、私も回復薬とジンデル領の蜂蜜を差し入れとして持参しました。今年は元気な魔る蜂が大量に活動しており、例年より質の良い蜂蜜が多く採れているとのことです。あっ、討伐隊のテントが見えて来ました!』

 森の入り口から討伐隊のテントまで、かなり距離があるが、撮影魔導具の切替とマゴーの転移で違和感なく適度な時間感覚で進んでいく。

「あれが、魔る蜂かしら?」

 途中、画面上の樹木の間に、完全に球体に近い黄色い毛に包まれた体から、つんと尖りのある黒いお尻を覗かせた、羽根のある虫が飛んでいるのを見つけて、レベッカが呟いた。

「ええ、そうよ。ジンデル領に近い森だから、きっとあそこにも巣があるのね」
 ドリーが頷いた。

「え?! すごく大きくない?」
 マグダリーナが呆然として言うと、ドリーはくすくす笑った。

「マグダリーナは妖精蜂を見慣れてるからね。私は逆にここで妖精蜂を見たときは、すごく小さいと思ったわ」

くまっ くまっ くままっ

 放送を観ながら、レベッカのナードが興奮しだした。

「更生しても、やっぱり蜂が好きなのね……」
「でも蜂を襲わないから、良い子よナード」

 レベッカがナードの頭を撫でている間に、中継マゴーは差し入れを騎士団長に渡し討伐状況を聞いていた。
 討伐隊はどうやらちょうどテントで休憩中だったらしい。

 王領では角兎が多く、今回は第一王子のいた班で中位種の三ツ角兎も討伐できたこと、今年は暑さが厳しいので、多く休憩を取るように気を遣っている等聞いている間に、またもやナードが騒ぎ出した。

くっくまっ くまっぷぷー

「「あっ!!」」

 マグダリーナとレベッカは、テントの端にちょこんと映って姿を消した、ふわふわのぷりケツを見逃さなかった。

「妖精熊……っ!?」
「ナードが興奮してたのは、これですのね」
「まあ、なにかありましたの?」

 ちょうどその時、テントの中から見知った姿が駆け寄ってきた。ヴェリタスだ。

『騎士団長!!』
『アスティン子爵、どうしたのだ?』

 ととのえるの魔法のおかげで、いつも通り身綺麗で元気な様子のヴェリタスに、皆んなほっとした。

『妖精熊が出ました。まだ数の把握はできてませんが、場合によっては妖精熊を狙って他の熊が出てくる可能性もあります』



◇◇◇



「妖精熊を狙って、他の熊が?」

 騎士団長は目の前の、華奢な少年を見た。
 少女のような見た目に反して、学園の生徒の中で一番有望だと注目していた存在だ。今回の討伐戦では歳に似合わぬ魔法と剣技の複合技で、第一王子と共に三ツ角兎を討伐してみせた。

 妖精熊が見た目より厄介な、盗っ人熊なのは騎士団長も知っていた。だがその妖精熊を狙って、他の熊が出てくるというのは初耳だ。

 なにせ妖精熊の逃げ足は、素早い。

 他の魔獣が出てくるより先に、掻っ払った獲物を持って逃げ去っているのだ。

「俺がゲインズ領で初めて妖精熊を見たとき、その倍の数の四つ手熊とも遭遇しました。四つ手熊は妖精熊が好物なんです」

 ヴェリタスのその言葉に、騎士団長は額に手を当てて思案した。
「もしそうだとしたら、四つ手熊が出る可能性を放っておくわけにはいかない……領民に被害が及ぶかもしれないからな」

 マゴーが手を挙げて提案した。
「ひとまず学園の生徒や怪我人達を、先に帰すのはいかがでしょう? 私が転移魔法で王都の学園の校庭まで送りますよ?」

 そしてその時、一斉に各テントの中が騒がしくなった。



◇◇◇



 妖精熊は基本、盗みはするが人を攻撃したりはしない。

 その爪は他者を傷つけるための武器としてではなく、スリの為の器用さに進化したので、ぶっちゃけ弱いのだ。
 それに向上心、根性もない。努力も嫌う。
 適度に盗んで、ダラダラ楽しく過ごすのが、彼らの本分だ。

 それでも盗みの為に過剰な欲に溺れて、他者を害する知恵をつける妖精熊も、極稀に存在する。

 そういった妖精熊は亜種として変化する。そして群れに亜種が混ざると、その群れの妖精熊は次々と亜種に変化していってしまう……
 腹黒妖精熊に。
 
「ねぇ、あれって妖精熊じゃない?」

 それ、は、女子用のテントの隙間から、潤んだ瞳で中を覗いていた。

「あーあのショウネシーの派手な方が連れてるやつ?」

 女子で騎士を目指すとなれば、家が代々騎士の家系で、武術と共に騎士道精神も身につける子が多いが、魔法科の女子はどちらかと言えば、淑女として振る舞うことが苦手だったり魔法を使って暴れたい、やんちゃなお嬢さんがどの学年にも一定数いた。

「あいつがテイムできるんなら、アタシらだったら楽勝じゃない?」

 魔法科の女子生徒は、鞄から干し肉のカケラを出すと、指で摘んで妖精熊に向けて振った。

「ほーら、こっち来なー」

くまぁ♡  くまくまぁ♡

 妖精熊は、とてとてとテントに入り、干し肉女子生徒の側に駆け寄ると、愛くるしい仕草でポーズを決めた。

くまぁぁん♡

「かっ……かわいい……」
「あはは、こんなに可愛いのに、お腹に黒いバツ模様があるー」

 それこそが、腹黒妖精熊の特徴だった。

 腹黒妖精熊は自身の魔法収納から木の実の殼を元の形に繋げた物を素早く取り出すと、干し肉女子生徒の足元に投げる。他にも数個、テント内に投げた。

 驚く女子生徒の悲鳴が、いくつも上がる。

 女性騎士が剣を取り、妖精熊から距離を取るよう指示するが、時既に遅し。

 腹黒妖精熊の投げた木の実の殻は簡単に割れ、中に仕込んであったお手製の麻痺毒が、煙になってテント内に充満し、中にいた人々は、身体を動かすことも出来ずに倒れていった。
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